119話 正体
2巻発売中です。
よろしくお願いします。
フォーチュンブラックの口撃。
「ロリコン」
フーマの精神に999ポイントのダメージ。
フーマはショックで動けなくなった。
フォーチュンブラックの口撃。
「犯罪者」
クリティカルヒット!
フーマの精神に99999ポイントのダメージ。
フーマは死んで……。
って、妄想に逃げてる場合じゃない。
嫁たちが見てるんだ。屈服するわけにはいかん。
「おっさんは二人を愛している! ロリコン犯罪者の謗りを受けようともかまわぬ!」
「開き直るのね」
「うん。そんなこといつまでも気にしてたらこの世界じゃやっていけない。だいたいさ、ダンジョンマスターなんて職業自体が人類種から見たら無法者なんだよね」
まったくもって今更である。
おっさんの覚悟を聞いて嫁さん二人もかなり嬉しそう。
「えへへへ。フーマ、ボクもフーマのこと愛してるからね!」
「私もよアナタ。誰よりも愛しているわ。……小娘、夫をロリコン呼ばわりするとはどういう意味かしら?」
「小学生を妻にしていたらロリコンで間違いない」
レヴィアたんはたしかにちっちゃいが、さすがに小学生はないんじゃないかな?
そりゃランドセル似合うかもしれないけど!
「私を子供扱いするとはいい度胸ね」
ぶわっと殺気を放出するレヴィア。
ちょっ、ちょっと待って!
殺気だけじゃなくて瘴気も漏れてるってば!
「……ただの小学生ではないようね」
気圧されたのかじりっと一歩下がって右手に持った“打ち出の小槌”を身体の前に構えるフォーチュンブラック。
「ストーップ!」
慌てて二人の間に入って両手を広げる。
ここで「おっさんのために争わないで!」というギャグをかましたい誘惑にかられるがぐっと堪えた。
「二人が戦ったらダンジョンがもたない。頼むから止めてくれ」
あの打ち出の小槌は実は強力な武器。アニメ“招福開運グッドフォーチュン7”では主に敵妖怪の浄化に使われた物だが、劇場版ではトールのミョルニルと真っ向から打ち合って引けを取らなかったほどの壊れ性能を誇る。
もしかしたらリヴァイアサンでもダメージを受けるかもしれない。言うとレヴィアが意地になりそうなので口には出さないが。
「フォーチュンブラック、レヴィアはリヴァイアサンだ。可愛いけど見た目どおりの年齢じゃない」
「リヴァイアサン!? ごめんなさい!」
おっさんの解説で目を輝かせたフォーチュンブラックはすぐにレヴィアに深々と頭を下げた。
これはレヴィアがリヴァイアサンであることにビビッたわけではなく、彼女の趣味によるものだろう。大のオカルトマニアなのだ。
「まさか伝説の幻獣に会えるなんて! ……本当にリヴァイアサン、ですか?」
「今は小人化してるのよ」
ため息をつくと同時に殺気を止めるレヴィア。
よかった、瘴気の放出も止まった。
「小人化?」
「気づいてなかったんだね、ボクたちは小人なんだよ!」
ここには比較対象がないからわからなかったか。
アシュラにでもいてもらえればよかったかな。
「……小さくはないように見えますが?」
「君も小人になっている。ステータスを確認してくれればわかるはずだ」
「ステータス? ……これですか」
使い方はすぐにわかったようでステータスウィンドウを確認するフォーチュンブラック。
「大黒小人?」
「ほーらね。ボクは小人血赤珊瑚なんだよ」
小さいのか大きいのか微妙な種族名だ。
どれ、おっさんも確認させてもらうとしますかね。
名前:フォーチュンブラック
種族:大黒小人(種族ランク:GR)
性別:女
LV:1
クラス:フーマの眷属
はい?
大黒小人はまあいいとして、種族ランクがGR!?
これってたしかさ……。
「レヴィア。種族ランクのGRってもしかして」
「ええ。神話級よ。私と同じね」
マジですか。種族レアリティ最上位じゃないか!
そりゃ大黒天は神様だけど!
おっさんの〈ガラテア〉ってそんなすごいクラスまで本物にできちゃうのか……。
あ、そうだ。
「フォーチュンブラック、変身を解除してミコちゃんに戻れる?」
「……私の正体まで知っているのね。ストーカー?」
「君のことはだいたい知ってるけど違うから。その辺のこともあとで説明してあげるよ」
自分がフィギュアだったなんてショックを受けなきゃいいけど。
どう説明するか悩むおっさんを他所にフォーチュンブラックは軽く目を閉じる。「んっ」という可愛らしい声とともにフォーチュンブラックの姿は消え、そこには一人の少女がいた。
「わ。変身したの?」
「逆。こっちの方が普段の姿」
「そうね。さっきとは逆で地味ね」
彼女が通う学校の制服であるブレザーもさっきの巫女服プラス金ピカ鎧のあとではたしかに地味かも。小さくも大きくもない胸も印象が薄い。
前髪パッツンの姫カットではあるが、大きな眼鏡をかけているせいでその可愛い顔が隠れてしまっているのがもったいないよね。
まあ、これはこれでおっさんは好きだったりするのだが。
「もう一度ステータスを見てくれ」
こくんと無言で頷いてステータスチェックを始めた。
もちろんおっさんも見る。どれどれ。
名前:古神酒ミコ
種族:小人(種族ランク:N)
性別:女
LV:1
クラス:フーマの眷属
やっぱりか。
変身前だと種族も変わるようだ。だけど眷属契約はそのままか。よかったよかった。
名前も変わっているから〈鑑定〉を使っても正体はバレにくいだろう。
ちなみにミコにはキミコという妹がいて回文姉妹とファンからは呼ばれていたりする。
「小人……」
「ちっちゃいのも悪くないよー。同じくらいの大きさの妖精たちも多いし」
「妖精!? 本物のフェアリーがいるの? トリック写真なんかじゃなくて!」
ああ、そんな事件も前世であったなあ。有名な推理小説作家も騙されたんだっけ。
「フェアリーなら眷属にいるよ。他にノームやエサソン、スプリガンもいる」
「……」
無言で眼鏡を輝かせるミコちゃん。
リアルで眼鏡キラーンを見れるなんて!
うん! 感動だ!
ムリアンたちも覚えてくれたら楽しいかもしれないな。
「この姿の時はフォーチュンブラックじゃなくて古神酒ミコだから、間違えないようにしてあげて」
「ずいぶんと弱くなってしまうのね」
「変身ヒロインが最初っから強かったら変身する意味がないじゃないか」
違うのもけっこういるけどね。
ミコちゃんも最終回付近では生身で戦っていたし。
劇場版は追加戦士が入る前の中盤が舞台だったから弱いのかな?
それともコルノのように〈ガラテア〉だと種族レベルが1になってしまうのかも。調べてみないとわからないけど、次の〈ガラテア〉にはまた時間が必要だしなあ。
「ミコちゃんを選んだのは、フォーチュンブラックのデタラメな強さもあるけどそのオカルト知識を見込んでのことだよ」
「オカルト知識? あな……フーマさんもオカルトに興味があるんですか?」
「興味というか、この世界だと有用な知識だから」
ミコちゃんは事故で意識不明になってしまった妹を治すために、趣味だったオカルトにさらに傾倒して怪しげな儀式を行いフォーチュンブラックになったのだ。
その知識はこのクラノガイアスでも役立つに違いないと思っている。
「それくらい私だって教えてあげるのに……」
「うん。レヴィアのアドバイスはとっても助かってるってば! ただ、他の情報源もあった方がいいと思うわけで」
イジケるようにレヴィアが俺に背を向けてしまったので後ろからやさしく抱きしめてそっと囁く。
「おっさんは知識目当てでレヴィアと結婚したわけじゃないよ」
「アナタ……」
身長差を調節するようにレヴィアが浮いて彼女の顔が近づいてきた。
ギャラリーがいてとても恥ずかしいけど逃げるわけにもいかない。ゆっくりと唇を合わせる。
「うんうん。フーマも少ーしは甘ーいのがデキるようになってきたねー。ボクの時も楽しみだよー」
なんか偉そうに言ってるけど、実際にそういう雰囲気になったらコルノも耳まで真っ赤になっちゃうんだ。可愛いよね。
「……爆発すればいいのに」
グッドフォーチュン7の他のメンバーの恋愛回の時にもミコちゃんは必ずそう言っていたなあ。ミコちゃんには恋愛回なかったし。
「ん? うらやましいの? ミコちゃんもボクの……フーマのお嫁さんになる?」
「え?」
コルノはすぐに家族を増やそうとする。
大家族が当たり前なのか、それとも会うことすら叶わなかった母親を求めているのか……。
名残惜しむようにゆっくりと唇を離したレヴィアがコルノの方を向く。
「待ちなさいコルノ。まだミコがフーマに相応しいかわからないでしょう? 眷属として役に立つのかさえ未知数なのに」
「そっか。それじゃえーと、なにか聞いてみようよ。色々知ってるんでしょ? そうだ、フーマのスクナって知ってる?」
「スクナ?」
「うん。フーマの種族なんだよ」
そう。おっさんの種族である。温泉の小人だと思っているのだがバーンニクも知らなかったし謎の種族なのだ。
その疑問にミコちゃんが即答した。
「それならたぶんスクナヒコナかと」
「知ってるのか?」
「小人でスクナと言えばスクナヒコナです。日本人なら常識ですが」
またもやキラーンと眼鏡を光らせながら話は続く。あ、これミコちゃんがオカルトの解説に入った時のモードだ。いつも口数が少ないのに急に饒舌になるオタクにありがちなアレである。
「スクナヒコナはスクナビコナとも言われる日本神話の神様です。たいへん小さな神様で蛾の皮でできた服を着ていたそうです」
「蛾……」
「私の考えではこれはカイコの繭、シルクの服のことです。光り輝く服だったのでそう例えられたのかと。スクナヒコナは農業を発展させる穀物神でもあることから渡来人の神格化という説もありますが鼻で笑っちゃうくらいナンセンス! 高度な知識と異常なまでに小さな身体。この特徴に当てはまるのはリトルグレイ! 光り輝く服とは宇宙服。つまり、スクナヒコナの正体は宇宙人だったのです!」
「な、なんだってー!」
ドヤ顔のミコちゃんについ合わせてしまった。
アニメでもこういうトンデモ学説が大好きな子だったっけ。
「そしてスクナヒコナは私が力を受け継いだ大黒天を構成する神の一柱、オオクニヌシの相棒にして義兄弟。私がフーマさんの眷属になったのもそれが関係しているのかもしれません」
大黒天って破壊神シヴァの化身であるってのは中二男子にとってはもはや常識だけど、彼女が力を受け継いだ大黒天は“七福神”の大黒天。
シヴァだけじゃなくて国造りの神、大国主も習合しているからフォーチュンブラックは破壊と創造の両方の力を持つというチート設定のスーパーヒロインなのだ!
でもさ、大黒天の相棒はフォーチュンブルーが力を受け継いだ恵比寿だとおっさんは思ってたのに。
「ほう。自分こそが我が夫のパートナーだと言いたいのね」
「やっぱりお嫁さんになってくれるんだね!」
おっさんの種族が神だったってのはショックだ。妖精神って呼ばれているのはこれのせいかもしれない。
……だけどそれよりも嫁さんたちが暴走している気がする方が心配だったり。
やっとスクナの相棒(担当)が登場です




