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スズナ=スズシロ ~京から始まる帰還の旅~  作者: 大きな愚
3:トラブル&ザ・〈冒険者〉
14/66

3-2

〈道祖童子〉の設定については山本ヤマネ様作「辺境の街にて」から設定をお借りしました。

この場を借りてヤマネ様に心からの御礼を。

 「そろそろ、お昼にしようやか?」

 「哎哟(アイヤ)、もうそんな時間ネ?」

 「もう、影のすっかり短かやから」

 「ほんまやわ・・・・」

 「わーい! 待ちかねたっちゃ」


 スズたちが出発してから体感時間で二時間ほど、仏のザ(ほとけのざ)が声を掛けたのはそんな頃合いで、中天に差し掛かった日差しが作る短い影を指された一行は、思っていた以上に時の経つのが早いことに驚いた。

 実際には太陽が中天を通り過ぎていたのだ。

 スズは集中してメニュー画面を呼び出すが、本来そこに時計があるはずの場所は暗く、何も表示されていない。この異世界に来てからというもの、ログアウトのボタンと共に沈黙したままである。

 ギルドハウスのインテリアから柱時計を外して持ってこようという意見もあったにはあったのだが、流石に荷物としては嵩張るし、うっかり扱いを間違えれば簡単に時刻が狂ってしまう。


 〈エルダー・テイル〉のアイテムには、もっと小型の時計、例えば目覚まし時計や腕時計といった物も存在こそするが、それらは〈機工師〉や〈魔具工匠〉といったサブ職のプレイヤーが作り出す趣味的なアイテムで、ゲームだった頃にはほとんど需要が無かったものだ。

 むしろ、ギルドハウスのインテリアに柱時計を購入していた時点で、〈七草衆〉がいかに趣味的なギルドであったかがわかろうと言うものだ。


 少しばかり慌てた気分で、スズたちは昼食の準備を始める。

 幸いにして、この辺りは〈タートルヒル〉という見晴らしの良い丘陵地帯であったため、場所の確保には困らなかった。

 ランチシートを敷き、それぞれ思い思いに座ると、五行(ごぎょう)魔法の鞄(マジックバッグ)から風呂敷に包んだ重箱を取り出して広げるのに合わせ、仏のザは水筒と竹製のコップを取り出し、注いで配り始める。


 「「いただきます!」」

 「はい、召し上がれ」

 「まぁ、お店には出せないまかない料理の類なのだけれどネ」

 四人前のまかない飯というには遥かに豪華な、行楽弁当めいた昼食を前に手を合わせ、食事が始まる。


 「はむはむはむっ! このフライ、衣がパリッとサクッと美味しいっちゃ。もう一つっ!」

 「はいはい。そげん慌てんでも無くいか・・・・」

 「そん叉焼(チャーシュー)余ってるみたいやし、いただきですえぇ!」

 「待つネ! ソレ、ワタシが最後に食べようと取ってたヨ」

 「甘ぉおす。『恋は速攻瞬殺。実妹には手を出すな』どすえ」

 「ソレ、この状況に何の関係も無いネ!」

 「・・・・無くいかんこつも、無かちゃうたい」

 「こっちの揚げ春巻きも絶品っちゃー!」


 勢い込んで食べるはこべを(たしな)めようとした所に、スズと五行がおかずの取り合いを始め、仏のザは苦笑いをうかべる。


 弁当の中身はというと、ほとんどが宴席料理の残りに手を加えたものだった。

 鯛のタタキには衣を付けて揚げて白身魚のフライに、逆に鶏の唐揚げは衣を剥いで蒸し鶏に姿を変え、他にも水餃子には火を入れて蒸した焼き餃子に、姿煮にされた〈船喰鮫(メガロドン)〉の(ヒレ)はほぐしてスープの具になった。

 海老のマヨネーズ和えは辛子を効かせたチリソースに絡め、生の果物は葛で固めて和風のゼリーに、干し果物は小麦粉の生地に練り込んで焼き菓子になり、御重の中身に色を添えていた。


 長持ちしそうな食材は保管庫に入れ、生のまま手を付けていなかった食材は加工できそうなものは加工し、そうでないものは調理してメニューに加える。

 一際良い匂いを漂わせているのは、〈渦吐き海鞘(カリュブデュス)〉の味噌バター焼きだ。

 弁当の主役となってしまっている海産物は、特に足が早かった。


 〈キョウの都〉には、〈スタグナ川〉や〈ニオの水海〉からもたらされる水産物が多く寄せられるため、魚食文化が育まれているものの、意外に海産物は少ない。

 その背景には、最寄りの海岸にある〈魔出(まい)づる廃城〉が不死の(アンデッド)モンスターの溜まり場と化しており、漁ができなくなっていることが大きい。

 そのため、〈キョウの都〉に寄せられる海の幸は〈ニオの水海〉の汽水域や〈キノサキ温泉郷〉、〈麗港シクシエーレ〉といった、やや距離のある場所から日数をかけて運んでこられるのだ。


 今回は運良く、〈ニオの水海〉の水運を牛耳る商人貴族が魔法の冷蔵庫に入れて運んできた鯛や海老といった鮮度の高い食材を(スズの壮絶な値切り交渉の末に)仕入れることができた。

 魚染みた顔立ちにキョウの貴族に時折見られる白塗りの化粧をした彼は、これで商人としてやっていけるのかと心配なくらい激しやすく視野が狭かったため、スズにとっては良いカモとなっていたが、聞いてみると実は〈神聖皇国ウェストランデ〉の支配者が抱える御用商人とのことで、食材の質や取り扱いの良さは五行も認めるほどのものだった。



 「あら、ホトケはん。何したはりますのんぇ?」

 食事の最中、面を上げたスズは、仏のザの姿が消えていた事に気づく。

 見晴らしの良い丘の上だったことが幸いして、ぐるりと見回せばその姿はすぐに見つかったのだが、仏のザは街道の脇にしゃがみこんで何かをしているようだった。


 「ちょーね。こげな物ば見つけたもんやけん」

 仏のザが見つけたのは街道脇に設置された、古ぼけた木製の小さな祠だった。

 中には、摩耗して何を彫ったのか判別できないような石像が祀ってあり、仏のザは大きな笹葉の上にオムスビを備えて手を合わせていたのだ。


 「何やろね。お地蔵はん?」

 「道祖神のごたぁ物じゃなかかいね」

 「ほなウチも・・・・道中何事もあらしまへんように」

 スズも隣にしゃがみこんで手を合わせる。

 水着に似た服装で道端にしゃがみこみ手を合わせている二人の姿は、色々な意味で実に無防備なものであった。


 「おねえちゃんたち、こんなところでなにしてるの?」

 「「!!??」」

 だからこそ、至近距離に近づかれるまで気づかなず、声をかけられて驚いたのだ。

 もしも、ここに現れたのがモンスターであれば、不意を突かれて大きな被害を出していたことだろう。


 小柄な姿に赤い被り物という姿は一見して精霊系魔物(モンスター)の〈赤帽子(レッドキャップ)〉と間違えそうだが、よくよく見ると、それは赤いハーフマントを羽織ってフードを目深に被った〈大地人〉の童女だった。

 年の頃は十前後だろうか、目が大きく、端から大きな八重歯が覗く口元は、日に焼けた肌に、野山で動きやすそうな麻のシャツとズボン、頑丈な靴といった装いと相まって野性味を帯びた印象を与え、赤ずきんというよりは防災頭巾を被った戦災孤児を連想させる。


 名前:マツネ

 種族:狼牙族 性別:女性 所属ギルド:なし

 メイン職:採取人/レベル5


 心中で「失礼しますえぇ」と呟きながら相手のステータスを確認するのも既に反射で行なってしまうようになったスズは、童女の正体がモンスターではなく〈大地人〉だと確認して密かに胸を撫で下ろす。


 「旅ん無事ば、お祈りしよったんたい」

 「道中ん安全をお願いしぃやったんえ」

 「そうだったの。おねえちゃんたちがぶじにたびできるといいわね」

 そういって笑顔を浮かべた童女だったが、すぐにその表情を曇らせる。

 「でも。せっかくのたべものだけど、ガーディアンノームはものをたべられないの。このままおいておいたら、モンスターがやってきてこわされちゃうかもしれないの」


 現実の日本に於いても、お供え物を狙った(カラス)や野良猫、野犬などによって墓地が荒らされたり、野生の動物が味をしめて人里近くにやって来る原因の一つとなっており、参拝後にはお供え物を持ち帰らせたり、お供えは瓶缶モノのみと定めている所もあるくらいだ。

 そして、このヤマトに於いては、状況は更に切実だ。

 猿や狸、猪に熊といった野生の動物は、レベルによっては〈大地人〉にとって対処が難しい魔物(モンスター)であるし、食べ物に釣られて現れるのは、なにも野生の動物ばかりではない。

 真に厄介なのは悪の亜人間種族たちだ。


 この近辺に出没する亜人間種族は主に三種類。

 狸に似た獣人の〈黒狸(クロマミ)族〉、背に翼を持つ〈天狗(テング)〉、そして〈人食い鬼(オーガ)〉だ。

 その中でも〈天狗〉であれば落ちてる食べ物に興味を示したりしないだろうが、〈黒狸族〉はついでに〈道祖童子〉に悪戯を仕掛けかねず、特にこの付近に多い〈人食い鬼〉ならば力任せに破壊してしまうこともあるらしい。


 「ガーディアンノームはみちにつよいモンスターがこないようにするアイテムなの。だから、こわれるととってもこまってしまうの」

 マツネの説明によると、この〈道祖童子(ガーディアンノーム)〉は街道に高レベルのモンスターが近寄れなくする、一種の結界を張ることができるらしい。

 その効果は絶対ではなく、モンスター側に特に理由があったり、戦闘状態のまま逃亡(トレイン)などすれば、街道にモンスターが現れる事になる。

 そして、このアイテムは「くにえのぎじゅつ」なるものによって作られた物であるため、もしも壊れた場合、彼女たちでは修理することもできないそうなのだ。

 そうやって結界が張れなくなり、安全性が失われた街道も幾つかあるという。


 「そやったんやね。堪忍しておくれやす」

 「これはすぐにお下げするけんね」

 「わわわっ。あやまらなくてもいいのに・・・・でも。おねえちゃんたち、ありがとうなの」

 二人が揃って頭を下げると、マツネは驚き、そして破顔し・・・・


 きゅるるるるる~


 響いた音に、破顔したばかりの童女の顔が朱に染まった。


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