8話 フレンド登録
4/9 誤字修正
「ふぁあああ」
んー。
眠い……。
ここは……ああ、そうか。やっぱり夢じゃなかったのか。
靴下寝袋でも意外と熟睡できるもんだな。思った以上に疲れていたみたいだ。
今何時くらいだろ?
この世界も1日は24時間だ。1ヶ月は31日と30日が交互に続いて、1年は12ヶ月、366日。
地球と自転と公転のタイミングがほとんど同じってことだよな。
異世界だけど地球なのかね、ここは?
わかったところで今の俺には関係ないことをぼんやり考える。
あー、でもセーフルームがアイテムボックスと同じ異空間だったら時間が進まないから……それじゃ俺が休めないなぁ。
もうあっちでは俺の死体が見つかってるはずだ。
お袋たち泣いてるかな。
友達少なかったから俺の葬式寂しいだろうなあ。連絡先をメモっておけばよかった。携帯も持ってきちゃってるから探すの苦労してそうだ。
前世のアイテムとして色々持ってきたけど、そのせいで強盗に襲われたとか事件扱いになってたりして。今頃司法解剖とかされているかもしれない。
同じアパートの人も警察から事情聴取されて「そんな人いたんですか?」とか言ってそう。引き篭もり気味だったから近所づきあいなんてほとんどなかったもんな。
なんでそんな引き篭もりのおっさんをダンジョンマスターに選んだんだろう。謎だ。
ランダムに選ばれたんだろうか?
そんなのだったら宝クジに当たりたかった。
ちっ。また泣いてしまった。
起きて顔を洗うか。
昨日は歯を磨いてなかった。歯磨きのセットも必要か。必要な生活用品をまとめておかないとなあ。
メモ帳のウィンドウを開いて記録しておく。
このメモ帳はINT値の数値に応じた容量を書き込んでおける。
賢ければこんなもんなくても覚えられそうな気もするけど、便利なのでツッコミはしない。
「さて、どうなっているかな?」
緊張しながら、セーフルームの出入口を塞いでいるカーテンをちょっとだけ開けて、むこうを覗く。
真っ暗だった。天井にかけた照明魔法の持続時間が切れたか。
暗視スキルのおかげで見えはするので、すぐに照明魔法のかけ直しはしない。状況確認が先だ。
といっても、見えるのはパソコンデスクの脚と椅子だけ。物音もしていない。
しばらく待ったが変化がなかった。
いったん深呼吸して、大きくカーテンを開ける。見える範囲はあまり変わらない。もしかしてセーフルームの設置場所がまずかった?
這うようにしてセーフルームからゆっくりと出る。隠形スキルを使い、音を立てないように慎重に。
パソコンデスクの下からも出て、立ち上がる。
コアルーム内を見回すが誰もいない。ほっと息をはいて、天井に照明魔法を再設置。
明るくなってから再確認しても部屋に変化はなかった。
スリープモードで消えていたパソコンのディスプレイを見てみると、ポイントサイトの付与予定DPが増えていたので、小人さんはちゃんと仕事をしてくれたらしい。
「おや?」
ダンジョンマスターの館を確認すると、フレンド申請が届いている。
『アキラ (ヴァンパイアエンプレス LV1 DLV2)
よろしく 』
そうだった。俺が申請しなくてもむこうからも申請できるんだった。
どうするかな?
相手は俺が転生エディット時に何度もチャレンジしてた時に見なかった種族。きっとレア上位種族なんだろう。名前は日本人みたいだ。
DLVってのはダンジョンレベルか。
ダンジョンレベルが2でダンジョンマスターレベルが1なのね。初心者同士、話が合うかもしれない。
フレンド登録で貰えるDPは僅かだけど、せっかくだからフレンドになっても悪くないか。
ちょっと悩んでから『承認』のアイコンをクリックする。『アキラさんからのフレンド申請を承認しますか?』との確認に『はい』をクリック。
その後はメッセージは出なかったが、フレンドリストを表示させると『アキラ (ヴァンパイアエンプレス LV1 DLV2)』が登録されていた。
DPも2増えている。
あれ? ポイントクエストの『フレンド登録しよう』で貰える報酬は、1人登録につき1DPじゃなかったっけ?
確認すると『DPを獲得しよう』のクエストもクリア扱いになっていて、その報酬でさらに1DP獲得していた。
微々たる額だが今は少しでも嬉しい。
フレンドリストのウィンドウを閉じると、今度は救援要請が届いていた。
『アキラさんからの救援要請
未熟者のダンジョンの1層ボス戦まで』
未熟者のダンジョンって邪神のダンジョンだよな?
なにこのアキラって人、いや吸血鬼、レベル1なのにもう邪神のダンジョンに挑戦してるわけ?
邪神のダンジョンってそんなに低いレベルでもボス戦まで行けちゃうのだろうか。
いや、レア上位種族だから強いのか。
ボス戦ね。経験値とDPは入手できそうだよな。
1層のボスってことはそんなに強くないのかも。俺1人で戦うわけでもないし、レア上位種族と一緒なら勝てそうな気がする。
どうするか悩む。
ソシャゲのレイドボス救援要請だったら悩んでいる間に倒されちゃうことが多いから、急いでクリックしてたんだけど。
あ、フレンドチャットがあるな。
見ているかわからないけど、使ってみるか。
フーマ>アキラさん、見てる?
アキラ>なんでしょうか?
うわ、すぐにレスが返ってきた。タイミングがよかったか?
まさかずっと待ちかまえてたわけじゃないよな。
フーマ>あ、フレンド登録したフーマです
アキラ>アキラです。よろしく
フーマ>まだダンジョンマスターになりたてなのでよくわかりませんが救援要請ってどうすればいいんでしょう?
アキラ>受けてくれるんですか?
フーマ>説明を聞いてから判断したいです。それと自分はあまり強くない種族です
救援受けてから足手まといって言われるのも嫌なので先に書きこんでおいた。
アキラ>そうですか。強くなくてもかまいません。助けてください
フーマ>そんなにボスが強いんでしょうか?
アキラ>そこまでではありません。でも、1人だときついのです
アキラ>前回チャレンジした時、救援にきたダンジョンマスターに聖剣を奪われてしまって
フーマ>え?
なにそれ。PK?
っていうか、吸血鬼なのに聖剣なんて持ってたのかよ。そこは魔剣でしょうに。
アキラ>そいつは、ボスとの戦い中にオレに攻撃してきて、腕ごと聖剣を奪われ、そのあと殺されました
フーマ>酷い。聖剣って高かったですよね
アキラ>ゴブリンは一撃でした
聖剣はたしか8000DPだったはず。
なんと豪快な。残り2000DPで自分のスキルやダンジョンをなんとかしなきゃいけないとは。
邪神のダンジョンを攻略する人ってこういうのが多いのだろうか。
アキラ>買おうとすると値段は800000DPでした
アキラ>聖剣でモンスターを倒しまくって稼ごうと思ってたのに
80万DPってことは100倍のお値段?
買えないよそんなの。
だから、殺してでも奪い取る、されちゃったんだろう。
フーマ>その人に返してくれと頼むことは?
アキラ>フレンドへの指定救援要請ではなく、指定なしで出した救援要請だったため、連絡が取れません
指定なしだとフレンドやギルメン以外にも救援要請を出せるけど、ランダムで誰に届くかわからないんだっけ。
もし救援要請を出すことがあっても、指定なしはやめておこう。
アキラ>また襲われるのが怖くて、レベルの低い人にフレンド申請を出そうとしていたのですが、なかなか見つからず
アキラ>やっと見つかったのがフーマさんです
フーマ>なるほど
あんまり強いやつだとまたPKされるって不安なのか。
……いや、こんな話で同情させておいて自分がPKを仕掛けてくるってのはよくあるパターンだよな。
アキラ>もうDPも尽きていて、ここ数日はゴブリンの血しか吸ってません
フーマ>吸血鬼は飢え死にはしそうにないな
アキラ>やつらは臭いので、できれば吸いたくないけど空腹には勝てない
フーマ>ゴブリンを倒してるのにLVが1なの?
アキラ>レア上位種族は笑っちゃうぐらいにレベルアップが遅い
なん、だと?
だったら俺もレベルアップが遅いってことじゃないか。
アキラ>もう100匹以上倒しているのにレベル1
アキラ>ゴブリンで入手したDPも眷属の維持費に回されてしまって
フーマ>眷属はいるんだ。それなら眷属に邪神ダンジョンを手伝ってもらえばいいんじゃ?
アキラ>無理だった
アキラ>邪神のダンジョンに眷属を連れていけるのはダンジョンレベルが10になって
アキラ>自分のダンジョンを邪神のダンジョンに接続してからみたい
そんな条件があったのか。
いざとなったらガラテアで強い眷族を用意すればいいと思ってたけど、その方法も使えないのか。
無料復活がなくなるレベルにはしたくないのだし。
信用できるフレンドを探さないと邪神のダンジョンには行けそうにない。
救援しちゃうかな。
ただこいつ、“エンプレス”なのが問題だ。
俺が緊張しちゃうだろうなあ。
フーマ>救援受けてもいいけど、どうすればいい?
アキラ>本当ですか
フーマ>自分もDPがほしい。ボス攻略のDPは大きい
アキラ>オレもそれが目当てなんです
ダンジョンの館のポイントクエスト、『邪神ダンジョンのボスを倒そう』は達成で貰えるDPが300と、かなり大きい。『邪神ダンジョンに挑戦しよう』は10DPなのに。
あれ?
そんなに貰えるってことはやっぱりボス戦はかなり厳しいんじゃないのか?




