114話 ゴブにゃん
2巻発売中。苦戦しております
あなたの清き一買を!
底辺ギルドの連中からハイパの死で責められないか不安だったのだけれど、それはなくお礼だけだったので一安心。
ちょっとだけさ、ハイパがコア破壊されたのっておっさんのせいもあるんじゃないかって気になってたんだよね。〈魅了〉されたみんなを救助しなきゃハイパは死なずにすんだんじゃないかって。
「ハイパも吾輩たちのように石化して動けなくなったところをコア破壊されてしまったのであろうな」
〈人化〉したグレーターデーモンは吾輩さんか。
もしかしてデーモンだから? 顔を白く塗ったりはしないのかな。
それとも名前がマイケルだから猫で吾輩?
「いや、桃幻卿はみんなとの戦いで疲れたのか豆腐……魔王城には入らなかったみたいだ」
ベルフェゴールなんてやっかいそうなのと戦う必要感じなかったしさ。もし豆腐の中身やハイパに興味を持って確認しに行ってたらおっさんも死んでたかもしれない。
……その前にリヴァイアサンが暴れるかな?
「俺たちは運がよかったのかもな。石化してたおかげで勇者と戦わずにすんだ」
「運じゃないっす! アニキのおかげっすよ! あいつの石化をうまく利用したっすよ」
「はいはい。それはもういいから。それより、みんなはいったん自分のダンジョンに帰った方がよくないか? 眷属も心配してるだろう」
あまりその話をされるとトーゲンがおっさんの手駒だってバレるかもしれないんで話題を変える。
石化中は完全に意識もないらしく眷属チャットも使えなかったようで、みんな慌てて自分の眷属と連絡を取り始めた。
「みんなとはまた今度、仕切り直そう」
「そうっすね。アニキ、明日いいっすか?」
明日って急すぎない?
なのにギルドメンバーはみんなじっとおっさんを見て反対意見はないようだ。
「いいのか? 留守にしてたダンジョンが侵入者に破壊されたりしてたら修理とかしなきゃいけないだろ?」
「ここにいるダンマスでそんな心配があるやつはいないっす。ほとんど人がこないか、破壊されまくってダンジョンを直すDPがないようなやつばっかりっす!」
「そ、そうか……」
さすが底辺を自称するだけはあるってことか。
おっさんも小人を選ばなかったら、こいつらの仲間入りしてたかもしれないなあ。
「それなら明日、場所は未熟者のダンジョンでいいな?」
「みんな、いいわね?」
ギルメンを見回すコトリ。さすが委員長。いや、委員鳥か。
背の翼は派手だけど男ではないらしい。鳥の翼って派手なのはオスが多いと思っていたのに。
反対意見もないようなので明日の予定が決まってしまった。おっさんの予定もなかったからまあいいか。
「それじゃまた」
「明日よろしくお願いします、コーチ」
「バーイ」
エージンを残して彼らは転送魔法陣から自分のダンジョンへと帰っていった。
ダンジョンの外から入ってきてもポータルを使って帰れるのは便利だ。
「アニキのおかげでみんな無事だったっす。頼みってなんすか。なんでもするっすよ」
「そうか。それなら話が早い。ほしいものがある」
「アニキがほしがるものっすか? オイラにDPがないのは知ってるっすよね。そうなると……ま、まさか眷属っすか?」
まあ、おっさんがエージンのから貰えるものってそれぐらいしかないだろうし。
エージンの顔がみるみる青ざめていく。
「察しがいいな」
「そ、そんな! それだけは! なにとぞそれだけは勘弁してほしいっす! みんなオイラの大事な眷属なんすよ!!」
「あんなに扱いが悪いのに?」
「そんなことないっす! みんなとっても可愛がってるっすよ! 見逃してほしいっす」
必殺技の時よりも素早い動きでクイック土下座を披露しながら懇願するエージン。
「察しがいいと言ったけど間違いだったか」
「なにとぞ! なにとぞ!」
「あのなあ、おっさんがほしがってる眷属は誰だと思ってる?」
「サッキィっすよね。それともハッピィかラミィっすか? ま、まさか三人とも!?」
まあ、そう思うのは当然か。エージンの眷属にはゾンビやスケルトンもいるけど、おっさんもその辺は不要だし。
「違う。ゴブゴだ」
「ゴブゴ……ああ、あいつっすか! それならいいっす!」
すぐに立ち上がって笑顔を見せた。変わり身早すぎ。
どの口で「可愛がってる」とか言ったんだか。
「けどいいっすか? 第二層のボスだったとはいえ、ゴブリンっすよ。オイラも使いどころがなくて忘……もてあましていたっす」
「ああ。弓が使えるやつがほしいんだ」
ゴブゴにレヴィアの作ってくれたレーズンをあげたんだけど、そのことを話したらレヴィアが怒った。レーズンをあげたことではなく、ゴブゴの境遇について、だ。
リヴァイアサンは元ダンジョンマスターの眷属。だけどあまりの巨体ゆえにダンジョンには入れてもらえなかったらしい。〈小人化〉はダンマスが死んでから覚えたって言ってたもんな。
だから、過去の自分と同じくダンジョンに連れ帰ってもらえていないゴブゴに感情移入しちゃったようだ。できればなんとかしてやってほしいと頼まれた。
嫁の頼みとあれば叶えましょう。ってことでエージンの救出の礼に貰おうとしている。
「そっすか。じゃあ早速、未熟者のダンジョンに行くっす!」
こうして【ゴブリンスナイパー】のゴブゴはうちの眷属になった。
泣いて喜ぶとは……まあ予想していたけどね。
ちょっと大きいけど、第2層かドーム空間ならなんとかなるだろう。
◇ ◇
「眷属を直接譲渡する方法もあるみたいなんだけど、おっさんもエージンもそれを知らなかったから、エージンが眷属登録を解除して、おっさんが眷属化の儀式を行ったんでちょっと手間だったよ」
ゴブゴをダンジョンに連れ帰ってみんなに紹介する。
この名前もそのうち変えようかな。本人が気に入ってるなら別だけどさ。
「本当にゴブリンなのだ? 痩せすぎてあまりおいしそうじゃないのだ」
テリーの言葉にビクッとするゴブゴ。そういやテリーって邪神のダンジョンにいた頃はゴブリン肉がごちそうだったんだっけ。
「安心するのだ。ボスはおいしいものを食べさせてくれるのだ。お前もおいしそうになれるのだ!」
「いやそれ安心できないから。おっさんは眷属を食ったりなんかしないんで変なことを言うな」
「ごめんなのだ」
頭をかいて笑うテリー。
……まだなんか様子がおかしい。邪神のダンジョンへの潜入の話をしてからテリーが妙にわざとらしく感じるのは気のせいだろうか。
「これがゴブリンか。マスターが持って来た死体は見たことがあるけど、生きてるのは初めてなんだね。あとで詳しい話を小生に聞かせてほしい」
「か、噛んだりしないのにゃ?」
眷属のほとんどが生きてるゴブリンを見るのが初めてでかなりビビッている。フェアリーたちなんてアシュラの影に隠れて近寄ってこない。
「大丈夫だ。そんなに怖がらなくてもいいだろう?」
「ゴブリンは悪い妖精だってさんざん聞かせられているんだろ。あたしだって昔そう聞いたよ」
そう言いつつも怖くないのか、ゴブゴをじっくり観察しているリニア。
むう。こんなに怖がられるんじゃ妖精たちがいる場所は無理か?
他にゴブゴがいれそうな広い場所となると……。
「ホブゴブリンに変装すればいいだろう。ホブゴブリンなら怖がられないはずだよ」
「ホブゴブリンの格好を知ってるのはミィアぐらいにゃ。それなら猫の方がマシにゃ」
ホブゴブリンは妖精たちにもいいもんな扱いなのね。
だけどこの妖精島にはいないから外見を知ってるやつはいないと。
……ふむ。猫か。
「ハルコちゃん、ゴブゴ用のネコミミと尻尾、作ってやってくれ。とりあえずはそれで誤魔化そう」
「おお、それならバッチリでアリますな!」
「さすがにそれはどうなの?」
「大丈夫だってレヴィア。フェアリーたちはバ……ノリがいいからきっとゴブリンじゃないことにしてくれるって」
まさか本当に誤魔化されてくれるとはおっさんも思ってなかったよ。……フェアリーたちは面白そうなら、ありなのか?
これとは関係ない短編です。
よろしければどうぞ。
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