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「くたばれ、クソ神様」  作者: 無脊椎動物
水王祭
116/117

94、夜の街

「…………」


「………」


「……」


「…」


「なんだこの感覚は……?」


 俺は不意に目が覚めてベッドから立ち上がる。

 なんだろうかこの感覚は、まるで……誰かから呼ばれているかのような。

 上手くは言い表せられないがそんな感覚だ。

 一瞬カコが呼んでいるのかと思ったんだが違う。


 {なあ、カ}


 ……いや、カコは起こさないでおこう。

 俺はともかくカコは人間だ。

 言葉には出さずとも馬車による旅の疲れが少し出ていた、あんまり無茶をさせるわけにはいかない。


「よっと」


 俺はカコを起こさないように宿屋窓から外に降り立つ、灯りはところどころについて周囲は完全な闇と言うわけでは無いが、それでも顔の判別が難しいほどには暗い。

 ……やはり何かから呼ばれているな、外に出たことでその感覚は強くなり、確信が持てた。


「行ってみるか」


 敵なのか味方なのかはまだ確証が持てないが、不安要素を放っておくわけにはいかない。


「とりあえず顔が見えるぐらいにはしておきたいな」


 俺はとっさに光魔法で周囲を照らそうと、

 ……いや、待てよ?

 今は祭りがあっている、ならば警備隊が見回りをしているのではないか?

 こんな真夜中に一人でフラフラしている男。

 ……確実に怪しまれるな、見つかる恐れがあるならそれはしないほうが良いだろう。


「……仕方がないか」


 多少見にくくはあるが仕方がない、このままで行こう。

 俺は感覚を頼りに歩きだす。


「なんかこう、不気味だな」


 昼間見た風景とはまた違った顔をのぞかせる街に少し不気味さを覚え、誰に聞かせるというわけでもなくポツリと呟く。

 今街は祭りのために飾り立てられており、旗や何かしらのキャラクターの人形がそこかしらにある。

 昼間には愛らしく見えたそれらも今は薄暗くぼんやりと見え、少しばかり不気味だ。

 例えるなら……そう、夜のサーカスや遊園地と言ったところか?


「とっとと見つけて帰「誰かいるのか?」っ!?」


 とっさに近くの物陰に身を隠すと同時に、警備兵と思われる二人組の男たちが曲がり角から出てきた。


 不味い! もしかして今の独り言を聞かれたか!?

 くそっ、こうなったら少し眠ってもらうか?


「どうした?」


「いや、こっちからなんか物音が聞こえた気がしたんだが……」


「猫か何かじゃないのか?」


 頼む! 猫だと思ってくれ!


「それでも少しこの辺りを見てみようか」


「まあ、念のためだな」


 そう言ってドンドンこちらへと歩みを進める警備兵。


 仕方がない! これだけはしたくはなかったが! 背に腹は代えられない!


「にゃ」


「ん?」


「にゃ~ん♡」



 後日改めて自分の行動を振り返っても謎だった。

 何故あそこで猫の鳴きまねなんかしてしまったのか、おとなしく逃げるなりちょっと眠ってもらうなりすれば良かったではないか。

 ただ一つ言えることは、あの時の俺は背中が冷や汗でびっしょりになるほど焦っていて、そしてまた新たな黒歴史を作ってしまったことだ。

 考えてみろ? 夜中に一人で歩き回って隠れて他人に猫の鳴きまねを披露した、それもとびっきりの猫なで声で、ただの変態じゃないか。

 ♡だぞ? ♡だぞ?

 ……あの時の俺を助走を付けて全力でぶん殴りたい。


 ~とある青年の独り言~



 ああ、終わったかな。

 隠れる事にも、俺の精神的にも。


「……猫だな」


「な? ほら、行くぞ」


 うっそだろおい!

 いややった本人が言うのもなんだが怪しさマックスじゃねーか!

 なんで通用したんだよ!

 え? これもしかしてばれて泳がされてんの?

 安心して出てきたところを捕まえる気なの?


「……少し触ってきてもいいか?」


「いや仕事中だぞ?」


「頼む、最近忙しくて触れ合えてないんだ」


「……はぁ、少しだけだぞ?」


「ありがたい!」


 ……本当にバレてなさそうだな。

 それでもバレそうなんだが!

 そしてお前! 仕事中にそんなことしてんじゃねぇいよ!

 もっと他のところに行って不審者捕まえろよ! 俺みたいな!


「ほら~出ておいで~怖くないよ~」


 やめろ来るな! 良い年こいたおっさんが猫なで声で来るんじゃねぇよ!

 「ほら~」なんて言うんじゃねぇよ! 俺から見たお前がまさにホラーだわ!

 ほら後ろ見ろ! 同僚引いてるぞ! 良いのか? お前本当にそれで良いのか?


 そんな馬鹿な事を考えているうちにそいつはどんどんこちらへと近づいてくる。

 くそっ! こうなったら実力行使だ!


「おい!」


 そんなこの場に新たな警備兵が駆け付けた。

 おお! 助かります! 今すぐにこのおっさん連れてって下さい!


「どうしたんだ?」


 その警備兵に即座に問い返したのは猫のおっさん……お前やれば真面目に出来るじゃないか。


「海岸の方に不審者だ! 現在逃亡中! 応援に来てくれ!」


「不審者? 分かった、すぐに行こう」


 ありがとう! 名も知らぬ怪しい人!

 ほら、さっさと応援に迎え!

 ええい、そんな名残惜しそうな目でこちらを見るんじゃない!


 ……ふぅ、これでようやく感覚を追え……あれ、何時の間にか感覚が無くなってる。

 ……ダメだな、完全に無くなった、仕方がない宿に帰るか。




 ……結局、今回俺が得たものは何だろう?

 無くしたものならはっきりと分かるな。

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