(嘘)110話 おっさんにヒロイン全員寝取られた王子が女神からチートを貰ってコーラで乾杯
2巻発売中
4月1日の2時6分に投稿です
勇者パーティと合流してから二日目。
魔王城を目指して荒地を歩く。わりと難所が多い。野良モンスターも出てくるし。こんな荒野であいつらなに食ってるんだろう?
サボテンのモンスターは食用になるみたいだけど遭遇したサボモン強かったから、それを餌にしてるのか疑問である。
夕食はツクシちゃんの希望でまたもすいとん。サボモンの欠片入り。
おっさん的には貧乏食のイメージがあるこれをこんなに喜ぶなんて、不憫すぎる。
あまりにも哀れなのでトーゲンが持ってたということにして前世の菓子をあげてしまった。
「い、いいの、これ貰っちゃって!?」
貰った菓子を手に大興奮のツクシちゃん。
トーゲンには「自分は食べられないし駄目になったらもったいないから」とコックリトークさせておく。
「そんなに興奮するようなものなのか?」
「そうだよ、見てよ王子この粉。幸せの粉ってむこうじゃ有名なんだよ! アレルギーのせいで食べられなかったこれをまさかこっちで食べられるなんて!」
そう。おっさんが渡したのは“幸せ回転”だ。
ツクシちゃんは嬉しそうに包みを剥いて口にする。
「これが勇者シュンが文献に残したという幸せ回転ですか。たしかに美味しいですね。まさに伝説の味です」
「あとをひく味」
自分も菓子のような名前のくせにマドレーヌも目を輝かせて味わっている。もっとも彼女の場合、味に感動してというよりは勇者に関係する菓子を食べられたのが嬉しいのだろう。
レオンタインも気に入ったのか指についた粉まで舐めている。それを凝視しているのはセドリック王子。鼻息が荒くなっているのはレオンタインの指ペロになにか別のことを考えているのかもしれない。
「桃ちゃんありがとう!!」
抱きついて喜びと感謝を表現する勇者に嫁の機嫌が悪くなった。
「ベタベタと馴れ馴れしい小娘ね」
「たしかにベタベタしてるよね、手が」
いや、おっさんにじゃなくてトーゲンにだからそんなに目くじら立てんでもいいじゃない。
◇ ◇ ◇
勇者ツクシちゃんはあんなにはしゃいだおかげか、早々に眠りについた。
トーゲンと夜番になったセドリック王子も船を漕いでいる。テントの中の聖女マドレーヌとエルフのレオンタインもだ。
当然である。
あんなにもあれを食べたのだから。
「フーマ、悪そうな顔してるよ!」
「計画どおり」
そう。
あれに塗られていたのは幸せの粉だけではない。
最初に渡したのは〈鑑定〉対策のためにそのまま普通の物だが、途中からおっさんがブレンドした妖精の粉入りのも混じっていたのだ!
その効果は睡眠薬と同じ。摂取してからしばらくすると眠くなる“睡魔妖精ブレンド”だ。
「さ、起きる前にやっちゃいますか」
「こんなことをする予定は聞いてないのだけれど。情がわいたのかしら?」
トーゲンから出たおっさんにちょっと怒った感じのレヴィア。まだ浮気を疑っている?
だが今はそれを宥めている時間すら惜しい。ツクシちゃんは耐性スキルが多かったからいつ目覚めてしまうかわからない。
「そんなんじゃないって」
言いながらもテントに潜り込み、眠ってるツクシちゃんに眷属契約を始める。
よし、契約成功! 続いて聖女とエルフも問題なく契約できた。
王子はどうするかな。土壇場まで自分以外がおっさんの配下になってるのを知らない方が面白いか?
ま、仲間外れは可哀想だから眷属にしといてあげよう。
◇
「まさか桃ちゃんがダンジョンの回し者だったなんて」
「ツクシ、ちゃんは失礼だろう」
「あ、桃さんの方がいい?」
翌朝目覚めてからも、ツクシちゃんとレオンタインはあまりショックを受けてないのか態度はほとんど変わっていない。
一方、聖女と王子は目に見えて落ち込んでいた。
「勇者様の敵であるダンジョンの手下になってしまうとは……」
「レオンタインを護れなかった……」
orz状態の二人。
うむうむ。こうでなくてはいけない。
「はいはい。ちゃんと従うように」
トーゲンのスピーカーから指示を与える。おっさんたちの顔はまだ見せない。いつ眷属契約に抵抗できるようになるかわかったもんじゃないからな。
「桃ちゃんも魔王城に向かっていたんだね」
「誰が本当の魔王かを教えようというのだろう。さすがは私の主だ」
いや、そんなこと思っていないから。レオンタインさん、順応しすぎてません?
これも妖精神の称号のおかげだろうか。
レオンタインの主発言に王子が嫉妬の目でトーゲンを見ている。寝取られたってイメージなんだろうな。
ついででも眷属にしておいてよかったぜ。
王子だけのけ者にしていたら後で“ざまぁ”されたかもしれない。前世のWEB小説みたいにさ。
「魔王じゃないっての」
「えーっ、魔王カッコイイよ!」
「そ、そうです! 相手が魔王なら私が闇堕ちしても面目が立ちます。頑張ってください!」
ちょっ、聖女までなに言ってんの。
おっさんはそんな目立つものになんてなりません!
なのに、王子以外はやたらに張り切ったまま魔王城に到着、罠や他のダンジョンマスターなんてものともせずにハイパの元にたどり着いてしまった。
「観念しておとなしく魔王の座を桃ちゃんに渡して!」
「そんなのいらないから!」
「そうか。我が主が求めるのは大魔王の座だったな」
「違うから!」
おっさんの抗議も空しく戦闘開始。玉座に座るハイパに向かってツクシちゃんが必殺技を放つ。
「獄炎独唱!」
ボエェッと凄まじい炎が聖剣から発生。
まるでドラゴンのブレスようにハイパを襲う。
「効かぬ」
だが、ハイパが左手を軽くふるっただけで炎はかき消されてしまった。
さすがは七つの大罪。大悪魔といったところか。
「勇者よ、我が配下になるがよい」
今度はハイパの両目が光を放つ。
これは〈魅了〉か!
だが勇者ちゃんはそれを受けてなお平然と弓を構える。つがえられた矢の先には金色の鏃。
「エロスの加護を持つ私にそんなものは無意味。お前こそ、恋の奴隷になるがいい! 金の矢!」
エロスの加護って魅了を防ぐの?
でもたしか前世の物語だとエロス自身は金の矢の影響受けてたよね?
おっさんがそんな疑問を持っている間に金の矢はハイパの頭に命中し、消えていった。
「……なんと素敵な方」
えっと、なんでこっちを見て頬を染めているんですかね?
ツクシちゃんの方を向いたらドヤ顔でサムズアップしてるし。
「そんな鎧なぞ脱ぎ捨てて顔を見せるがよい」
げっ、なんでトーゲンがコクピットハッチを開けちゃうの?
まさかトーゲン、魅了されちゃってるのか。
トーゲン胸部のドクロの口が大きく開くと同時に、ハイパの頭もカシャカシャと音を立てて開いていく。
ハイパ頭部の中から出てきたのは小人の美少女。
「やはり我と同じサイズ! これはもはや運命! やっと会えたな我が夫よ!」
「いえ、おっさんはもう結婚してますから」
左右の腕をコルノとレヴィアにがっちりとホールドされながらそう宣言した。
なんでこうなっちゃうのさ。
はい、というわけで、エープリルフールの嘘110話でした。
本当の110話は後日投稿します。
本編のハイパはこんなのではありません。
他のキャラも本編とはたぶん違います。




