閑話 その頃の魔王城
2巻、本日3月25日発売です
よろしくお願いします
発売記念とアンケート回答のお礼に今回は底辺ギルドメンバー編です
短いです
コーラヘヴン国の民からコーラクラウン山と呼ばれている山がある。
初代国王につけられたその名は、王の頭上の冠ではなく、コーラの瓶の栓からなのだがそれを知る者は少ない。
最近、コーラヘヴンと他二国の国境にあるコーラクラウンの麓にダンジョン“怠惰の魔王城”が出現している。
その魔王城の一角で、たそがれている男がいた。
「はぁ……」
「ため息なんかついてると幸せが逃げてくぞ、エージン」
ダンジョンマスターのエージンがついた大きなため息に、同じくダンジョンマスターであるタイガが反応した。
「幸せじゃないからため息ついてるんすよ」
「なに言ってる、ハイパのために働ける俺たちは幸せじゃないか」
そう目をキラキラと輝かせるのはやはりダンマスのスーパーひろし。仲間内から「スパひろ」の愛称で呼ばれる彼は狼の獣人の【狼人】であり、【ホワイト・ウェアタイガー】のタイガと特に仲がよく、「前後門コンビ」とも呼ばれている。
「はぁぁ……」
「どうした? あの日か?」
さらに大きなため息を吐くエージンにシモネタで返したのはポポイノポイ。【ホブゴブリン】のダンジョンマスターだ。通称は「ポポポ」もしくは「3P」。
ちなみにこの世界のホブゴブリンはゴブリンよりも小柄で人類種に好意的な種族。ブラウニーやシルキーと同じお手伝い妖精である。
「勇者が近づいているらしいっすよ。オイラたちどうなっちゃうんすかねえ?」
「勇者か。やっかいだな。ハイパを護りきれるか心配だ」
「そうだな。俺たちが護ってやらないと!」
前後門コンビの回答にため息どころか頭を抱えたくなるエージン。
ここまで〈魅了〉されているのでは、逃げようと誘ってもついてこないだろう、と。
「これだけだけダンジョンマスターがそろっていれいれば、勇者など敵ではないない」
壊れたレコードのように一部繰り返しながらそう言うのはカニミツ。【ハーフエルブンゾンビ】の彼は種族のせいか記憶力があまりよくない。
「勇者は洒落にならないっす。忘れちゃダメっすよ」
「そうですよね。ハイパも遠慮しないで私たちの眷属をこの魔王城に呼ばせてくれればいいのに」
「あ、任務終了。異常なしだぜ」
バササッと翼をはためかせて着地した二人は【鳥人】コトリと【堕天使】ジンゴだ。飛行能力を活かして周辺を偵察し戻ったところである。もっとも、すぐにサボろうとするジンゴをコトリが叱りながらの偵察であったが。
「ハイパが眷属を呼ばせないのは別の理由があるっすよ」
そう言いたいのに言えないエージン。
自分のマスターの状態異常に気づいた眷属によって〈魅了〉を解かれるのを恐れている、彼はそうふんでいる。だが、すでに魅了されている他のダンマスたちに言っても聞いてはくれないだろう。
ハイパに自分が魅了されていないのを気づかれるわけにもいかないので、エージンはそれも黙っているしかできなかった。
◇ ◇
夜。外壁の上でエージンは月を見ていた。
視線を落とせば、番犬のように門を護る【ボーン・デット・ドラゴン】のリュウジと、西部劇のように転がっている【アルラウネ・タンブルウィード】マリモが映る。
彼らは室内よりも屋外がいいと門の周辺を寝床としていた。
「姉御に会いたいっす」
「ヴァンパイアの姫君っチュか。さぞ美しいんだろっチュね」
「もちろんっすよ。おっぱいが小さいことなんてささいなことっす」
「それがいいんじゃないか。ロリ巨乳は邪道である!」
再びエージンにため息をつかせたのは【ラットマン】ソラタとパタパタと翼を動かし浮遊する目玉【ゲイザー】のベアドン。
漢字で書くと宙太のため「チュータ」の愛称で呼ばれているソラタの語尾はキャラ付けらしく、焦ると普通に喋る。
「そんな美人ならハイパに紹介してやりたいが、連絡がつかないのは無念」
【マーメイド】にフラれ続けているとよく愚痴っていた【マーマン】マグロウの言葉に涙さえ出そうになるのをぐっと堪えるエージン。
「こんな時、アニキがいればなんとかしてくれるのに」
その嘆きに頷く骨二人。【スケルトン】メビウスと【ガシャドクロ】カタナシである。
「会えなかったのは残念だ。カタナシのリサイズを考えてくれた礼を言いたかったのに」
メビウスの言葉にカタナシはカタカタと歯を鳴らす。
彼の姿は一言で言えば、デフォルメ体形の人骨。大きな頭の横に肘のない腕、頭の下に足首しかない足という姿だった。
ガシャドクロという大きな身体の種族なのだが、そのためにギルドメンバーが邪神のダンジョン集合時、通路などで邪魔にならないよう縮こまっていることが多く、エージンはそれをフーマに相談。
その解決策が現在の姿である。「ほら、あの海賊漫画のバラバラのやつ、パーツを取られてちっちゃくなっちゃったじゃん。あれを自分でやればいいんじゃない?」とフーマに提案され、カタナシは実践しているのだ。
余った骨は自分のアイテムボックスに収納することで、多少動きは悪くなるが皆に遠慮しないでよくなるこのモードをカタナシは気に入っていた。
「喉の骨がないと喋れなくなるって、どんな構造してるんすかね?」
「声帯なんて俺たちにはないんだがなあ」
メビウスと一緒に首を捻りながらも、フーマならきっとこのカタナシのように自分たちを助けてくれる。エージンはそう願わずにはいられなかった。
クイズ及びアンケートにご協力ありがとうございました。
イメージしていたキャラと違っていたらごめんなさい。
彼らはこの後も登場予定です。
回答者紹介
タイガ【ホワイト・ウェアタイガー】奥山 千尋さん
ベアドン【ゲイザー】虎海鼠さん
リュウジ【ボーン・デット・ドラゴン】赤王将さん
ソラタ【ラットマン】sinn3さん
メビウス【スケルトン】たらさん
ポポイノポイ【ホブゴブリン】routeendさん
コトリ【鳥人】闇色の月さん
マリモ【アルラウネ・タンブルウィード】デョさん
カタナシ【ガシャドクロ】古賀志 七門さん




