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138話 アキラのダンジョン

 アキラと連絡が取れたので例の件で久しぶりに会うことになった。

 場所はアキラのダンジョン。

 おっさんが行くのは初めてである。もちろん土産も持って行きたいのだが、相手は吸血姫。普通の食べ物を食べるかわからないので、なにを持って行けばいいんだか。



 ◇ ◇ ◇



「“忘れられし聖域”か。たしかに吸血姫の居城にしちゃ聖気に満ちている」


「んーなもんか? オレにゃよくわかんねーけど」


 まあ、おっさんだって自分の種族が神だって自覚してなきゃ聖気なんて感じにくかったんだけどさ。

 それだけじゃなくてここには神秘的な迫力もあった。

 ぶっちゃけ、古代の神殿そのもので荘厳な雰囲気が漂いまくっている。

 前世だったら世界遺産クラスかもしれん。

 これで改装にほとんどDPを使っていないってどれほどスタート時のDPがあったんだろう。あの聖剣といい、覚えてないというアキラの前世は相当な人物だったようだ。


 このダンジョンはかなりの山奥にあり、人類種の襲撃はまだないらしい。

 やってくるのは野生の動物やモンスターばかりだそうだ。


「それじゃDPを稼ぐには出稼ぎに行くしかないか」


戦い(ヤり)まくれるからオレは困ってねーぜ」


 聖剣を奪われてヘルプを求めてきた弱気なアキラちゃんはどこへ行ってしまったのだろうね。

 あの頃とは比較にならないほどに彼女のレベルが上がっている。

 アキラは種族ランクURの【ヴァンパイアエンプレス】だ。強い分レベルアップも大変なのにさ。どんだけの敵と戦ったんだか。


「メールで訊いた件だけどさ」


「ああ、メスゴブリンがほしいんだって? なーにやってんだよお(メー)ら」


「まったくもってそのとおり」


 おっさんからはため息しか出ない。

 進化条件が気にならないと言えば嘘になるが、あいつらの妙なテンションにはついていけん。


「ま、いいぜ。オレは今、ゴブリンたちはほとんど野放しだし」


「そうなのか? おっさんにお茶まで出してくれてるのに」


「それはあいつらが自主的にやってんだ」


 さすがにおっさんにはこの湯のみはでかいが、連れてきたハルコちゃんにまで出してくれるぐらい気がきいているゴブリンたちだ。

 これで指示を出してないっていうんだからスゴい。

 しかもこのお茶もそれっぽい木をゴブリンが見つけて、葉を乾燥させて作っているという。

 ……ゴブ茶か。バイカンの梅干しが完成したら梅ゴブ茶とか作れないだろうか?


「で、そいつをオレのゴブリンと交換しようって言うのか?」


 値踏みするようにぎろんとハルコちゃんを見つめるアキラ。

 やめんさい。ハルコちゃんがビビッて震えているじゃないか。


「いや、この子はおっさんの眷属のノームだけど交換ってワケじゃないよ。アキラは服には無頓着のままかと思ってね」


「お、オラ、フーマ様ん眷属のぉハルコだぁ。針仕事だば得意なんだぁ」


 緊張のあまりノーム弁が混じっているけど、これぐらいならアキラもわかるはず。

 というか〈ダンジョンマスター語〉に方言をまぜるハルコちゃんもすごいと思うのだけどさ。

 アキラはいまだにエージンからの損害賠償で入手した体育着のままだ。まさか気に入ってこれ以外着ないってワケではないだろう。

 似合っているがそうとは言いづらい。


「着たきりスズメで悪かったな。んじゃなにか、こいつがオレの服を作るって言うのか?」


 着たきりスズメというか、その耳のせいで着たきりオオカミって感じだな。最近はずっと出しっぱなしってマジだったのか。


「んだの。アキラ様さ可愛い(めご)から(さけ)オラたくさん(げーえっぺだ)がんばるの!」


「お、おう?」


 イマイチわかりにくく、しかもゆっくりなノーム弁にペースを乱されてアキラもハルコちゃんに流されたか。

 ニャンシーの話によるとノーム弁は怒っていてもそれがわかりにくいらしくて、アキラとは正反対のベクトルだもんなあ。


「服だけじゃないよ。アキラ、風呂がほしいって言ってたろ。おっさんがなんとかしてやる」


「マジかよ!」


「それこそがおっさんの特技だからな」


 アキラになら〈温泉作製〉スキルを教えてもいいだろう。言いふらすやつじゃないし。

 美少女が風呂に入れないなんて不憫すぎる。


「あんがとなフーマ! ゴブリン好きなだけ持ってってくれ!」


「いや、一人でいいから。進化できたら返すつもりだし」


「そうなのか?」


「おっさんは実験ができればいいのだよ」


 もしも上手く進化できてゴブリニャが増えたりしたら、あいつらが欲しがってうるさいだけなのでうちにはいない方がいい。

 うちにはタマがいれば十分だ。タマが寂しがったらその時は考えるけどさ。


「そんなんでいいのか? もっと……」


「メスゴブリンって探すと全然出てこないんだよ。その苦労がなくなるだけでいい」


 オークションサイトでも調べたけど販売されていたゴブリンはみんなオスだったし。

 出現には条件があるのかもしれないとさえ思えてきている。


「ふーん。意外と大変なんだな」


「探すだけならいいんだけどさ、あいつらと一緒だとちょっとな……」


 思い出すだけで気疲れしてくる。おっさんはもう(バカ)さを失ってしまったのかもしれん。


「まあそれはいい。さっそく取り掛かりたいけど、どの辺に温泉つくりゃいい?」


「温泉!!」


「排水設備だけはそっちで用意してほしいが、無理なら川に流すことになる」


「そんぐれえ作るって! 温泉なんてマジか!」


 アキラのテンションが上がった。温泉好きだったのね。

 たぶんおっさんとの眷属契約で入った記憶のせいなんだろうけど。


「露天もいいけど、冬は寒そうなんだよな。どの辺がいっかなー?」


 キラキラした瞳で悩むアキラ。そこまで喜んでくれておっさんも嬉しい。

 こりゃ張り切っていいお湯を湧かせないとな!

 山奥でロケーションもいいしさ。



 ◇ ◇



 張り切るアキラに神殿(ダンジョン)を紹介されながら温泉の場所を決める。

 古そうな外見だがゴブリンたちがちゃんと掃除しているのか、埃が積もっているようなことはなかった。


「ここはどうだ?」


「いいのか? なんかの儀式の間みたいだけど」


「いいぜ。ここなら湿気もこもらねーだろ。あの像とかお湯出すのにいー感じだしな」


 アキラが指差したのは東洋龍のような大きな彫像。あの像の口から温泉を出せってことね。

 たしかにそれも面白そうだな。


「この広さなら持ってきた湯船も置けそうだな」


「おお、檜風呂!」


 ノームの職人が風呂妖精バーンニクの監修で作った大浴槽だ。妖精の街の大浴場に作ったものだが調子に乗って人間サイズの物も作ってしまったので、せっかくだからこっちに持ってきた。

 アスカとタマ用に使ってもよかったけど、彼女たちの風呂は先にDPで購入していたからね。

 ああ、アスカはいつの間にか偽名じゃなくて本名になってしまった。種族【アシュタロト】のアスカってことらしい。


「けっこうでかいな。これならみんなで入れるぜ」


 上機嫌で大浴槽のそばに排水口を設置するアキラ。

 気が早いな。床の角度を確認してからの方がいいんだけど、そこら辺は修正がきくからいいか。


「んじゃ、この像ね」


 彫像の安定を軽く確認してから、その口にスキルで温泉を湧かす。

 量はこれぐらいでいいかな?

 像の口から勢いよくお湯が流れ落ちていく。


「うぉ! マジで湯気が出てる!」


「温度はこれぐらいでいいか?」


「もうちょい熱めの方がいい」


「そうか」


 風呂に入ったことのない眷属を入れるなら、ぬるめからスタートした方がいいと思うがここはアキラの好みに合わせよう。熱かったらうめればいいのだし。


「でさアキラ、ちょっと聞きたいんだけど」


「なんだ?」


「さっきからおっさんのことを睨んでる鯉のぼりはなに?」


 なんかでっかい鯉が宙に浮いていて、おっさんをロックオンしているんですが。

 鑑定したら【翔鯉】ってモンスターでアキラの眷属だった。

 まさかおっさんを餌として狙ってるんじゃないよね?


「コラ! ……ん、そうか。お前、温泉ができたから一緒に水浴びしなくなるって怒ってんのか」


「これがこないだ言ってた眷属? 飛べるようになったんだ」


「ああ。だけどまだまだ甘ったれでな。ドラゴンになるのは遠そうだぜ」


 ……鯉の血って滋養強壮にいいんだよな。まだ小人化できないレヴィアのためになるんじゃないだろうか。

 空飛ぶ魚なんだし、ポテチあげるから採血させてくれないかな?



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