118話 二人目のガラテア
2巻発売中です。
よろしくお願いします。
〈ガラテア〉。
この世界では二人と使い手がいないオンリースキルであり、おっさんの持つ高額DPスキルの中で一番高かったスキルでもある。
一度使うと次に使えるまで100日という長いクーリングタイムが必要となるがその効果は、像や人形を本物にする、というとんでもないものだ。
おっさんの眷属で嫁のコルノもこの〈ガラテア〉によってフィギュアから本物の美少女(小人)となった。
あれから100日。
ついにクーリングタイムが終了し、新たな眷属が増やせるようになる。
「ここでやるんだ?」
「ああ。もし暴れられてもここなら被害は少ない」
ここは第3層ロング迷路フロアのボス部屋。
侵入者がいる時は眷属の誰かが階層ボスとして守備に入るけど、まだここまで到達した者はいない。
妖精たちが迷い込んだ時はリアンたちが第2層まで連れていっている。
「もっとこう雰囲気を重視した内装のガラテア用の部屋も創りたいけど、それはまた今度にしようか」
「ボクなんて第1層の泉の水がない時の穴だもん。ここでもごーせーだよ」
「あの時はあれでおっさんには精一杯だったんだよ。なけなしのDPを使って服だって新しく用意してコルノを迎えたし」
コルノを〈ガラテア〉した時はマジで緊張したなあ。今はあの時と比べればだいぶリラックスできていると思う。
「髪型これでいいかな? マフラーおかしくない?」
「ちょっと待ちなさい」
レヴィアが櫛を手におっさんのヘアースタイルを直してくれた。マフラーも調整してくれている。まさに奥さんが夫のネクタイを直すアレだ。
「うんうん。かっこいいよフーマ」
「当然でしょう。私の夫だもの」
うわあ。ドヤ顔のレヴィアが嬉しいけど妙に照れくさい。おっさんと嫁さん以外に誰もいなくてよかった。
元ゴブゴ現タマのように眷属は移籍できるので〈ガラテア〉はできる限り身内にも秘密にしたいから、誰も連れてきてないんだよね。
「よし、じゃあフィギュアを出すよ」
今回〈ガラテア〉するフィギュアはかなり迷った。
工作関係のスキルが高い【ドワーフ】。
狩猟関係のスキルが高い【エルフ】。
生活環境を整えてくれるメイドさん。
等々、手持ちのフィギュアでも候補はいくつかあったが工作関係では【ノーム】や【コレド】ががんばってくれているし、狩猟関係も【ゴブリンスナイパー】のタマがいる。メイドさんなんか選んだら十二人もいるリアンたちがショックを受けそうだ。
とりあえずすぐに必要な状況でもなさそうなので、エルフ、ドワーフ、メイドさんは次回以降ということにする。
そうなると誰を選ぶかということなんだけど、単純に好きなキャラをというわけにもいかない。
まだ結婚していなかったらそれでもよかったが、おっさんにはもうコルノとレヴィアという可愛い可愛い奥さんがいるわけで。これ以上目移りしそうな相手というのも気がひける。
……とはいえ、コレクションの大半は“俺の嫁”だったりするわけだが。
で、悩んだあげくに選んだのが前世の最後間近で購入したフィギュアだ。元になったキャラクターは強力だし、フィギュア自体の出来も素晴らしい。これでいいだろう。
「箱入りなの?」
「ボクといっしょだね」
アイテムボックスから出した大きな箱を興味深そうに眺める嫁さん二人。たしかにこのフィギュアは付属品も多いので箱がビッグサイズだ。
箱からフィギュアと付属品を取り出して、ディスプレイするように設置していく。
「まずはこのベースとなるフライングライスバッグを置いて」
これは米俵が二つくっついた形状の飛行アイテム。彼女はこれなしでも飛行できるので飛行用というよりは質量兵器といった出番が多かった気がする。
床に置いた米俵の上にさらにフィギュアを置く。米俵の方に凹みが作られているので、しっかりとはまった。
「巫女さん?」
「一応そうなるかな」
「黄金の鎧? 派手な子ね」
「劇場版Verだからね。普段は黒い鎧なんだよ」
質問に答えながらも残りの付属品を装備させる。……肌の露出が少ないフィギュアを選んでよかったよ。ビキニアーマーの巨乳女戦士なんて選んで、いろいろ装備させているところなんて嫁さんに見せるわけにはいかない。
「これで全部つけたよな」
おっさんとの対比が新聞紙よりも大きい説明書を広げながら確認する。うん、向きもあってる。
それじゃ〈ガラテア〉を、って先に眷属契約しておこうか。コルノの時みたいに。
「人形に眷属契約をするの?」
「ボクの時もそうだったんだよ」
「この子もなかなか強いからね。眷属になるのが嫌だって暴れられると大変なんだ」
「その時は私が抑えるのに」
うーん、リヴァイアサンなら勝てるかな?
でも劇場版の最強モードだもんなあ。勝てたとしてもダンジョンの被害が大きそう。溢れた瘴気でDPも凄いことになるのは確実だから、レヴィアが活躍しないで済むようにしないといけない。
「契約完了!」
ウィンドウを開いて眷属欄に『人形:1』が追加されていることを確認。成功しているようだ。
「それじゃそろそろ始めるから、ちょっと集中させてくれ」
〈ガラテア〉はMPだけでなくHPとCPも消費するタイプのスキルだ。HPはともかくCPを使うんで集中したい。
いつもみたいに気合を入れて叫ぶというのは、コルノの時のように詠唱をつける予定なのでできない。たぶん息切れを起こす。嫁さんたちの前でそれは恥ずかしい。
どれぐらい使おうかな?
コルノの時はMPが2,000、HPとCPが1,200ずつだった。今回はもっと使ってみるか。
今日はこのあと予定もないし、思い切ってMPを10,000、HPを2,500、CPは7,000ほど使おうと念じながら詠唱を始める。
「魂なき人形に命を吹き込まん! 目覚めよ! 大黒天の力を受け継ぎし者、究極の姿を披露せしフォーチュンブラックよ!」
う……やべえ。
調子に乗りすぎた。
この……身体からなにかが抜けていく感じ……前回のはコルノが本物になった喜びがあってすっかり忘れていたけど、今回のは使用する値を大きくしたからか目茶苦茶ツラい。
詠唱中に意識がなくなりそうになるのをなんとか堪えたが、〈ガラテア〉完了と同時にフラついてヒザをついてしまった。
『〈HP再生スキル〉がLV5になりました』
『〈HP倍増スキル〉がLV4になりました』
『〈MP再生スキル〉がLV10になりました』
『〈MP倍増スキル〉がLV9になりました』
『〈CP倍増スキル〉がLV5になりました』
『〈魔力操作スキル〉がLV11になりました』
『〈気力操作スキル〉がLV6になりました』
『〈練気スキル〉がLV2になりました』
『〈気絶耐性スキル〉がLV4になりました』
『〈ガラテアスキル〉がLV3になりました』
「はぁっ、はぁっ……」
「フーマ!」
「消耗が激しすぎる。今治療するわアナタ!」
〈ガラテア〉のために少し離れて見ていた二人が心配そうに駆け寄ってきた。
レヴィアの〈回復魔法〉が心地よい。
HPの回復を続けていると、フィギュアだった少女が声を出した。
フィギュアだった時と同じ、長い黒髪の美少女。巫女服の上から金色の鎧を纏っている。
「……ここはどこ?」
「ここは小人のダンジョンだ。君はおっさんの眷属になった。わかるか?」
「ダンジョン……眷属……」
おっさんからの転写基礎知識もちゃんと作用しているようで彼女はゆっくりと頷いた。
「おっさんはダンジョンマスターのフーマ。自分のことはわかるか?」
「……フォーチュンブラック。大黒天の力を受け継ぐグッドフォーチュン7」
そう。彼女こそアニメ“招福開運グッドフォーチュン7”のフォーチュンブラックだ。
グッドフォーチュン7は七福神の力を受け継ぐスーパーヒロインチーム。フォーチュンブラックは主人公といってもいいだろうメインキャラである。
「……私はどうしてあなたの眷属になったの?」
「駄目よ!」
フォーチュンブラックの質問に突然レヴィアが反応した。
「フーマのことをアナタと言っていい女性は妻である私だけよ!」
「そういう意味じゃないんだけど……誰?」
半眼でレヴィアに聞くフォーチュンブラック。彼女は冷静沈着なキャラだった。
「私はレヴィア。フーマの妻よ」
「ボクもフーマのお嫁さんだよ! ボクはコルノ。フーマの眷属でもあるんだ。よろしくね!」
「そう。私はフォーチュンブラック。……よろしく」
自己紹介のあとは今度はおっさんがジト目で睨まれている。
え? なんで?
やっぱり強引に眷属にしたのを怒ってるのだろうか。
「少女を妻にしてるなんて……ロリコン」
「い、いや、彼女たちはこんな外見だけどちゃんと成人していてね」
たしかにコルノとレヴィアは中高校生ぐらいか下手したらもっと下に見えるかもしれないけど!
「二人も妻にしてるなんて……犯罪者」
「こっちじゃ罪にはならないの!」
うう、人選、ミスったかもしれない。
彼女の的確な指摘がおっさんの精神にクリティカルヒットしている……。
現在のスキルレベル
〈HP再生〉LV5
〈HP倍増〉LV4
〈MP再生〉LV10
〈MP倍増〉LV9
〈CP倍増〉LV5
〈魔力操作〉LV11
〈気力操作〉LV6
〈練気〉LV2
〈気絶耐性〉LV4
〈ガラテア〉LV3
彼女は書籍版1巻冒頭のフィギュアです。




