106話 セドリック王子
2巻、3月25日発売です
よろしくお願いします
コルノ 》 フーマ、まだなの?
フーマ 》 すまん。勇者と遭遇してしまった
コルノ 》 だいじょうぶなの?
フーマ 》 今のとこは誤魔化せているみたいだ。危なくなったらすぐに逃げるよ
コルノ 》 そう。気をつけて。ボクたちはどうすればいい?
すぐに迎えにいく予定が遅くなったので連絡してきたコルノに事情を説明する。
心配している彼女には悪いが、今はちょっと迎えに行けそうにない。
フーマ 》 もう少し待っていてくれ
コルノ 》 わかった。フーマは?
フーマ 》 おっさんはもう少し勇者たちと行動を共にする
フーマ 》 やつら、目的のダンジョンを目指してるみたいだからさ
コックリさん式会話によって、勇者たちの目標も“怠惰の魔王城”であることが判明した。この“強強の毛皮”にいたのは、パーティの慣らしが理由だったらしい。
それもほとんど済み、おっさんと会ったのはダンジョンから出る途中だったとのこと。俺も出口を探していたと告げると「いっしょに行こうよ」と誘われてしまった。
◆ ◆
「魔王城なら桃ちゃんの呪いを解く方法が見つかるかもしれないし」
一緒って、出口じゃなくて魔王城まで!?
そりゃおっさんの目的地もそこだけどさあ。気が休まりそうにない。
……でも勇者たちの動向を探るにはその方がいいのか? もしかしたら弱点が見つかるかもしれない。
「ツクシ様、このような怪しいやつを同行させるおつもりですか?」
「そう。嫌だって言うなら私は桃ちゃんと二人だけで行くから」
止めようとする王子に勇者が強気に出た。なぜかツクシちゃんはトーゲンを気に入ってるらしい。記憶喪失とはいえ、同郷の人間が嬉しいのかな。
「私は勇者ツクシ様に従いますわ」
「この人は怪しくない。鎧の洗練された美しさがわからないなんてセドはおかしい」
「そうだよ。このドクロとか、禍々しくてちょーカッコいい」
勇者贔屓の聖女に、トーゲンを褒めるエルフと勇者。レオンタインって妖精だからおっさんを感じているのかと思ったけどそうじゃなくて、トーゲンのデザインをお気に召した模様。
ツクシちゃんはどうやら中二病を患っているらしい。年齢からしたらドンピシャだもんなあ。
「嫌とは言っておりません。ただの確認です」
「そう。それじゃあいっしょに行こうね、桃ちゃん」
ふむ。さっきから気になっているけど「それじゃ」ではなく「それじゃあ」なのね。あれの影響? 立ち方は普通だけど。
つか、おっさんに選択肢はくれないのかよ。一緒に行くこと決定なのね。
◆ ◆
コルノ 》 わかった。ホントに気をつけるんだよ
フーマ 》 うん。コルノはサッキィからエージンのギルドのダンマスのことを聞いておいてくれ
コルノ 》 それはいいけど。レヴィアちゃんがね、勇者が女かどうか確認してくれって。あと勇者の他の人の性別も聞いてって
なんでそんなこと……もしかして浮気を疑われている?
フーマ 》 勇者は女で、他に聖女と女エルフもいる。男は王子だけ。
フーマ 》 でもね、浮気なんかじゃないから!
フーマ 》 勇者と一緒に行動してた方が都合がいいからそうするだけだから!
コルノ 》 そんなに必死になられると逆に怪しい
ぐふっ。どう説明すればわかってもらえるんだろう?
エージンたちのことなんかほっぽり出して、すぐにでも帰って弁解するしかないのだろうか。
フーマ 》 相手は勇者でしかも、おっさんよりも大きいの。対象になんかならないから!
コルノ 》 信じてるよ、フーマ
フーマ 》 愛してるよ、コルノ。レヴィアにも愛してるって伝えてくれ
コルノ 》 う、うん。ボクも愛してるよ!
ふう。家庭崩壊の危機は去ったか?
未だに恥ずかしくて「愛してる」なんて滅多に言えないおっさんだけどそれがよかったのかな。帰ったら何度も言わなければと考えると、恥ずか死にそう。
……いや、そんなことしたら逆に浮気を疑われる? いったいどうすればいいんだ?
「桃ちゃん、もうすぐ出口だよ」
トーゲンを歩かせながら眷属チャットをしてる間に出口についたようだ。
途中、モンスターの群れと遭遇した。【ダイアウルフ】は予想以上に大きく、あの映画の山犬より少し小さいぐらいの狼だった。第1層の階層ボスはもしかして尻尾が二本あるんじゃなかろうか?
その巨大狼の群れをなんなく屠っていく勇者パーティ。ツクシちゃんなんか剣が燃え盛っているし。たぶんあれが聖剣なんだろう。
トーゲンもそれなりに戦えた。ダイアウルフは速かったけど〈頑丈〉スキルも習得しているトーゲンの重装甲にはかすり傷程度しか与えられない。
このパーティでトーゲンが戦うとしたら盾役が相応しいのだろう。もっとも、それが必要そうには見えなかったが。
「ダンジョンを出たら休憩しよう」
床に刻んだコックリ表は当然のように持ち運べないため、トーゲンには頷かせることしかできない。
強強の毛皮ダンジョンの出入り口は石を積み上げて門のようになっていた。明らかに自然にできたものではないとわかる大きな門だ。
近くには「ダンジョンだから注意するように」と書かれた立て札も立っている。
あれ? 現地人の識字率って意外に高いのだろうか?
出口付近には鎧姿の男が数人待っていた。統一された鎧を着ているから騎士なんだろう。
「ご苦労。変わりはないか?」
「はっ。依頼を受けた冒険者以外はダンジョンへ入場しておりません」
「うむ。この者に見覚えは?」
騎士に問う王子と、敬礼してから答える騎士。こっちを指差す王子はまだ疑っているようだ。
「いえ。初めて見ます」
「桃ちゃんだよ。私たちの仲間になったんだ」
ツクシちゃん、そんなに簡単に信じちゃっていいの? おっさん心配になってくるんだけど。
それとツクシちゃんみたいな可愛い女の子ならともかく、男に「桃ちゃん」と呼ばれてもツライので、トーゲンに首を横に振らせる。
「名前は桃幻卿だったろう、ツクシ」
レオンタインがフォローしてくれた。よかった。トーゲンに何度も頷かせておく。
「騎士たちが見てないとなるとどうやってダンジョンに入ったんだ?」
「私たちが着く前にダンジョンに入ってたに決まってるけど」
王子の当然の疑問にも折れないツクシちゃんの信頼。
ううっ、騙しているおっさんのデリケートなハートが痛い。
◇
「おい、貴様」
ツクシちゃんの宣言どおり、ダンジョンを出てすぐの騎士たちが野営していた場所で休憩となった。
そこで、トーゲンは王子と騎士たちに囲まれて尋問を受けている。
勇者パーティの女性陣が花摘みに言ってる間に、というつもりだろう。彼女たちは休憩が始まってすぐに連れ立って出ていった。ダンジョンには普通、トイレないもんなあ。
「貴様の目的はなんだ?」
そう言われてもね、素直に答えることなんてできないでしょ。
微動だにしないトーゲンに王子は「フン」と鼻を鳴らし、騎士にコックリ表を書かせる。さっきのと違い右足大陸語なので五十音ではないが、スキルのおかげでわかる。ちゃんと「はい」と「いいえ」も書くように指示を出す王子。意外と面倒見がいいのかもしれない。
「これで話せるだろう。答えろ! 貴様は誰を狙っている!?」
は?
「王子、いきなりそんなことを言っても理解できないと思いますが。それと男ならば可憐な聖女マドレーヌ様に憧れるのが当然かと」
「お待ちください騎士団長。同郷であるならば勇者様に惚れてもおかしくはありません」
「なんだと貴様。勇者様はまだ幼いんだぞ」
「勇者様いいじゃないですか! あのちっこ良さがわかないなんて!」
ええと。
なんですかこの、推しメンで盛り上がる男子中高生みたいなノリは?
あと、騎士の数は八人しかいないのに騎士団長混じってるの?
騎士の総数が少ないのか、少数精鋭で選んだメンバーなのか、どっちだ?
「お前らいい加減にしろ! 一番いい女はレオンタインに決まってるだろ!」
王子が一喝。やっぱりこの王子はレオンタインに惚れているのね。
コックリ表で「王子はレオンタインが好き」と指差すと、騎士全員が大きく頷き、王子がわたわたし始める。
「ば、ばばば、馬鹿なことを言うな。俺がレオンタインを好きなんて……」
「とっくにバレています王子。人をさらう魔王にレオンタインが拐かされぬよう、聖女に勇者召喚を命じたのにもみんなが気づいていますぞ」
「な、なんだと……」
真っ赤になって蹲り頭を抱える王子。
かなりわかり易かったけど気づかれてないとでも思っていたんだろうか。
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