103話 ダンジョン四天王
2巻、3月25日発売予定です
よろしくお願いします
個人的に七つの大罪の中でも怠惰、暴食、色欲は別格だと思っている。
だってさ、怠惰って逆に言えば無駄なエネルギーを使わないってことで、暴食はそのエネルギーの摂取、色欲は子孫繁栄。
つまり三大欲求の強化版じゃん。
本能的なものだから我慢しづらいでしょ。
怠惰。
なんて甘美な響きだろう。
おっさんの目指すのんびり生活に近いものがある。
働きたくないでござる。
それを司る大悪魔ベルフェゴールが種族とはなんと羨ましい。
なんでおっさんの転生スターターに出なかったんだ。ほぼ同じ時期にダンジョンマスターになったらしいのに。
小人になったからこそレヴィアと結婚できたのだから今の種族を悔やむつもりはないけどさ。
「そんな強力なダンジョンマスターからの救出か」
「フーマなら勝てるよ」
「いや、戦わないって!」
やっと強くなってきた実感がわいてきてるのに、そんな強いやつと戦って負けるなんてごめんだ。
無謀な戦いはできるだけ避けるべき。
「目的は魅了されたダンジョンマスターの救出。そいつらはダンジョン防衛の戦力にされている。下手に戦ったら、そいつらも危険だ」
「倒すのはハイパだけってことにゃ」
だから倒さないで救出だけしてすぐにとんずらしたいんだけど。
いつのまにか、逃げ優先だったニャンシーまで戦闘思想によってきてる?
ネズミにやられたトラウマも、こないだアリたちと戦わせたおかげで払拭できたのかもしれない。それは悪いことじゃないのかもしれないけどさ。
「それなら私が〈水跳躍〉でハイパのすぐそばに移動して倒してきましょう」
「駄目! それは絶対に駄目!!」
「ど、どうしたの? 私のことなら心配はいらないわ」
「そうじゃない。ベルフのすぐそばにある水場がもし、おっさんの知ってるものだったら……」
前世のベルフェゴールで一番メジャーなのは大きな二本の角を持った悪魔で、そして……洋式便器に座っている姿なんだ。
それを皆に説明した。
「ダンジョンマスターだからトイレは水洗にしているはず。そんな所へ跳ぶわけにもいかないだろ」
「そ、そうね」
さすがにダンジョンマスターだからいつも便器に座ってることはないと思うけど、万が一のこともある。そんな危険は冒したくない。
「では、どうするんだいマスター。見捨てるのかい?」
「さすがにそれは寝覚めが悪い。戦わずに救助だけして帰ってくる。魔王城を名乗るダンジョンも見ておきたいしさ」
エージン以外はまだ会ったことはないけど、稼ぎの少ない底辺を自称するようなやつらだ。人事にも思えない。
種も貰う予定だ。恩を売っておくのも悪くはないだろう。
「魅了されたダンジョンマスターが素直に救助されてくれるでアリますか?」
「精神の状態異常なら最近調合できた気つけ薬が効くはずだ」
植物成長薬の製作の副産物で、やはり俺の温泉水と妖精の粉をブレンドした薬である。実験では効果も高かった。
ちなみに被験者は捕獲したインプ。尋問中に気絶しちゃった時に使った。ついでだからって他にも色々試させてもらったよ。
「今回はマスターだけじゃなくてクロスケを連れていくのかい?」
「いや、クロスケは連れていかない」
クロスケはうちではミーアと並ぶ数少ない航空戦力だからな。フェアリーたちも飛べるけど、パートナーゴーレムは飛べないから空中で戦えるかというと疑問だ。
「それじゃ小生だね。邪神のダンジョンや魔王城。楽しみだなあ」
「ミーアもつれてかないよ。うちの護りを減らすわけにはいかん。トーゲンで行く。人里に行っても怪しまれないかついでに調べられる。……で、コルノにもついてきてほしい」
「ボク? いいの!?」
「頼む」
本当なら連れていきたくない。危険なのもあるし、うちの最高戦力だ。最強なのはもちろんリヴァイアサンだけど、彼女の攻撃はDPが発生する可能性がある。
それにコルノがついてきてくれればなにかと助かる。
「トーゲンならもう一人乗れる。私も行くわ」
「……ありがとうレヴィア。心強いよ」
もしもの時のために残ってもらうって選択肢もあるけど、相手は彼女と同じ七つの大罪の一人。戦う予定はないけれどリヴァイアサンがいた方がいいかもしれない。
「残るみんなは心細いかもしれないけど、よろしく頼む」
「まかせるにゃ。小人のダンジョン四天王が揃ってるんにゃ。問題ないのにゃ!」
「小人のダンジョン四天王?」
「え? ボクも行くんだけど。……あれ?」
ゲームでは魔王軍四天王だったコルノは当然、自分もそれに入っていると思って首を捻る。
「コルノ奥様殿は司令殿の奥方なので別枠なのでアリます!」
「もちろんレヴィア様もだよ」
「ええーっ!」
不満そうなうちの嫁。だからっておっさんの奥さんを止めるなんて言わないでくださいよ。
「でもそれだと、誰と誰が四天王なのかしら?」
レヴィアの疑問にさっと手を上げる眷属たち。
ゴータロー、レッド、アシュラ、クロスケ、リニア、ミーア、テリー、アンコ、スケさん……うん、どう数えても四人じゃないよね。実は五人いるっていう定番ネタでもない。
「あんちゃ、まだ決まってねえの」
ハルコちゃんの言葉にムリアンメイドたちが頷いている。彼女たちは挙手してなかったから四天王ではないらしい。
「アンコ隊長、頑張って」
「もちろんでアリます。お前たちのためにもがんばるでアリますよ!」
アンコはムリアンたちから隊長って呼ばれている。メイドとしての能力ならムリアンたちの方が高いんだけどな。
「アシュラ様は絶対外せないのにゃ」
ニャンシーも手を上げてなかった。こいつももっと戦わせて進化させたい。最近は妖精たちとの連絡役だけど、邪神のダンジョンの尖兵も潜んでいるんで戦闘力はあった方がいいだろう。
「あたしだってディアナ様が目覚めた時に要職についているって胸を張りたい。四天王の座は譲れない!」
常若の国のこと以外は興味がないと思ったリニアまでもか。
だけどそれってディアナが喜ぶもんなの?
……アルテミスは月と狩猟の女神だったな。戦闘関係なら喜びそうか。
「バイカンはいいのか?」
「はい……四天王よりも森と畑が重要ですじゃ」
小人のダンジョン唯一の大型種なんだからトレントは戦いでも頼りになりそうなんだけどな。力も強いし。ちょっと遅いけど進化すれば化けるかもしれない。
「フーマ、眷属も増えているのだし、ちゃんと序列を決めてはどうかしら? 組織には必要よ」
「そうは言っても、おっさんそう言うの苦手なんだよねぇ」
前世は自分が下っ端だったり、それ以前に引きこもり気味で組織なんて関係なかったから、序列なんて考えたくない。
眷属にした順番……じゃ駄目だろうな、やっぱ。
部門ごとのトップを据えるのが無難なのかね?
「ではこれからの働きで決めるというのはどうだい、マスター?」
「そうだな。それでいいか?」
おっさんの問いに頷く面々。とても嬉しそうな表情をしている。
四天王から外れたらがっかりしそうでツラい。他の役職か二つ名を考えてやらないといけないかも。
「いいかい、戦闘力だけじゃなくてダンジョンへの貢献度によって判断するから各自気張らずに頑張ってくれ」
「それならテリーが四天王になる可能性も高いのだ!」
え、テリーは戦闘力は高くないけど貢献って……テリーとリオの糸紡ぎは助かってるよ、うん。でも貢献って考えると、常若の国の泉の上にクモの巣を構築中のリオの方が上だよね?
テリーの場合、もしなれたとしても間違いなく四天王では最弱って言われるポジションになりそう。
◇
「おっさんたちが留守にすると言っても眷属チャットは使えるからなにかあったら連絡してくれ。すぐに戻るから」
「ええ。絶対にフーマを私のダンジョンマスターのような目に合わせたりはしないわ」
眷属チャットはダンジョンレベルが低くても、パソコンなしで使える。しかもDPやMPも消費しない。
これはきっとリヴァイアサンのように強力な眷属が留守中にダンジョンコアが破壊されてしまうのを防ぐためだろう。
連絡手段がないと強い眷属をダンジョン外に出すなんてできないよね。でも運営は邪神のダンジョンを攻略させたい。だからきっと遠く離れていようが、邪神のダンジョンにいようが眷属チャットが使えるようになっているのだと思う。
「まかせてくれ。ディアナ様も、フーマも、このダンジョンも、みんなあたしが護ってみせる!」
気合入ってるなあ。
これじゃ俺たち、夜は戻ってきてこっちで寝るつもりなんて言い出しにくい。
活動報告に2巻の表紙があります




