12、ファンタジーの定番
定期更新(をしたかったが我慢出来なかった)です。
試験開始宣言とともにルールの書かれた羊皮紙が配られた。それによるとこんな感じらしい。
場所:新緑の遺跡
制限時間:日没まで
課題:最低2人、最大5人でチームを組み新緑の遺跡最深部に到達する。
なお以下の事が発覚した場合減点及び失格とする。
他のチームへの妨害・寄生等の行為、人数違反、その他不正となる行為
「なあ、この『新緑の遺跡』ってのは何なんだ?」
「草原にある古代文明の遺跡の事よ。そんなに危険じゃない魔物が出てくるからよく駆け出し冒険者の訓練場として使われるの」
「なるほどな。そういえばカコは誰と組むんだ?」
「わたしはカミラと組むわ。」
「2人だけか?」
「うん、カミラとは今までも一緒にやってきたから」
下手に他人が入るよりはその方が連携が取れるか。
「じゃあ、行こう。リヒト」
「ああ、そうだな」
一つ気がかりなのはあのクソの事だ。こういう場面で何かしらのトラブルが起こるのはテンプレだからな。面白そうとかでちょっかいを出してきそうだ。何も無ければいいが。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
あれからカミラとも合流し遺跡の中に入った。
遺跡はコンクリートの様なもので建てられておりまるで工場の様な構造をしていた。しかし、いたるところに木の根が走っておりそれが外見と合わせてひどくミスマッチに思えた。
遺跡に入ってからしばらくたつが魔物(ゴブリンや魔狼)がたまに出てくるぐらいで、出てきてもカコとカミラは何の苦もなく倒していた。考えすぎたか?
「どうしたのリヒト?」
考えていたのが顔に出ていたのだろう、カコが話しかけてきた。
「いや、この遺跡には何か危険な魔物とかは居ないのか?」
「この遺跡は発見されてから大分経って研究が進んでるからそんな魔物が居たら報告されてるよ」
「そうか……ん?」
・の・・・者・・・・・り・・ ・・・・
不意に壁の文字に目が止まった。
「今度はどうしたの?」
「いや、壁に文字があったからな」
「文字って、この模様の事? 読めるの?」
ん? ……ああ、そういえばあのクソが居なくなった時に残していった『童貞の説明書』(やかましい)に言語翻訳機能について書かれてたな。
それによると文字や言葉を翻訳してくれる機能が俺の体に搭載されてるそうだ。
……古代の文字も訳せるならこれだけでも生計立てれそうだな。
「まあな。それより、最深部まであとどれくらいなんだ?」
「あと少しだよ。最後まで気を抜かないようにしないとね」
「ああ、そうだな」
結局俺の心配は杞憂に終わった。
この後の道中も何事もなく結局最深部まで到達する事が出来た。
最深部には俺達の他にも何人かの受験生が居た、運が悪い事にあのボンボンも。
「おやおや~カコさん、ご無事で何よりです。しかし気を抜いてはいけませんよ。毎年、魔力量が少ないのに序盤で飛ばして帰り道でリタイアする人がいるそうですからね~、お気を付け下さい」
カコとカミラが試験管に到達の報告をした後ユーベルが話しかけてきた。
「……ええ、ご忠告ありがとうございます」
あいつ会うたびに喧嘩売ってくるな、暇なのか? まあ、あんな奴放っておいて帰るとするか。
俺達が帰りの準備を整え出発しようと
ぐちゃっ…………ぐちゃっ…………
「なんだ?」
「なんだろうこの音?」
異音に気付いた生徒がざわつき始める。
ぐちゃっ………ぐちゃっ………
何だ?この音、しかもだんだん音が大きくなっている。何というか、まるで何かがこちらに歩いて来ているような
「カコ! 気をつけろ! 何か来る!」
ぐちゃっ…ぐちゃ…
その事に思い至った俺はカコに注意を促す。しかし忠告が遅かったようだ。
ざわついている俺達の前に『それ』は姿を現した。
「何だ、あれ……………」
誰が発したかわからない呟きが今の俺達の心境を的確に表現していた。
『それ』は全身からまるでドライアイスの様に黒く、濃いもやが噴き出しているがなんとか人型だと判別は出来た。しかし、明らかに人ではない。でかすぎる。優に10メートルはあろうか。
また、辛うじて見えるシルエットは人の形は保ってはいるが常にぐにゃぐにゃと蠢いている。頭と思われる部位からは手の様な触手の様なものが3本飛び出てゆらゆらとしており、それらが蠢くシルエットと合わさって全身に鳥肌の立つ嫌悪感、そして本能的な恐怖を醸し出していた。
そんなことを俺が考えているうちにも『それ』はどんどん歩いてくる。あの「ぐちゃっぐちゃっ」という音を発しながら。
不意に『それ』が立ち止まった。
「と、止まった?」
否、止まったのではなかった。『それ』が手をこちらに向けると同時にその先から黒いものが奔る。
あまりの速さに反応出来なかった全員が遅れてそれを目で追う。
そこには胴体を失くしたユーベルが居た。どちゃっという音とともに手足が落ち、頭が近くに居た男子生徒の足元まで転がり止まった。
「「「「うわああああぁぁぁぁぁぁ!」」」」
何だよあれ!? 明らかに今までの魔物とは格が違う!
幸いにもユーベルを葬った『それ』はまるで恍惚としてるようにしてこちらに攻撃をしてこない。
「え……あ………」
「カコ!」
カミラが茫然としていたカコの肩をつかんで揺らす。
「っ! ………ありがとう、カミラ」
「礼は後! 早く逃げないと!」
「おい、カコ! あれは一体何なんだ!?」
「わからない………でも何だかすごく嫌な予感がする。」
「そこのあなた達! 何をしているんですか、早く逃げなさい!」
試験管が声を掛ける、いつの間にか俺達は最後尾にいた。
「早く逃げるぞ!」
「うん!」
しかし『それ』が許してくれなかった。逃げようとしたの察知したのか今までとは比べ物にならない速度で走って来る。
………まずい! このままじゃ追いつかれる。
その時、強い光が発せられる。カコがとっさに魔法式を編んだのだ。
「あんな一瞬で………」
試験管でさえ驚くほどの速度、俺が見てきた中でも一番速かった。
「ブレンネン!」
カコが魔法を唱えると同時に『それ』は一瞬で炎に包まれる。
「kjlldんcksddhk!」
まるで苦しむかの様にそれはのたうちまわり意味不明な叫び声を上げる。
「今のうちに早く逃げましょう! あなた達も早く!」
試験管は他の残っていた生徒を連れ、走り去って行った。
「いや、まだだ」
しかし、炎が消えそこには目立った外傷も無くのたうちまわっている『それ』が居た。
「カコ、先に行け。俺はこいつの足止めをする」
「リヒト、でも!」
「良いから! 早く行け! 俺はこれぐらいじゃ死なない!」
「………うん、わかった。すぐに追いついてね」
そう言ってカコも逃げていく。
「djkdjtjd!」
しかし『それ』は今度は体から大量の触手をカコに伸ばすが、
「させねえよ」
俺は間に入り光で創った大剣で全て叩き切った。
さて、カコ達が逃げる時間を稼がないとな。この際怖いなんて言ってられない。
俺は『それ』の前に立ち塞がった。