89、頼み
「いらっしゃいませー」
ドワーフに案内されたのは小さな食堂だった。
まだ昼の少し前という事で空席がちらほら見えるが、それでもそれなりに賑わっていた。
その空席の一つに俺達は案内された。
「いつものを三つ頼む」
「かしこまりました」
店員がメニューを渡そうとするよりも早くドワーフは注文し、それを受け店員は奥へと引っ込んでいった。
言い方からするとここの常連だろうか?
「……なあ、一つ聞いて良いか?」
「……なんだ?」
「さっきは何であんなことをしたんだ?」
「……」
「ああ、言いたくないなら言わなくても良いぞ」
「……いや、あんたには言うべきだな」
「そうか」
「それじゃあまずは自己紹介から、俺の名前はガルトだ」
「俺はアラタだ」
「カコと言います」
「アラタとカコだな……それで、なんであんなことをしたのかだったな」
「あのエルフのお方は知り合いなんですか?」
「それも順を追って説明する……水王祭は知っているな?」
「あの船を水の王に献上するとかいうのだろ?」
「じゃあ、職人が選ばれるというのも知っているな」
「ああ、確か今回は特別で三人選ばれたんだったな」
「そう……そのうちの一人、『ジャック』と言う名は聞いたことあるか?」
「俺は無いな」
「私は聞いたことだけなら」
「そう、ジャックは三兄弟の一番下であり、そして俺の師匠でもあるんだ」
「え?」
「そうなのか?」
「ああ」
まあ、そのジャックと言う男は選ばれるほど優秀な船大工なのだ、弟子の一人二人いても不思議ではないだろう。
……なるほどな。
「話が見えてきたな」
「……話が早くて助かる、だから一つ頼みがあ「お待たせしました」……。」
ガルトが何かを話そうしたタイミングで店員が料理を持ってきた。
おそらく蒸しているのだろうか、見たことも無いピンク色の魚だ。
おそらく香草の類と思われる葉っぱがふんだんに魚に振りかけられており、それがとても食欲を誘う匂いを放っていた。
「……料理が来たな、一旦話を中断するか?」
「そうだな、それじゃあ」
「「「いただきます」」」
俺達は話すのを止めて今はこの魚に集中する。
その身にナイフを入れると驚くほど簡単に切り込みが入り、そして切れ目から湯気、そして中に詰められていると思われる香草の匂いに口の中に唾液が広がる。
ごくり、と唾を飲みその身を香草を纏わせをフォークで口に運ぶ。
「……おお」
身は柔らかく、まるで鯛の様だ。
だが鯛とは違い噛んだ瞬間口の中に強い旨味が広がりそれは噛めば噛むほど強くなる。
だがそれは香草の香りと風味によって口の中に変な後味を残さず、次の一口へと誘う。
「……旨いな」
「うん」
「だろう?」
「ああ」
それっきり俺達はまた口をつぐみ口にそれを運び続ける。
気が付くと皿の上には骨だけが残っていた。
「……さて、食い終わったな、続きを話して良いか?」
「ああ、とは言ってもおおよその見当はついてるけどな」
「本当なのアラタ?」
「……おそらくだが」
「……ああ、はっきりと言おう」
ガルトは話をそこで区切る。
まあ、ガルトは三兄弟の一人弟子、そして無関係な人、俺を殴ってしまった。
なら考えられる頼みは一つ。
「今回の事は出来れば大事にしないでくれるか?」
まあ、そうだろうな。