死神の魔宮ボス・サクヤの謎
薄闇の奥に誰かの気配がある。
瞬時に動けるように〈瞬歩〉のスキルを発動させられるようにし、スタースキル・ライトニングドーンの速攻を使えるようにした。
「……?」
攻撃か回避をしようとしていたライトの動きが止まる。
そこにはピンク色の忍装束の少女が立っていた。
サクヤに始末されコンテニューをしたニンジャのニャムが現れた。
「……何でお前がここに?」
「何でもよ」
言うなり、ニャムは道案内をするように魔宮内を歩き出した。
ライト暗殺の記憶が消えているだけではなくライトそのものの記憶が消えているらしいニャムは道先を案内するように言う。ニャムに敵意は無く、本当に道案内をするように正しい道を奥へ奥へと進んで行く。
(俺が倒した相手は本当に記憶が消えるのか……それにしてもニャムは何でこのダンジョンに? 俺の後に入れるような距離にはいなかったはずだ。明らかに誰かが後から侵入させたのは間違いないな。一体誰が……)
困惑するライトは一つの死神の鎌が描かれた門の前に立つ。
ニャムの案内でボスステージにたどり着いた。
「任務完了。それではニャムはこれにて」
「おい! ニャム!」
スッ……と影のようにニャムは消えた。
そしてライトはその門を開放する。
死神の魔宮ボスステージ。
死霊が漂うような寒気のするその空間は黒と紫に覆われた魔物の体内のような壁の作りで、異様な感覚をその場にいる人間に抱かせる作りになっていた。そして、その場をゆっくりと歩いて来る金髪の少年は視線の先にいる紫のツインテールの死神少女をじっ……と何かを瞳で訴えるように見据えていた。
かつて、光と闇の相棒と呼ばれた二人は会話する。
「やっとゆっくり話せそうだな。お前が何故このサグオにもう一度ログインしたのかを教えてもらおうか?」
「光と闇の相棒……互いに付けられたその呼び名が風化したからとでも言いましょうか」
「呼び名が風化したからだと?」
「私はパーティーを組まなくては進めないダンジョンに行く時は必ず貴方だけと組んだ。そのおかげでネットに詳しい連中が私の貴方との関係を怪しみ、ついには身元特定されて学園にまで押し寄せられた。その挙句、私はストーカー被害で学園にいられなくなり通信制の学校に移らざるを得なくなった。そして私はリアルでの被害の怖さからサグオを辞めた」
サイバーグランゾーンオンライン最強であるライトの唯一の相棒として存在したサクヤはリアルでのルックスも冷たい氷の美少女と呼ばれ、数多のファンを生み出しその中の数名がストーカーと化した。それがサクヤの人生に暗い影すら落としていた――。
「そこまでは知っている。俺は何故リアルバレしてストーカー被害に合ったにも関わらずお前がこの世界に戻って来たのかを聞いている」
「それは、貴方がこの世界で唯一の存在になったからよ」
その薄い唇から放たれる言葉でライトは黙る――。
自分の秘密である、この世界をただ一人でデスゲームを体感するプレイヤーという事を何故知られているのか? いや、それは単なる言葉のニュアンスでそう聞こえるだけなのか? 全てが疑心暗鬼になり、ライトは黒い革靴を微かに後ずらせる。
「まだ聞きたい事はある。エピオンに新しいスキルを与えたのはお前かサクヤ?」
「それは……私であり私ではない」
スッ……とサクヤはか細い指を構えダークネスショットを放つ。
素早くライトは回避した。
「――っと! ダークネスショットか」
指から放たれる黒い光は軽いマヒが発生する闇の光。
薄い唇を笑わせるサクヤは、
「ならこれならどうかしら?」
地面にデスサイズを投げ捨て、嫌な音波振動が空間を襲うと同時にズバババババッ! とタッチパネルを高速で叩くようにダークネスショットを放った。
「連射か……久しぶりのログインの割りには動きがいいじゃないか」
糸のようなレーザービームが空間に散る。〈見切り〉のスキルを全開にし回避するが、あまりもの数のダークネスショットに頬をかすめてしまう。そして軽くライトの動きが止まるが、自分で自分を殴り瞬時にマヒをかき消した。
「この程度のマヒで俺を止められると思うなよ――」
「速い!」
スキル〈瞬歩〉にてサクヤの目の前に現れる。
ガガガッ! と数発の拳を浴びせるが、目の前のサクヤの異様な瞳に呑みこまれた。
「! あいかわず不気味な殺気だな」
フフフ……と冷気を放つようなサクヤの口から言葉が漏れる。
「なら、死にゆくキスをあげましょう。ヘブンズキス」
ズワァ……と死霊の群れがライトを襲うが、構わずサクヤにライニングドーンを叩き込む。一気に後方に吹き飛ぶサクヤは倒れる。そして全身を死霊に絡まれるライトはわたわたしながら言う。
「死なないキスなら歓迎だぜ……?」
全身から力が抜け――ライトは倒れた。
わけがわからないライトは、ゆっくりと接近する死神少女のツインテールの毛先の跳ねを見て過去の記憶が蘇る。
「ヘブンズキスは死霊に扮した魔法を心臓にかけ唇からキスで殺す……だったか? 忘れてたぜ」
「思い出した? まずデスサイズの音波が三半規管を狂わせ、ヘブンズデスの死の口づけで始末する。貴方の体は生身だからデスサイズの音波がやけに効いたようね」
デスサイズの振動マヒ音波と、死霊で相手の心臓に干渉している即死魔法ヘブンズデスの口づけで抹殺するサクヤの切り札でもある必殺コンボだった。
「ぐっ……サクヤ!」
スッ……とライトの黄色い学ランのボタンを外していき、ゆっくりと妖艶な唇を近づけた。
細い指がライトを焦らすように露になる乳首の円周をなぞり、アゴで止まる。
固定されるライトの顔はすでに死を待つ罪人そのもである。
甘い死の吐息が快感中枢を刺激し、この女になら殺されてもいいか……と死神少女の白い顔を眺めた。
「サヨナラ。ライト」
赤く染まるライトの頬の高まりとは間逆の死が迫る――。
その空間に、可憐で固い口調の女の声が響く。
「なにイチャイチャしてるのです? エッチな行為はゲーム内では禁止のはずですわよ」
そこには白い着物に赤い袴の女侍――真紅の女侍・キキョウがいた。
居合いで斬りかかるキキョウにサクヤは後退し距離を取る。