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112話 底辺ギルドVS

2巻発売中。

 豆腐建築。

 その飾り気のないシンプルな四角い外見から豆腐建築と呼ばれる。

 建築ができるゲームで初心者が作りがちな建物だ。

 怠惰の魔王城はまさにそれだった。門がついた大きな箱にしか見えない。

 ちょっと門のとこを飾ったり、斜めの屋根をつけるだけでもイメージは変わるだろうにそれすらしてない。

 よくあの爺さんこれを見て魔王城ってわかったよな。砦ならまだしも城だなんて思えないだろ。もしかしてこっちの城ってみんなああなのか?

 夢の国の城とまでは言わないけど、もうちょっとこう、なんかさあ……。


 あ、爺さん〈鑑定〉したのか。


 門の前には大小様々な影があった。エージンたち底辺ギルドのダンジョンマスターたちだ。

 聞いていたデータから思っていたよりも巨大なやつもいる。これじゃたしかに爺さんも魔王城へのアタックを思い止まらせようともするか。


「数は……うん、あってる。作戦どおりにいけそうだ」


「いろいろいるんだねー。あれがサッキィちゃんのマスターのエージン?」


 タブレットモニターに映る狼男を指差すコルノ。狼になれるって聞いてたから勘違いしてるんだろうけどそっちは【狼人】だな。【人狼(ウェアウルフ)】とは違って、狼の獣人で完全な人や狼にはならない。


「いや、こっちのチャラそうな方」


「ふーん。あ、マーマンもいるね」


人魚(男)(マーマン)? 半魚人(ギルマン)ではないのかしら?」


「ああ、なんかあいつは陸上だとあんな姿になるっぽい」


 水棲生物が気になるのかレヴィアも質問してきた。

 サッキィ情報だと〈変身〉スキル持ちで水陸で姿を変えているって話だ。どうせなら陸の方はもっと別の姿を選べばよさそうな気もするが、魚にコダワリがあるようだな。


「乙姫のライバルになれなかった男なのね」


「いや、あいつのダンジョンは海じゃなくて湖なんだと。マーメイドをナンパしによく海には行ってるらしいんだけどさ」


 巨乳の人魚に会いにエージンもそれにつきあったことがあるが、さんざんだったとやつは言っていた。

 自分のダンジョンから出るという危険を冒してまでナンパなんてしにいきたいもんなんだろうか? 前世引きこもり気味のおっさんからは想像できない思考だ。


「妙な形の骨もいるわね?」


「ああ、たぶん【ガシャドクロ】だろう。おっさんがダウンサイジング法を教えたんだ。元々はうちのダンジョンで【スケルトン】を使えないか考えた方法なんだよ」


「あ、形が変わってきたよ。おっきくなってきた!」


 それだけ聞くとちょっと勘違いしそうなコルノの台詞のとおり、ガシャドクロの姿が変わっていく。アイテムボックスにしまっていた残りの骨を出して()()を始めたのだろう。……慣れてないのか手間取っているみたいだ。


「他にも大きさを変え始めた者がいるわね」


「たぶん【グレーターデーモン】。〈人化〉スキルを持っているってクチコミに書いていたやつだ」


 こっちにも「デっビール!」って変身の掛け声が聞こえてくると同時に服を破りながら大きな角と翼を持つ巨大な悪魔の姿に変わっていく。うん。養殖したい姿だな。

 ……あれ? 俺の知ってる変身系のスキルだとミーアみたいに服は破けないはずなんだけど。もしかしてその辺って調整できるの?


「ここでむこうの準備がととのうまで待つの?」


「ああ。城にはあまり近づきたくない。あんな豆腐でもダンジョンだ。どんな仕掛けがあるかわからん」


 サッキィを経由してエージンに連絡してある。ハイパ以外の底辺ギルドメンバー()()で、ピンク色の鎧をつけた戦士を迎え撃つように、と。

 そいつと戦ってる時に救出するんで絶対に全員でくるように指示したんだけど、エージンもちゃんとやってくれたらしい。


「いいっすか、睡眠中のハイパを起こさないように外で戦うっす。オイラが集めた情報だとあいつはああ見えて無茶苦茶強敵なんで、みんなでやるっすよ!」


 他のダンマスをたきつけたか。それでいい。その方が楽だ。でもさエージン、お前も〈狼化〉スキルで変身した方がこっちを脅威に感じてる風になるんだが。……「ああ見えて」とか言ってたからトーゲンのこと見くびってんな。


「ブレスがくるわね」


 レヴィアが指差した巨影が大きく口を開けた。翼がなく四足歩行の【ボーン・デット・ドラゴン】だ。危険度はグレーターデーモンと並んで底辺ギルドのトップクラスだろう。

 その牙だらけの大きな口からカッとまるでビームのようなブレスがトーゲンに向かって放たれた。「なぎはらえ!」って指示があってもよさそうな感じで大地を焼きながらこっちに迫ってくる。

 ああ、ガシャドクロに泥で肉付けしてあげたらアレっぽくなるかも。なんてのんきなことを考えてる内にブレスがトーゲンの正面に届き、タブレットモニターの画面が光と炎で全く見えなくなってしまった。一定の光量以上は表示しないようになっているので「目が、目がぁーっ」とはならないが一応言っておくか。


「うおっ、まぶしっ」


「すごいねー」


「そうかしら?」


 嫁さんたちものんきである。トーゲンの状態を確認しているコルノが騒がないのだから問題はないのだろう。

 ブレスの光が終わった時、ダンマスたちはまだ門のそばにいた。オイオイ、接近して追撃してくるやつがいないと駄目じゃないか。まあ、〈感知(レーダー)〉でチェックはしてたんだけどさ、なに硬直してんのさ。

 せめて「やったか」ぐらいは言ってほしかった。


「あれが効いてないだと!?」


「それなら……ライトニングブラスター!」


「ウィンドバズーカ!」


「マジックミサイル!」


 グレーターデーモンと有翼の二人から魔法が飛んできた。【堕天使】と【鳥人】だな。ミサイル系は知ってるけどブラスターとバズーカは初めて聞く。オリジナル魔法だろうか?

 だがやはりトーゲンの眼前を明るくするだけで全く効果はなかった。


「あいつの前になにかある!」


「バリヤーか!」


 ダンマスたちが騒いでいるが、防御壁の正体は以前にお守りとして貰ったリヴァイアサンの鱗である。透けているのでこの暗闇では気づかなかったのだろう。

 底辺ギルドの連中をただ待っていたのは、その前にこちらの準備が完了していたから動きたくなかったのもあるのだ。

 ずっと座りっぱなしだったから、魔王城の近くにくる前にいったんダンジョン(うち)に戻ってきてトイレも済ませてきてある。勇者パーティといっしょにいる時もこっそりと行ってたんだけど、トーゲンにトイレやベッドを設置できないのがやっぱりつらいよ。


「早く近づいてこないかな」


「トーゲン、ボクたちの準備がおわったらやつらをさそって」


 コルノの指示によって剣も抜かずに右手を前に伸ばすトーゲン。掌を上にして人差し指から小指までをクィックィッと揃えて曲げて手招きする。つまりは挑発だ。


「馬鹿にするんじゃないっす!」


 おおっ、エージンが真っ先に突っ込んできたか。アキラによって吸血鬼化(パワーアップ)してるから以前よりも速いな。

 トーゲンの前に立てていた鱗をアイテムボックスにしまって迎え撃つ。

 あいつは日が出る前に始末してあげなくてはいけない。


「ダッシュダッシュスラッ……」


 以前におっさんを重傷にした必殺(アーツ)を使おうとしたところでエージンが固まり、そして消えた。


「エージン!?」


「いったいなにが……」


 驚く底辺ギルドの連中。だが、怒りを露に向かってくるやつらもいる。


「よくもエージンを!」


「エージンをどこにやりやがった!」


 狼人と【ホワイト・ウェアタイガー】か。エージンほどじゃないが速い。ウェアタイガーも満月で強化されてるようだ。牙をむき、大きく振りかぶった二人の爪がトーゲンに迫る。

 しかしやはりそれは届くことなく二人の獣人タイプのダンマスの動きは止まってすぐに消えた。


「速いけど、まだまだだね」


「無理はするなよ」


「ダイジョーブだって」


 トーゲンの鎧、胸部の飾りドクロの眼窩から覗きながらのコルノは余裕そうだ。

 種明かしすると、現在おっさんとコルノは操縦席からドクロの中へ移動している。あまり広くないので密着中だ。そこから真呪(メデューサ)モードのコルノが底辺ギルドのダンマスを石化、おっさんが素早くアイテムボックスに入れていたのだ。

 これなら無駄に傷つけないで済む。〈魅了〉の影響下でも暴れられることもない。

 アイテムボックスには普通は入れられないはずだが、石になってると収納できるのは石化ノームでわかっていた。


「デカイのがくるぞ!」


「まかせて」


 他のダンマスを何人か乗せてドラゴンが突進してきた。その巨体の接近によって地面も揺れる。あまりに揺れるのでトーゲンもちょっとふらついてしまう。

 それをチャンスとばかりにさらにドラゴンが加速、受け止めたヒーターシールドはひしゃげ、ドラゴンの角によって大きな穴が開いてしまっている。

 トーゲンは反復横跳びで鍛えたサイドステップによって回避したから無傷だが。


「リュウジが石になっちまった!」


 ドラゴンに乗っていたダンマスから声が上がる。ちっ、バレてしまったか。それなら今はまだアイテムボックスに収納しないでいいか。重そうだし。


「石化の魔眼とは厄介な」


「瞳術なら任せろ。石化なら術者の目を見なければいい!」


 自信満々に言ったのは翼の生えた眼球の魔物【ゲイザー】か。眼球だけで目蓋がないので翼で目を隠している。翼を動かしていなくても浮いていられるなら、その翼の意味はいったい?

 せっかくのアドバイスが間に合わず、ドラゴンに乗っていた【ホブゴブリン】のダンマスが石化を始めた。彼は耐性スキルを持っていたのか少しだけ耐え、スキルレベルが足りなかったのか結局全身石化する。


「小さな女ぁっ!?」


「幼女だと! あ……」


 ホブゴブリンの断末魔にゲイザーが反応。隠していた目を露出させ石化した。サッキィ情報によればやつはロリコンらしいもんなあ。

 まあ、真呪(メデューサ)コルノの場合は目を見なくても石化しちゃうんだけどね。まさにチートである。


「ボクは幼女じゃないよー!」



 ◇



 幼女と勘違いされたコルノの怒りによって残りのダンマスも石化したのだった。


「こんだけやってもレベルアップはなしか。石化させるだけじゃ戦闘扱いされないのかな」


 魔王城に被害はないが周囲の大地は戦いによって焼け焦げてたり、大きく抉られてたり、石になってたりする。

 トーゲンだって無傷ではない。レヴィアによって操縦されていたトーゲンは動けなくなるほどではないがダメージを負っている。

 飛行系のやつらや、ドラゴンの影にまぎれていた【ツリーシャドウ】は面倒な相手だった。

 ……コルノの怒りを沈める方がさらに面倒だったけどさ。大人っぽく見えないことを気にしていたのね。


「魔王城から出てきたのはダンジョンマスターだけだったわね」


「寝ているハイパを起こさないようにってエージンが言ってたけどまだ寝てるのかね?」


 それとも底辺ギルドのやつらのピンチも気にならなかったか。

 どちらにせよ、もう関係のない相手だろう。勇者にやられようが知ったことではない。

 城から見てるかもしれないのでトーゲンから出ないで石化ダンマスを回収していく。数は合ってるよな。……あれ、一人足りない?

 あ、この西部劇で転がってそうなやつも石になったダンマスだったっけ。危ない危ない、忘れていくとこだった。全員ちゃんとアイテムボックスに入れないと。


「全部しまった?」


「ああ。さっさと帰るか。あんまりモタモタしちゃうと勇者たちがくる」


 既に日は昇り始めている。ツクシちゃんたちの石化も解かれているはずだ。

 おっさんも眠い。早く帰って風呂入って寝る。


「そうね。可愛がってくれるのでしょう?」


「三日分かあ、スゴそうだよねー。えへへ」


 おっさん眠いんですが。

 すぐに寝るって選択肢は……なさそうだなぁ。



底辺ギルドVSコルノでした


ひっぱといてボス級はあっさりというスタイル



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