11話 形見
4/14 アキラの聖剣の描写を追加
4/24 誤字訂正。死んだフリの描写を追加
8/9 聖剣の数値を修正
邪神ダンジョン2層、その通路に剣が落ちていた。
装飾の施された金色の握りのまっすぐな長剣。鞘はなく、刀身は銀色に輝いている。
遠目に見ても並の剣でないことはわかった。
奪われたはずのアキラの聖剣だ。
「オレの聖剣!」
「待て待て待て! ストーっプ!」
聖剣にむかって走り出したアキラを怒鳴って止める。
「なんだよもう、オレの聖剣なんだぞ!」
「だから落ち着けって」
「これが落ち着いていられるか!」
「いいから戻ってこい! じゃなきゃ俺は帰る。お前とのフレンド登録も解除する!」
そうまで言われてやっと、しぶしぶながらもアキラが戻ってきた。俺はその間聖剣と、そのむこうから目を離さない。
「なんだよいったい」
くいくいっと人差し指を動かして近づくように指示。
「耳を貸せ。いや、屈むと見えそうで危険か。俺を肩に乗せてくれ。ゴブリンたちは聖剣の方を警戒。アキラも警戒しながら聞いてくれ」
「あ、ああ?」
首を傾げながらも俺を肩に乗せるアキラ。少女の肩なので少し狭く乗りづらいがそんなことを言ってる場合じゃない。
アキラの耳に直接聞こえるように彼女の肩に腰掛けて小声で話す。
ひそひそと内緒話のあとに俺を肩から降ろすアキラ。
「なんだよ、腹が減ったってのは!」
「仕方ないだろう、飯まだだったんだから!」
「ちっ、飯食ったらすぐ戻ってくっからな!」
怒鳴り合いながらきた道を戻り、引き返していく俺たち。
……アキラさんや、少ぉし、わざとらしすぎやしませんかね?
ポータル魔法陣のある部屋に戻ってきた。
不機嫌そうな顔を崩さずにアキラが問う。
「罠ってマジかよ」
「どう考えても罠だろう。むしろ、罠って思わない方が驚きなんだが」
「だってあれ、オレの聖剣だぞ!」
「うんうん。そーだねー」
聖剣で頭がいっぱいで周りが見えてないな。
よく俺の言うことを聞いて止まってくれたよ。
「オレが見間違えるはずがねえ。オレの聖剣!」
俺も一応遠目ながらも鑑定はできた。
結果はこれ。
『聖剣
アキラの聖剣
攻撃力+200
光ダメージ追加
聖ダメージ追加 』
吸血鬼が持つような剣じゃないようにも思えるが、たしかにアキラの聖剣だった。
だからこそ怪しい。
「騙まし討ちにあって奪われたんだったよな」
「そうだ。オレの聖剣だ!」
アキラ、さっきからオレの聖剣としか言ってないような。
どんだけ思い入れがあるんだよ。
「で、なんで、あんなとこにお前の聖剣が落ちている?」
「え?」
「俺の罠発見スキルが見たところ、剣の置いてあるあの床、たぶん落とし穴だ」
1層には罠がなかったので活躍しなかったが、罠発見スキルもちゃんと持っている俺。本来は自分のダンジョンのチェック用に習得したつもりだったんだけどさ。
「な、なんでそんなとこに聖剣があるんだよ?」
「だから罠なんだっつの。あの分岐した通路か、それともまた別な場所かはわからないけど隠れているやつがいる。そいつが剣を置いたんだ」
感知にもかからなかったところを見ると隠形スキル持ちか。厄介だな。
隠れているってのは俺の思い込みで、本当はいないのが一番なんだが。
「まさか、オレから聖剣を奪ったやつが?」
「たぶんな。目的がよくわからないけど。あと、あの剣を鑑定した結果、アキラの聖剣ってなっている」
「あ、オレ、ユーザー登録してた」
なんだよそれ。家電やパソコンソフトか?
アキラが言うには、高級なアイテムにはユーザー登録があるらしい。
だからアキラを殺したやつは聖剣を自分の物にできなかったのだろう。
その腹いせに、またアキラを殺そうとしている?
……違うな。
なにか他の理由がある。
アキラを落とし穴にかけて、やつに何の得がある?
落とし穴程度じゃレア上位種族のアキラは死なないだろう。せいぜいちょっと動けなくなる程度で。
動けなく?
「そうか。むこうはアキラを眷属にしたいのかもしれない」
「オレを眷属に? ダンジョンマスターって眷属にできるのか?」
「ダンジョンマスターの館をよく見なかったのか? ダンジョンマスターも眷属にできる。ただし本人が抵抗すれば眷属になるのは1日だけ。それで眷属にされた方のダンジョンマスターに耐性ができて眷族からは解放され、もう他のダンジョンマスターにも眷属にされることはない」
おたふく風邪みたいなもんだ。
ギルド登録すれば、予防のためにギルドマスターが眷属契約をしてくれる大手も多いらしい。
俺は当然、まだだけどな。
「眷属になってるうちに聖剣の所有権を譲渡させればいい。もしくはエンプレスの意味を知ってアキラをハーレムに入れようとしてるとかも考えられる」
アキラも美少女なのでその可能性もありえそう。
眷属にしちゃえば命令には逆らえなくなる。ハーレムを目論むやつからすれば便利な契約だよな。
「なんだよそれ?」
「一度抱けば自分のものと思っているか、ヤリ捨てるつもりか」
「どっちも最悪じゃねーか」
「まったくだ」
たった1日で契約が切れるのに、そんな恐ろしいことをしようなんて。
怨まれるのわかりきってるよね。
俺だったら絶対にできないよ。
「どうすれば聖剣を取り戻せる?」
「あきらめるのが無難なんだけど」
「それは嫌だ! 絶対に取り返す!」
「ですよねー」
面倒だなあ。
アキラにあきらめさせるのにはどうすればいいだろう?
いや、ギャグじゃなくてさ。
「あの聖剣はな、前世のオレの形見なんだ」
どうするか悩んでいたら急に語り始めるアキラ。
どうしても取り戻したい理由をおしえてくれるのだろう。
面倒だなあ。
そんなの聞いたら協力させられる可能性が高くなるじゃないか。
「オレには前世の記憶がない」
「な? ……ああ、転生メイキングで“前世の記憶”スキルを買わなかったのか」
8000DPという聖剣を買うために前世の記憶スキルは捨てたのか。
残り2000DPだもんなあ。100DPでも大事か。
それを残していたおかげでアキラのダンジョンレベルが2レベルだったのかもしれん。
「前世のオレが何を考えて記憶を捨てたのかはわからねえ。だけど、あの聖剣は前世のオレが、オレにくれたたった1つの物なんだ!」
いや、他に能力やダンジョンとかも残してくれたと思うよ。
けど、アキラが聖剣にこだわる理由がわかってしまった。
あの聖剣をあきらめるという選択肢はアキラにはない。
それを知って仕掛けているとしたら相手はやっかいだな。
まだ他に罠をしかけてくることもありえるか。
ここできっちり片をつけた方がいいのかもしれない。
「命を捨てる覚悟はあるか?」
「なんだってやるぜ!」
「なら、聖剣が範囲内に入ったらすぐにアイテムボックスにしまえ。そして死ね。それで聖剣を回収できるはずだし、眷属にされることもないだろう」
「なるほど!」
いや、そこで納得されても。
もうちょっと考えようよ。
これは最悪の手段で、まだ他にいい方法があるんだからさ。
再び俺たち2人は通路に戻る。
ゴブリンたちはポータル部屋で待機させた。
「便所ぐれえで自分のダンジョンに戻りやがって」
「ここトイレないんだぞ! アキラだって戻ったじゃないか。しかも眷属置いてきちゃって」
「眷属は一度自分のダンジョンに連れて戻ったら、こっちには連れてこれないっつったろ!」
ゴブリンがいないことをわかりやすく怒鳴りあう。
聞こえているはずだ。
これで信じるだろうか?
「ほら見ろ! あれはオレの聖剣だ」
「あー、はいはい」
「ユーザー登録してたから、オレのとこに帰ってきたんだ!」
だからアキラ、わざとらしいってば。
ゆっくりと聖剣の方へ歩いていく。
ある程度まで近づいたら全力ダッシュするアキラ。
さすがヴァンパイアロードよりも上と思われるレア上位種族。レベル2になったのもあってすごいスピードだ。
スクナより、ずっとはやい!
アキラが聖剣を手にする。だが、落とし穴に落ちてしまった。
あのスピードでも駄目だったか。
そして、落とし穴の前に男が現れる。
「ふはははは。やっぱバカだよ、お前。あーあ、そんなに槍で穴だらけになっちゃってー。ひゃひゃひゃ、そこでじっとしてろよ、眷属にしてやるからなー。おおっと! その前に雑魚を始末しておかなきゃなあ」
げっ、あいつも速い。さっきのアキラの方が速かったが、どちらにせよ俺より速い。鑑定しか間に合わなかった。
『エージン
ウルフサルク
ダンジョンマスター 』
ウルフサルクか。
たしか転生エディット時に見た記憶だと狂戦士系だったはず。
パワーのベルセルクと、スピードのウルフサルクだった。この速さも納得か。
やつの持つナイフに斬られて倒れながらそんなことを思う。
メッチャ痛い。
「ふん。死んだか。小人なんざ弱えーから眷族にゃいらねーですよーだ」
いえ。生きてますよ。死んだフリしてるだけだ。よく見れば俺がネタポーズ――栽培男の自爆でやられた初期ライバルの真似――をしてるのに気づいただろうに。
あの程度の攻撃ではDPをつぎ込んだ俺は死なん。こう見えてもHPは1000超えてるんだぞ。
でも痛え。
ウルフサルクは俺を一瞥して、とどめも刺さずに落とし穴へと歩いていく。
もしあいつが感知スキルを使っててもいいように、今度は俺が隠形スキルを使っていた。やつの感知スキルのレベルが高くなければ反応せず、死体だと思うだろう。
もっとも、そこまではしていないようだ。
小人だと俺をなめきっているな。
「よしよし、まーだ生きてっなアキラちゃん。俺の眷属になる前に死ぬなよー」
よほど愉しいのか、さっきから浮かれた声で話し続けるウルフサルク。
俺に背を向けているのでこっそりとヒール。今のうちにHPフル回復しとこ。
急にやつが黙って、落とし穴を覗き込んだまま動かなくなった。
眷属契約の儀式を始めたんだろう。
しばらくそのままで数分後、通路にやつの笑いが木霊する。
「ひゃはははははは! 俺様の眷属、ばくたーん! ほれ、これで回復してとっとと出てきやがれ」
ウルフサルクはアイテムボックスからゴブリンの死体を取り出し、その首を切り落として流れ出た血を落とし穴に落としていく。あの血でアキラの回復を促すか。
回復魔法を使えないのか、それともMPをケチっているか。前者なら楽なんだけどな。
「まだかよ。早くしやがれ。ご主人様がお待ちかねだぜー」
ぶひゃひゃひゃ、とまた笑う。鬱陶しいな、こいつ。
覗いていた落とし穴から男が少し離れ、穴からアキラが跳びだしてきた。
「やっと治ったかよ。血まみれで治ったかわかんねーけど」
無言のアキラ。
「ほれ、聖剣を俺様に譲渡しな。そん次は可愛がってやっからよ。巨乳じゃねーけど、それは目をつぶってやるぜ。たまにゃーいいだろ」
今度は、げひゃひゃひゃと。どんどん笑い声が下品になっていくのはなぜなんだ?
俺の言いつけを守ったのだろう、ちゃんとアイテムボックスにしまっていた聖剣を取り出すアキラ。
あの形はたしか三鈷剣? 聖剣っていうか密教系の仏具っぽい。
その三鈷剣を男に……。
下品に笑い続けている男に振るった!
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のでクイズ
3章から登場するヒロインを当ててください
1 フィギュア
2 獣人
3 ドラゴン
4 勇者
5 女神
6 その他
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