105話 勇者パーティ
2巻、3月25日発売です
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邪神のダンジョンの外に出て、コルノとレヴィアを連れてくるはずがその前にダンジョン攻略者らしき一行と遭遇してしまった。
しかもダンジョンマスターではなく現地の人間っぽい。
トーゲンに乗っていてよかった。弱いとされている小人がダンジョンなんかにいたら不審すぎるからな。
「怪しいやつめ!」
パーティの唯一の男が剣を向けてきた。
そんな。怪しくないようにトーゲンに乗ってるのに!
「お待ちください王子。もしかしたら彼は勇者様のお供の方かもしれません」
「馬鹿なことを言うな。こんなに怪しい鎧を着たやつが勇者様の関係者なはずがないだろう」
怪しい鎧……たしかにそうだった。もう見慣れて感覚が麻痺してたけど、トーゲンってば怪しい外見だった。
あとこの男が王子? シーフじゃなかったのか。神官だか司祭だかわからないそれっぽい服を着た少女がそう呼んでるけど。
「知らないのですか? 勇者のお供にはピンクの鎧の戦士がいるのですよ」
「回復スライムの相棒のおじさんね。それ、ゲームの話だから」
神官少女の台詞に黄色いトラックスーツの少女がツッコミを入れた。
ああ、あの国民的RPGの4に出てくる……それがわかるって、このトラックスーツ少女はもしかして!?
「さすがエロスの勇者様。勇者は勇者を知るのですね!」
トラックスーツの時点で怪しすぎるけど、やっぱり武闘家じゃなくて勇者だったのね。でもエロスの勇者ってのは不穏すぎるな。
「お願い、それやめてって言ってるでしょ。いい加減名前で呼んでってば」
「では、エロスの勇者ツクシ様!」
「エロスを抜けっての! たしかに加護はもらってるけど、私はエロなんかじゃあないんだから!」
加護?
〈鑑定〉してみると確かに[エロスの加護]を持っていた。そして間違いなく[勇者]である。
スキルは〈耐性〉スキルを色々持っているな。攻撃では〈剣〉と〈火魔法〉が高いようだ。む……なにか違和感が。もしかしてトーゲンのように偽装してる?
「うわ!?」
「どうしたツクシ?」
勇者少女があげた声にエルフの女が反応する。年はたぶんこのエルフが一番上だろう。全員二十歳以下に見える若いパーティだ。エルフはもっと上だろうけどさ。
顔はエルフらしく美形。なのだが、超美少女であるコルノ、レヴィア、リニアや、美形が多い妖精を見慣れてしまったのかそれほどに思えない“普通”の美人である。
おっさんの周りってクオリティ高すぎだよね。
「この人、呪われてる」
「人? 人間なのか?」
「そう。鑑定したら人間って出てきた」
どうやらおっさんだけじゃなくて勇者少女も〈鑑定〉を使っていたようだ。
彼女の名前はツクシ・ゴーダ。漢字はわからない。レベルを上げればわかるようになるかな?
「呪いですか。どんな呪いかわかりますか勇者様?」
「鑑定結果には呪いってしか出てないからそこまでは……ただ、ステータスのほとんどが文字化けしていて読めない」
そう。これこそが悩んで編み出した擬装方法。
自然にできないなら逆に無茶苦茶不自然にして、その原因を呪いのせいだと思わせる、だ。
「わかるのは呪われているってことと種族と名前ぐらい。この人、桃幻卿って言うんだって」
「え? どこかの貴族なのか?」
「だからわかんないって」
剣を向けたままの男の疑問に答える勇者ツクシ。
ついでに〈鑑定〉したところ、この王子の名は[セドリック・コーラヘヴン]だった。クラスは[第一王子]。それってクラスでいいんだろうか?
「どんな呪いかわかれば解呪できるかもしれないのですが……」
申し訳なさそうに言う彼女は[マドレーヌ]。洋菓子みたいな名前だがクラスは[聖女]。
なに? 勇者と王子と聖女が同じパーティにいるの? まるでゲームの主人公パーティみたいじゃないか。勇者の時点で主人公みたいだけどさ……。
「呪い? 逆に神々しさを感じるのだが」
うっとりとしているように見えるエルフ。エルフも妖精枠だからもしかしておっさんの妖精神を感じてしまったのかも。マズイな。
「やはりレオンタインの趣味はよくわかりませんね」
「なにを言う! レオンタインの言うように光り輝く素晴らしい鎧ではないか!」
エルフ女ことレオンタインに追随してあっさりと意見を翻すコーラ天国王子。あんた怪しいって言うてたやろ。
レオンタインのクラスは見た目どおりの[魔法使い]でレベルも彼女が一番高い。
「たぶんその鎧が呪われてるんじゃあないかな?」
ツクシちゃんの呟きにトーゲンに頷くように指示を出す。途端、ツクシちゃんの表情が驚きに彩られる。
「え?」
「どうしたツクシ?」
「この人、日本語に反応した!」
あ、ツクシちゃん日本語で呟いていた。呪いで通そうとして咄嗟に反応してしまったのは失敗だったか。
「私は剛田ツクシ! あなたは?」
ずいっと近づいてきて自己紹介を始めるツクシちゃん。むう、年齢から言って中学生と思われる彼女にはつい、ちゃん付けになってしまうな。
だからそうじゃなくて!
なんて答えれば……だいたいキミは〈鑑定〉でトーゲンの名前もわかってるでしょ!
予定外の事態におっさんがあわあわしてトーゲンに指示を出せないでいるとレオンタインが救いの手を差し伸べてくれた。
「呪いのせいで喋れないのでは?」
焦ったおっさんはそれに飛びついた。再びトーゲンに頷かせる。今度はブンブンと何度もだ。
「そう。ごめんなさい」
頭を下げるツクシちゃん。どうやら悪い子ではないらしい。こちらもトーゲンに頭を下げさせる。
うん。日本人らしい光景だ。
「せっかく日本人に会えたのに……そうだ!」
ツクシちゃんは屈みこみ、剣を抜いてダンジョンの床にあいうえおと書き出した。うわ、剣が燃えてるよ。もしかしてそれ聖剣?
硬いダンジョン床を難なく削っていくのだからたぶん間違いあるまい。
ヤバイな、トーゲンの装甲もあっさりと斬られそう。なんとか敵対しないように誤魔化さねば。
「これなら話せるよね!」
できあがった五十音表を指差すツクシちゃん。“はい”、“いいえ”も書かれた親切な表だ。あれ、この方法どっかで……コックリさんじゃないか!
ダメだよ。おっさんの学校ではコックリさんは禁止されていたんだ!
◇
「気づいたらその鎧を着てこの世界にいた? それまでの記憶もない?」
トーゲンに“はい”を指差させる。
呪いのせいで喋れないだけでなく、記憶喪失という設定にしてしまった。聖剣を見てアキラを思い出したせいだろう。
決して、面倒くさくなったわけではない。
「あなたも苦労したのね」
身の安全と情報を得るためにツクシちゃんの相手を続けているけど、さっきとは別の意味でヤバイ。
この子、いい子だ。おっさんの境遇に涙を浮かべている。……それともよくわからない内に召喚されたという自分に重ね合わせてしまったのだろうか。
「うん。桃ちゃんの呪いを解くの、私も手伝う!」
いい子だなあ。
……もっと嫌なやつだったらよかったのに。
もしもの時にこの子を始末することがおっさんにできるだろうか?
あとさ、トーゲンのこと“桃ちゃん”て呼ぶのはちょっとどうかと思う。
悩んだ挙句、勇者パーティの名前はこうなりました
オーバーラップ様のサイトで2巻の立ち読みと口絵が公開されています




