134話 女子会その2(ムリアン視点)
今回も別キャラ視点です
私は【ムリアン】。名前はまだない。
コールサインはリアンエイト。
八は末広がりで縁起がいい。私に相応しいナンバーである。
「いいかお前たち! ディーナシーに負けるなでアリますよ!!」
「無理。あっちの方が数が多い」
「戦いは数だよ、隊長」
ダンジョンマスターである旦那様の眷属内で一大勢力を誇っていた我ら姉妹だったけれど、それ以上の数がいるディーナシーの眷属入りにアンコ隊長はピリピリしている。
だが隊長ももう少し気を使ってほしいものだ。レヴィア様の前だというのに。
もっとも、巨大な姿のレヴィア様の迫力の前では隊長の威圧感などかすむと言うか無いに等しいのだが。
そのせいかムリアンたちも強気だ。
「ディーナシーみんな綺麗だったねぇ」
「うちに不足していた大人の魅力」
「ディアナお姉さま、アンコ隊長より強いしぃ」
「それはダメ。隊長がイジケる」
元女神様と元女王アリ候補では比べるだけ無駄だと思う。
私もリアンイレブンのようにディアナ様を「お姉さま」と呼ぶべきだろうか。
「レヴィア奥様、自分はどうすればいいでアリますか? このままムリアンたちがお役御免にされないか不安なのでアリます」
「落ち着きなさいアンコ。ムリアンたちはちゃんと働いている。そんなことにはならないわ。このダンジョンになくてはならない存在よ。フーマもしっかりそれは見ているから安心なさい」
レヴィア奥様は仰らないがダンジョンは人手不足だから我らを解雇などにはならないだろう。旦那様もいつも私たちの働きを褒めて下さるし。
だが慢心して業務を疎かにするつもりは一切ない。
アンコ隊長の応援よりも旦那様に褒めてもらいたくて姉妹のみんなは日々がんばっているのだ。
「ディーナシーにオペレーターの座を奪われることがあってもメイドの職は渡しません」
「我らのメイド力は常にアップ中」
「まだ、見たわよ、はできてませんがいつか必ず」
それはメイドではなく家政婦ではないだろうか。
違いはよくわからないが旦那様はメイド服を着ているのがメイドと仰っていたので私たちがメイドであるのは間違いない。
「ふふっ。そちらの働きにも期待しているわ。なにか動きはなかったかしら?」
「はい奥様。相変わらずミコ様が旦那様に接近中。旦那様もミコ様の意見を採用することが多いです」
「やはり。あの子には早めに話を通しておいた方がよさそうね」
隊長には秘密だが、我らが作る旦那様の嫁候補ランキングにおいて既にミコ様は隊長を抜いている。隊長にはもう少しがんばってほしいものだ。
応援のためにハルコさんに頼んで極秘で隊長のスカートの丈を少し短くしてもらったのだが、これに喜んだのは旦那様よりもディアナ様。目に付いたら必ず隊長のお尻を撫でていく。隊長が逃げることができないなんてディアナ様は凄すぎる。
「リニア様はなにか言いた気に真っ赤になって旦那様に近づくのですが、他の眷属がいつもそばにいるからか、すぐに引き下がっている模様」
「そう。まだ恥ずかしいのかしら? いいわ。フーマと二人きりになるタイミングをつくってあげなさい」
「了解しました」
羨ましいことだ。私だって旦那様と二人きりになりたい。
もっとお世話をしてあげたい。
隊長がこのまま残念ならば、私たちもレヴィア様に相談するべきかもしれない。隊長の代わりに私たちを候補にしていただけないかと。
「ミーアはどうしている?」
「ディーナシーから話を聞いたり、常若の国の廃墟を調査してばかりです。たまに長老トレントの枝で寝ているのが目撃されています」
「フーマよりもバイカンの方がいいのかしら?」
ミーア様は他人の色恋沙汰には興味を持つが、自分がそうなるとは考えていない様子。たぶんまだ恋も知らないのだろう。
旦那様のよさを説明しても、イマイチ理解してもらえない時があるのが残念だ。
「気になるのはアシュタロト殿でアリますよ。司令殿直々に稽古をつけてもらって、羨ましいのでアリます!」
「あれはズルイ」
「未だに運命の相手がなんて口では言っているけど、影旦那様に興味があるのは確実」
影旦那様とは、旦那様に現れたもう一人の旦那様。影旦那様いわく旦那様の暗黒面らしい。
旦那様よりもワイルドで、一部で人気がある。顔はともかく手足が多いのは元アリである私たちにはむしろ好ましい。
「シャドウね。また現れるのかしら?」
「小さいままで影旦那様がいらしたら、旦那様の嫁追加作戦は一気に進むのに」
「でも私は旦那様の方がいい。俺様な旦那様はなんか違う」
やさしい旦那様の方が好きだ。
よく似た私たち姉妹の違いをちゃんと見分けてくれてがんばりを褒めてくれる。そんな旦那様が大好きだ。
「そうね。フーマもシャドウの自分はあまり気に入っていないようだから、あまり言わないように。他には?」
「テリー君が怪しいですよ」
そう言ったのはリアンテン。男性同士の愛を好む、旦那様いわく腐女子属性らしいムリアンだ。
リアンテンは同好の士である妖精女子を増やしつつあり、カップリングとやらを熱く語る。
「テリーね。あの子はまだ性別がないタイプだから、進化してどちらの性になるかで考えてみましょう」
「テリー君はハルコ狙いだと思う」
「いや、アシュタロト様をかばった。あれは愛ゆえだろ」
テリー君はもともとアリの頃の私たちと行動を共にしていたのでみんな気安い。かわいい弟扱いである。もしも進化して女の子になってしまったら妹になってしまう。
「彼の本命はリオだと考えている。でもリオはエサソンのスケさんを憎からず思っているもよう」
「リオがスケさんの干しキノコ作成を手伝っているのが確認されています」
「ちょっと、その情報聞いてない!」
リオも仲間だ。彼女のおかげで私たちはハエに寄生されず、こうして旦那様のメイドでいられる。彼女にも幸せになってもらいたい。
「あら。ではリオは進化したら小人か妖精になるかもしれないわね」
「おっぱいがついていればコルノ奥様が喜ぶのでアリます」
コルノ奥様はおっぱいチェックが大好きだ。だが、あの方の手はディアナ様と違っていやらしさを感じさせない。
旦那様いわく、母親の愛情を求めているのではないか、とのこと。コルノ奥様は母性の象徴である胸、自分が吸うことの叶わなかった母乳を欲しているのかもしれない。
……アリだった私たちも吸ったことはないが。口移しではない赤子の食事はちょっと不安だ。
「胸、ね。ふふふふふふ」
うっすらとニヤニヤしているレヴィア奥様。
生まれ変わった奥様は以前よりも大きな胸になってしまうのだろうか?
「成長には牛乳がいいとアシュタロトが言っていたけれど、この島には牛がいないのよね。邪神のダンジョンからブルベガーを捕獲してこないといけないわね」
「ブルベガーでアリますか。ハエたちが管理しているはずなので面倒でアリますよ」
ブルベガーは牛の妖精だ。その肉もお乳もとても美味らしいが、私たちは見たことすらなかった。知っているのは夜中に響き渡る大きな大きな鳴き声だけ。
アシュタロト様はブルベガー乳を常飲していたそうだ。羨ましい。
どんな味なのだろう?
噂に違わぬものならばご主人様に献上したい。
「もう少し私が成長して写しが作れるようになればなんとかなるでしょう」
「その時はお供します。私たちも戦いたい。レベルアップして進化しなくてはいけませんので」
「むむ。まさか隊長の座が狙われているのでアリますか!?」
「違う。狙うのは秘書。もしくは女執事」
メイドもいいけれど、より旦那様のおそばにいられるように進化したい。
そのためには経理に詳しいというアシュタロト様にお話を伺わなくてはいけない。
私の発言に続くように姉妹からも次々と進化先の希望が出される。
「女中頭に、ワタシはなる!」
「クノイチとなってお館様にお仕えするでござる!」
姉妹の言葉にショックを受ける隊長と、そんな私たちをやさしい瞳で見つめるレヴィア様。不敬かもしれないが我らが母である亡くなった女王を思い出してしまった。
女王……安心してください。数も減り、姿も変わりましたが私たちは元気に生きています。
「願いなさい。私は進化できないけれど多くの者を見てきた。それまでの行動と強い願いが進化先に影響を与えるの。タマが証拠ね、いい例だわ」
タマさんは新たな種族【ゴブリニャ】になった。妖精神である旦那様のお力が大きいのはたしかだが、タマさんの願いもあるのだろう。
でも、旦那様が好きなら小人になればいいのに。
もしかしたらタマさんも影旦那様狙いなのだろうか?




