98話 単純作業の繰り返し
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こちらともども、よろしくお願いします。
フェアリー少女たちのパートナーゴーレムのお披露目をどうするか迷っていたら、彼女たちはすぐに活躍することになってしまった。
別に邪神のダンジョン、“暴食の十二指腸”からモンスターが溢れてきたわけではない。
まあ、ある意味災害対策ではあったのだが。
夜、妖精たちが掘り残したジャガイモを宣言どおりにノームが採取している時にそれは起きた。
思ったよりも昼間に妖精たちががんばったおかげでイモが少なく、働き者のノームたちはそれではもの足りずに果樹園の方へも足を運んで、そこでばたばたと倒れてしまったらしいのだ。
昼間のショタフェアリーたちのように農作業を手伝おうとしていたフェアリー少女たちはそれに遭遇し、パートナーである動物ゴーレムを使うことで倒れたノームたちを運び、彼らは助かった。
「ゴーレムじゃなくて自分たちで運ぼうとしなくてよかったな」
「フーマにもらった知識から毒ガスじゃないかって気づいた子がいて、近づかないようにしてがんばったみたい」
眷属契約時に渡される基礎知識にも役に立つものがあってよかったよ。オタク知識だけじゃないってことが証明されたかな。
「迅速な対応のおかげでハルコの親父さんも酸素欠乏症になってないみたいだね」
……リニア、それもおっさんからの基礎知識かい?
ノームたちが倒れたのは毒ガスではなかった。
近いけどちょっと違う。酸欠だ。
植物は酸素を発生させるイメージがあるが植物も生物なので呼吸をしていて、酸素を消費する。
昼間は光合成で発生させる酸素の方が多いんだけど、日光のない夜は呼吸だけなので酸素は発生せず、減るだけである。
まあ、普通なら消費する酸素もたいした量ではない。
しかし、植物成長薬を使った樹木だと成長量に比例して、薬の効果中はもの凄い量の酸素を使うみたいで、果樹園が低酸素状態になっていたようだ。
それでノームが酸欠で倒れてしまったというわけだ。
「まさにパートナーゴーレムが活躍するための状況だよねー。見回りの普通のゴーレムじゃ対応できなかっただろうし。フーマの仕込み?」
「そんなわけあるか。やるならもっと安全にやるっての」
わざわざお披露目のためにそんなやらせなんてする必要もない。
おっさんはトーゲンの特訓でそんなことを考えている余裕もなかったしさ。
▽ ▽ ▽
妖精たちとの芋掘りをある程度見届けた俺は未熟者のダンジョンに行ってきた。
その第2層でトーゲンを鍛えてきたのだ。
未熟者のダンジョン第2層といえばエージンが俺とアキラを罠に嵌めようとした場所である。
あの後、不思議に思ったことがある。アキラの聖剣を奪ったエージンはアイテムボックスにしまう事も装備することもできず、さらには転送魔法陣で聖剣を運ぶ事もできず、聖剣をずっと未熟者のダンジョンに放置していたのだろうか?
罠の上に置いておくにしても未熟者のダンジョンのゴブリンが罠を作動させてしまうかもしれないし、もしかしたら罠を作動させずにゴブリンが聖剣を持っていってしまうかもしれない。
そう思ってエージンに聞いたら、やつは自分がダンジョンにきていない時は眷属に聖剣を護らせていたようだ。
もちろんエージンも無料復活圏内のレベルなので邪神のダンジョンに眷属を連れていくことはできず、現地調達の眷属ゴブリンなのだが。そいつをずっと未熟者のダンジョン第2層に残しているのだ。
今でもそいつは未熟者のダンジョンにいる。ゴブゴと名付けられた彼は第2層階層ボスのゴブリンスナイパーだったりする。
それを聞いた時は、子供が飼えない動物を秘密基地で飼うという前世の昔のドラマや漫画であったような話を思い浮かべてほっこりしたのだが、そんな生やさしい状況ではなかった。
エージンに紹介してもらったゴブゴは見るからにガリっガリにやせたゴブリンだったから。
未熟者のダンジョンにいるゴブリンはダンジョンからエネルギーを補給されているので食事等をしなくてもいいが、エージンの眷属となることでその補給を受けられなくなったゴブゴは食事を摂らなくてはいけない。
なのにエージンは毎日きてくれるわけでもないので、そんな身体になってしまったというのだ。鑑定してみたら〈飢え耐性〉と〈乾き耐性〉のスキルを入手していた。
種族ランクの低いゴブゴがこのスキルを覚えるなんて、どんだけ我慢してたんだとおっさん思わず泣きそうになっちゃったよ。
ゴブリンのミイラにでもするつもりなんだろうかね?
エージンのやつ、巨乳ハーレム以外の眷属はアンデッドばかりだしさ、自分以外の生きてる男はダンジョンにはいらないとか考えてたりして。
それでこのゴブゴ、階層ボスクラスとはいえども他のダンジョンマスターに倒される可能性がある。
それを避けるために普段はゴブゴを落とし穴の底でひっそりと生活させているらしい。なんという底辺生活。いかん、また涙が・・・・・・。
ゴブゴの解説はこれ以上続けると悲しくなるのでここまでとして、俺はこれを参考に落とし穴でトーゲンを鍛えることにしたのだ。
第2層についた俺は、ゴブゴの棲み処とは別の、もっと大きな落とし穴を見つけてそこにアイテムボックスからトーゲンを出す。
この落とし穴は都合のいいことに槍が仕掛けられているタイプではなく、モンスターが出てくるタイプで十分に戦える大きさがあった。
そこで俺はトーゲンに反復横跳びを命じる。横穴から出てきたゴブリンアーチャーは無視だ。やつはトーゲンに矢を放っていたが重装甲のトーゲンにはまったく効いていない。
トーゲンは意にも介さず反復横跳びを続ける。これだ。これでいい。トーゲンがレベルアップする前に〈機敏〉スキルをマスターさせておけば、いくらか早く動けるゴーレムが育てられるはず。
ちょっと心配ではあったが、ずっと見ているのも時間の無駄なのでそのまま放置してきた。
うん、エージンのゴブゴの扱いでとやかく言える立場じゃないね、このおっさんは。
△ △ △
「トーゲンだいじょうぶかな?」
「だいじょーぶだよ。トーゲンはとーってもがんじょーに造ったんだから! それに魔力をいっぱい入れてきたんでしょ? たとえ傷ついても修復してるよ」
ゴーレムに食事は必要ではないが、稼動するためにはMPがいる。そのためのMPで、多少の傷も修復できるのだ。
おっさんにはMPがかなりあるので、トーゲンにたっぷりとMPを充電してきた。いや、電気じゃないから充MP?
頑丈に造ったというトーゲンに自己修復能力まであるのだから破壊されていることはないはずかな。
ありえるのはMPの使いすぎで動けなくなる方か。MPをそんなに使うぐらいに早く動けるようになれればいいけど、敵を倒さないとまず種族レベルはアップしないだろうから、どうなっているやら。
俺にそう相槌を打ちながらもコルノはゲーム中だ。
ゴーレムの修復能力を見込んで前世から持ち込んだゲーム機やノートパソコン他のいくつかはゴーレム化してある。
ゲーム機ってソフトを読み込めなくなったり、コントローラのボタンがイカレたりするからね。自己修復できるのはたいへんありがたい。
実際、おっさんたちは小さいから巨大な携帯ゲーム機相手にプレイだと前世と感じがかなり違う。それで力加減を誤ってボタンを破壊しちゃったことあったんだよね。
あと嬉しいことに稼働に必要なエネルギーもMPで済む。つまりバッテリ残量が不安になったらMPを譲渡すれば充電できてしまうのだ。
しかもこのゴーレム、こっちでも手に入るパソコンを素材にすれば複製もできるから通信対戦も可能になった。
〈複製〉スキルが使われたことがわからないようにできれば、オークションに出すのもいいかもしれない。
さらにはゴーレムなので命令すれば単純な作業もしてくれるので、方向キー押しっぱなしと決定ボタン連打なんかもできる。
そう、オートで経験値稼ぎもできたりするスグレ物だったりするのだ。
コルノはそれをしないけどね。おっさんと同じくレベル上げ等の単純作業の繰り返しも嫌じゃないみたい。ゴーレムの量産も同じ作業が続いたりするからそれを行ってるだけのことはあるようだ。
「レベル上げ、楽しいよ。ボクのフウマかなり強くなったもん」
コルノは現在、彼女が登場しているグレートマキアをプレイしてるわけなんだけど、変更可能な主人公名をフウマにしてる。
それはまあ、いいんだけど、主人公が戦闘不能になる度に「フーマが死んじゃった」と騒ぐので微妙な気分になるのよ。
それにあのゲームには初見殺しがいくつかあるからレベルアップしても無駄なんだよなあ。
ゲームの方のコルノの登場イベントもそうなんだけど、彼女がどう反応するのかとても不安だ。




