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スズナ=スズシロ ~京から始まる帰還の旅~  作者: 大きな愚
7:〈悪鬼〉が来たりて笛を吹く
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7-7

〈受け流し〉(クールディフェンス)!」


 薙ぎ払いに吹っ飛ばされ、木の葉のように宙を舞うアレックスの耳に、背後から聞こえる声。それは冷静さを取り戻したはこべ(・・・)の声だ。

 戦士職が共通で覚えられる〈クールディフェンス〉は、効果時間中に受けるダメージを割合軽減する防御特技だ。だが、どうやら彼女はその「いかなる状況でも冷静沈着な防御を行う」という説明文の効果を利用したようだ。

 アレックスが着地した頃にはすでに〈武士〉(サムライ)の少女は先刻までの狼狽を打ち消して、〈烈火雷神〉(ホノミカズチノカミ)猛攻(ラッシュ)に対応していた。

 左右の斬り払いは(しゃ)に構えた大きな包丁(オーガキラー)で衝撃を逃し、その後に続く爆散する溶岩塊の(つぶて)は包丁を盾のように(かざ)して身を護る。

 特技によるダメージ軽減を活かし、防御に徹することでダメージを抑えている。

 さらに仏のザ(ほとけのざ)の魔法による支援がアレックスとはこべ、二人の傷を癒していく。


(良かった。落ち着いたみたいデスね)

 その様子を見て、少女が精神的に立ち直ったと確信し、アレックスは安堵する。

 戦闘が現実(リアル)になった弊害の中でも特に影響が多い事象の一つが戦士職(タンク)脱落(ドロップアウト)にあるというのはナカルナードの言い分だったが、実際に戦闘に参加したアレックスは、その言い分の正しさを理解していた。

 痛みも臭いも衝撃も画面越しではなく実際に自分の身体に襲い掛かる脅威なのだ。それを最前線で喰らい続けることになる戦士職の負担は大きい。はこべやアレックスのような回避型ではなく、攻撃を受け止めることを主に置くナカルナードのような〈守護戦士〉(ガーディアン)は特に顕著だ。

 そして、低レベル向けとは言ってもレイドボスである〈烈火雷神〉の攻撃は、回避型の二人にとってもそうやすやすと回避できるものではない。例え事前にわかっていたとしても、能力を増したボスの猛攻を受けた彼女がパニックに陥るのは仕方のないことだろう。

 そう思い、頭を抱えてしゃがみ込んだ彼女に対してカバーリング特技を使用した。指揮官(はこべ)本人の指揮を待たずに行った勝手な行動(アドリブ)ではあったが、どうやら正解だったようだ。


「烈火一閃ッ!」

「総員二歩後退、大技来るっちゃ!」

 技名を叫び、双刀を正面に構えた〈烈火雷神〉。対して即座にはこべの指示が飛ぶ。

「ホトケちゃん、今の間にバフ掛けなおし。アレ君、登る準備。後はDPS上げて。ここはボクが凌ぐ・・・・〈玄武の構え〉っ!」

 大地を蹴り、上昇しながら両腕を広げて回転する鬼神の周囲には螺旋状の剣風が巻き起こる。

 支援スキルを順にかけなおしていく仏のザ、それぞれの方法で〈烈火雷神〉に攻撃を与え続けるスズと五行と大嶋、構えを切り替えて吹き飛ば(ノックバック)されることを防いだはこべが跳躍する。

 アレックスは鬼神の攻撃によって生成された螺旋の回廊を駆け上りながら、それらの光景を見下ろし、タイミングを計る。

凄宇覇亜延爆ス・ウ・パ・ア・ノ・ヴァァァァァッ!!」

 宙に浮かんだ〈烈火雷神〉の全身に鬼火が集まり、青白い大火球が膨れ上がる。回廊を駆け上がってきたアレックスや間近に飛翔してきたはこべのみならず、数歩後退した程度の後衛もみな巻き込む大爆発の予兆だ。

 しかし。

「三つ数えたら、一斉攻撃」

 はこべの指示に併せ、攻撃役の四人は異口異音(いおん)に数え始める。


(イー)」「いーち」「ひぃ~」「One(ワン)!」

(アル)」「にーの」「ふぅ~」「two(トゥー)!」

(サン)」「さーん」「みぃ~」「three(スリー)!」


「〈叢雲の太刀〉っ!」

 はこべが構える〈本醸造・(トゥルーメイク)鬼殺し〉(オーガキラー)を縦に一閃。爆発寸前だった大火球は真っ二つに割れ、消え去った。

急々如律令(〈シンギュラリティ〉)以水流(〈サーヴァント)為大渦(コンビネーション〉)

「〈マエストロエコー〉。今っす!」

「はいな、〈エクスターミネーション〉に〈アサシネイト〉ぉ~」

〈蟷螂拳〉(マンティスアクション)〈飛龍脚〉(ワイバーンキック)!」

 五行娘々(ごぎょうにゃんにゃん)に命じられた〈金眼夜叉王〉(ヒラニヤカー)がその身を奔流に変え〈烈火雷神〉に襲い掛かる。大嶋の演奏がその魔法を再現し、二つの大渦が悪鬼にダメージを与えながら動きを縛り付ける。スズの打ち込んだ矢が『懐』の一文字と共に額に命中し、炎の障壁(バリア)の源泉となっていた角を折り砕く。無防備になった鬼の顔面に向かって、アレックスの左右の足による飛び蹴りが時間差を伴って炸裂する。


「はこべ、GJ(グッジョブ)デス!」

「ありー。次の大技はアレ君が〈ドーティン(ぎせい)グポーズ〉し(になっ)てね。よろしくっちゃ」

Jesus(じーざす)・・・・」


 流れるような連携(コンボ)を決め、落下しながらアレックスは親指を立て(サムズアップす)る。

 それに対し、無情な采配と共ににっかりと浮かべられたはこべの笑顔。

 アレックスは天を仰いだ。



「そんじゃあ、防衛戦の勝利を祝って、乾杯!!」

「「「乾杯!」」」

 篝火(かがりび)に照らされた広場にナカルナードの胴間声(どうまごえ)が響き渡る。

 次の夜、各地で防衛戦を終えたレイドチームは〈キョウの都〉に再集結し、祝勝会を開いていた。

 未だ〈スザクモンの鬼祭り〉は終わっていないのだが、〈ミナミの町〉から駆けつけた援軍が到着し、都に溢れる百鬼夜行の相手を引き受けてくれたのだ。〈烈火雷神〉(ホノミカズチノカミ)との戦いの舞台となった〈スザク門〉前の広場には酒と料理が運び出され、鬼祭りが始まった夜から参戦し続けていた二十三人が酒杯(一部はジュース)を掲げてレイドリーダーの音頭に唱和する。

 日が暮れては都中に現れる百鬼夜行を討伐し、日中には〈黄泉平坂〉(よもつひらさか)の攻略。果てはパーティ毎に分かれ四方に散っての防衛戦。これを低レベル向けのイベントとはいえ(わず)か二十四人の急造中隊(インスタントチーム)で対応していたのだ。先発隊には相応の疲労がたまっていた。

 残った日程は先発隊と増援部隊を再編成し、ローテーションで回していくことになる。その辺りは〈将軍〉としてのナカルナードの腕の見せ所となることだろう。


 そのナカルナードが第二パーティの所へ顔を出した。

 乾杯も済み、めいめいに呑んで食べたレイドメンバーたちは自然とパーティ毎に車座になって先日の防衛戦の感想戦を行っていた。

 アレックスたち第二パーティも同様に戦闘を振り返っていたのだが、そこにナカルナードが現れた。

「よっ! ここ座らせてもらうぜ」

 軽く断わりを入れ、空いているスペースにドカっと座り手酌で酒をかっくらおうとするが、そうはさせじとスズが酒瓶を手に立ち上がり隣の席を確保していた。

「まずは、第二パーティの皆、お疲れさんだ。〈キョウの都〉が無事なのはお前さんたちの功績だぜ」

「はい、おおきに。ナカっちもお疲れさんどすぇ」

「あの影男(シャドージャック)、逃がしたのは惜しかったネ」

「ボクの采配ミスだね。〈烈火雷神〉に集中し過ぎたっちゃ」

Don't mind(ドンマイ)デス。ハコベは頑張ってマシタ」

 およそ四〇分ほどの激戦の末に〈烈火雷神〉は倒れた。その間に二回ほどアレックスは範囲攻撃を一身に受けて瀕死になっていたが、今ではそれも良い思い出だ。

 〈魔除けの典災〉である〈影法師のミズクン〉は最初、〈烈火雷神〉に場を任せて儀式魔術を行っていたのだが、劣勢になるや儀式を放り出してレイドボスの強化を行い始めた。名前の通り魔法防御力を中心にバフをかけまくったため、主に五行の攻撃が通りにくくなったのが長引いた原因だ。結局、強化するだけ強化された〈烈火雷神〉を置き土産に影の中へと潜られて、取り逃がしてしまった。

 指揮を執っていたはこべは気に病んでいるが、パーティの誰一人としてそれを責める者はいなかった。それはアレックスも同じ気持ちだ。


「いや、お前さんたちはここまで良くやってくれたぜ」

「なんや含みのある言い方ですぇ、ナカっち?」

 空になったナカルナードの酒杯を満たしながらスズが(とが)める。

「そう言うなスズっち。元々、第二パーティは援軍が来るまでの緊急徴集組だったからな。増援が到着した時点で、これ以上拘束する意味はあんまりない。だから、ここからは自由にやってもらって良いんだよ」

「なるほどネ」

「勿論、その上で手伝ってもらえれば助かるんだけどな」

「ナカっちぃ、ナカスに兵力として連れて行きたいんとちゃうのん?」

「おま、スズっち! バラすんじゃねーよ!」

 ナカルナードとスズが漫才のようにじゃれ合う様子を尻目に、他の面々は煮え切らない様子だ。

「大きな組織の後ろ盾は安心感あるけど・・・・」

「そうやね。ばってん、どん位の自由が保障されるかは・・・・」

「うーん・・・・」

「Fuuuumu・・・・」

 ミナミを実効支配する巨大ギルドの存在と、そのギルドが〈大地人〉国家〈神聖皇国ウェストランデ〉との繋がりを深めた事。そして、その国家(ウェストランデ)が〈ミナミの街〉と〈ナインテイル自治領〉に攻め込んだことが彼らの判断を重くしていた。


「あー。悪いッスけど、自分はミナミに行く用ができたッス。ちょっと調べモンで」

 皆が身の振り方に逡巡する中、率先して挙手したのは〈念話〉が入ったと離席していた大嶋だった。

 元々、ソロ活動をしていたフリーの〈吟遊詩人(バード)〉である彼がそう言ったのなら、だれも止めだてする言われはない。

 そして、その選択がその後の流れを決めたのだった。


「俺もレイドはここで抜けるデス。その後は、また帰郷を目指そうかと・・・・当ては無いけど」


 そもそもアレックスは〈キョウの都〉に住む〈大地人〉が魔物に襲われるのを助けているうちに、なし崩し的にレイドメンバーになっていたようなものだった。

 充分な数の〈冒険者〉がイベントに対応し始めた今、そろそろ本来の目的である北米サーバー管区(ホームグラウンド)への帰郷を考えるべきだと感じていた。

 だが、その一言は〈七草衆〉の面々には別の意味に受け止められていた。

是々(ふむふむ)。これは奇遇と言うべきかも知れないネ」

「実は、ウチらも現実への帰還を目指してますのんぇ」

「じゃあ、アレ君もボクらの家に来ると良いっちゃ!」

「あんまし無理に誘ったら良くなかたい。ばってん、男手の増えるんは私も助かるけん」

 スズを筆頭に話が膨らんでいく。


I didn't (そんな意味)mean it (で言ったん)that way(じゃなくて)・・・・」

「ガハハハハ! 随分と気に入られたみてぇじゃねーか!」


 アレックスの消極的な否定はその背中をバンバンと叩きながら発せられたナカルナードの笑い声に掻き消された。彼がこの誤解を解くことができるのは、随分と先のことになる。

 その日、〈七草衆〉のギルドハウスは新たな住人を迎えた。

キャラクター紹介:7

 アバター名:アレックス プレイヤー名:Rex=Archer(レックス・アーチャー)

 種族:ヒューマン 性別:男性 所属ギルド:Branch-(ブランチ)lunch(・ランチ)

 メイン職:武道家(モンク)/90レベル サブ職:ルーンナイト/90レベル


 アレックスは蹴撃拳士(キッカー)ビルドの武道家だ。

 移動と攻撃を同時に行える〈飛龍脚〉(ワイバーンキック)をはじめとしたキック技を主軸に置いた構成となっており、機動力に長けている。

 黄金色に輝く全身甲冑にみえる〈ヴィーダルの神鎧〉シリーズは、実は〈武道家〉専用の軽装鎧であり、見た目と違って軽量で動きを阻害しない。全部位を着用することで南米サーバー専用(クラス)〈カポエリスタ〉のスキルも一部使用できるようになっている。また、脚部装備である〈強い靴〉(ハードブーツ)はその絶妙な重量によってキック時のダメージを大きく増量している。更に、サブ職業〈ルーンナイト〉が扱える霊符によって局面に応じた自己強化が可能。

 全体的にソロプレイ向きの性能となっているが、状況に応じてサブタンク、アタッカーと使い分けていく運用が可能となっている。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字羅「ぎゃおーす!」 送信 最後の英語の呟きが、一部空白無効になってますね [一言] アレックス君、良かったなw ハーレム予備群だぞw まあこき使われるとも言うが しかし姐さん、セ…
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