87話 肌色成分増量中
書籍版、10月25日発売です。
あとがきの下の表紙のリンク先、オーバーラップノベルス様のHPで立ち読みと口絵が公開されています。
最新情報は活動報告をご覧ください。
血を流しながらも立ち上がるリニア。拳で鼻血を拭う。さすがは戦闘種族スプリガン、やばそうな落ち方してたけど意外とダメージは少ないのか?
戦うと決めた以上、全力でやるらしい。ぐんぐんと彼女の身体が大きくなっていく。
「ずっと、そんなんじゃないって自分を誤魔化していた気持ちを意識させたんだ。もう、あたしは絶対に引かないよ。たとえ死んでも!」
「あなたが死んだらアルテミスのことはどうするのかしら?」
「……フーマならきっとなんとかしてくれるさ。あたしの惚れた男だからな!」
ええっ、俺に丸投げなの?
巨大化したリニアの顔の高さにまでふわっとレヴィアも飛んで会話を続けている。高さは10メートルぐらいだろうか。色は……水色か。ふむ。あれは初めて見るな。
レヴィアにもノートパソコンを渡してあるので、通販サイトで買い物ができるようにしてある。DPは眷属ならば使用することができるので、コルノに前もって渡してあるDPを使っているはずだ。
もう少し稼げるようになれば、眷属たちにも給料としてDPを与えることができるかな?
……今回一気に眷属が増えたから、それは先送りか。
ってそんなことを考えてる場合じゃなくて!
気づけば、リニアはぶんぶんと巨大な両腕でレヴィアに殴りかかっている。ひらひらとまるで蝶のようにそれをかわすレヴィア。
「剣は使わないのかしら? お得意の嵐を使ってもいいのよ」
「どっちもあんたには通用しねえだろ」
たしかにリヴァイアサンには嵐も似合う気がする。海で船に乗っててリヴァイアサンみたいな怪物に遭遇するのって嵐の時のイメージがあるよね。あんまり効きそうにないな。彼女自身も竜巻や津波を使うし。
これ、リニアにとってはすごい戦いにくそうだ。
レヴィアは角もフィンブレードも出さずに軽やかに飛んでいるだけ。竜巻を出す時はたしか角が出ていたはずだから、使うつもりもないのかな?
「その程度があなたの本気?」
「まだまだぁ!」
リニアの拳速がどんどん上がっていく。左腕のゴーレムアームの調子も悪くなさそうだな。
左右のパンチが速さを増すがレヴィアにはかすりもしない。それどころか、ゴーレムアームの拳の上に立つという、強敵立ちをかましてくれた。もちろん両腕を組んだスタイルだ。
「こんなものなの? がっかりだわ」
組んだ腕を僅かに動かしたレヴィア。その直後、彼女を空中に残してゴーレムアームが落下する。
なに? あの一瞬でゴーレムアームを切断したの?
響き渡る落下音。
「それが、どうしたぁっ!」
義手を失ったことなどどうでもいいように、空中のレヴィアに向かって今度は頭突きを敢行するリニア。今度はレヴィアもそれをくらう。……いや、あれはわざと回避しなかったな。
空中のレヴィアは微動だにせず、その頭で巨大なリニアの頭突きを受け止めている。ダメージはリニアの方が大きかったようで額から出血してしまったようだ。
「いい目をするじゃない」
レヴィアの賞賛に答えもせず、額から流れる血もそのままに残った右腕で攻撃するリニア。レヴィアはこれを回避。そのアッパーはゴスッとリニアの顔面を撃ちつける。回避されて、自爆することなんか気にもせず全力で攻撃したっぽいな。
「美しくはないけれど、そういうの、嫌いじゃないわね」
うわ、リニアの目の周りがいつも以上に腫れている。ドクターストップをかけた方がいいんじゃないだろうか?
「う……う……ガアアアアアアアアァァァァ!」
突如、獣じみた雄叫びを上げるリニア。これってまさか、ラット・キング戦で見せた狂暴化?
さっき以上のスピードで次々と攻撃を繰り出すリニア。パンチだけでなく今度は頭突きやキックも混じっている。それだけじゃない、時には爪や噛みつきまでもだ。やっぱり暴走して知性が落ちているのか。
「ガアアアアアアアアアアアァァァァァァ!」
「ふふっ。いいわ。それがフーマへの想いの発露なのね」
いや、狂暴化状態だと思うのですが。……リニア、泣いてるな。
あれ、もしかして泣いた子がぶんぶん腕を振り回してる状態?
もう見てられない!
俺は<隠形>をオフにして転移。リニアの顔の前で飛びながら彼女を止めようとする。
「もういい、もういいんだリニア!」
「フーマ? まだ早いわ」
「まだやるのかレヴィア? これ以上は……」
そこへ、リニアからのパンチ。しかも俺にだ。なんとか回避するも、再び巨大な拳が迫ってくる。
「リニア、俺がわからないのか?」
「ガアアアアアアアアアアァァァァァァ!」
「やりすぎたかしら?」
完全にぷっつんしてしまっているようだ。キュアで状態回復してくれるだろうか。
「今、治してやるからな」
「待ちなさい。フーマ、ちょっとこっちにきて」
「なにか策があるのか?」
ここは素直にレヴィアに従うことにする。飛行しながら接近するとレヴィアは右腕にフィンブレードを出してニッコリと微笑んだ。
「危ないから動いては駄目よ」
「えっ?」
ヒュン。俺の周りに風が吹いたかと思うと、レヴィアはフィンブレードをしまっていた。それからパチンと指を鳴らす。
「よく見なさいリニア。あなたの想い人を!」
「ガアアアアアアア……ああああああああ! な、なんて格好してんだよ、フーマ!」
右手で顔を隠しながらそっぽを向くリニア。
そんなに恥ずかしいかね?
さっきの指パッチンを合図にするように俺の服がはじけ飛んで、おっさんの上半身が裸になっただけじゃないか。
レヴィアの策で俺はセクシーメイトにされてしまった。リニアは正気に戻ったけど、ちょっと複雑な気分だ。
「……他に方法があったよな」
「多少の役得があってもいいじゃない」
レヴィアは恥ずかしがりもせず俺の身体を眺めている。そりゃもう見慣れてるもんな。
「見ても楽しいもんじゃないだろう?」
「そうでもな……」
突然、なんの前触れもなくレヴィアの身体が転倒する。
「隙あり!」
恥ずかしがっていたはずのリニアがこっちをむいてガッツポーズ。俺の視線に気づくと、すぐにまた後ろを向いた。恥ずかしいのは本当らしい。
「くっ、やるじゃない。私をダウンさせるなんて」
レヴィアの手には元のサイズに戻ったゴーレムアーム。
そうか、リニアは切断されたあれを遠隔操作してレヴィアの足を引っ張って転ばせたのか。
悔しいのか、レヴィアの手がゴーレムアームに強くくい込んでいて、今にも粉砕しそうだったり。
「私が夫の身体を堪能してる時に攻撃するのは卑怯ではなくて? そこのところ、騎士としてはどうなのかしら?」
「フーマへの想いは騎士としてじゃない! 女としてだ。それを教えてくれたのはあんただろ」
「ふふふふふふふ……」
「へへへへへ……」
笑い出す二人。これはもしかしてあれか? 川原で一対一バトルの後に寝転がった二人が友情を結ぶってやつだろうか?
……おっさんはイメージが古いなと自分でも思う。
レヴィアもリニアも目が笑ってない気もするけど、これで仲良くなったと思っていいのかな?
「フーマは先に戻ってなさい。私とリニアはまだ話があるわ」
「え、でも」
「もう戦ったりしないから安心なさい。その格好ではリニアが恥ずかしがるでしょう?」
レヴィアがやったんじゃないか。
まるで「またつまらぬものを斬ってしまった」って感じでさ。
「だ、だいじょうぶだからフーマ……」
「……わかった」
声が少し上擦ってるがリニアもそう言うのでは仕方がない。俺は<転移>でダンジョンへ戻った。
あ、アイテムボックスから着替え出せばよかったじゃん。いまさら戻るのもちょっと恥ずかしいのでレヴィアを信じて待つことしかできないけどさ。




