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サイバーグランゾーンオンライン  作者: 鬼京雅
ブラックマトリクス編
9/51

ダークネスプリズン

 溜息をつくサクヤは他人の恋路を邪魔するような女に言う。


「キスでエッチな行為じゃ手もつなげないじゃない。貴方の新しい相棒はつまらない女ね」


「つまらなくて結構。地道こそ最強への近道ですから」


「フン。ここで貴女も死になさい女侍」


 パチン! と指を鳴らすサクヤはブウンンン……という音と共に地面から出現した黒い鉄を操作した。 ガシガシガシッ! と一つの牢獄が生み出され、ライトとキキョウを黒い鳥篭に閉じ込めた。


「こんなもの斬りさいてやりますわ」


 すぐさまキキョウは虎鉄こてつで攻撃を加えるが、その鳥篭はビクともしない。

 ズガガッ! とライトも拳を加えるが無論、壊れる事は無かった。

 厄介な鳥篭に閉じ込められたなと思う二人は片方のツインテールの毛先をいじり、薄く笑うサクヤを見る。


「ダークネスプリズンからは出られないわよ。これはシステム的に作られた最強の牢獄だからね」


 このダークネスプリズンは自動的にヘブンズキスを生み出す効果がある鳥篭であり、五分後に必ず内部の者が死ぬ作りになっていた。絶対的な死を与える鳥篭に閉じ込められる二人に為す術は無い。

 それを聞いたライトは眉を潜める。


「システムに干渉できるだと? それは開発者のシュウヤしか……」


「シュウヤ? ううっ……」


 突如サクヤは頭を抱えてよろけた。

 そして、身体の周囲に闇の粒子を撒き散らしもがきだす。

 明らかに自分の中の何かと葛藤しているサクヤにライトは呆然とする。

 それによりキキョウは鳥篭の力が弱まったかと思い攻撃するが、そうはならない。

 冷や汗が流れるサクヤは豊かな胸を押さえながら何かに懇願するように呟いた。


「鍵は貴方の好きな飲み物……」


『……』


 鳥篭の中からライトとキキョウが見つめる中、サクヤはそのまま姿を闇の粒子と共に消した。

 二人は四分後に迫る死を待ちわびるように立ち尽くした。

 しかし、このまま諦めるわけにはいかない。


「ライトニングドーン!」


「キキョウ流一式・鬼神斬きじんざん!」


 二人の必殺技であるスタースキルが発動するが、黒い鳥篭は傷一つつかない。

 どんな攻撃にもビクともしないダークネスプリズンの攻撃をやめた二人は地面に座り残る三分という時間を命が削られるようにカウントしていた。

 すでにスキルゲージの全てを使い果たす二人には新しい何かをする事は出来ない。

 まいったな……と鮮やかな金髪をかくライトは緊張の糸が切れたのか尿意をもよおした。


「……おいキキョウ。ちょっとその岩場で思案する事がある。集中したいから覗くなよ」


 立ち上がるライトはサクヤとの戦いで生まれた地面の岩の陰で放尿する。

 ふと、下腹部を抑えていたライトを見たキキョウも立ち上がり、


「傷の手当なら私のポーションで……あっ!」


 唖然とした顔でキキョウはライトの放尿シーンを見てしまった。

 キキョウ以上に唖然とし、硬直に硬直を重ねるライトだが尿意だけは勢いを増す。


「何でゲーム内でお小便を……」


 ライトの下半身をじっと見つめるキキョウは頬を染めながら呟く。

 そして、小便を終えたライトは微妙な雰囲気をかき消すように語り出す。

 すでに残りの時間は二分を切っている。


「……俺は特殊な呪いを受けている。コンテニューしたら、俺と関わった人間の記憶はライトという存在と過ごした出来事だけ消えるんだ」


「? 記憶が消えても、ここのボスを倒すまでの限定でしょう? 貴方をあの死神攻略まで生き残らせて勝てば、次のログインでまた記憶がある状態で会えるじゃないですの」


「コンテニューはさせない! 必ず二人で生きて帰るんだ!」


「何必死になっていますの? これはゲームですわよ? 漫画とかでデスゲームが流行ってるけども、現実にそんな事があるわけないのに何でそんな必死なのです?」


 そして、ライトは自分自身の今を語る瞬間が訪れた――。


「それは、俺がこの世界の住人だからだ」


 そこで、キキョウはライトがサイバーグランゾーンオンラインで唯一のデスゲームをするプレイヤーであり、自ら望んでデスゲーム世界へ飛び込んだ存在という事を知る。


「貴方……正気? 自分でデスゲームを望むなんて……」


「正気だよ。俺はゲーム世界でしか自分を保つ事が出来ない社会不適合者だ。この世界で生き、この世界で死にたい。理想が高い人間には現実世界は息苦しいだけなんだよ」


 キキョウは今の相棒としてかける言葉が見つからない。

 時間はそんな二人を嘲笑うように過ぎて行き、残る時間は一分となる。

 最後の抵抗を見せる二人はダークネスプリズンに猛攻を加えるが何かが変化する事は無い。

 サクヤの生み出したこの鳥篭に辟易するライトは死神少女の消える瞬間の姿を思い出した。


「……そういえば、サクヤが消える時に好きな飲み物が鍵とか言ってたな。もしかして……」


「ひえっ!」


 ライトはキキョウのメニュー画面を強制的に開き、アイテム欄からポーションを取り出した。

 尻を一瞬触られたキキョウをなだめながらそのポーションを鳥篭にブッかけた。

 すると、どんな攻撃も無効化していた黒い鳥篭はシュワァァ……と消滅した。

 二人はポーションでダークネスプリズンから脱出したのである。

 そして、ボスの消えた死神の魔宮からも抜け出した二人はノベンバーの街の宿屋で語る。


「何故サクヤにこれだけのスキルがあるのかが気になる。現実のサクヤを調べる必要があるが……」


「それは私に任せておいてくださいな。徹底的にあの死神は調べてやりますわよ」


「お、おう。任せたぜキキョウ」


 やけに張り切るキキョウに圧されながらライトはお願いした。

 そしてログアウトするキキョウはもうロウグアウトできない相棒をはかない顔で一瞬振り返る。

 突如ライトの前に現れたサクヤはとある人物に操られていた。

 現実世界のサクヤは昏睡状態にあり、キキョウはそれを調べに現実世界を疾走する。

 そこでは無造作に整えられる茶髪をクネクネといじるサイバーグランゾーンオンライン天才開発者・シュウヤが暗躍していた。


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