136話 アスカ
新第1層の海エリアは妖精たちにも好評で仕事中毒種族のノームたちですら、夜中に海岸で遊んで砂の城を作るというのが流行ってしまっている。
フィールドダンジョンの設定も昼夜があるものにしているので、日光が苦手なノームたちも楽しめると評判だ。
「他には第2層の宴から抜け出した妖精たちのカップルがやってきてイチャイチャしているのでアリます」
第2層は今までと同じく妖精たちの住むフィールド階層。
夜毎の宴会はまだ行われている。
恋人たちにはそこよりも夜の海の方がいろいろと都合がいいのだろう、きっと。
以前のおっさんだったら「爆発しろ」ってな気分になったのは確実だな。
爆発といえば花火があったら楽しむ連中も多そうだが、おっさんにインストールされているダンマス基礎知識によればこの世界って火薬がないみたいなんだよね。火薬を作らないようにダンマスも思考を調整されているっぽいのだ。
「街も拡大中にゃ」
「ノームの大工たちは植物成長薬で急成長した木材にももう慣れたようだよ。木目がほしいって外にまで採りに行く職人もいるけどね」
「入国審査の建物も作ってもらったにゃ」
避難民妖精の増加のペースは落ち着きつつあるが、やはりまだやってくるので第1層での入国審査は必要だ。
なお入国審査の建物の他、小人サイズの海の家っぽいのも妖精用海の近くに建てられている。
もちろん、温泉もおっさんのスキルで創ってあるよ。
「引き続き警戒を頼む。フツヌシはどうしてる?」
「ミコの話を聞いたノーム職人によって建設された神社を見たらなんか泣いちゃってさ、そこに住むって駄々こねてるよ」
「それはそのつもりで頼んだんだから別に構わないけど、アシュタロトはいいのか?」
「うむ。今のあやつでは我が装備すれば双方共にあまりよろしくないことになるようだ」
神社って言ってもノームサイズの本当に小さなものなんだけどなあ。
まあ、その感じなら侵入者に奪われそうになっても社の方を護りそうだからいいか。
折を見ておっさんの眷属にならないか聞いてみよう。
「アシュタロトを浄化できればそれも問題なくなるのに。今の私ではちょっと無理だけどグッドフォーチュン7の仲間がいれば……」
「ごめんミコちゃん。浄化されたアシュタロトがどうなるかは興味はあるけど、おっさんはGF7の他の子のフィギュアを持ってないんだ。でも、妖将雪叢ならキミのフィギュアと一緒に購入してる」
「そっちもお願い! あの子が味方になってくれるなら心強いから」
いつか彼女も〈ガラテア〉するつもりではあるが、次こそドワーフをって予定なんだけどなあ。
その辺は状況次第で臨機応変にいくしかないか。
「浄化と言えば、計算ではあの時フツヌシからのDPはやはり入っていないようだ。浄化された場合は対象が持っていた瘴気が消滅し、DPは入らないと見ていいだろう」
手元の書類を見ながらそうアシュタロトは説明する。
邪神のダンジョンでも経理のような仕事を担当していたそうで、試しに入ってくるDPを計算してもらったところ、これがほとんど当たっていた。
今は他の眷属たちにその計算方法を教えてもらっている。
「そうか。フォーチュンブラックの浄化は強いけど、ここぞという時にしか使えないな」
「フーマ、その分あたしたちががんばるよ!」
「よくぞ言った。それでこそワシの娘よ!」
親バカ発言のディアナには妖精たちのまとめ役になってもらった。
元女王らしく人数が増えて件数が増えた揉め事にも上手く対処してくれている。
妖精たちからの人気も高いので、このまま女王に返り咲いてもらいたい。とても巣穴には見えなくなってしまったダンジョンの名前も“常世の国”に改名したことだし。
常世の国ってのはスクナヒコナが帰った土地らしいから詳しいやつにはおっさんの正体がばれそうな気もするけど、まあいいか。
その分おっさんにプラス補正があることを期待しよう。
「リニアやアンコたちの武器も更新したいな。あのフィンブレードが加工できればいいんだが」
フツヌシに斬り落とされたフィンブレードはリヴァイアサンが生まれ変わった後も残っていた。危険なので今はダンジョンの奥深くに安置している。
「使っていいわよ」
「そうしたいんだけどさ」
いまだリヴァイアサンの姿のままの妻を見上げた。
少し大きくなったかな。早く〈小人化〉できるようになってほしい。
「んだの、ノームは自分たちだば無理さ言ってるだ」
アシュタロトが恥ずかしがらない服を悩んでいるらしくスケッチブックに集中しているため、最近減っていたノーム弁混じりのハルコちゃん。
おっさんの前以外だと方言も多いらしいんだけどね。
ある意味前のレヴィアの形見なあれの加工のためにも熟練ドワーフがほしいんだよなあ。
アシュタロトとフツヌシの組み合わせなら斬れるだろうけど、その後の作業が続かない。あれを武器にできれば強そうなのにさ。
「ボクもあれを使ったゴーレムを作りたいけど、レベルがちょっと足りないかな」
「そう? 私が成長する時に出る素材も少し残しておくわね」
リヴァイアサンの脱皮した抜け殻は再び取り込むらしい。
なおレヴィアの食事は時々、外の海に跳躍して鯨とか食べているようだ。跳躍できるようになる前は第1層の海に連れてきた魚たちで済ませていた。
小人の時は足りていたか不安になったけど、小人化時は燃費もいいらしい。
「やはりレベルを上げるしかないか。ここの邪神のダンジョンを攻めるのはもっと強くなってからだな」
「わかったのだ。テリーももーっと強くなるのだ!」
アシュタロトのような種族ランクのやつはそういないらしいけど、強引に攻略開始してはいけないだろう。
安全に成長させる場所も他にあるのだし。
「うん。今回はあいつらに紹介しやすいってことでアシュタロトとタマを連れて行くよ」
◇ ◇
「というわけで、これがおっさんの眷属のアスカとタマだ。一緒に特訓させてくれ」
「堕天使のアスカだ。よろしく頼む」
「タマにゃ。ゴブリニャにゃ。ここは慣れてるにゃ。よろしくにゃ」
ハルコちゃん特製の翼や尻尾が外に出せるジャージ姿の二人がヨウセイの穴の連中に自己紹介。
さすがにアシュタロトはそのまま紹介するとまずいので〈鑑定妨害〉で偽装し、種族は【堕天使】とした。アシュタロトだって堕天使でも間違いではないのだから嘘ではない。
偽名は眷属のみんなで考えたけど、変に捻ったのじゃなくて元の名前に近いのにした方が本人もいいってことでこれに。
「あ、アスカさんですか! お、俺はエージン! アニキの一の弟分っす!!」
アシュタロトの巨乳に魅せられたのか、エージンが真っ先に名乗りを上げた。他のメンバーも次々とそれに続く。
いくら巨乳美女だからってお前らがっつきすぎ。ハイパのことを知ってるから仲良くなるようにと説明していたのにアシュタロトが引いているじゃないか。
「ちょっと男子! 二人がビックリしてるじゃない。少し落ち着きなさい」
そう沈めたのは委員鳥のコトリ。
本当に頼りになる。今度君の分のジャージも持ってきてあげよう。
「この分じゃ二人が一緒だと特訓になりそうにないな。コトリ、女子は二人と一緒に別行動を頼めるか?」
「そうですね。私はコトリよ。コーチにとってもお世話になっている者です。アスカさん、タマちゃん、行きましょう。あなたたちを視姦させるわけにはいかないわ」
「そ、そんなあ」
「アスカさんの反復横跳び期待したのに!」
別行動で正解のようだな。
アシュタロトが反復横跳びなんてしたら、お前ら乳揺れに夢中になって特訓どころじゃないだろ。あれはスゴいんだぞ!
名残り惜しそうにダンジョンを進む女性メンバーを見送る男たち。そんなだから女性メンバーが増えづらいんだっつの。
まあ、エージンみたいに好みの女性眷属をダンマススタート時に用意してない限り、DP稼げないんじゃ女性眷属ですら追加注文は無理だからこうなっちゃうのも仕方ない、のかな。
おっさんもコルノとレヴィアがいなかったらああなっていたのかも。
「あ、あの、監督!」
「なんだ、ポポイノポイ?」
「タマさんのゴブリニャって?」
「なんか進化したらああなったんだ。元々はエージンから貰ったゴブスナなんだけどな」
その言葉でやっと元のダンジョンマスターであるエージンが気づいた。
外見変わりまくってるから気づかないのも無理はないけどさ。
「えっ、あいつってゴブゴだったっすか? どう見ても可愛らしい獣人の女の子だったっすよ」
「そうだ。今になって惜しくなったか?」
「もうちょいおっぱいが大きければそうだったすけど、アスカさんの方がいいっすよ!」
「なにを言う! あの子の魅力がわからんとはそれでも紳士か!」
そうエージンに詰め寄ったのは【ゲイザー】のベアドン。
たしかに今のタマの外見ならロリコンのこいつのストライクゾーンだな。
「もちろんジャージの下はブルマですよね?」
「ジャーブル! ジャーブル!!」
「吾輩としてはスパッツも捨てがたいのだが」
「落ち着けお前ら。今はゴブリニャの方が問題だろ。監督、進化条件を教えてください!」
いきなり土下座のポポイノポイ。【ホブゴブリン】という種族だから気になるんだろうけど、そこまでなのか。




