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129話 変身

おっさんが本気になってるので「俺」が多目回

「レヴィアっ!」


 儀式を終えて動けるようになったので大海魔龍小人ミニマムリヴァイアサニアン状態で倒れているレヴィアに駆け寄る。

 右腕のフィンブレードがなくなり、左腕のも半ばまで切れ目が入っていた。


「大丈夫か!?」


「油断してたわ」


 刀を構えたまま天使の翼を大きく広げ空中に留まるアシュタロトを睨む。

 むこうもこちらに気づいたようだ。


「ほう、貴様がこの者たちの夫か。今頃になって出てくるとは危機意識の欠けた者だな」


「まったくだ。……そんな自分に腹が立つ」


 眷属契約にあんなに時間がかかるなんて予想できなくてレヴィアが傷ついてしまった。

 こんなことなら儀式を途中でストップしてでも攻撃に加わればよかった。


「ゴーレム、フェアリー、トレント、アンコ、ニャンシー、テリーたちは他の階層に退避! ディアナはやれるな?」


「やれやれ。契約してすぐに(いくさ)とはワシの主となった男はせっかちだ。無論、やれと言われればやってやるが、名乗るくらいはいいだろう?」


 のじゃロリでもないのにワシ!?

 そしてイチイチ大げさにポージングするのが鬱陶しいぞディアナ。


「好きにしろ」


「では改めて。そこのお嬢さん、ワシはディアナ。常若の国(ティル・ナ・ノーグ)の王にして、今はそやつの眷属よ」


「愛らしい生き物が増えた? ぐっ、なんという策略! ダンジョンマスターまで可愛いとは……うちのハエ共とトレードできぬものか」


 ぐぬぬぬと歯軋りするアシュタロト。

 普段なら闘志が萎えそうになるところだが、今の俺はそんな緩んだ気分ではない。


「ワシを愛らしいとはずいぶん余裕のあることだ。ワシこそが貴様らを封じていた者なるぞ」


 優雅に一礼するなんて、どっちが余裕なんだか。


「フーマさん、あの刀に注意して下さい。あれは危険です」


「わかるのか?」


 リヴァイアサンのあのヒレを斬り落としたのだから並大抵の刀ではないのはわかる。妖刀の類か。

 ディアナがいつの間にか手にしていた弓から連続して放たれる矢の猛攻を、いくら小さい矢とはいえアシュタロトはたった一振りで全ての矢を斬り裂いていた。


「あの強い神気……たぶん神剣です。正確には神そのものでしょう。剣の神の御神体のはずです」


「は? 妖刀じゃなくて神剣? 剣の神ってまさかタケミカヅチ?」


 フォーチュンブラックの解説にヤバイという気持ちが強くなる。

 GRクラスがまさか一度に二体もだと?


「いえ、あれは」


「フツヌシだ!!」


 おっさんたちの会話が聞こえていたのか、矢を払い続けるアシュタロトの方から声がした。しかし声はアシュタロトの甘い声ではなく、野太い男の声だ。


「手前ら、剣の神って言うとタケミカヅチしかいねえのか? フザケンナ!」


「刀が喋ってるのか? さすが神様……。で、なんでその神様が悪魔の手にあるのさ?」


「神気だけではなく禍々しさも感じるわ。瘴気に酔っているのね」


 レヴィアが苦々しげに教えてくれた。顔色がかなり悪い。レヴィアも避難させるべきか。


「元々はフツヌシノカミが剣神でしたがその神格をタケミカヅチに奪われたり、同一神や配下扱いとなったという説もあります。レッサーパンダのような感じですね」


 最初はレッサーパンダをパンダと言っていたのだが、ジャイアントパンダが無印パンダの座を奪い、レッサーをつけられるようになってしまった悲しき元祖パンダか。

 ってわかりヅラいたとえだ。


「まさかそんな理由で闇堕ちではなかろうが……フォーチュンブラックなら浄化できる?」


「たぶん。しかしあれでは近づくこともできないでしょう」


 フォーチュンブラックは妖怪にとり憑かれた人間を浄化して元に戻すことができる。それに期待したいがアシュタロトが振り回す状況ではそれも望み薄か。


「動きを止めるのが先か。ならば!」


 意識を集中して空中に矢をイメージする。

 大きく鋭い魔法の矢。

 全てを斬り払いようのない千の矢を。


「奥義! サウザンドォォォォ! ミサァァァァァイル!」


 まるであのサーカスのように特殊な機動を描いて前後左右上下全ての方向からアシュタロトを襲う各種属性の矢。

 どうだ、これならば!


「くっ、痛いではないか!」


 多くがその斬撃によって斬り払われたが、すくなくとも百本ぐらいは刺さったはず。それなのに……アシュタロトは痛いと言うだけでピンピンしていた。

 見た目にも大して変化はない。グローブとブーツに穴が開いたぐらいだ。


「よくも我の一張羅を……こんな無様な姿で会いに行けというのか!」


 狙いをつけるために空中に飛んでいたおっさんに一直線に突撃してくるアシュタロト。鋭い斬撃がおっさんを切り裂く。


「分身か」


 空中に浮かぶは七人のおっさん。既におっさんの〈分身〉スキルは攻撃が本物に命中しても、その攻撃を分身がくらったことにする、というレベルにまで到達していた。


「なるほど。全て同時に斬らねばならんか」


「させないわよ! フーマ、コルノ、下がって!」


 再び現る巨大なリヴァイアサンの姿。慌てておっさんは〈転移〉でコルノと合流、すぐにまた〈転移〉して距離を取る。

 リヴァイアサンはその大きな口を開くとまるでビームのようなブレスを水平方向に発射。上も下もダンジョンに被害が出てしまうのでそれを避けるためだろう。

 あまりの光量に視界はほとんど見えなくなる。熱量も凄まじいようで海面には触れていないのに海水が蒸発していく。


 だが、目が慣れてくるとそのビームブレスさえフツヌシノカミは斬り裂いているのが見えてしまう!

 ちょっ、そんなんアリか?


 あ、でも煙が上がってるから少しは効いているのか?

 ビームブレスが続いている間中、刀を振り続けていなければブレスに焼かれてしまうようだ。


「ははっ、やるではないか!」


 焼かれながらもアシュタロトは余裕そう……でもないか。天使の翼から羽根が散り、アシュタロトがゆっくりと落下を始める。

 見えないはずのフィールドエリアの壁もかなりダメージを受けているのを感じるが、このままいけば倒せるかな。もう一度千の矢をと思った時。


「リヴァイアサン、その程度でやめておけ。君が持たないぞ」


「えっ?」


 ディアナの言葉に視線をアシュタロトからリヴァイアサンに戻すと、ブレスが途切れ、代わりに大量の血を吐いて再びレヴィアの姿となって落ちてくるのが見えた。

 急いで転移して空中でレヴィアをキャッチする。


「レヴィアっ!」


「フーマ……」


 こふっと再び吐血するレヴィア。ブレスはそんなに負担がかかるのか。知っていればこんなことはさせなかったのに!


「もういい。休んでいてくれ」


「私のことなら気にする必要は」


 まだ戦おうとするレヴィアの言葉をキスで塞ぐ。

 血の味がする口付け。きっと俺の口も血塗れだろう。

 レヴィアがおとなしくしている間に着地。コルノとディアナにレヴィアを預ける。


「レヴィアを頼む」


「フーマ、一人じゃ無理だよっ!」


「レヴィアのおかげでむこうも弱ってる。それに奥の手を使うからそばにいない方がいい。……だけどもし俺が闇堕ちした時はフォーチュンブラック、お願いな」


「なにをするつもりですか、フーマさん?」


 ミコちゃんの問いには答えずに、ダンジョンで吸収するのをいったん停止していた瘴気の吸収を始める。

 ダンジョンではなく、この小さな小さな身体に。


「瘴気体内吸引!」


 ディアナの眷属化による彼女が溜め込んでいた瘴気、アシュタロトだけではなく邪神のダンジョンから放出される瘴気。長い間封印されて溜まった濃厚な瘴気が俺の身体に染み渡っていく。

 感じる。強い力だ。禍々しくも力強い、進化を促す力。

 種族ランクGRである俺はこれ以上進化することはない。だが、姿を変えることはできるはずだ。


「変身! ……駄目か……チェンジ! ……これも違う? ……かわるんだらー!」


「……あの、フーマさん?」


「蒸着! ……ええと赤射! ……それじゃヘシンッ!」


 再生中なのか海面に立ち動かないアシュタロト。

 思いつく限りの変身キーワードとポーズを試す俺。遊んでいるわけではない。

 なぜならば!


「変、身」


『〈変身〉スキルを習得しました』


 それと同時に俺の身体が変化を始める。熱い、身体中が熱い。

 小さな身体がぐんぐんと肥大化していくのがわかる。でも服は破けない。というか、いつのまにか上半身は裸になっているな。〈変身〉スキルはそういうものなのだ。


 両肩の辺りから新たに一対の腕が生えた。腕だけではない。後頭部からもう一つの顔が現れ、視界が広がる。


「……今はまだここまでか」


 大きな人間くらいの身長となったが今の俺にはなんとなくわかる。本来ならもっと巨大な姿になれたはずだ。脚も増えるかもしれない。

 瘴気が足りなかったか。


「リョウメンスクナ……」


 ミコちゃんが俺の異形を見て呟く。

 そんなことはおかまいなしに、鬼神となった俺の両面から放たれる咆哮が第3層を奮わせた。



次回130話 リヴァイアサン死す





デュ○ルスタンバイ!

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