117話 常世暦1年6月13日
2巻発売中です。
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底辺ギルドの新しい名前は“ヨウセイの穴”となった。
あいつらがこんな名前にしたのはおっさんが妖精神と気づいた……からではなく、“底辺”をこの世界では地位の低い小さい妖精をなぞらえて、と“養成”をかけたネーミングらしい。
おっさんが小人じゃなきゃフェアリーマスクかグレートフェアリーになるんだが、このサイズじゃ覆面しても正体バレバレなんだよね。
「ギルドハウスはまだ作らないのか?」
「DPが全然足りないっす」
ギルドハウスはギルドの拠点となる建物。
運営の監理する特殊な空間に建てられるので人類種に攻略される心配はないが建築と維持にDPが必要。
また、ダンジョンではないのでDPを稼ぐことはできない。
「早く他のギルドみたいに、たいして収入のないダンジョンはダンジョンコアをギルドハウスに避難させておきたいよ」
「それうちのギルド全員だから」
「わはははは」
笑い事じゃないし。
……新人を保護しながら育成するギルドもあったのか。もっと調べて入っていればよかったかな?
「とりあえず自分のダンジョンを放棄してもいいのなら少しは安全になる方法があるだろ」
「マジですか!?」
そんなにくいついてこなくても。
危険なんでダンジョンコアと同化したままのやつかな?
「ハイパのおかげでわかったろ、ダンジョンマスターは他のダンジョンマスターのダンジョンでも暮らせるって」
「あ!!」
「シェアダンジョンだ。侵入者がいないダンジョンにダンジョンコアを保管させてもらえばいい。自分のダンジョンは機能しなくなるからDPは別に稼ぐ方法が必要だけど、元から収入がないんなら気にしないでいいだろ」
他人のダンジョンではダンジョンコアの力を使うことができない。
ダンジョンレベル10以上になると領域を奪ってダンジョンを侵食できるようになるらしいけど、まだそこまでいってないんで詳しいことは不明だ。
「けど居候させてもらうのは……」
「ダンジョンの拡張工事とか手伝ってもらえばいいだろ」
「そっすね。気の合う連中で相談するっすよ」
あ、それ駄目なやつだ。
体育の時間のペアを作れという難題を思い出すじゃないか。
もしくは修学旅行の班。
「……じゃ、おっさん帰るから」
「コーチ、今日はありがとうございました」
「ありがとう監督。またお願い!」
トラウマがフラッシュバックしそうになったんでそそくさと帰宅。
みんなが礼を言ってくれたけどおっさんの耳には入っていなかった。
野球やサッカーのチーム分けで交互にメンバーを取っていくのも嫌だったなあ……。
◇ ◇
「ただいま」
「おかえりなさい。疲れた顔してるわね?」
「いやちょっと精神的にね」
ただでさえあまり知らない相手があんなにもたくさんいたんだ。
おっさんに恩を感じてくれていてみんな当たりが柔らかかったから助かったけど、そうじゃなかったらすぐに帰ってきてたと思う。
「おかえりー」
コルノがおっさんを労わるようにぎゅっと抱きしめたあと、頭をなでてくれた。
「おつかれさま」
ちょっと気恥ずかしかったが嫁さん以外は仕事中で出迎えてくれなかったので、しばらくなでられるままにしていた。
癒される。
リビングに戻ると今度はレヴィアが正座した自分のヒザをぽんぽんと叩く。
「今度は私の番よ」
さっきのなでなでをじっと見ていたもんなあ。
おっさんは素直にその小さなフトモモに頭をのせた。ヒザ枕って言うけど正確にはフトモモ枕だよなあ、なんてどうでもいいことを考えながら。
「重くないか?」
「心地よい重さよ。愛する夫ですもの」
嬉しそうにおっさんの頭をなでるレヴィア。
どうしよう。気持ちよくてなんか眠くなってきちゃった。
このまま寝ちゃおうかな、そう思ったおっさんの前に突然、ウィンドウが開く。
『〈ガラテア〉スキルが使用可能になりました』
そういやスキルのクーリングタイムが終了したら報告するようにウィンドウを設定しといたんだった。
そろそろだとは思ってたけど、気になって他の作業がおろそかになりそうだったのであまり考えないようにしてたんだ。ここんとこバタバタしてたしさ。
でもそうか。やっと〈ガラテア〉が使えるようになったのか!
「どうしたのかしら?」
「うん。ありがとうレヴィア。とっても気持ちよかったよ。もちろんさっきのコルノもね」
礼を言いながら立ち上がる。
イチャイチャするのはあとでいい。今はやることができた。
「アナタ?」
レヴィアは最近おっさんのことを「アナタ」って呼ぶんだよね。嬉しいけどニヤケちゃうのでそう呼ぶのはリビング等のおっさんたちの生活エリア限定にしてもらった。
眷属や妖精たちの前でだらしない顔は見せられないもんな。
なお、おっさんは照れくさくてまだ「オマエ」とは呼べていない。
「ガラテアが使えるようになった。これから眷属を増やす」
クーリングタイムが長いスキルだから少しでも早く使っておきたいよね。
いざって時にすぐ使えるようにとっておく方がいいかもしれないけど、必要な人材を増やしておく方がいいということで、使ってしまおう。
「前にフーマが見せてくれたフィギュアがボクみたいに本物になるんだよね! どの子になるのか楽しみだよ」
「……女性なのね」
「うん。みんな可愛いー子ばっかりだよ」
コルノにはおっさんのフィギュアコレクションを披露したことがある。魔改造品や十八禁フィギュアは除いてだけどね。
美少女フィギュアばかりと聞いたレヴィアの目がちょっと怖い。
「浮気と違うから! フィギュア愛は別だから! そもそも結婚前に買ってたものだから!」
「私は見せてもらってないわ」
「あ、あとで見せるから」
「そう。ならいいわ」
ふう。危機は乗り切った。……かな?
不可能だったとはわかってるけど、前世で万が一おっさんが結婚できてたら大事な大事なフィギュアをどうしたんだろう?
嫁さんに隠して保管していたのを見つけられて捨てられて大喧嘩するって展開しか思いつかない……。




