104話 怪鳥音入りのカセットテープとか売っていたらしい
2巻、3月25日発売予定です
よろしくお願いします
さて。エージンたち救出作戦の実行で、まず一つ目の問題はどうやって目的地に到達するかなわけだが。
「近いのは邪神のダンジョン“強強の毛皮”らしい」
「変な名前だね」
「毛皮持ちのモンスターが多いのかもな。今回は外への出口までしか通らない予定だけど。ただ、このダンジョンは現地の人類種も発見していて、進入してくることもあるらしい」
主に一番数の多い人間、それに人間と交配できるエルフやドワーフ、獣人たち等の人間に好意的な種族をまとめてこの世界では人類種と呼んでいる。人間こそが神に最も愛されている種族だから、がその理由らしい。
子供さえできれば人類種と言えるので、ドラゴンや魔族が人類種になるかが論争になるとミーアが言っていた。もっともそれで騒ぐのは学者だけで、当のドラゴンや魔族は人類種かどうかなどどうでもいいいようだ。
小人系種族はエルフやドワーフと同じ妖精も多いのに、人間と子供を生せないので人類種には含まれない。そのせいで格下に見られ、この世界では小人が弱い扱いになっているのかもしれない。
「そんなに難しくないダンジョンなのかな?」
「どうだろ? 時間があれば攻略してみたい気もするな。牛を探してさ」
牛がいれば乳製品が作れるようになるからな。できれば小人サイズの方が乳搾りがやりやすそうでいいんだが。
「ミノタウロスじゃ駄目なのかにゃ? DPで買えるモンスターにいたはずにゃ」
「首から下は人型だろ。それの乳を搾れと?」
メスのミノタウロスがいるかがまず疑問だけど、もしいたとしてもそれの搾乳を小人がやるのは凄い光景になりそう。
「却下ね」
「ミルクのことならサキュバスが詳しいはずだよ。エージンの眷属の彼女に聞いてみればいい」
ミーアのアドバイスで、そういえば前世でそんな話もあったなと思い出す。サキュバス避けに枕元にミルクを用意しておく風習だ。
むう。こりゃいよいよエージンたちを助けないといけなくなってきたか。
「あまりサキュバスなどにかかわってほしくないのだけれど」
「安心してよレヴィア。エージンのおっぱいハーレムに手を出すつもりなんてないから。おっさんには可愛い嫁さんがいるんだからさ」
サキュバス。オタク男子のロマン種族ではあるのだが今のおっさんには不要。いや、フィギュアは持ってるけどね。
夢を操って、いい夢を見せてくれそうというのは捨てがたいけど、超美少女と暮らす現実が既に夢のような状況だ。これ以上夢で望むものが思いつかん。
「夢魔か。幻夢共和国の妖精大統領もそんな力を持ってる」
「知ってるのかリニア?」
「ああ。マブがまだ妖精大統領らしいからね。彼女はモルガンと同じく、ディアナ様と仲がよかったんだ」
リニアってばモルガンとも親しかったし、三国の女王と知り合いとか、もう姫騎士って呼んでもいいかもしれんな。姫騎士リニア……黒騎士かクマ騎士の方がしっくりくる。ここは“黒い姫騎士”でどうかな。
「ドリームランドの住人なら夢の中での行動も慣れたもんにゃ」
「そう。とくにケットシーは寝子だからね。寝るのは得意分野なんだ」
さすが国名にドリームってついているだけのことはあるな。
モルガンいわく最近ドリームランドに邪神のダンジョンの影がちらつくらしいけど、そのうち調査に行きたい。
あ、うちのダンジョンにも夢で侵入されるってのもありえるのか?
「一応、夢での攻撃にも気つけ薬が効くと思う。渡しておくから万一の時は使ってみてくれ」
「ゴーレムは寝ないから大丈夫だと思うよー」
見回りのゴーレムにも渡しておくか。妖精たちのイタズラにも対応できるだろう。
その判断が量産型には難しいんだよなあ。眷属フェアリーに期待するしかないか。……フェアリー少女だけだな。ショタフェアリーたちは最近脳筋化が進んでいる。
「留守中なにかあってもみんなが対処してくれるよ。眷属チャットもあるしね」
「はっ。お任せでアリます、コルノ奥様!」
ビシッと敬礼するアンコとムリアン少女たち。ショタフェアリーたちも真似して敬礼していた。
「そうだな。トーゲンの調整が済み次第、まずはおっさんが強強の毛皮の出口を探してくる。外に出たらすぐに転移で戻ってきてコルノとレヴィアを迎えにくるよ」
邪神のダンジョンへは、登録されている邪神のダンジョンなら、ホームページ“ダンジョンの館”で選ぶことで転送魔法陣を開くことができ、それによって移動できる。
ただしこのポータルはダンジョンレベルが10以上ないと眷属を連れていくことができない。そしてダンジョンでの〈転移〉なのだが、関係者以外はダンジョンから外へ、もしくは外からダンジョンへの〈転移〉が使えない。
だからまず俺とトーゲンだけで邪神のダンジョンへ行って、外に出てから〈転移〉を使う予定だ。
「トーゲンも連れていくの?」
「ダンジョン内には人類種もいるからな。念のためだよ」
トーゲンが人間を騙せるかのチェックも兼ねている。
できればハイパにもダンジョンマスターであることがばれないようにしたい。恨まれたらやっかいそうだし。
◇ ◇
「どう? リヴァイアサンの目でゴーレムってわかる?」
「そうね。まだ少し怪しいところがあるわね」
むう。〈鑑定妨害〉スキルでトーゲンに施した偽装をレヴィアに調べてもらったんだけど、まだ不自然な箇所があるようだ。
たぶん人間相手ならなんとか騙せそうだけど、もし勇者に遭遇したら危険だ。
「じゃこうしよう。鎧の呪いで鑑定結果もおかしくなるってことにして」
「完璧に偽装するのではなく、おかしい理由をつけるのね」
「そういうこと」
鑑定結果の中に[状態:呪い]を入れておいた。なんかあったら鎧の呪いってことで押し切ろう。
「他はもーいいかな?」
コルノによってトーゲンは修復された。
未熟者のダンジョンで受けた傷のほとんどはMPによって自動修復されているけどトーゲンの鎧は鉄製なので、ストーンゴーレムよりも修復に使われるMPが多いらしい。
ゴーレムの自動修復は素材が特殊になればその分余計にMPを使うことになる。ミスリルやオリハルコンといったレアメタルでゴーレムを造って自動修復でレアメタル養殖というのはちょっと無理があるようだ。
付近に破損部分が落ちてればそれを使用するからMPの消費は抑えられるので、実用性がないわけでもない。
トーゲンの場合は、落とし穴特訓のあとに未熟者のダンジョンを徘徊してゴブリンを狩ってレベル上げしたから破損した時の欠片が散らばっちゃってるんだよね。まあ、鎧の表面をちょっと削られた程度なんだけど、MPで直すよりもコルノに直接直してもらった方が早いので今回はそっちにした。
「うん。これなら大丈夫だろう」
「まあ、ボクもいっしょに行くから問題があったら現地でたいしょだね」
軽くトーゲンを動かして調子を確認する。レベルアップによってトーゲンの速度はかなり上がっている。これならなんとかなるだろう。
「ゴ!」
「フーマをよろしく頼む、だって」
ゴータローにトーゲンが話しているのをコルノが通訳してくれた。
ゴータローは進化して【キャプテンゴーレム】になっている。装備させたキャプテンキャップの影響なのは間違いあるまい。
キャプテンであるゴータローにとってうちのゴーレムは全て部員、いや部下みたいなもんなんだろうな。
あ、通訳で思い出した。現地の言葉を覚えておかなきゃ。ええと……【右足大陸語】でいいのかな?
DPで購入しておこう。
◇
「それじゃ行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
「気をつけるのよ」
妻とのキスで送られて、ポータルで強強の毛皮に移動する。
見た目は未熟者のダンジョンのポータル部屋とたいして変わらないようだ。
付近に誰もいないことを確認してからアイテムボックスからトーゲンを出して乗り込む。
〈感知〉を使いながら慎重にポータル部屋を出てダンジョンの出口を探す。
掲示板でちょっとだけ情報を集めてからきたけど、この第1層にいるのは【ダイアウルフ】。群れで行動するらしく、見つかるとやっかいだ。
〈隠形〉で見つからないようにいきたいとこだけど、トーゲンが〈隠形〉スキルを持ってないのでたぶん意味がないだろう。
ちなみに掲示板ではマップは見つからなかった。どうやらマップデータは削除されてしまうらしい。
運営よ、邪神のダンジョンを攻略させたいのか、そうじゃないのかどっちなんだよ!
チッ、〈感知〉に反応がある。しかも四つ。……いや、これは人間か?
どうする?
いきなりの遭遇に少し迷ったが、ここは思い切って会ってみることにした。
トーゲンの偽装が通用するかどうか。通用しなかったら襲われるのだろうか?
その時、おっさんが人間相手にちゃんと戦えるかどうか……って考えていたら足音が近づいてきた。
深呼吸深呼吸……ここは気さくにトーゲンに軽く手を上げて挨拶させよう。
「誰かいる」
「他の冒険者?」
現れたのはやはり四人。男一人に女三人か。まさかハーレムパーティ?
男は軽装でシーフ? にしてはちょっと派手な格好だな。いや、派手さではトーゲンの方が上だけどさ。
魔法使いっぽい杖を持ったローブの女は耳がとんがっているからもしかしたらエルフかもしれない。初エルフキター!
聖印っぽいアイテムを持っているのは女僧侶? 女神官? こいつもなかなかいい仕立ての神官服を装備している。上級職かもしれん。
で、残る最後の一人。一番年下っぽい女の子なんだけど、こいつがヤバイ。
だってさ、黄色のトラックスーツなんだよ!
怪鳥音とか発しそうじゃん?
ホワチャー!
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