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108話 水団

2巻、3月25日発売です

よろしくお願いします

 焚き火を囲みながら情報収集を続ける。


「ここまで……うん、一ヶ月ぐらいかな? 召喚されてすぐに王子に連れられて魔王を倒しに旅をすることになって。酷いよね」


「本来ならば教会で訓練をしてから勇者様を送り出して差し上げたかったのですが、そうもいかず」


 申し訳なさそうな聖女。どんな理由があるんだろう。


「目指す魔王城は我がコーラヘブンを含む三国の国境に跨る山にあるのだ。それゆえ、うかつに兵を出すと面倒でな。勇者を向かわせるなどもっての他。この旅も極秘なのだ」


 侵略扱いされて戦争になるってこと?

 それを防ぐため、軍が攻めてくることも少なそうだ。ハイパはそこまで考えてダンジョンを創ったのだろうか。


「その割にはトラックスーツが綺麗? ちゃんとトラックスーツって言ってくれるんだね、桃ちゃんエライ!」


 ツクシちゃんが上機嫌になったようだ。

 なんだろ、寝巻きとでも言われたことがあったのかね?


「これね、私が召喚された時に神の加護ってのがかかってるみたいでとっても丈夫」


 なるほど。マジックアイテム化してるのか。

 ……もしかしたらそれだけじゃなくて下着も加護を受けてるのかもしれないな。聞かないというか聞けないけどさ。



 ◇



 聖女マドレーヌとエルフのレオンタインが料理してるのを眺めながら勇者ツクシちゃんとコックリトークを続行。

 セドリック王子の方は辺りに気を配っている。……フリをしながらチラチラとレオンタインを眺めていた。


「えっ、桃ちゃん、食事できないの?」


 トーゲンに頷かせ、「呪いのせいで鎧が脱げない。お腹も空かない」とマントを指差させる。

 だってトーゲンってばゴーレム。食事なんてできないもんな。エネルギーはおっさんがMPを譲渡するだけだし。


「そう……必ず呪いを解こう!」


「鎧が脱げないというのは本当か?」


 王子の質問に再び頷くトーゲン。本当は脱がせることもできるけど、簡単には脱げない。他人が脱がすこともコルノ以外にはできないだろう。


「そうか」


 ほっとした表情を見せる王子。

 きっと恋敵に成りえないと知って安心したのだろう。


「鎧が脱げないというのは大変だが、そのままでもきっといい事もあるだろう。落ち込むんじゃないぞ」


 慰めているつもりなのか、馴れ馴れしくぽんぽんとトーゲンの肩を叩いてくる。そのままでいてほしいのもありありとわかってしまうなあ。


 視界の隅では焚き火の上に吊るした鍋にレオンタインがアイテムバッグから瓶を取り出し、その中の物を匙ですくって入れていた。

 あれ? あれってもしかして?


「どうしたの桃ちゃん? ああ、あれが気になるんだね。そうだよ、あれはお味噌だよ」


「初代王の遺産の一つだ。コーラを作り出すことこそ叶わなかったが、初代王はミソやトーフなどを我が国に残したのだ」


 なるほど。味噌や豆腐ならおっさんにも作れる気がする。

 味噌はちょっと難易度が高そうだけど、苦汁(にがり)を海水から作ることさえできれば豆腐はできるはずだ。

 もっと簡単そうなのは納豆なんだけど、あれは稲わらがないと。

 勇者もダンジョンを破壊するだけじゃなくて、知識を活かしてこの世界に変化をもたらしているということか。


「前は大豆アレルギーも持ってたから無理だったんだけど、まさかこっちの世界でお味噌汁が飲めるとはね」


 苦笑するツクシちゃん。勇者になった時に神様にアレルギーを治してもらったけれど、以前は多くのアレルギーで苦労していたらしい。

 今度はトーゲンにツクシちゃんの頭をやさしくぽんぽんさせる。


「桃ちゃんまで私を子供扱いして!」


 文句を言いつつもそのままトーゲンの手を退けようとしてないので嫌がってはいないようだ。



 味噌汁の具は高野豆腐のように乾燥させた豆腐と、同じく乾燥させていた海藻らしきもの。たぶん、たまにうちでも使っているワカメもどきだろう。

 水は魔法で出せばいいから乾物は携帯食に向いているのか。

 そして、いっしょに食べるのは……パン。


「パンもアレルギーがあったから、食べられるようになったのはいいんだけど、こう毎回味噌汁と合わせられると日本人としては微妙な気分」


 ふむ。コーラヘブンにはやはり米がないのかな。とすると味噌は麦味噌か。

 でもさ、小麦があるならさ。


「え? 味噌ラーメンか味噌煮込みうどんにすればいい? ……それだ! 王子、麺はないの?」


「すまん。麺は持ってこなかった。小麦粉ならあるんだが」


 どうやらアイテムバッグに食材を用意したのは王子で、適当に持ってきたため、道中でも補給しながらここまでやってきたらしい。


「桃ちゃん、手打ちできる? ……鎧が脱げないんじゃ無理か」


 がっくりと肩を落とすツクシちゃん。平らな板でもなきゃ手打ちなんてできそうに……まさかこの盾でやらせるつもりだったのか?

 たしかに紋章は彫金ってわけじゃないからまっ平らだけどさ。

 あんまりがっかりしてるので、妥協案を出す。


「えっ、スイトンなら簡単にできる? 桃ちゃん、スイトンってなに? 地方の郷土料理?」


 なん、だと。

 これがジェネレーションギャップ?

 最近の子は水団も知らないのか。

 ショックを受けながらも、味噌汁とは別の鍋を借りて小麦粉と塩を少し貰って入れ、〈水魔法〉で水を出そうとして思い止まる。危ない。手の内を明かすとこだった。こっちが魔法を使えるのは隠しておいた方がいいだろう。


 レオンタインに水を出してもらって鍋に適量注ぎ、よくかき混ぜてからお玉ですくい、焚き火の鍋に投入する。あまり大きくならないように少なめにしておいた方が生煮えになりにくい。


「煮えたらできあがり?」


 そう。小麦粉の加減がわからないので水の量を調整しながら試し、三個目でやっと満足のいく出来になったのでツクシちゃんの椀によそる。失敗作は王子にあげておこう。


「これがスイトン? ニョッキみたいな感じだね」


 水団は知らないでニョッキは知ってるのか。あれはジャガイモとかを入れるやつでしょ。日本人ならせめて白玉と言ってほしいとこだ。


「味は……美味しい! モチモチしてパンよりずっとこの汁に合う! 桃ちゃんスゴイ!」


 ずっと火にかかっているので少し煮詰まった感じだがそれが合ったのかもしれない。

 まあ、おっさんの腕がいいのも確かだけどな。〈料理〉スキルが仕事してくれたんだろう。


「ありがと桃ちゃん」


 うむ。元気が出てきたようだ。よかった。


 ……って、勇者を元気にしちゃまずかったかな。

 そうだ、ここはこう心の中で言っておけばいいか。


 おかわりもいいぞ。



早い書店ではもう販売されているようです

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