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140話 妖精ワイン

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 スクナヒコナ。

 身体は小さいがオオクニヌシの相棒にして義兄弟。彼の国造りをサポートした神。

 国造りの神の片割れだけあってその効能、じゃなかった権能は知識、穀物、酒造、医薬、温泉、禁厭(まじない)、石、等々多岐に渡る。


 って、そっちに詳しいミコちゃんが教えてくれた。

 おっさんの種族固有のスキルもそれに由来したもののようだ。


 で、このスクナヒコナが本当に自分の種族だとしたら、おっさんは酒の神でもあるというワケで。

 それもあるのか、この前妖精たちと造ったワインはかなりいい出来に仕上がっている。

 前世では高級ワインなんて滅多に口にしなかったんだけど、それが霞んでしまうと自信を持って言えてしまうほど極上の味だ。

 まあ、偉そうに言うほどおっさんにはワインの味なんてよくわからんのだけどさ。


「むー。やっぱりゴーレムで潰したやつの方が味が下かー」


 美味しい極上ワインを飲みながらも悔しそうな表情なのはコルノ。

 ゴーレムマイスターなコルノは「楽しいけど妖精たちの小さな足でブドウを潰すのは非効率だよ」と、ワイン製作のためのゴーレムを創っていた。

 コルノも蛇属性なとこあるから、お酒好きなんだよね。

 風情も大事だけど、量も飲みたいってことみたい。


 完成したのはおっさんが提案したミキサーゴーレムではなく、60階建てのビルの名前がよく似合いそうなゴーレムだった。胸についたローラーでブドウをすり潰すんだよ。

 大きさも2メートルを超えていて、トレントと協力して一気に多量のブドウ汁を搾り出してくれる。

 試してはいないけど、コルノの話によれば戦闘力もそれなりにあるらしい。


 今回はできたばかりのゴーレム搾りワインを妖精搾りワインと比較しているのだ。

 真昼間から宴会をしているわけではない。


「ゴーレム搾りもこれはこれで美味いけど……なんだろう、同じようでなにかが違う?」


「たぶん、フェアリーたちが踏み踏みしている間に妖精の粉(フェアリーダスト)が染みこんだのかと」


「だけど妖精の粉は長持ちしないんじゃ?」


「温泉の水でブドウを育てているから効果が長時間持つのでは?」


 むう。おっさんの〈酒造〉スキルの他に〈農業〉スキルと〈温泉作製〉スキルが作用してこの味を醸し出しているのかと思ったら、さらに妖精神の効果まで関わってきているわけか。

 なんかまるでハブ酒みたいに妖精を漬け込んだ酒のようにも思えてきそうでちょっと怖い。


「スケさんの発酵管理が行き届いているのもあるな」


「恐縮ですな。ここまでウマイ酒はあっしも初めてでさあ」


 酔っても顔が赤くならない、というか透明のままのエサソンのスケさん。菌類のエキスパートである彼のおかげでこんな極上ワインが短期間で仕上がっているのだ。

 これは日本酒が楽しみになってくるよな。米ができてもまだ少ないからすぐには試せないけど、そのうち絶対に作りたい。


 今できるのだと、芋はあるから焼酎は造れるか?

 煮るか蒸すかしてスケさんが菌を植え付けて……あ、蒸留する必要があるんだっけ。

 蒸留器がほしいな。ええと、蒸気が冷えればいいんだから……。


「ゴーレム搾りでもじゅーぶん美味しいのにゃ。妖精たちの宴会にこれ差し入れたら、もうパニックにゃ。祭りになるのにゃー」


 フラフラと千鳥足で浮遊するニャンシー。器用である。

 もう何杯飲んだのかね。試飲だっつの。


「ええ。これはすごいですねー。ディオさんのワインにも負けませんよー」


 おっさんと同じく囲炉裏愛好家で、うちの囲炉裏で焼こうと手土産片手にやってきたヘスティアにもちょうどいいから試飲してもらっている。

 リビングとして扱っているこの部屋に彼女用の囲炉裏を増設したせいか、以前よりも頻繁にやってくるのだ。


 けど、ディオさんってディオニュソス?

 バッカスと同一視されることもある酒の神だよね。

 ヘスティアが譲って12柱入りしたっていう。たしか、酒目当てのドワーフのダンマスに殺されちゃったんだっけ。


「ディオさんは現在、冥府でワイン造りを楽しんでますけどそのワインは滅多に出回らないんですよ」


「さすがに冥府にはドワーフもワインを奪いにいけなかったか」


「ええ。返り討ちにされて、逃げ出せないまま半ば冥府の住人になってますね。転生も消滅もさせてもらえそうにないですよ」


 冥府ダンジョンこえー。

 なに? 12柱を倒せるようなダンマスでも返り討ちになるって……敵対しないようにしないといけない。そのうち冥府に行く予定のアスカにもよく言っておこう。ハデスさんに挨拶する時の土産はなにがいいかヘスティアに教えてもらわないと。


「ほう。そんなことになってるとは。ワシも死んでみるのも悪くなかったかもしれぬのう」


「アルテミスさんは多くのダンジョンマスターさんが眷属にしたいって狙われてましたから、死ぬのは無理だったですねー。小さくなっちゃったとはいえ、よくこの島まで逃げ延びたものですよー」


「ワシを倒して力を奪ったやつには既にアフロディーテがおったからの。あやつ、ワシと同僚になりたくなかったんじゃろ。露骨に邪魔をしたぞ。おかげで逃げられた」


「なるほどー」


 やっぱりアルテミスを倒したのって、あのダンだったのか。

 アフロディーテとアルテミスって仲がよくなかったのかな?


「そのアフロディーテによく似た方はどちらに?」


「ああ、アスカならスッポンを捌いてもらってる」


 アスカって戦闘関係のスキルは全然なかったんだけど、かわりに家事関係のスキルはうちに来た当初から充実してたんだよね。

 なかったのは〈洗濯〉や〈裁縫〉といった衣類関係。着るものに不自由していたからそれは仕方がない。

 フツヌシを使って強かったのだって、家事で鍛えて刃物の扱いに慣れていたおかげと言うから、なんという箱入り悪魔か。


 おっさんも〈料理〉スキルを持ってはいるけど、さすがにスッポンなんて前世でも捌いたことなかったからさ、できるって言うアスカにまかせちゃったワケ。

 ちなみに今、捌いているのは〈複製〉したスッポン。

 スッポン1匹複製するのにゴブリンの死体20匹必要だけど、ゴブリナ育成でレベルアップのためにゴブリン狩りしたから、ゴブリンの死体は相変わらず余り気味だ。レヴィアの滋養になるとなれば一気に消費できる。


「亀と言えば乙姫のところの亀も手強かったのう。亀のくせに飛ぶのには笑ったぞ」


「あの子たち、今はもっと大きくなってますよー」


「それはウ……楽しみじゃな」


 ディアナ今、美味そうって言いかけなかった?

 さすが元狩猟神。

 つうか、乙姫のとこの亀も飛べるのか。回転したり火を吹いたりしそうでたしかに楽しみかもしれない。


「妖精搾りワインは希少とのことで遠慮してたんですけどー。ゴーレム搾りワインでいいのでー、いくらか譲っていただけません? DPならお支払いしますのでー。なんならGPでもいいですよー」


「うちの消費分から余りがあったらね」


「よろしくー」


 ゴーレム搾りなら売ってもいいかな?

 ブドウはたくさん出来ているんだけど、妖精たちは小さいので妖精搾りはそんなにたくさんは造っていないのだ。

 おっさんには〈複製〉という手段があるわけだけど、それで増やしたものはあまり出回らせたくない。

 オンリースキルらしいんで秘密にしたいんだよね。




「ん? それは?」


「スッポンの血。配合を研究中」


 アキラにも言ったように飲みやすいよう、ワインで割ってレヴィアに飲んでもらうつもりだ。そのためにどれぐらいの割合がいいか、試している。

 ワイン少ないとやっぱり生臭いのよ。

 それでもおっさんの〈酒造〉、〈調合〉、〈錬金術〉、〈料理〉スキルが上手く働いていてマズイというワケではない。〈鑑定〉してないけど効果も高そう。


「レヴィアさん、愛されてますねー」


「まあね」


 レヴィアは相変わらず小人になれないんでまだ第1層の海にいる。

 おっさんたちが海岸ではなく囲炉裏を囲んでいるのは、「こんな姿をヘスティアに見られるワケにはいかない」とのレヴィアの意思によるもの。

 おっさんもレヴィアのそばにいたいんだが、ヘスティアがこないように見張っていてくれと頼まれたので仕方なくここにいる。

 なんだろう、ヘスティアに見られると困ることでもあるんだろうか。女心は難しい。


「こんなもんかな?」


「どれ、ワシが試してやろう」


「……リニア、試飲を頼む」


 ディアナにスッポンの血なんて怖くて飲ませられない。オッサン元女神に精がついたらどんなセクハラされるかわかったもんじゃないっつの。


「あたしが?」


「むう。今夜はリニアが女になるか。ならば仕方あるまい」


「なにその理解の仕方? 違うからね。リニアの方がディアナより女の子らしい味覚だと思ったからだから!」


 ディアナの嗜好は味覚においてもオッサンくさい。強い味、癖のある味を好むんで、あんまり参考にならないのは本当だ。


「あ、あたしが女の子……うん! まかせてくれ!」


 妙に力んだリニアがコップを受け取る。

 みんなに注目されながらゆっくりとコップに口をつけてぐいっと呷った。

 いやいや、味わってほしいんだけど!


「な、なにこれ! すごい美味しい!」


「そうか?」


「スッポンの血が入ってるのに全然気にならない。それに……なんか身体の芯から温かく……熱くなってきた」


 クマフードを脱ぎ捨てるリニアの顔はもう真っ赤だ。

 試飲だからコップの半分も入れてなかったのに。リニアってそんなに酒に弱くはなかったよな?

 空になったコップが差し出される。


「フーマぁ、おかわり!」


「いや、それぐらいにしといた方がいい」


「んー。じゃ、じゃあかわりに……」


 耳まで赤面したままのリニアの顔が近づいてきて、おっさんの唇を奪う。

 む、たしかにリニアの舌からは生臭さを全く感じないな。

 って、そんな馬鹿なことを考えている場合じゃなくて!

 顔を離さなくては。


「へへへ。フーマのぉ、ワインより美味し……」


 ヤバい。目がイっちゃってる。

 さすがファンタジー世界のスッポン。前世のよりも効果が高いみたいだ。それともおっさんのブレンドのせいか?

 アキラはスッポンの血を飲んでもこんなことになったとは言ってなかったよな。だとすると原因はワイン?

 ブレンドには妖精搾りの方を使ったから妖精の粉(フェアリーダスト)が変に作用したのかも。

 おっさんは助けを求めようと周囲を見回したのだけどさ。


「リニアちゃんガンバだよ! スッポンの血なんか飲んだフーマの相手なんて、ボク一人じゃ絶対ムリだから!」


 コップ片手の嫁さん(コルノ)がいい顔でサムズアップ。

 その隣では女神と元女神がニヤニヤしながら杯を重ねていた。もう既に試飲で出したワインではなく、ヘスティア持参の酒にスイッチしている。


 ワインもいいけど、そっちも飲みたいなー。

 酔って現実逃避したいなー。

 でも泥酔したら手を出しちゃいそうだなー。


「元処女神には刺激がきついのう」


「まったくですわー。処女神にはついていけませんー」


 ならその荒い鼻息はなんですかね、ヘスティアさん。

 おっさんを酒の肴にせんでくれたまへ。


「フーマ、フーマぁ!」


「お、落ち着いて」


 ディアナのように俺の尻に手を回すようなこともせず、どうしていいかもわからずに身体を摺り寄せて密着しようとするだけのリニアがなんか可愛い。人目がなかったらやばいかも。


 これ、レヴィアに飲ませたらどうなるんだろ?

 小人化できるようになってからならいいけど、リヴァイアサンのまませまられたらダンジョン終わっちゃうよなあ。

 そんな現実逃避をするしかないのであった。


 だがしかし。

 ああ、嫁さん二人にはないレベルの柔らかさがおっさんを現実に引き戻す……。



読んでいただきありがとうございます

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