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131話 光の後

 死んでしまったレヴィアの体に異変が起きた。

 いったいなにがどうなっているんだ?


「も、もしかして元の姿に戻ろうとしているのでは?」


「元のってリヴァイアサンの?」


 なるほど。死んで正体を見せる妖怪の話も多い。

 もしそうだとしたらどうしよう。

 レヴィアのままだったら俺のアイテムボックスに収納しておいて腐敗しないように保存する予定だった。冥府からレヴィアの魂を連れてきた時に困らないようにしたいのに。


「アイテムボックスに収納! ……できないか……。念のために全員この階層から退避。リヴァイアサンの身体に押し潰されるな!」


「我もか?」


「今さら暴れはしないでくれよ。レヴィアの遺言に従ってくれるのなら……悪いようにはしない」


 俺としてはかなり複雑ではあるのだが。

 レヴィアを死なせた一番の原因はアシュタロトではなく、さっさと眷属化しなかった俺にある。それがわかっているだけに彼女を憎みきることはできない。レヴィアもそう望んでいなかった。

 それを察して残っていた眷属たちがクモ糸に絡まれたままのアシュタロトを運んでいく。眷属たちはそれなりに力があるしアシュタロトも軽かったようだ。


「ごめんフーマ、ボクの石化も駄目みたい」


「そうか」


 石化を試し、長髪となっていたコルノが謝ってきた。

 リヴァイアサンではなくレヴィアの姿を残したかったのだろう。

 死んでからも石化を抵抗(レジスト)するなんてさすがというべきか。

 もしリヴァイアサンの姿になってしまったら保管用にこのフロアの設定を極寒にしておく必要があるな。凍りはしなくても傷むことは避けられるはずだ。邪神のダンジョンが沈む海は一緒に凍るが、かまいはしない。

 DPが足りるといいのだが。


「フーマは避難しないの?」


「レヴィアが俺を潰すのならそれもいい」


「……そっか。そーだねー。でも、レヴィアちゃんならそんなことはしないよ、絶対!」


 自分の方も逃げようとはせず、俺の手をきゅっと強く握って輝くレヴィアの遺体を見つめるコルノ。

 光は七色に変化しリズミカルに明滅し始めた。


「レヴィアちゃん……もしこのまま光ったままだったらどうしよう?」


「それはちょっと」


 照明代わりにする気にはならないし、目立つのは避けたい。

 リヴァイアサンの死体なんて素材として狙われる可能性があるのだから。



 ◇



 もう10分ぐらいこうしているだろうか。

 手から伝わるコルノの体温のおかげか、やっと冷静になってきた気がする。

 レヴィアの復活のための準備をしなくてはいけない。やはり潰されないように避難すべきか。

 そう思い直してコルノに移動しようと言おうとした時、音もなく急に光が消えた。


「レヴィア?」


 ベッドの上に遺体はなく、この階層を見渡してみれば遥か上空にその姿があった。

 大空に浮かぶ巨大な姿が。

 落下してきたら衝撃でこの階層が無茶苦茶になるな、のん気にそう思ってしまう。


「ん?」


「どうした? さすがに受け止められそうにないから、落ちてくる前に避難しておこう」


「あのさ……あれ、生きてない?」


 コルノが指差した先にはこっちに近づいてきている巨影。

 それは単なる自由落下ではなく。

 長い身体を優雅にくねらせていて。


「まさかアンデッド化……じゃないよな? しかもなんか小さい?」


 大きいには大きいのだが、この階層の広さでものびのびするには不足だと本人が言っていた巨大さとは比べ物にならないほどに小さい。

 100メートル前後だろうか。誤差は10メートルぐらいあるかもしれないが、たぶんその程度の大きさだ。いやそれでもデカいけどさ。


「もっ、もしかしてレヴィアちゃんの忘れ形見? フーマとの赤ちゃん!?」


「お、おっさんはまだ子供はできないはず! ……なんだが」


 ダンジョンマスターやその眷属はダンジョンレベルが高くなければ子供はできない。子育てはダンジョン運営の障害になるからとのことらしい。

 おっさんのダンジョンレベルは二桁になってはいるが、まだ子供が許されるレベルには達していない。

 ダンジョンマスターでも眷属でもないレヴィアなら子供はできるが彼女が浮気してたなんてことはありえない。あっちだって初めてだったから結婚する前に身篭っていた可能性もゼロだ。


 ……小さいけれどあれはどう見てもリヴァイアサンによく似ているな。

 まさか単為生殖(ひとりで)

 最強生物ならそれぐらいするかも。

 だがレヴィアの子ならばおっさんの子だ!

 おっさんの遺伝子を受け継いでいなくとも愛せる。


「ちゃんと面倒見るからな、レヴィア!」


「世話をかけるわね、あなた」


 声までレヴィアそっくりなのか。

 ……んん?

 今、おっさんのこと「パパ」ではなく「あなた」って言わなかったか?


「え? レヴィアなの?」


「嫁の顔、見忘れたのかしら?」


「そんなどこぞの八代目みたいなことを言わんでも」


 どんだけ愛していても、おっさんにはリヴァイアサンの顔の見分けなんてたぶんできないから!



 ◇ ◇



 レヴィアが生きていることを眷属たちに知らせて戻ってきてもらった。


「生き返った?」


「ええ。リヴァイアサンはほぼ百年毎に死んでは生まれ変わるのよ」


 変身を解除したミコちゃんがそれを聞いてぽんと手を叩く。


「そういえばリヴァイアサンは1年毎に死んで生き返るというのを読んだことがあります」


「いくらなんでも1年では短すぎるわ」


「いやそうじゃなくて。それ、なんか別の幻獣の記述混じってない?」


 フェニックスとかさ。

 まあ、おっさんもそんなに詳しいわけじゃないから本当にそんな生態があるのかもしれない。

 そもそも前世の伝説とこっちじゃ違うことも多いだろうから参考程度にしかならないかな?


「ワシはすぐに見抜いたぞ」


「知ってたのなら教えてくれよ!」


「そんな雰囲気ではなかったのでな」


 かかかと笑うディアナの横でリニアが頭を下げる。


「ごめんよフーマ、ディアナ様はこんなお方なんだ」


「リニア、ワシのことはお父さんと呼びなさないといつも言っているだろう。それが嫌ならパパでもいいぞ」


「……こんなお方なんだ」


 ええと。

 処女神というよりおじさん……おじさま?

 しかも女好きっぽい。


「はあ。……まあ生き返ってくれたのは嬉しい。レヴィア、そろそろいつもの姿に戻ってくれないか?」


「ごめんなさい。そうしたいのだけれど無理なの。生まれ変わってすぐはまだ力や能力が弱いのよ。小人化のスキルも使えないわ」


「そーなんだ。だからちっちゃいんだねー」


「そう。力の弱くなった私を狙ってくる者も多いから今回は先送りにしてねばっていたのだけど、裏目に出てしまったわ」


 むう。レヴィアが生き返ったのは嬉しいけど暫くはリヴァイアサンの姿のままなのか。

 すぐにでも抱きしめたいのに。


「このダンジョンにもそういう輩が現れるかもしれないの。だからアシュタロト、あなたは早く強くおなりなさい」


「そんなことを言われても。さっきはレヴィアが死にそうだったからつい流されて頷いてしまったが、生き返ったのなら無効ではないか?」


「往生際の悪い。だいたい、なんでそんなに弱いのよ。アフロディーテの方がもっともっと強かったわ」


 アフロディーテってそんなに強かったの?

 というかアシュタロトは弱くないと思う。攻撃が剣しかなかっただけで。

 ……そういやフツヌシのこと忘れていた。

 あ、いたいた。ほとんど埋まっていたんで背景化しているよ。

 人間用サイズの大きな柄を両手で持って飛びながらゆっくりと引き抜く。

 うん。浄化が成功しているだけあって禍々しさは綺麗さっぱりとなくなっているな。

 刃は逆刃のままだ。堕ちてこうなったわけじゃなくて正常な状態でも逆刃刀なのね。


「仕方ないだろう、ダンジョンが封印されて外に出られなかったのだから。できることといえばダンジョンの経理と花嫁修業ぐらいのものだ。その甲斐あって、刃物の扱いはかなりの腕だと自負している」


「だから刀だけだったのね」


 種族ランクGRは強いけれどレベルが極端に上がりにくい。戦闘がほとんどなければスキルレベルも戦闘関係は上げにくいかもしれない。

 たしかに鍛えればすぐに強くなる逸材かも。


「……俺も力を貸していた」


 鞘が見つからないフツヌシがぼそりと呟く。アシュタロトは鞘無しで運用していたのかね。


「まさかオオクニヌシに正気に戻されるとは。しかもスクナヒコナまでいる。活躍の場を奪われた神の巣か、ここは」


「私は古神酒ミコ。正確にはオオクニヌシだけではなく、シヴァも含めた大黒天の力を受け継いだ者です。国譲りを迫った相手の後継者に助けられるとは皮肉な話でしょうね」


「違いない。もっともその話もタケミカヅチだけの手柄になってることが多いがな」


 そんな話だったっけ?

 前世の日本神話は基本的なのしか覚えてないんだよなあ。

 イザナギとイザナミぐらいはわかるけど。

 だから冥府からレヴィアを連れて帰ってくる時はレヴィアの姿を見たり振り返ったりしないと決めていたり。


「その剣神の存在も私が生まれ変わる決意を後押ししたわ。このままではいずれフーマを守れなくなるかもしれないと。私は生まれ変わることによって一時的に弱くなるけれど、最終的には死ぬ前よりも強くなれるから」


「そうだったのか。俺のために……」


「僅かだけれどフツヌシとアシュタロトの因子を取り込むことに成功したの。今度の身体ではきっと……ふふふふふふ。あなた、待っていてね」


 もしかしてアシュタロトのような魅惑のダイナマイトボディになるつもりなんだろうか。残念ながらおっさんにはそんな姿のレヴィアのイメージがわかないんだけど。


「楽しみだ。それはそれとして先ほど、我が愛娘がダンジョンマスターの嫁だと聞こえたような気がするのだが。いや、空耳だとは思うが念のために確認をしたい」


「ディ、ディアナ様っ、それは……」


「空耳じゃないよ。リニアちゃんもボクの、フーマのお嫁さんになるんだよー」


 やっぱりそれは決定事項なのね。そうであるならばそれは、リニアかおっさんの口から告げた方がよかったんじゃないだろうか。

 あとコルノ、自分の嫁って言おうとしてなかったか?


「ほう。そうかこの小僧がリニアの婿だと……ほう、ほう」


 うんうんと頷くディアナ。目がちょっと怖い。

 ダンジョンマスターから小僧にされてしまったおっさんの運命は?

 ここはなんとか機嫌を取らないといけない。ダンマス権限で行動を縛れば安全だろうけどその使用はできれば避けたい。

 どうすれば……そうだ、石になっている他のディーナシーたちも復活させよう。きっと喜んでくれるはず。DPも補給できるし!

 新第3層の修復分のDPを早いとこ稼がないとまずい。アシュタロトのような強敵はそうは出てこないだろうが備えておかないと。


「リニア、ディーナシーたちを復活させてくれ」


 アイテムボックスから石化解除薬をいくつも出してリニアに渡す。

 おっさんが元に戻すように見せる方がいいかもしれないがDPを稼ぐのが先決だ。


「おっさんはアシュタロトを眷属化する。ディアナ、詳しい話はあとで。コルノ、時間がかかると思うからその間はダンジョンを頼む」


「やはり我を眷属化するのか」


「だーいじょうぶ! おっさんに任せれば悪いようにはしない」


「だが……」


 言いかけてアシュタロトが硬直した(フリーズ)。なんだろうと思ってその視線の先を追うと、そこにはいたのはタマ。


「ん? どうしたアシュタロト、そんなに嫌なのか?」


「あ、あのモンスターは……」


「あれはちょっと痩せているけどゴブリンスナイパーだ。名前はタマ。おっさんの眷属だ」


「やはりゴブリンか!」


 タマはだいぶ肉付きがよくなってきたけど、まだまだ痩せているしハルコちゃん特製のゴスロリとネコミミ、猫シッポを装備しているからゴブリンには見えないもんな。


「ゴブリンにあんな見事な服を着せているというのか!」


「ああ。あれはうちの眷属のノームが作っているんだ。アシュタロトも眷属になればきっと色々と着る事になると思う」


 ハルコちゃんやフェアリー女子の手によって着せ替え人形状態になるのが目に浮かぶ。

 おっさんのその予想など気づかないのかアシュタロトはくわっと見開いて叫んだ。


「よろしくお願いします!」


 惨めだと泣いたのは自分の苦労を味方が嘲笑うかの所業のことではなく服のことだった、そう勘違いしそうになるぐらい見事な手のひら返し。

 ……その後、アシュタロトの方から眷属になりたがったためか、ディアナの時とは比べるまでもないほどに短い時間で眷属契約の儀式が完了したのだった。



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