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128話 予兆

 邪神のダンジョンより我がダンジョンへと攻めてきた者の名はアシュタロト。

 レヴィアの友人、美の女神アフロディーテによく似ているという爆乳の美女悪魔だ。あの胸に挟まれたら生命力の低い妖精は簡単に圧死してしまうだろう。テリーが言っていた「おっきなおっぱいの女幹部」は彼女なのかな。


 で、アシュタロトはどうやらベルフェゴールと結婚したいらしい。

 だけどさ。


「アシュタロト。その者なら死んだと聞いているわ」


 そう。おっさんがベルフェゴールだと睨んでいた種族【ベルフ】のハイパはダンジョンマスターであり、勇者ルクリにコアを破壊され完全に死亡している。

 勇者ルクリってのが謎の人物で未だに正体が不明だ。ツクシちゃんたちと協力してハイパを倒したのか、それとも一人で倒したのかもわからなかったりする。


「ふっ。なにを馬鹿なことを。運命で繋がれた我と結婚する前に冥府へと旅立つわけがあるまい」


「……相手が生きているのかどうかも判らないで、それでよく運命の相手だと言えるわね」


 それってわかるものなの?

 でもアシュタロトはハイパが生まれたのは知っていたみたいだから、わかるものなのかも。


「ふん。我ならばそれぐらい容易いこ……なぜだ? 彼の者の息吹が感じられぬ!?」


「だから言ったでしょう。死んだと」


「彼の者は生きているはず……そうか貴様ら、我を騙すために我に彼の者を感じられぬような小細工をこのダンジョンにしたのだな!」


 なにその嫌がらせ。限定的すぎるでしょうが。そんなことしてうちにどんな得があるっていうのさ。

 自分でも無理がある理屈だとわかっているのか、アシュタロトはうるうると涙目になっていた。

 むむ、ちょっと可愛いかもしれん。


「絶対に、絶対に生きているのだからなっ!」


「可哀想に。現実から目を逸らすことにしたのね」


「……殺す」


 バサッと天使の翼を大きく広げてアシュタロトはドラゴンの背から飛び立ち、海岸へと飛んでくる。ドラゴンもそれを追随する。

 あのドラゴン、形はドラゴンなんだけどそれほど大きくないな。アシュタロトが乗馬してるような感じだったから、馬より大きいぐらいか。世紀末の拳王の愛馬と同じくらい?

 まあそうは言ってもおっさんたちのサイズから見れば巨大ドラゴンではあるのだが。


「迎撃再開!」


 レヴィアの指示で会話を見守っていた眷属たちの攻撃が再開される。

 リニアは巨大化したまま剣を構え、ゴーレムたちも戦闘態勢を取る。フェアリーやニャンシーたちは逆に距離を取って巻き添えにならないように避難中だ。


「まずはドラゴンを」


「了解です!」


 今度はいくつもの竜巻が飛行中のドラゴンを襲い、海水ごと高く舞い上げる。

 そこへミーアの雷撃。二本の尻尾を逆立てた彼女の雷撃は先ほど以上に激しく輝き、ドラゴンの悲鳴混じりの轟音が鳴り響いた。

 効いているみたいだ。さっきはアシュタロトが一緒にいたから雷が無効化されたのだろうか?


 くそっ、おっさんが動ければドラゴンに(とど)めを刺せるのに。

 二体の強力なモンスターの出現で濃くなった瘴気をダンジョンがどんどん吸収していく。すぐにDPに変換されているがもしも万が一、奥の手を使うことも考えてその吸収をストップさせる。契約の儀式を中断させないようにしながら行うのは疲れた。

 ディアナさんよ、いい加減に契約してくれないか?

 レヴィアにいつもの余裕が感じられないんだ。

 弱い方を優先的に狙うなんて彼女らしくない。



 ◇



 雷撃が通用するのがわかったからか、レヴィアも竜巻から雷に攻撃をスイッチ。アシュタロトと巨大リニアが戦闘を開始する頃にはドラゴンはぷかっと海に浮かんでいるだけになった。生死は不明だがすぐに攻撃してくることはなさそうだ。翼の皮膜もタマの矢が刺さっているし。

 ドラゴンだけではなく、たくさんの魚も感電したのか海面に浮いていたけど気にしないことにしよう。


「グォォォォォォォォォォォ!」


 大きく咆哮するのはピンクの巨大熊。いや巨大クマというべきか。

 その正体は【ベルセルク・スプリガン】ことリニアだ。ハルコちゃんが作ったヌイグルミのようなピンクのクマフードの力を借りてクマ化……クマのヌイグルミ化している。

 ピンクなクマのヌイグルミ……まるでメールソフトのペットなアレみたいだ。大きさは10メートル級だけどさ。


「くっ、さらに愛らしい姿になるとはなんと卑怯な!」


「グォォッ!」


 たしかに可愛いけど、人間サイズのアシュタロトより大きいクマが吠えているのにずいぶん余裕ですね。

 む。要石ディアナの抵抗がなんかちょっと弱まった気がする。

 リニアによれば熊好きらしいけど、まさかそのせい?

 いや、ここは娘ということになっているリニアの戦いに心を動かされた、って思うことにしよう。


「まずいでアリます。リニア殿の動き、いつもと違うでアリます。これでは自分たちが連携しにくいでアリます」


 おっさんを守るためかそばに来ていたアンコが呟く。

 そういや巨大クマとの連携なんて訓練してなかったっけ。そもそもリニアが巨大クマになったのも数えるほどしかない。

 最近のリニアは自分の鍛錬だけじゃなくてフェアリーたちを鍛えたり、コルノに弄られたりして忙しかったもんなあ。


「衝撃のォ、一番蹴りィ!」


 訓練不足なんて関係無しにコルノが突っ込んでいき、クマリニアの大振りな爪攻撃の合間に必殺技のワイバーン三段蹴りを放つ。

 アシュタロトは回避が間に合わず、両腕でキックをブロックしていた。


「小さいのになんて威力だ!」


 防御したのに体勢を崩し、アシュタロトの胸が大きく揺れる。むう、あのビキニ小さいくせになんという防御力だ。いい加減破れてもいいだろうに!

 そしてコルノの必殺技はこれだけではない。三段攻撃なのだから。

 キックの反動でコルノがビュンッとその技の名前の由来でもあるワイバーンのように高く鋭く飛び上がる。


「撃滅のォ、二番蹴りィ!」


 だがしかし、最近使ってるその掛け声がよくなかったのか二段目で攻撃がストップしてしまう。

 確実に攻撃をもらうと思われたアシュタロトはどこから出したのかも見えなかった剣をいつの間にか持っていて、まだ鞘に入ったその剣でコルノの蹴りを受けていたのだから。

 まさか胸の谷間から?

 ……はいはい、わかってますよ。アイテムボックスでしょ。


「たいしたものだ。我に()()()を抜かせるとは」


 アシュタロトによって鞘から抜かれる剣、いやそれは刀であった。しかもその刃は通常の日本刀とは反対側についているようだ。

 所謂逆刃刀じゃないか!


「当然よ。私たちはこのダンジョンの主の妻ですもの」


「ほう。そう言えばどうせ死ぬ者だからと名を聞いていなかったな」


「それは失礼だったわね。私はレヴィア。ダンジョンマスターフーマの妻。覚えておきなさい」


 頭には角、両腕から大きく伸びるフィンブレードと完全に大海魔龍小人ミニマムリヴァイアサニアンモードになったレヴィアにコルノが続く。


「ボクはコルノ。そっちのクマちゃんはリニアちゃんだよ。どっちもフーマのお嫁さんなんだ」


「あ、あたしも!?」


 クマになってても喋れたのかリニア。熊にはなったけど狂暴化(バーサーク)はしてなかったってことなんだろう。

 ピンクのクマ顔が赤く染まっている。


「正式にはリニアはまだ妻ではないのだけれど、それはまあいいでしょう」


「貴様ら、それほどの力を持ちながら一人の男に嫁いだのか?」


 そりゃやっぱり驚くよね。あんな美少女たちが一人に独占されてるなんてさ。しかもその相手はこんなおっさん。


「力は関係ないわ。大事なのは愛よ」


「そーだよねー。アシュタロちゃんはベルフェゴール? のこと残念だったけど、きっといい相手が見つかると思うよー」


 コルノ、それ慰めてるんだろうけど挑発にしかなってませんから!

 案の定アシュタロトは逆上(プッツン)、ブンブンと逆刃刀をコルノに振るい始めた。


「馬鹿にするなぁっ!」


 逆刃刀でもさすがに抜刀術じゃないのね。

 興奮しているせいか速いけれど大振りでコルノも余裕をもって回避している。

 だけど、逆刃刀を見たミコちゃんが震えていて。


「なんて神気……あの刀はまさか……」


 チャンスだと思ったのかリニアがその巨大なクマの両腕を交差させるように爪攻撃を繰り出す。

 だがそれはアシュタロトに冷静さを取り戻させるだけだったようで、ギリギリで爪を回避したアシュタロトはその天使の翼で飛び上がり、リニアのクマの首を落としにかかった。


「危ない!」


 それは誰の叫びだったのだろう。

 誰もがリニアが無事ではすまないと思った次の瞬間、巨大な物体が海岸に落下し轟音と砂埃を撒き散らした。


 おっさんはリニアがもしも死んだとしても眷属は復活させることができると、意識を集中し歯を食いしばってなんとか儀式を中断させないことしかできなかった。

 それに応えるように魔法陣が強く輝いて契約の儀式が完了。

 急いでアイテムボックスから石化解除薬を出してディアナに振り掛ける。すぐに石化していたディアナの身体が元の色を取り戻していく。


「おいおい、ずいぶんとやられているじゃないか。なあ、リヴァイアサン」


 それが復活したばかりのディアナの第一声だった。

 そして、さっき落下してきたのはリニアの首などではない。

 海岸を大きく陥没させた物体。

 それはリヴァイアサンの巨大なヒレ。


 本来の巨大な姿に戻ったリヴァイアサンの、斬り落とされた自慢の刃であった。



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