93、到着日の終わり
「カコ、これはどう見てる?」
「……うーん」
あの後アルフはギルドに俺たちの依頼受領を知らせた後にジャクソンのところに行くそうだ……どこかで見た流れだな。
「アルフが嘘をついてるとは思わないな」
「私もそう思うんだけど」
どうやらカコも同じ意見らしい。
アルフは俺の目から見てもガルトを嵌めようとしているのではなく本気で心配しているかのように見えた。
これで嘘でした、ならアルフは役者でも食べていけるだろう。
「となるとジャックが本当に禁忌を?」
「そう考えるのが妥当かな?」
だが本当にそうだろうか?
ジャックは選ばれたの船大工、ならば技量も人格も周囲から認められるほどの船大工ではないのか?
ならばそんなことをするのだろうか?
「……いや、待って、こうは考えられない?」
「なんだ?」
「ジャックさん達に嫉妬した誰かが選ばれた船大工の座を奪おうとしてる、とか」
「……なるほどな」
確かにな。
あの串焼きのおっちゃんの口ぶりからして、選ばれることはかなり名誉なことのはずだ。
選ばれたい、と思っている船大工は決して少なくないはず。
もしかしてジャック達、若しくはその弟子に騒ぎを起こさせてその座から引きずり降ろそうと言う魂胆か?
……ダメだな、情報が少なすぎる。
「とりあえずはガルトもアルフも嘘はついていないとして考えようか」
「そうだね」
「ならどうするかだな」
「うーん……」
とりあえずは船大工に聞き込みでもしてみるか?
だが見当がつかない。
それにこの事はガルトとアルフの両方に公にしないでくれと頼まれている。
適当な船大工に『ジャックを陥れようとしている船大工に心当たりはありますか?』なんて聞けないだろう。
いっそのことジャックの所に行って『あなたは禁忌を犯していますか?』とでも聞いてみ……
……いや、待てよ?
ジャックに直接聞いてみると言うのも悪くはないのではないだろうか?
流石に禁忌を犯しているかどうかは直接聞かないが、それでもガルトは今日の事を報告しに行くと言っていた。
ならばジャックも今日のことは知っているだろう。
自分に対してそのようなことをしてきそうな船大工に心当たりは無いだろうか?
それに話を持ち出したときのジャックの反応も見てみたい。
「なあ、カコ、ジャックの所に行かないか?」
「ジャックさん?」
「ああ、出来れば直接聞きたいが、それが無理ならばせめてガルトにもう少し一回話を聞きたい」
「……なるほどね」
「決まりで良いか?」
「他に当てもないしね」
よし、それじゃあジャックに話を聞きに行くか。
「けど聞きに行くのは明日だね」
「明日?」
「うん、シトラは賑やかで明るいから気づきにくいけど、もう夕方だよ?」
そう言われて俺は反射的に空を見る。
確かに、カコの言う通り日はもう傾いていて空には夜のとばりが広がり始めていた。
「とりあえず宿を早く決めないと」
「そうだな」
さてと、とにかく明日は進展があると願いたい。
ジャックから鬼が出るか蛇が出るか、ここでも騒動が起きないかと言う一抹の不安が胸の中に残り続けた。