113話 グレマキ
2巻発売中。
無事にダンジョンに帰ってこれたものの、嫁サービスにかなり時間と体力を使ってしまった。
まあ、問題はない。サッキィにはエージンたちを確保したと連絡してもらっている。やつらの蘇生はあと数日したらでいい。
だってさ、“強強の毛皮”から“怠惰の魔王城”まで三日かかったんだからその逆もそれぐらいかからなければおかしいのだ。おっさんの〈転移〉スキルは極秘なのである。
ダンジョンの方は留守中も問題はなかったようだ。
そのせいで小人のダンジョン四天王を狙う連中はあまり功績をあげられずに不満がっていた。
「小生はのんびりと探索ができたからよかったけどね。アンコの協力で邪神のダンジョンの出口と思われる隙間は見つけたよ」
「お手柄じゃないか」
「やったでアリますよ!」
どうしよう。そこから入って隙間を塞いでからネズミの巣穴みたいに高温の温泉でも湧かしてこようか?
あ、でもうちのムリアンたちの進化前の同族やテリーの仲間がいるんだっけ? そいつらまで殺しちゃうのはちょっと気がひけるな。どうせハエは飛べるから倒しきれないだろうし。
「アンコ、テリー」
「はっ!」
「なんなのだ、ボス?」
「お前たち、邪神のダンジョンに侵入するつもりはあるか? 昔の仲間を助けたいなら、こっちへ連れてきてほしい」
寄生されてるかのチェックは必要だけどアリたちはムリアンに進化できるし、テリーの仲間なら生産技術も持っているだろう。
「行くのだ! テリーはあいつらにもおいしいものを食わせてやりたいのだ!」
アンコよりも先にテリーが賛成した。仲間たちを救出したい思いが強いのだろう。
一方、真っ先に賛成してくれると思っていたアンコは慎重だった。
「……進化したとはいえ残念ながら自分はまだそのレベルには達してないのでアリます。あのダンジョンには強いやつも多いでアリますよ。それに……自分たちの群れは全てがあの侵攻作戦に参加していたのでアリます。あそこにはもう他の群れしかいないのでアリますよ」
「そうか……」
「亡くなった女王の姉妹なら話も通じるかも知れませんが今の自分はこの姿でアリますし、なにより居場所がわからないのでアリます」
軍隊アリは巣を作らないんだっけ?
少なくともレギオンアントは巣を作らずに移動しながら生きているらしく、探すのは困難とのこと。
「ですので、行くのであれば自分だけで行きたいのでアリます。リアンたちのことをよろしく頼むでアリますよ」
「隊長」
「お前たち、自分がいなくなっても司令殿のお役に立つでアリますよ」
ええと、なんでそこでアンコを囲んでリアンたちが涙してるかな。いかにも死出の旅路って感じじゃないか。
「いや、行きたいかって聞いただけですぐに行かせるわけじゃないから! 行かせるにしたってちゃんと準備させるから!」
「そうでアリますか。よかったでアリます。その時までに鍛えるでアリますよ!」
ムリアンたちも口々に「私も!」とやる気を見せている。
できれば君たちはダンジョン監視で頑張ってほしいんですけど。この雰囲気じゃとても言えそうにないけどさ。
「とりあえず、その隙間には監視を配置しておこう」
「なにかあったらすぐに異常を知らせられるゴーレムを作ればいいんだね!」
コルノはすぐにわかってくれた。さすが夫婦、ツーカーである。
ゴーレムなら水底にも行けるし長時間の退屈な見張りも苦痛ではない。もしモンスターが出てきて破壊されてしまったとしても、それがわかるような仕掛けを内蔵すればいいだろう。
「頼む。ミーアは他にも隙間がないか調査を続行してくれ」
「了解。無事にティル・ナ・ノーグを復活させるためにも念を入れて調べておくよ」
ティル・ナ・ノーグもそろそろ復活させないといけないだろう。
要石となったディーナシーが石化解除薬で戻ってくれるかはまだ試してないので実験したいけど、邪神のダンジョンの封印が一気に解放されても困るので難しいところだ。
◇ ◇ ◇
湖底監視ゴーレムの作製やネット巡回、そして嫁サービスをしていたら底辺ギルドのメンバーを救出してから三日が経ってしまった。
そろそろいいだろうということで、おっさんは強強の毛皮へとやってきた。転送魔法陣でだが、ここならダンジョンへの出入口に〈転移〉でもやってこれるので、眷属のレベルアップに使うのもいいかもしれない。
このポータル部屋は人類種には発見されないような隠し部屋としてダンジョンマスターが邪神のダンジョンに追加しているらしい。ダンジョンレベル10以上でできるという、邪神のダンジョンとの陣地の取り合いで使う技術のようだ。
「まずはエージンからだな」
先に復活させておいて、もし他のダンマスが暴れても説得してもらわなければいけないからね。
アイテムボックスからエージンの石像を壁を向くように出して、背後から石化解除薬を数滴垂らす。
正面からでないのは石化時にこいつ、必殺技を使いかけていたからだ。もしかしたら石化の解除と同時にそれが発動するんじゃないかと心配してのことである。
「……ッシュ! ぐぇ!」
石から元に戻ると同時にエージンは壁に激突した。
痛そうだけど、おっさんがくらった時ほどの威力はなさそう。石化をはさんだら技は失敗するのか。上手く使えばモーションなしで技を使えてトラップとか作れるかもと思ったけど、そうはいかないか。
「あれ? え? こ、ここはどこっすか? スパひろ、タイガ、気をつけるっすよ! ……みんなーっ!?」
キョロキョロと辺りを見回しながら底辺ギルドメンバーの名を叫ぶエージン。しかし足元のおっさんには気づかない。
「落ち着けエージン。みんな無事だ」
「アニキ!? な、なにがどうなってるっすか?」
「おっさんがみんなを助けた。ここは強強の毛皮だ」
「え? ほ、本当にみんな無事なんすか?」
その質問に石化したダンマスを一人、アイテムボックスから取り出す。スケルトンなので見た目にはあまり変化がわかりづらい。
「メビウス! ……あれ、でもアイテムボックスにダンマスは入らないんじゃ?」
「よく見ろ、石化している。他のダンマスもみんな石化してるが安心しろ、おっさんが治せる」
やはり後ろから石化解除薬を使用して元に戻した。
こいつの場合はアバラの中に入ってからの方が安全だったかもしれない。
「メビウス? 戻ったっすか? おーい」
スケルトンの前で手をふるエージン。それに反応したのか彼も動き始めた。石化時とのわかりやすい違いは目の奥がうっすらと光っていることか。
「エージン? 元に戻ったのか? ……ここはどこだ? みんなは? あのピンク鎧は?」
「ここは強強の毛皮っす。みんなも無事みたいっす。アニキが助けてくれたっすよ!」
「アニキ?」
「よ!」
足元から声をかけられて大きくとびずさるスケルトン。いい反応だ。
ちょっとショックだけどさ。そんなGを見つけて慌てたような動作しなくてもいいじゃんよぅ。
「小人? ……あ、あなたがエージンの言っていた?」
「ああ。おっさんがフーマだ。よろしくな。詳しい説明は全員戻してからするからちょっと待っててくれ」
「は、はい」
そんな感じで一人ずつ石化から戻していった。手間だけど全員いっぺんだと収拾がつかなくなりそうだもんねえ。
「と、いうわけでおっさんが石化したみんなを回収してここまで運んだわけだ」
「かたじけない。よくあのピンク鎧から……」
ピンク鎧やめれ。
「あいつの名は桃幻卿。呪われていて石化を使うこと以外は謎の戦士だ。桃幻卿は石化したやつには興味がないようだった」
「それなんだけど俺、石化する時にコルノたんの顔を見た気がするんだ!」
こいつはホブゴブリンのポポだっけ? 人数が多いんで〈鑑定〉しないとまだ顔と名前が一致しない。
「コルノたん?」
「グレマキ2のヒロインのコルノだってば!」
どうやらしっかり見られていたようだ。
どう誤魔化そうかな。
「グレマキって、グレートマキア? あれの2のヒロインはアフロじゃなかったっすか? あの巨乳の!」
「ほう、エージンはリメイクの前にこっちに来ていたであるな。リメイク版だとヒロインが選べたである。吾輩の嫁はアラクネだったであるな」
マニアックな解説をしたのはグレーターデーモンのマイケル。すでに〈人化〉している。
「俺はセイレーン姉妹だったな」
こいつはそれで半魚人を選んだのかな?
グレートマキアのセイレーンは人鳥と人魚の両方になれる変身タイプだったっけ。
「グレマキなら1のメンテが一番だろ」
「ああ、免停も可愛かったなあ」
免停とはグレマキファンからのメンテの通称だ。
グレートマキアの1はハーデスが主人公でペルセポネとメンテのダブルヒロイン。
「3のプシュケも捨てがたい」
グレートマキア3はシリーズ初の男主人公と女主人公が選べて、シナリオも違ってたりする。女主人公の場合はプシュケで、前作ヒロインのアフロディーテがラスボスだ。
ちなみに男主人公はその息子のエロス。……ツクシちゃんは元気だろうか?
そんな感じでコルノのことよりもグレマキの推しヒロインで盛り上がってしまった。
「ゲームのこともいいけれど、まずはお礼でしょう!」
そう場をおさめたのは底辺ギルドメンバー唯一の女性だ。委員長ポジション?
大きな翼が背中に生えている。あれでの飛行はやっかいだったな。あまり高く飛ばれると石化した後に落下して破損するのが怖かった。
「私はコトリ。フーマさん、助けていただいてありがとうございました」
わざわざおっさんを手の上に乗せて目線の高さを合わせてから頭を下げた。律儀な子である。そのままさらにおっさんを高く掲げると、察したのか他のダンマスたちも口々に礼を言い始めた。
◇
「この恩はかならず返すっすよ」
「ああ。エージンにはあとで頼みがある。それより、もう一つ告げておくことがあってだな」
この様子だとたぶん大丈夫だとは思うけど、一応暴れられてもいいように用心しながら俺は口を開いた。
「お前たちに魅了を使って操っていたハイパだけど……死んだ」
「死んだ!? それに魅了って……」
「ハイパはみんなに魅了を使っていたっす。それでみんなおかしくなっていたっすよ!」
エージンに言われてショックを受ける底辺ギルドのメンバーたち。死んだってことよりも〈魅了〉されていたことの方がショックが大きそうだ。ハイパが死んだことで〈魅了〉の効果が切れたのかな。
「うちの眷属がダンジョンマスターの死亡者リストをチェックしたところ、ハイパの名前があった。勇者ルクリにコアを破壊されたらしい」
「勇者ルクリ……」
“ダンジョンマスターの館”で死亡者リスト見た時は呆然としたね。
おっさん思った。
ツクシちゃんじゃないんかい!
ルクリって誰さ?
あの魔王城は三国に跨っていたから、コーラヘヴンとは別の国の勇者かね。
もしハイパが本当にベルフェゴールでそれを倒したっていうのなら、ツクシちゃん以上に危険な存在と見て間違いないだろう。
あ、死亡者リストといえば一つ気になることがあるんだよな。
あの中にはダンの名前がない。これはどういうことなんだって、ネットでも騒がれている。
「死んじゃったか。魅了で操られたけど、それ以外はそんな悪いやつじゃなかったよな」
「そうだな。ちゃんと食事もくれたし」
「ダンジョンの防衛以外は命令なかったもんな」
前世日本人らしいというか、死人の悪口は出てこない。
食事くれたってだけで評価が上がるのは普段ろくなものを食べてないんじゃないかと心配になるけどさ。
「大麻を育てるようなやつだったみたいだが?」
「ああ、あれは自分用だと言っていた」
は?
中毒者だったの?
「ハイパはヘビースモーカーだったっす。でもタバコが見つからなくてかわりに見つかった大麻を栽培するんで人をさらったって言ってたっす」
「タバコがないから大麻って……それで討伐されるって……」
タバコは身を滅ぼすってことか。
おっさんは嫌煙家だから関係ないけどね。
だってさ、嫁さん蛇属性だからタバコのヤニは嫌がるだろう。
なにより、フィギュアにヤニがつくのを赦せるわけがない!
これとは関係ない短編です。
よろしければどうぞ。
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