123話 歓迎会
今回は三人称。
2巻発売中です。
よろしくお願いします。
トク、トク、と小人サイズの徳利から同じく小人サイズのお猪口に神ごろしが注がれていく。これらはフーマがノームの陶芸家に頼んで作って貰ったが、ワインで使う気にはならなくて出番がなかったものだ。
小人には一升瓶では大きすぎて注ぎにくいのでレヴィアが中身を徳利に移してある。
お酌しているのはリニア。主の隣に正座で寄り添い、まだアルコールも入ってないのにその美しい顔を真っ赤に染め緊張で手を震わせているので、お猪口を持つフーマもいろんな意味でドキドキしていた。
「ど、どうぞ!」
「あ、ああ」
彼女は震えながらもお猪口のふちギリギリまで溢れそうになるほど注いでくれたので、零さないように慎重に運ぶフーマ。
まず香りを楽しみ、やはり日本酒だと確信してから口にする。フルーティでやわらかな風味が喉を流れていった。
「……うん。強いと言うわりにはなんて飲みやすい。たしかにこれは飲み過ぎて悪酔いするかもしれない」
「フーマがつぶれたらまた介抱してあげるから安心して飲んでいいよー」
「ええ。あの時みたいに」
「あの時のフーマ、可愛かったよねー!」
フーマの妻二人はどちらも蛇、龍属性のためか大酒飲みなのでお猪口ではなくグラスに注いだコップ酒。しかもレヴィアは未だにセーラー服のために似合わないこと夥しい。
つきあう相手もグラスを片手にデスワームを齧っているOL風の女性。この姿を見て誰が女神だと当てることができるだろう。
「あの時? お姉さん気になりますー」
処女神のくせに、いやだからこそかその手の話が大好きなヘスティアが身を乗り出す。長い髪が囲炉裏の炎に炙られるが、炉の女神である彼女が焼かれることはない。
「初めて一夜をともにした時、よ」
「まあっ! まあっ!!」
先を促す燃料のつもりか、ぐぐいっとさらに炎の真上にまで身を乗り出して囲炉裏の向かいのレヴィアのグラスに神ごろしが注がれる。
「あの時はボクたち、まだ結婚してなかったんだよねー」
「まあっ! 婚前交渉ですか! フーマさん、見た目に反してワイルドなんですねー」
「そうなんだよー、えへへへ」
鼻をこすりながら照れるコルノ。たしかに彼女の初めての時はフーマは野獣のようであった。途中で彼も止めはしたが。
「ワイルド……」
「いや、酔いつぶれたおっさんの隣で二人が寝ていただけだからね!」
「そ、そうか。あ、どうぞ」
さっき以上に真っ赤になりながらフーマの言いわけを聞いて、空になっていたお猪口にまた注ぐリニア。
今は宴会なので黒騎士装備ではなく、 窮屈な鎧から解放されたその巨乳はわずかな動作によっても美しく揺れる。
「おおっ、リニア殿もヤる気でアリますな!」
「しかしあまり酔わせるとアレが役に立たなくなると文献にはあったが」
「そうなのでアリますか?」
用意されたばかりの大きな別の囲炉裏でデスワームの干物を炙りながら主を観察している眷属たち。
彼女たちは耐性の問題から神ごろしではなくダンジョン産のワインでやっていた。
「小生も試したことはないから断言はできん。それにマスターならば関係ない気もするから難しいところだ」
「そうでアリますな。アリのオスに比べたら司令殿をおとすのは大変そうでアリます」
アンコの発言をフーマが聞いていたら涙したかもしれない。女王と比べればあまりにも儚い雄アリと一緒にしないでくれ、と。
一方、フーマ以外の男性陣も宴会ということで騒いでいる。
「リニアさんの鎧の下にはあんな凶悪な武器が……」
「ヘスティア様もスゴイ、スゴすぎるぅ!」
「あっちのダンジョンの幹部にもおっきなおっぱいの女がいたのだ」
「それって妖精よりも大きいんだよな!? はさまれたいぜ!」
まるで男子学生のノリのテリーとフェアリー男子たち。とはいえ、これは宴会とは関係なくいつもの風景でもある。彼らは破壊力抜群のヘビー級バストから目が離せなくなっていた。
それを白い目で見ている妖精少女たち。
「不潔」
「これだからフェアリーの男は馬鹿だって言われるのよ」
「胸だったら隊長もそこそこ大きい。私たちにも希望がある」
幸運にも非番の時間で宴会に参加できたムリアンの少女が眼鏡を光らせる。
この少女はリアン3。彼女たち十二人は同じ顔をしているので髪型と眼鏡の形の違いで見分けるしかない。
「補正下着もあんだ」
ハルコが取り出したサンプルに少女たちが群がった。
ダンジョンマスターの眷属となり、成長とは縁遠くなってしまった彼女たちの胸が大きくなることがあるとすれば進化の時のみ。
それが装備で強化できるとならば気になるわけで。
「こ、これは……!」
「リオが新しい糸を開発したの」
本当はフーマのための鎖帷子を編むための金属糸を作ろうと試行錯誤していたハルコとリオ。残念ながら鎖帷子はまだ完成していないが、その過程でブラジャーのワイヤーに適した素材を作り出すことに成功していた。
「リオっち、やるぅ!」
「天才!」
少女妖精たちに褒められて頭をかくアリグモ。彼女もその脚で器用にグラスを持ってワインを飲んでいる。明日にはきっと鮮やかな紫の糸を紡ぎだすことだろう。
なお、その下着サンプルの試着モデルとなっていたのはレッドであった。
「ゴ! ゴ!」
「ドッリーン」
拍手するゴータロー。どうやら好評らしい。
彼女(?)も調子に乗ってセクシーポーズを披露している。
◇ ◇
「ほうほう、フーマさんはそんなにタフなんですかー」
「コルノが妻を増やそうとするのに賛成したくなる時もあるわね」
「まあっ、まあっ! そこ重要ですっ! どんな時なのかを詳しく!」
鼻息荒く、下世話な話に興奮する処女神。
その反応が嬉しいのか、それとも今までずっとできなかった既婚者としての話をするのが快感なのか、レヴィアの惚気話は止まらない。
「スクナヒコナって子宝の神様でしたっけ?」
「知らん。というか、ダンジョンレベルを上げないとダンジョンマスターも眷属も子供なんてできないからな」
「そうなんですか。スクナヒコナとリヴァイアサンのお子さんがどんなものか、楽しみですねえ」
歓迎会の主役であるミコも酔っていた。元キャラの設定上は未成年者だからとフーマは勧めなかったのだが、ちょっと目を離した隙にヘスティアが飲ませたらしい。
「あ、あらしふぁってフーマの赤ひゃんをぉ……」
お酌していたリニアはもうすっかりできあがっている。正座はすでに崩れ、女の子座りとなっていた。
フーマが「リニアはSSRだから大丈夫かな?」と渡したお猪口に「間接キス」と舞い上がり、断ることもなく口にしたのだがさすが神ころし。お猪口一杯でこの様である。
「リニアちゃんならたっくさんおっぱい出そうだよねー」
「もひろん! 出ひてみへるぅ!」
いつの間にかリニアの背後にいたコルノ。そっと寄って密着しながらリニアの胸に手を回す。
「ひゃん! まらおっぴゃいはれにゃい!」
「そう?」
呂律の回らないリニアの抗議も気にせずに手の動きを止めないコルノ。彼女は母の乳を吸ったことがないので女性の胸を研究中なのである。
なお、自身の胸はあまり大きくないのと、自分がちゃんと母乳を出せるのか不安なので研究対象ではない。
「くっ、あの大きさがあれば私だってもっとフーマに……胸なんて飾りよ!」
「リニアさんも立派になって。アルテミスさんも喜んでいることでしょう」
「ん? 知っていたのか? 当然か。リニアの父親のことは……」
「あれにも困ったものです。今はまだ教えないでもいいですかねー。フーマさん、リニアさんのこともよろしくお願いします」
大きくため息をついてからフーマの問いに答えるヘスティア。彼女は十二柱を辞めていたけれど敵対はしておらず、連絡も取っていたのでリニアの素性も知っている。
「アルテミスも復活させようと思うんだけど、かまわないか? ダンジョンマスターと戦っていたんだよな?」
「今はディアナさんですから問題ないですよー。早く一緒に飲みたいですね」
「そんなもんなのか?」
その前にリヴァイアサンを眷属にした方がいいか? そう悩みながらスケさんの持ってきたキノコを頬張るフーマ。串に刺して囲炉裏で焼いただけだが香り、歯ごたえともに申し分なかった。旨味たっぷりの汁が口の中にひろがっていく。
「ダンジョンレベル上がるだろうなあ」
「担当としては嬉しいですよ。底辺ギルドの教育もありがとうございます。助かりますー」
「あいつらとも宴会したいけど、自分でもうちょい稼げるようにならないと遠慮しちゃって楽しめないだろうかね? 強強の毛皮で獣モンスターを狩ってバーベキューでも……それともデスワームを狙うか?」
あまりDPをかけずに楽しむ方法を思案するフーマ。
そもそも食事ができるか怪しい種族のギルドメンバーがいたことに気づいて苦笑する。
「フーマさんの温泉でのしゃぶしゃぶも美味しかったですねー」
「あれはレヴィアの持ってきてくれた魚がよかったからな」
「魚介類なら任せなさい。干物だってこのデスワームに負けないものを用意できるのよ」
「それは楽しみですねー」
ふふん、とドヤ顔のレヴィアの脳裏には反抗的なクラーケンの顔が浮かんでいた。妖精島近海の護りの一つになってるからと見逃していたけれど、足の二、三十本くらいなら問題ないわね、と。
タマ(ゴブゴ)はさすがに大きいのであとで差し入れ




