132話 ゴブリ……
生き返ったレヴィアはリヴァイアサンの巨大な姿のままなので〈小人化〉を使えるようになるまで暫くは第3層の海で暮らすことになった。
「食事の用意はムリアンたちがいるからなんとかなるわ。それぐらいには仕込んであるの」
「レヴィアちゃんのごはんが食べられないのも困るけど、レヴィアちゃんがいないとボク一人でフーマの相手をすることになる方も大問題だよ。どー考えてもボクもたないよー」
「リニアも入れればいいでしょう」
海に浸かり、頭だけを海岸にのせてるリヴァイアサンとその上に座っているコルノ。本来の大きさよりも小さいけれど、コルノも小さいのでリヴァイアサンの巨大さは損なわれていない。
つうかでか過ぎ。これではどうがんばっても一緒のベッドには寝れない。
……コルノがもたないとはどういう意味かね? おっさんそんなにハードなプレイはしてないのだが。
「婚前交渉など認めんぞワシは!」
「あら、結婚自体は認めるというのね、アルテミス」
「今のワシはディアナだというに。せめてお姉さまと呼べ……リニアがその気ではな。あれはワシに似て言い出したら聞かん」
大きなため息をつくディアナ。
ちなみにステータスを確認したら彼女の種族は【ディーナシー】ではなく【ティタニア】であった。
巨人の娘?
小人なんですけど。
「ディアナ様ぁ、カリストちゃんからよく言って聞かせますぅ。男なんかに騙されているのを見過ごすわけにはいきませぇん!」
ディアナに寄り添いながらそう言ったのは長い桃色の髪のディーナシー。
リニアの母親であるカリストだ。娘と同じく美乳の持ち主で、もちろんスゴい美女である。
「男なんかって……」
「寄らないでください。汚らわしい!」
この世界のディーナシーは元々はアルテミスに処女の誓いをたてたニンフだったらしいから、男はそんな認識なのかもしれない。
美女に言われるとちょっとクるものがあるね。
「母さん、フーマになんてこと言うんだよ! フーマのおかげでディアナ様やみんなを護れたし、元に戻せたって言ってるだろ!」
「ああ、あの可愛かったリニアちゃんがこんな野蛮になってしまうなんて……」
カリストはぽろぽろと大粒の涙を落として泣き始める。
なんだかリニアよりも幼いんじゃないかと勘違いしそう。
「それは違う。リニアは姿が変わってでもディアナ達を護ろうとしたんだ。それこそボロボロになって。嘆かずに褒めてやってくれ」
「うむ。婿よ、男にしてはいいことを言うではないか。なにより、クマに変身できるというのは素晴らしい! なんと親孝行の娘ぞ!」
「でぃ、ディアナさま」
いまだクマフード装備中のリニアをその上からなでなでしているディアナは満足そうだ。
たまにお尻に手を出しては避けられているのは尻尾の確認だと思いたい。
「ふふっ。フーマを婿と呼ぶのであればあなたは姉ではなく義母ということになるわね」
「ふむ。すぐに嫁にやるつもりもないが、レヴィアやそちらのお嬢さんのような娘が手に入るのは悪くないのう」
「あら、コルノならあなたを姉と呼んでもおかしくない関係なのだけど」
「なに? どういうことだ? まさかゼウスの……」
そっちはリニアの方でしょ。
そう思うくらいゼウスには前科があるんだろうけどさ。
自分をじっと見つめるディアナにコルノが名乗る。
「ボクはコルノ。別の世界のだけど、ポセイドンとメデューサの娘だよ」
「なるほど。ポセイドンはともかく言われてみればあの者の面影がある」
「えっ、こっちのお母さんを知っているの?」
「無論だ。美しい娘たちだったのでな。あの姉妹はワシをお姉さまとは呼んでくれなかったが、あのようなことになって残念だ」
こっちのゴルゴン姉妹も前世の話と同じようなことになっているっぽいな。
そしてディアナは好みの女性にお姉さまと呼ばせている?
「お母さん……」
「ほれ、ワシを母と思ってよいのだぞ」
俯いたコルノにそう声をかけて抱きしめるディアナ。ぽんぽんとやさしく背中を叩きなぐさめる。
「お……お母さん……」
「よしよし。ポセイドンの娘とはとても思えないのう。ワシとメデューサの娘ということにしようぞ!」
「しようぞ、じゃなくてな。というかすぐ尻に手を回すんじゃない!」
油断も隙もないなこの元処女神。
慰めている手がいつの間にか下がっているのを見過ごすわけにはいかない。
「いいではないか。減るもんでもあるまいし」
「その尻は俺のなの!」
「なんと尻の穴の小さいことを言う男だ。そんなやつに娘はやれん!」
「いや、そんなんで誤魔化されないから。……って今度は俺?」
コルノのお尻を諦めたと思ったら、俺の尻を撫で回しているし。
しかも両手で!
気づかれたのに止めてくれないですよ、このセクハラオヤジ。
「かかか。どれほど尻の穴が小さいか確かめてやろうと思っての。やはり男の尻は硬い」
「ならやめろって。だから揉みしだくな! 柔らかくなんかならないから!」
「ふむ。硬いのも悪くはないかもしれん」
いや、女性のならともかく男の尻はよくないでしょうが!
女性目線だと違うのかね。
「それぐらいにしなさいディアナ。そのお尻は私とコルノ、これから妻になる者たちのものよ」
「そんな汚いお尻よりカリストちゃんのお尻の方がいいですぅ!」
「汚くなんかないからね。うちのトイレは温水洗浄完備だから!」
おっさんや眷属の住環境はかなり整えられているのだよ。
トイレは水の管理者が「いいものね」とお墨つきの逸品。
風呂だって毎日ちゃんと温泉に入っていて肌はつるつるなんだぜ。
「それは気になる。ハエどもがこないトイレと言うのは素晴らしい!」
白いワンピースに着替えたアシュタロトが現れてそう言った。
先ほどまでの露出過多な仕様と違い、背の翼も相俟ってまるで天使のように清純な乙女に見えてしまう。
「もうできたのか、さすがだなハルコちゃん」
「とりあえずの間に合わせですだの」
これでか。人間サイズのこれを短時間で作って、それでも不満そうにしているハルコちゃんの腕はかなり高くなっているようだ。
……あれ、種族レベルも上がっているような。
「ハルコちゃんレベルが上がった?」
「えっ? ……本当ですだの」
本人も気づかなかったか。
ダンジョン機能のウィンドウを開いて眷属のレベルを確認してみると、ほとんどがレベルアップしていた。
「みんながレベルアップしている……さっきの戦闘の影響? でも戦っていない眷属までも?」
「それほどダンジョンの危機だったのかもしれないわね」
「そんなもんなの?」
転生時に上書きされたダンジョンマスターの基礎知識にはそんなのはなかったけど。
あとでダンジョンマスターの館で確認してみるか。
……おっさんはまだレベルアップしていない。もうちょいだと思うんだけどなあ。GRは強いけどレベルアップが遅いのはなんとかならんものか。
「アシュタロトとその騎獣との戦闘に参加した者はかなりレベルアップしているわね。進化できる者もいるでしょう?」
「ニャンシーとタマも進化できるようになってるにゃ!」
「タマはわかるとしてニャンシー参加してたっけ。すぐに逃げたような?」
「逃げる前に風魔法でちょっとだけ攻撃したにゃ!」
他には眷属フェアリーが男女一名ずつ進化できる。
ムリアンにはいなかった。この前進化してムリアンになったばかりだからレベルが足りないのは仕方がない。進化したらアンコのようなコマンダーではなくムリアンメイドかなにかになりそうではある。
レッド、テリーとリオももうすぐのようだ。
「ニャンシーもミーアと同じ小雷獣になるのか?」
それならかなり戦力アップが期待できる。
あの雷は強力だもんな。
「違うにゃ、風生獣ってなってるのにゃ。進化していいかにゃ?」
「風生獣? 精じゃなくて生? ミコちゃん、知ってる?」
「はい。風生獣は風狸とも呼ばれる中国や日本の妖怪です。タヌキの一種とされることもあるのですが、猫から進化するとは面白いですね」
「タヌキか。それはそれで可愛いかもしれん。進化してくれ」
許可を出すとニャンシーはすぐに進化して……あまり変化は感じられないな。
ちょっと大型化したか? ヒョウ柄にはなったがどう見てもタヌキではなく、猫のままだ。
「これならアシュラ様と釣り合うにゃ。さっそく見せてくるのにゃ!」
能力を聞く前にさっさと飛んで行ってしまった。あの速度は小雷獣のミーアよりも速いかも。
あれならアシュラの代わりもできるかもしれない。アシュラもレベルアップしているけどあまり戦っていないから、他のダンジョンか邪神のダンジョンで戦闘させておきたいし。
「タマも進化していいぞ」
タマの通訳が得意なニャンシーがいなくなってしまったので進化先を聞くことができず、おっさんの許可を待っていることだけはわかったので許可を出した。喋れるように進化できるといいのだが。
「これはまた可愛くなったのう」
「なんと愛らしい。これがゴブリン種から進化しただと!?」
ディアナとアシュタロトの評価も当然だろう。
元々ゴブリン系には見えなかったタマが完全に別物としか見えないほどの進化をとげたのだ。
「ゴブリニャ? 初めて見る種族ね」
ゴブリンの標準的な身長である130センチ程の大きさながら、大きなネコミミと尻尾を持った美少女にタマは進化していた。
[【ゴブリニャスナイパー】
妖精神の加護によって新たに生まれた種族
伝説の種族ゴブリナの亜種ゴブリニャの進化系で弓を得意とする]
ゴブリナじゃないのかよ!
掲示板が大騒ぎになるかもと思ったのに。
……これでも大騒ぎになるか。
偽装していた種族名の【ゴブにゃん】がまずかったのだろうかね。
風生獣で一番メジャーなのは□デム似のファミリア。




