９０、ガルトの頼み事
「だが俺のせいであの人に汚名を着せるのは避けたいんだ、だからもし何を聞かれても何も無かったと答えてくれ！ 頼む！」
テーブルに付きそうなほどガルトは俺達へ深々と頭を下げる。
まあ、そうだろうな。
選ばれた一人の弟子が白昼堂々暴力事件を起こした、なんて厄介なことになるのは目に見えている。
「……それでこの料理はこちらに少しでもよく思ってもらうための賄賂みたいなものか」
「……厚かましいことを言っているのは分かっている、けれど頼む！ ダメなら時間をくれ！ 絶対に満足出来るものを用意する！」
｛……アラタ、許してあげたら？｝
……と言うよりは。
｛俺はもともとそのつもりだったぞ｝
｛そうなの？｝
｛ああ、特に怪我とかも無かったしな｝
まあ、その理由が半分、もう半分もある。
それは水の王と繋がりを持てないか、と言うものだ。
「……分かった、今日俺達はたまたま出会って意気投合しただけだ、それ以外は何も起こらなかった」
「本当か！？」
ガルトの師匠は水の王に船を捧げる船大工の一人。
直接、とはいかなくとも少なくとも水の王の関係者への繋がりは持っているのではないか？
そしてあわよくば水の王の共歩者に出会えれば、ローザの時みたいにスムーズにいくかもしれない。
「……ただし、条件がある」
「……なんだ？」
だがその為にはここでガルトとの繋がりを断ってはいけない。
だから今からするべきことは一つ。
「何であんなことをしたのかを教えてくれ」
「う……いや、それは……」
あんなことをしたんだ、おそらくガルト達には何かしらの厄介ごとが起きているのだろう。
ならその厄介ごとに首を突っ込む。
……出来るだけ厄介ごとを避けていきたかったんだがな、まあ、仕方がないか。
「それが出来ないなら俺達の関係はいきなり殴られたやつと殴ったやつだ」
「……ぐっ、分かった、話そう」
「あー、何を勘違いしてるかは知らないが俺は別に利用しようだなって思っちゃいない、ただあんたが困っているかのようだったから何かの助けになれないかと思って聞いただけだ」
「……本当か？」
「ああ、本当だ。そもそもあんたとあんたの師匠を貶めるのなら今日起きたことで十分だ、これ以上は必要ないだろ？」
「……分かった、あんたを信じよう、ありがとう」
あっやべっ、なんか心が痛い。
すまないガルト、俺はあんた達を利用しようとしているんだ。
「カコも良いか？ 少し厄介ごとに首を突っ込むが」
「うん、アラタが良いなら」
「……嬢ちゃんもありがとうな」
「いえいえ」
「さて、それじゃあ早速聞きたいんだが、あのエルフは一体誰なんだ？」
「……あいつは師匠と同じ、選ばれた船大工の一人で三兄弟の二番目、ジャクソンの弟子の一人のアルフだ」
エルフのアルフか、覚えやすいな。
「と言うか同じ選ばれた船大工の弟子の一人か、もしかして兄弟同士の貶め合いか何かか？」
「いや、師匠たち三兄弟はよく腕を競い合ってはいるが敵、と言うよりはライバルみたいな関係だった、それは無い……無いと思う」
「言い切らないんだな」
「アルフは、あいつは、あいつは！」
「何をしたんだ？」
「……すまない、少し興奮しすぎた。あいつ曰く、俺の師匠が禁忌を犯したなどとほざきやがったんだ」
「禁忌？ 一体どんなことを？」
「ああ……昔から、船大工の間では難破船の残骸を弔わずに船に再使用することは禁忌とされている」
「それを犯した、と？」
「ああ、そんな事を師匠がするはずがないのに、だから俺は怒りで何も考えられなくなって」
「……と言うかそれ明らかに向こうがこっちを陥れようとしてないか？」
「ああ、だが師匠達はそんなことをするはずがない、おそらくあいつが勝手にやっている事だ……くそっ！ 何でよりにもよって祭りの時にそんなことを言い始めるんだ！」
｛なあ、カコ｝
｛良いよ｝
｛まだなにも言ってないんだが……｝
｛何を言いたいのかは大体わかるし｝
｛ありがとうな｝
なるほどな確かにこれは厄介ごとだ。
だがこれを解決できれば大分お近づきになれそうだ。
「じゃあ、それは俺達で調査しよう」
「何？ どういう意味だ？」
「俺達は冒険者をやっている、だからあんたからの依頼という事にしないか？ そうしてくれればこちらも動きやすくなる」
「……なるほどな、よし、俺はあんたたちに依頼しよう」
「請け負った」
クエスト名：ガルトの頼み事
依頼主：ガルト
目標：アルフの目的を調査する
報酬：昼食（既に受け取り済み）
