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110話 勇者マニアのマドレーヌ

2巻、発売中です

今回が本当の110話です

「私はセドリック王子の母親でもある王妃ラクリマに、妖精たちの神になってほしいと願っている」


 レオンタインはおっさんが妖精神の称号持ちであることに気づいているのではないらしい。

 こちらの安堵にも気づかずにエルフは話を続ける。


「王妃は元冒険者で、当時まだ王太子だったコーラヘヴン王の危機を救い、見初められてな、王太子妃となったのだ」


 えっ、セドパパが姫ポジションなの?


「王妃には謎が多い。不思議な力を発揮したという逸話も多くてな。彼女の正体は神だったのではないかと思っている」


 神か。そんな簡単に人の前に姿を現す身近な存在なのかね?

 まあ、おっさんも一柱(ひとり)会ったことあるけどさ。


「まだ若い神なのかな?」


 あ、コルノも神の娘だったっけ。レヴィアも神扱いされてるし、身近どころの話じゃなかったか。


「私は彼女に妖精たちの神となってくれるように頼むつもりだ。……王太子が王になった時にやはり王妃なんて柄じゃないと城を出て、それ以来ラクリマは行方不明になっているのでまだ会ったことはないが」


 セドママねえ。いったい何者なんだか。でも王子がいるってことは王太子妃のうちに出産したのかな。

 子供を残して出て行くなんてよほど王妃になりたくなかったか、あるいは……実は殺されていて、城出は欺瞞工作とか。

 もしも生きていてレオンタインの願いを聞いて妖精神になったら、おっさんの称号がなくなってくれるかな?


「もし彼女の居場所を知っていたら教えてほしい。……そうか、知らないか。すまない、記憶喪失の者に聞くことではなかったな」


 目に見えてがっかりするレオンタイン。セドママの情報ってそんなに集まらないのかね。



 ◇ ◇ ◇



 翌日も魔王城を目指し歩き続ける。サッキィの情報どおりなら明日には着くはずだ。


「国境付近が荒れ果てているのは、神とダンジョンの戦いのせいだけではない。凶悪なモンスターが徘徊しているせいもあるのだ」


 ツクシちゃんと、ついでにトーゲンに解説を始める王子。

 第一王子だけど王太子じゃないのは母親が原因なんだろうな。


「この地で危険なやつらといえば、空は大型の飛行モンスター【サンダーバード】が、地にはやはり大型の【デスワーム】が目撃されている。滅多に遭遇しないらしいが狼等の野生動物、ゴブリンやオーク他のモンスターも出現する。用心して移動するぞ」


 なーんか、どーっちもやばそうなんですけど。サッキィからの情報は距離だけだったもんなあ。勇者パーティと合流してなかったら魔王城に辿り着けなかったかも。

 デスワームってやっぱり地中を移動するんだろうか?

 感知(レーダー)に注意しながら移動せねばなるまい。


「コルノ、レヴィア大丈夫か? 着くのは明日になりそうだから留守番しててくれてもいいんだよ」


「へーきだよ。座り続けるのはたいくつだけどフーマがいっしょだもん」


「ええ。勇者もエルフも()()よ。あなたのそばを離れたくないわ。新婚旅行と思うことにしましょう」


 新婚旅行か。竜宮城に行こうなんて話もあったけど、その前に魔王城に行くことになるとはね。どっちもダンジョンなんだけどさあ。


「それよりフーマこそだいじょーぶ? 昨日はキスだけだったけど物足りなくない? ガマンできる?」


 いきなりナニを聞いてくるかな。

 そりゃ二人と結婚してから毎晩だったけど。しなかったのは昨晩が初めてだけど!


「トーゲンの中でするわけにもいかないでしょ。二人がいてくれるだけで十分だって」


「ま、まさか、私たちの身体に飽きたとでも言うの!?」


「なんでそうなるのさ!」


 あ、物足りなかったのは二人なのかな?

 ここはおっさんが物足りなかったってことにして二人を求めた方がいいんだろうか?

 でも、感情がないとはいえトーゲンの中でってのはちょっとなあ。

 隣に座る二人の肩を抱き寄せて囁く。


「この件が片付いたらたっぷり可愛がってあげるから」


「う、うん」


「わ、わかったわ」


 耳まで真っ赤になった二人が可愛すぎる。

 どうしよう、我慢できなくなってきそうだ。



 ◇



 〈感知〉スキルが地中に大きな反応を感じたので、勇者パーティに知らせる。

 王子が地面に耳をつけると、レオンタインが人差し指を口の前に立てた。こっちでもそれが静かにしろって合図なのね。勇者が広めたのかもしれないな。


「デスワームだ。かなり大きい」


 耳を地面につけたまま王子が小声で話す。

 どうやら近づいてきてるようで、微妙に揺れまで感じ始めたとトーゲンがモニターに表示する。あまり大きな振動ではないらしく、中の俺たちはまったくわからない。


 ここにくるまでに歩きながらレオンタインがサンダーバードとデスワームのことを教えてくれていた。

 デスワームは音を頼りに地上の様子を探っているので、もし近くにいるようなら動きを止めて音を出さないようにしてやり過ごすのが一番だそうだ。


 振動がなくなってから10分ぐらいしてやっと王子が地面から耳を離して座り込んだ。


「行ったようだ」


「桃ちゃんスゴイ、私よりも先に気づくなんて」


 勇者とはいえ、ツクシちゃんは耐性スキル以外はまだそれほど高レベルのスキルないみたいだからな。〈感知〉や〈鑑定〉が高かったらトーゲンが危険だし。


「よくそんな鎧を着込んでてわかるもんだな。それとも鎧の効果なのか?」


 中の人のスキルです、とは言えないのでトーゲンに首を傾げさせておく。本人にもわからないといった(てい)を装うのだ。


「デスワームが地上に出てこなくてよかった。サンダーバードはあれを好物にしているらしいからな」


 そういう組み合わせなの?

 デスワームはエビのような味でもしておいしいんだろうかね。

 うちの第2層の畑を耕すのに使えるようだったら眷属化もいいかな、なんて思ってたんだけどパスした方がいいか。サンダーバードがやってきても困る。飛べるから海の凶悪モンスター無視して妖精島にもやってきそうだもんな。


 デスワームを警戒してかしばらくみんな口数が少なくなって、その日の野営開始。

 勇者パーティが食事するのを眺めながら、俺たちもレヴィアが作ってくれた弁当を食す。


「タマゴサンドおいしいね」


「ああ。レヴィアの腕がいいもんな。このプチトマトはうちのダンジョンで採れたやつ?」


「ええ。普通のトマトよりも私たちに使いやすくていいわね」


 前世でプチトマトを買っていてよかったぜ。

 おでんにトマト入れるの好きでさ、あの時はトマトが高かったんでプチトマトにしといたんだけど、まさかそれが大正解だったとは。


「勇者たちのバンゴハンのメニューはトン汁みたいだねー」


「エルフも肉を食うんだな」


 レオンタインも豚汁に入れられたなんだかわからない肉を気にせずに食べていた。エルフはベジタリアンじゃなかったのか。



 ◇



 深夜。見張り以外はみんな寝ている。

 まあ、テントと寝袋のようなのでなにかあったらすぐに目覚めるだろう。


「眷属にしないの?」


「今は魔王城に着く方が優先だからね。もし失敗して戦うことになったら面倒だ」


「この程度の連中ならば問題ないでしょう?」


 まあ、コルノとレヴィアもいるし勝つことはできると思う。

 でもレオンタインやマドレーヌの手の内が全部わかったわけでもないし、ツクシちゃんの聖剣もやっかいだ。

 それに、同郷の人間を手にかけるのはちょっと気がひける。悪い子ではないんだし。


「無駄に戦う必要はないよ。魔王城までの案内人として利用できれば十分」


「また情が移ったのね」


 レヴィアがため息。

 いや、おっさんは損得で計算してるんだってば。

 その証拠に情報収集も欠かさないよ。


「王妃ラクリマですか? え、神? そうではないと思いますけど」


 現在夜番中の聖女であるマドレーヌにコックリ表で聞いてみた。

 すると、返ってきたのはレオンタインとは違う見解。


「私は王妃は勇者様なのではないかと考えております」


 はい?

 今度は勇者?

 あ、でも勇者召喚の記録とか残っているのかな。

 その名前だと日本人っぽくないけど。外国人かそれとも偽名?


「いえ、召喚された勇者ではないですよ。少なくとも教会で召喚した勇者ではありません」


 どゆこと?


「勇者には二種類あるのです。異世界から呼び出された召喚勇者と、この世界で生まれながらも特殊な力を持った天然勇者の二種類が」


 ああ、そんな話もあったな。ダンジョンマスターの都市伝説じゃなかったのか。


「天然勇者で有名なのは、フドウ様ですね。謎が多い勇者様ですが、民のために常に戦っていたと記録に残っています」


 謎が多いって昨日も聞いたような。

 フドウね……なんか引っかかるんだよな。


「フドウ様の聖剣はツクシ様のと同じく炎の聖剣クリカラ。残念ながらフドウ様の死とともに失われております」


 それにしても勇者関係の話をする時のマドレーヌは目が輝いているなあ。



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