66.5、違い
「うぉぉぁぁぁああああ!?」
「アラタっ!」
黒い触手によってアラタは凄まじい速さで洞窟の中へと引きずり込まれていく。
「お願い、間に合って!」
おそらく無駄だろうと思いつつも触手だけを切りえるような魔法はないか必死に考え、魔法式を編む。
しかし、私のそんな努力もむなしくアラタは洞窟の暗闇に飲み込まれてしまう。
「・・・・・・そんな、アニキが」
「すまない・・・・・索敵係の俺がもっと早く気づけていたら」
「いえ! アラタならきっと大丈夫です!」
そうだ、これぐらいでアラタが死ぬわけがない!
ならば今するべきは嘆くことではなく、どうやってアラタと合流するかだ。
だけどどうすれば良い?
今のアラタは依り代に入っているから本当の姿の時よりも繋がりは弱い。
リヒトの時ならばどこに居るかがすぐに分かるのだが、その事をアラタには伝えてないからおそらくアラタは知らない。
だからその方法で合流できる可能性は限りなく低い。
「・・・・・・カコちゃん、アラタ君なら大丈夫なの?」
「・・・・・・はい、アラタがこれぐらいで死ぬはずありません」
「そう・・・・・・なら、今はアラタ君といち早く合流しましょうか」
「クーア、しかしいくら何でもこれは・・・・・・」
「あら? カコちゃんは私達よりもずっとアラタ君との付き合いは長いのよ?」
「まあ、そうだが」
「そのカコちゃんが大丈夫って言い切ったのよ? ならそれを私たちは信じるしかないじゃない」
「・・・・・・分かった、俺はカコちゃんを信じよう」
「よろしい・・・・・・あなたたちはそれで良い?」
「そう、だよな。そうだよな! あんなに強いアニキならこれぐらいどうってことないよな!」
「そうですね、今は信じましょう」
「よし、それじゃあ今からはアラタ君との合流を一番にしましょう」
「ああ、だが」
「ええ、どうやって合流するかね」
そう言ってクーアさんとクロードさんは2人揃って首を捻る。
地面に引きずられている跡でも残っていれば良いが、あいにく地面は岩のようなものでそんなものが残っているとは考えにくい。
「・・・・・・そうだ、カコちゃん。通信魔法は使えないのか?」
「通信魔法、ですか?」
通信魔法か。
学園では習ったのだが、使ったのはそれ限りでアラタとはしたことがない。
それに通信魔法は通信したい相手に一度魔法式を触れてもらう必要がある。
だからそれは無理だ。
いや・・・・・・そうだ! 念話があった!
念話は依り代に入っていても使えるし、一時的に繋がりも強くなるから大体の位置も分かる!
「少し試してみます!」
私は断りを入れて意識を集中させる。
お願い、繋がって。
{アラタ! 聞こえる!?}
{れぇぇぇいっ!?}
・・・・・・良かった、繋がった。
何やら奇声を上げていたけど、まあ、いつもの事だろう。
{あ、ああ、聞こえるぞ}
{よかった、無事だったんだね!}
{なんとかな、そっちは大丈夫か?}
{こっちも大丈夫。だけどクロードさんが落ち込んでたよ。「俺がもっと早く気づけていたら」って}
・・・・・・どうしたのだろう。
アラタの声に何か、そう、例えるなら「恐怖」だろうか?
そんな感じがする。
{そうか、じゃあクロードに伝えておいてくれ「大丈夫だ、問題ない」って}
あれ? それって。
{・・・・・・ねぇ、それってアラタがいつか言ってた「死亡ふらぐ?」じゃないの?}
いや、「事故ふらぐ」だっただろうか?
{大丈夫だ、俺は死なない。なんせ俺は「光の王」だからな}
{・・・・・・}
そのひとことに胸が締め付けられるような、はっとした気持ちになる。
そうだ、アラタは・・・・・・いや、リヒトは「光の王」なのだ。
最初は接することに緊張していたが、一緒に過ごしていってだんだん友達のように思っていた。
そう、まるで仲の良い、だけどちょっとドジでうっかりの多くて強い「人間」の友達として。
だけど違う。
リヒトは人ではない、「王」なのだ。
そう、「王」とは精霊の頂点にして人間など歯牙にもかけない別格の存在。
なのに私は何故リヒトが引きずられているのを見てあんなに焦っていたのだろう。
その事を思い出して私は今までの焦っていた気持ちが消え、落ち着いた頭で考えるようになれた。
しかしあの胸が締め付けられるような気持ちはいまだに消えない。
{うん、そうだよね。アラタは大丈夫だよね}
{ああ、安心しろ。必ず戻るから}
{っ!・・・・・・ねぇ、アラタはそれからどうするの?}
{俺は元凶を倒してくる。どうやらここから近いようだしな}
{ええ!? 本当に大丈夫なの!?}
なんせ新緑の遺跡ではリヒトは遺跡一個を地図から消して戻ってきた。
ならばこの洞窟も・・・・・・
い、いや、おそらく大丈夫だろう、なんせあれからリヒトが何かをしてしまう回数は確実に減ってきている。
・・・・・・本当に大丈夫だよね?
{・・・・・・それにレーナとの約束があるからな}
{・・・・・・分かった、けど! 私たちもすぐに応援に行くから! 待っててね!}
リヒト一人ではどんな被害が出るか分からない、保険の意味でも早急に駆けつけないと!
{応援って、ここの場所は分かるのか? ぶっちゃけ俺でも分からないぞ?}
{大丈夫、念話を辿って見つけたから}
{お、おう}
{ま、期待はしないけど待ってる。じゃあ、また後で}
{あ、待って}
どうにかしてアラタの歩みを遅らせなければ・・・・・・そうだ。
{絶対に・・・・・・絶対に帰ってきてね!}
{・・・・・・ああ}
よし、これだけ念押しすれば慎重になって多少は遅らせられるだろう。
私は念話を終える。
「・・・・・・どうだった?」
「はい、繋がりました」
「本当ですか!? それで、アラタさんは!」
「無事でしたよ」
「そうか、良かった・・・・・・ところで? 位置は分かったのか?」
「はい、大体は」
「そうか、ならこれからはカコちゃんは俺の後ろについてほしい。構わないか?」
「分かりました」
「よーし、それなら早くカコちゃんの王子様を助けに行こうか!」
「ぶっ!?」
お、王子様!?
いや私とリヒトはそんな関係じゃ!?
・・・・・・そう、そんな関係ではない。
私とリヒトは生きている世界が違う、友達だと思うことすら恐れ多い。
「あんまりからかうなクーア・・・・・・さてと、アラタはどの辺に居る?」
「あ、はい。向こうです」
私の指示に従いパーティは歩みを進める。
そう、今すぐにでも合流しなければ。
・・・・・・あの締め付けるような感覚は何時までも消えなかった。




