表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スズナ=スズシロ ~京から始まる帰還の旅~  作者: 大きな愚
5:ツキを掴んだ〈鳥頭〉(ムーンレイカー)
42/66

5-6


「さぁ、出し惜しみ無しで行くネ!」


 〈破戒の典災・エレイヌス〉との戦いは、戦端が開いた直後から大技のオンパレードだった。

 全身を凍りつかせながらエレイヌスを羽交い締めにした〈金目夜叉王〉(ヒラニヤカー)を起点に全員が動き出す。

「そのまま凍り付いててくれよ!」

 〈アークスペル〉によって敵愾心(ヘイト)的に透明となったせりPが生み出した放射形魔法陣リカージョン・シンタックスによって効果範囲を圧縮された〈フリジットウィンド〉の膨大な冷気がエレイヌス一人を包み込む。

「氷の彫像になれば、少しはイイ男に見えるっちゃね!」

 寒さに動きを鈍らせるエレイヌスに軽口を浴びせながら〈浮舟渡り〉で肉薄するのははこべ(・・・)だ。

 〈巧撃〉(フォレストルヒット)で命中精度を上げながらの〈一刀両断〉!

「皆の仇っ!」

「破ぁぁっ!」

 その間に五行娘々(ごぎょうにゃんにゃん)が投射した〈インビジビリティ〉によって隠密状態になった雷 安檸(レイ・アンニン)〈隠身刀鋒〉(インシェンダオフェン)と〈ハイディングエントリー〉で姿を消したスズの〈フェイタルアンブッシュ〉が立て続けに炸裂する。

「カーッカカカカカ! 楽しいな! 愉しいなぁ!」

「そうは、させんとよ!」

 夜叉王の拘束サーヴァントコンビネーションを振り払ったエレイヌスの攻撃も、仏のザ(ほとけのざ)が設置していた〈サンクチュアリ〉に阻まれて致命打には至らない。

 そして、四時間が経過した。


師母(シーマァ)、少し落ち着くネ!」

 順調な滑り出して始まった戦いは、時間の経過と共に急造パーティの脆さを浮き彫りにしていた。

 その中で最も五行を悩ましていたのは、エレイヌスの口撃(タウント)に対する安檸の打たれ弱さ。すなわち、煽り耐性の低さだった。

 唯でさえメンタルが弱く協調性の低い安檸だ。

 長時間の共同作業で摩耗した精神に、ここぞとばかり愉悦を含んだ声がかけられる。

「クヮカカカ! どうした? 〈仙境〉の連中はもっと拙僧を愉しませてくれたぞ!」

「〈仙境〉に何をしたのっ!? まさか〈ヤマト騎士団〉ばかりでなく・・・・」

「さぁてなぁ。クカカ! もしかすると、拙僧を倒して聞くのは諦めたのかな?」

()・・・・(シャア)っ!」

「だから、そこで頭に血が登っては敵の思う壺ネ!」

 敵に回すと面白いが、味方に回ると不安なことこの上ない。

 〈古来種〉のあり様をそのまま体現したかのような安檸は、時に半狂乱(バーサーカー)となって滅多矢鱈に大技を繰り出す。

 それによって敵愾心の序列や攻撃順が乱れ、パーティ全体に隙が生まれるのだ。

「五行ちゃんと安檸はん。まるで仲良し姉妹みたいやわぁ」

「手間のかかる師匠を持つと苦労する、というだけネ」

 揶揄に対して頬を染め、憎まれ口を返すものの、その表情はすぐに引き締まる。

「無駄口を叩いてる暇は無いヨ」

「はいな。ほな、はこべちゃん、あんじょうよろしゅうに」

「りょー」

 好い加減に呆れた様子のスズから合図を受けたはこべが突きを繰り出す。

「クカカカカハッ・・・・!」

 〈百舌の早贄〉(ラニアスキャプチャー)によって潰されたエレイヌスの喉から呼気と共に大量の鮮血が吐き出される。

 本来は呪文の詠唱を阻害するための特技を使って典災の無駄口を封じたのだ。

原来如此啊(なるほど)ネ。けど、師母も手間をかけさせ過ぎヨ」

「ごめんよぅ」

「弟子に恥かかせる師匠、どう思うネ?」

「悪かったってば! そこまで言うことないでしょ!?」

 弟子に叱られ、悄気(しょげ)げながらも左右の手に持った光の剣で、悶絶したままの烏天狗に斬り掛かる。

 はこべが、スズが、五行が、せりPが、それに続いた。


「・・・・カハッ!」

 幾度の刀剣と矢と氷を受けただろうか。無言の行を強いられていたエレイヌスが次に言葉を発した時には、すでに戦いの趨勢は決まっていたかのようだった。

 手にした錫杖すら半ばから絶ち折れている。しかし

「これは、なかなかに厳しい展開よな」

 その顔に、刻まれた笑みは更に深く。

『『・・・・・・・・』』

「いや、待て。ここからが愉しいのだ」

 首から下げた白黒巴の明滅にも、喜色の滲む声で応えを返す。

「何? まだ大技を残してたネ」

 その異変に気付いたのは、後方で敵の様子を見定める役割を負っていた五行だ。

 典災が掛けていた首飾り、その巴の白い色が一瞬輝きを増した。

 ちりん

「くっ!」

「なんやのん?」

「どげんしたと?」

「これは・・・・」

「やってくれたな」

 涼やかな鈴の音が耳元で聞こえたと同時に、エレイヌスへと攻撃を仕掛けていた六人の動きが不意に乱れた。

 呪文を唱える舌から、矢を番える指先から、踏み込む膝から、急速に力が抜けたのだ。

不会吧(ありえない)ネ!?」

 パーティ用のステータス画面を開いて指示出しに集中していた五行は我が目を疑った。


 五行娘々 〈召喚術師〉(サモナー) レベル三十五


 五行だけではない。

 はこべもスズも仏のザも、〈航界種〉(トラベラー)であるせりPや〈古来種〉の雷 安檸までを含めた全員のレベルが三十五に低下していた。


「ちぃ! だから待てと言うに」

 鳥のクチバシの中、つまらなさそうに舌打ちをする〈破戒の典災エレイヌス〉。

「これでは興醒めではないか。〈憧れ(・・)〉め、やってくれたわ」

 まるでクリア直前のゲームのセーブデータを消された子供のように、それまでの楽気(たのしげ)な様子から一転して、地団駄を踏みながらつまらなさそうに(うそぶ)く烏天狗。

 そのレベルは依然として一〇〇のまま。

 戦力の拮抗は、ここに潰えた。


「まぁ良い。こうなってしまった以上は、手早く片付けて次の愉しみを探すとしようか」

「どれだけ、人を莫迦にすれば気が済むのっ!」

 思考を切り替えたエレイヌスに対し、いち早く立ち直ったのは安檸だ。

 彼女は〈仙境〉で受けられるクエストに何度もボスとして登場している。

 そのクエストは冒険中級者からハイエンドにまで及ぶため、師範システムと称して様々なレベルの彼女と戦うことができるのだ。

 すなわち、安檸は未だにレベル三十五での戦い方を確立しているのだ。

 これは、師範システムを使った新人育成と縁の薄い〈七草〉メンバーや、今使っている身体(アバター)が低レベルだった頃を経験していないスズとせりPに対して、大きなアドバンテージだった。

 そして、立ち直った彼女は、即座に煽りを受けて激高していた。

 左右の手には光の刀身を持つ〈白巫双剣〉を構え、眼光をギラつかせて突進する安檸。

 だが、刺殺する勢いで突き出された刃をスルリと避けた典災が彼女の耳元に嘴を寄せて何事かを囁くや、ビクンと硬直し、そのまま棒立ちになってしまう。

「せめて、多少なりとも抗って欲しいとは思ったが、詮無き事よな」

 その結果に落胆を隠そうともせず、エレイヌスは密着した体勢のまま掌底を構える。

「徹れ波紋! 貫け雷迅! 必殺、偶像破砕拳(アイドルブレイク)!!」

 放電光を撒き散らす掌を安檸の腹に押し当てると、一拍を置いて彼女を中心に空間が振動した。

「わ、わたしは・・・・などでは、ない」

「哀れな人形よ。せめて約束通り、同胞の元へ送ってやろう」

 合掌。

 鳥の頭を持つ僧形が、弔うかのように構えを解く。

 支えを失った安檸の身体がグラリと傾いた。

 その身体は、撃たれた所から徐々に水晶のような結晶へと変じ始めている。

「師母・・・・?」

 五行は未だ動けずに、目の前で急速に減っていく安檸の生命力(HP)ゲージを見つめていた。


「〈フリージングライナー〉!」

 せりPの放った冷水の奔流がエレイヌスと安檸の距離を分かつ。

 その距離を埋めさせまいとスズが矢継ぎ早に矢を放ち、はこべが弾かれたように典災へと向かっていく。

 倒れようとする安檸を受け止めようと仏のザが駆け寄る。

 五行はまだ動けない。

 スズとせりPの援護を受けたはこべが敵と切り結んでいるが、明らかに、以前よりも傷を受ける頻度が増えている。

 レベル低下に伴って落ちた移動速度を上げるために〈刺青模様(タトゥーパターン)戦車〉(チャリオット)を起動していた仏のザは、その甲斐も無く間に合わなかった。

 ガシャンと音を立てて無防備に固まった姿勢のまま安檸は倒れた。

 彼女の元に駆け寄った仏のザは、完全に結晶化した身体を即座に抱き上げ、上位蘇生呪文〈ソウルリヴァイヴ〉を詠唱する。

 だが、安檸は動かない。

 続いて〈リザレクション〉も唱えはじめる。

 だが、下位の蘇生呪文である〈リザレクション〉は詠唱に時間のかかる特技だ。

 

 ぱきぃん

 詠唱の完成を待たずして、安檸の身体は砕け散る。

 剥がれ落ちたテクスチャのように舞い散る結晶の欠片。その一片一片に映る己の顔を五行は見る。

 その視界は、真紅に染まっていた。


「嗚呼々々々々々々々々々々々々々ッ!!」


 怒りに我を忘れた五行の背後には、永久氷晶の聖剣を無数に浮かべた〈聖剣皇子〉(キャリバープリンス)が呼び出されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あああああああああああああああああ・・・orz 姐さん・・・ そう来たか アキバやミナミじゃ無いから、他に冒険者居ないしなぁ(´・ω・`) どないするんやコレ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ