踊る人形
「踊る人形」
私は踊る人形。観客は指を指しながら笑う。
その事に疑問は無い。笑い声が私の証明であり、その声がある限り存在を許される。
誰もが笑うたびに私の役は出来上がる。
誰かが笑うたびに、私と云う人形が出来上がるからだ。
だが、いくら私が踊っても、あなたは笑ってくれない。
それどころか憐みの目で見ている。
『人間は何も考えずに笑えばいいのだ。お前も疲れを癒したいのだろう?』
だが、笑ってくれない。
苦しく辛い顔が見える。
これでは私の存在意義が無い。
いくら頑張っても、どれ程踊っても笑ってくれない。
むしろ、更に憐れんでいる。
なぜ、笑ってくれない?
もはや、見る価値も無いのか?
私は……私は…私は捨てられた。
一人が笑わなくなってから、日々が過ぎると誰もが一人、一人と笑わなくなっていく。
それ自体に怒りは覚えない。人間が今あるものに対して興味は必ず失せるものなのだから。
私を可愛がってくれたマスターは、私を捨てる為に工場に運んでいく。
その事にも怒りを感じない。むしろ、人形であるのに見てくれたことに感謝しよう。
――バチッ……バチッ
高い音が聞こえる。誰かが躍っている音だろうか?
いいや、違う。ムチの音だ。
――カチャ……カチャ
静かな音が聞こえる。繊維から服を作っている音だろうか?
これも、違う 潰れた足音だ。
また、新たな人形が生まれたのか。ああ、笑わない者に遭うなよ?
私は今までの人形と同じように。
誰からも覚えてくれない。
いや、忘れられただろう。それが当たり前の事だ。愛着も無い人形を覚えていた所で、何の意味もなさないからだ。
私は絡繰りでも傀儡でもない。
でも、私が誰なのかは分からない。けれども、それが正しいのだと教えてくれる。
捨てられたのに思考できるなんてなんて地獄だろう。
今すぐ思考を捨てたい。
だが、頭に浮かぶのは決して私を笑ってくれなかった者だ。憐みの目はこの場所では禁忌なのだ。あいつはそれを分かっていなかった。ただ、笑って嫌な事を忘れればいいのに
どんな失敗をしたのかも分からない。回転が悪かったのか? 喋りが上手くできなかったのか? 手首の傾きか?
なぜあの日から人は笑ってくれないのだ。なのに、毎日来る。忌々しい。せめて少しだけでも笑えばいいのに。
なぜ誰もがあいつを中心に笑わなくなり、私を見てくれないのだ。
それじゃあ何のために踊れるようになったのかも分からない。たった一人の人間が笑ってくれない事がこれほどの……。
足音がする 誰かが来たようだ。
その視線の先は決して笑ってくれなかった者だ。
『何しに来た。今更、私を笑うのか』
私は失望している。お前のせいでな。
今更笑われても、私に価値も意味も無い。
『何故、人形でもないお前が人形の真似事をするのだ』
違う。それは間違いだ。
確かに私は絡繰りでも傀儡でもない。
だが、
『貴様が何を言おうとも、私は未来永劫、人形だ』
そうだ。
ワタシはソレで完成している。
例え、体が痛もうとも。例え、息が切れても。例え、血が零れても。例え、体が折れても。例え、お前が否定しても。
世界の者が『人形』と言えば答えはそれだ。
仮に、ソレが逆転しても、
一人でも『人形』と呼べば、
ワタシノアシハ、ケッシテユラガナイ。
ナゼナラ、ソレガワタシダ。
………
……
…記憶が少々飛んでいたようだ。
どうやら、あの者はいなくなったようだ。
一層のことこのまま殺してしまえばよかったのに。
…いや、それは侮辱か。
笑ってくれない者に殺されるなど、滑稽も良き処だな。
……
…滑稽?
……ナンダ?コノキモチ?
滑稽?
誰ガ?
ワタシか?
否……。
笑わなかった者か?
違ウ……。
笑っていた者か?
是……。
ワタシ達を生み出した者どもか。
ソウダ…彼ノ者コト滑稽デ、アルベキダ。
さぁ、狂え、狂うが良い。狂気の演舞はすぐそこにあるぞ……。
みんな笑って、みんな忘れてしまえばいいのだ。
そうすれば、お前も笑ってくれるだろ?
はい!
怖かったと思った方は手を挙げてください。どうぞ、どうぞいってください。
はい、何故かお決まりの言葉がいつの間にか出来ちゃいました。楽しめたなら良し! これくらい怖いのが良いと、言ってくれたらありがとうございます。
これだけ、お願いします。決して、人形を嫌ったり粗雑に扱わないでください。これは人形に限った話ではありません。身近にいる人も物も動物も同じです。
命が有る無いの話ではありません。存在するかしないかなのです。それを買おうと思った頃を思い出してください。そして、願わくは愛着が尽きない様、受け入れて傍に置くことを許してください。
ごめんなさい。何か説教っぽくなってしまいました。新米が偉そうでごめんなさい。
こんなわたくしですが、どうか楽しみながら読んでいただけると嬉しい限りです。