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サイバーグランゾーンオンライン  作者: 鬼京雅
ブラックマトリクス編
7/51

次世代の王を名乗る少年

 死神の魔宮。

 魔宮内部に突入したライトは閃光のように金髪を揺らし駆ける。

 内部は紫を基調とした魔女の子宮のような怪しい作りになっており、時折毒の霧が地面から噴出していた。

 疾走する黄色い学ランのヤンキースタイルの少年は、迫り来るゴーストの群れを倒して行く。

 ゴースト系のモンスターは実態が無い為に基本的に魔力を帯びた武器か魔法でしか倒せない。

 しかし――。


「ららららららっ!」


 拳から生み出す風圧で疾風魔法のような風の刃を生み出し、群がるゴースト達を切り裂く。

 目まぐるしい拳の乱打に蠢くゴースト達は何も出来ずに消滅した。


「……無理矢理、疾風魔法を生み出すのは疲れるな。さて、サクサクと進むか」


 そして、中層階まで辿り着くと一つの大きなフロアに全身が腐れたアンデッドの群れが現れる。

 それを見るライトは顔をしかめる。


「こいつらは倒す時手が汚れるから嫌なんだよな……。あまり腐乱した肉を撒き散らすなよ」


 スキル〈瞬歩〉から一瞬にして一体のアンデッドの頭を蹴り飛ばし、左右の敵も裏拳で吹き飛ばす。新しい肉を見つけたアンデッドは異様な匂いを発しながらライトの肩を掴み噛みつこうとする。


「こういう時に魔法のスキルが羨ましくなるぜ!」


 そのアンデッドの頭を掴み、一回転させ周囲の数体を薙ぎ払う。そのまま手に持つアンデッドを地面に叩きつけ倒す。そして残る三体を倒し、ヘドロのような腐乱した肉が絡みつく両手両足を地面に擦り付けて綺麗にする。同時に、左首筋に鋭い痛みが発した。


「!? 生きてただと?」


 何故か地面に叩きつけた一体は生きていた。瞬時に殴りつけ、腹に蹴りを入れ距離を取り相手の様子を伺う。

 普通なら確実に死んでいるはずのダメージを受けているのに、消滅する事は無い。その様子を見てライトは呟く。


「何だ? お前は中ボスか?」


 一体のアンデッドだけが異様に強い。

 流石にビジュアルが同じなのにコンピューターであるモンスターの性能が違うのが信じられない。ふと、目の前のアンデッドの再生能力に注目したライトは〈見切り〉のスキルが発動し――。


「ライトニングドーン!」


 ズゴンッ! と必殺の拳がアンデッドの顔面に炸裂した。通常ならばスキルゲージまで使って倒す敵では無いが、ライトがこうまでする理由はアンデッドの中身にあった。


「……気付いていたのかライト。このサイバーグランゾーンオンライン次世代の王になる俺様の存在に」


 ビリビリビリッ……とアンデッドの身体の中から竜のウロコが全身にある人型の魔人が現れた。竜魔人とでも呼べる緑の髪のその存在はやけに上から目線でライトに言う。


「この俺様は死体操作である〈リビングデッド〉のスキルがある。そして、ある奴に〈死体融合〉のスキルを貰ったのさ。それがこの竜魔人のアバターの正体さ。ひれ伏すがいいライト」


「いつも俺にひれ伏してるのはお前だろうエピオン。一体、お前は俺にいくらコンテニュー課金させられてるんだ?」


「黙れ下種が!」


 この竜魔人のアバターを操るエピオンはサグオ最強であるライトによく突っかかっており、折角ダンジョンなどで手に入れたアイテムなどを一旦街に帰還して自分のアイテム金庫にしまう前にライトと戦いゲームオーバーになる事が多く、そのアイテムを手に入れた状態で再開する為にコンテニュー課金をよくしていた。その男エピオンは竜と魔人が融合する新しいアバターを舐めるように見つめながら言う。


「お前が倒した魔人のおかげで再生能力が上がったよ。これで簡単にゲームオーバーになる事は無いぞ。新しいスキルをくれた小僧には感謝せんとな」


「小僧? 何処の馬の骨からその〈死体融合〉のスキルを貰ったのかは知らんが、いくら再生しても根本のスペックが違えば勝てないだろ。少しはテクニックを磨く事だな」


「竜魔人エピオン様にお前は負けるんだよライト」


 堂々と竜魔人モードになるエピオンは言う。

 面倒な相手だと思いつつ、動き出すエピオンと戦う。


「だいたいこの魔宮はサクヤのダンジョンだろ! お前がなんでいるんだ?」


「お前に勝つ為にはどこにでも俺様は現れるんだよ。俺様が次世代の王だからな!」


 ズババババッ! とエピオンは火炎魔法フレアボムを乱射した。


「〈死体融合〉スキルのおかげで魔力値が上昇していて魔法もかなり強力なのを使えるぞ。地獄の火炎竜よ……その力を解き放て! マグマドラグーン!」


「話が長い」


 いつも通り前置きが長い相手に苛立つライトは火炎上級魔法・マグマドラグーンをライトニングドーンで跳ね返した。


「うげげっ!」


 まさか跳ね返すとは予想しなかったエピオンはゴキブリがひっくり返ったようなポーズを取り、急いでその場を離れ難を逃れる。〈瞬歩〉のスキルで間合いを詰められる前に、しどろもどろのエピオンは叫ぶ。


「これなら跳ね返しは出来んぞ。マグマボンバーイエ!」


「チィ!」


 ボンッ! ボンッ! ボンッ! と炎の爆発が空間で花火のように咲く。

 空間の狙った場所に炎を生み出し爆発させる為にライトは回避以外の手段は取れない。

 〈見切り〉のスキルを最大限に発揮し、エピオンの視線や指を鳴らすタイミングを先読みし看破する。


(少しは強くなっているがまだまだ甘い。ゲームバランスが変化しても、最強は俺であるのがテンプレだぜ)


 そう思うライトの耳に、耳障りな声が聞こえて来る。

 その言葉に、ライトはこのゲーム内での自分自身を考えさせられる事になった。


「強いというのは気分がいいな! 貴様もこんな高揚感を抱いたまま俺達を倒していたのか? こんな他人をいたぶっても許される爽快感はゲームでしか味わえないからなーっ!」


「……」


 ライトは無言のまま今までの自分の行いを振り返る。

 今もかつても、ライトは常勝無敗のサイバーグランゾーンオンライン最強の戦士。

 ネット上では開発者シュウヤの亡霊とか、運営のステマとか様々な事を言われていたがそれは好意的な意見が多かった。負けたら負けたでネタになったり新しいフィーバーになるとライトは思ったりもしてギリギリのライフでデスゲーム風な戦いをした事もあった。


 しかし、今のライトはこのゲーム内でただ一人ライフゲージがゼロになった時点で本当に死亡する存在。今でこそ徹底的に相手をログアウトさせる間も許さず倒して来た自分の残虐な行為にやり過ぎていた事を顧みる。


「貴様は武器を持って戦うはずのサグオでただ一人素手で戦う異端児。それ故全ての残虐な行為が大目に見られ、決してもう勝敗はついていても相手を生かす事の無い残虐さは大多数のユーザーからはお咎めも無くいられた。それが……それが俺には気に入らなかったんだ!」


 その通り、ライトの異端な戦いはネットなどでも噂になりライトの行いだけはライトだから仕方ないというネット上の総意で許されていた。改めて知る現実に、ライトは唇を噛み締める。そして、苦悩するエピオンは続ける。


「あの日……俺がまだ父上と仲が良かったあの日。その日は父上と始めてゲームをした日でな。途中まではフィールドに現れるモンスターを相手に戦って父上を訓練していた。それを突如現れた貴様が全て壊したのだ!」


「いつもデュエルなり戦いを仕掛けて来るのはお前だろうが。それは逆恨みじゃないのか?」


「逆恨み結構! 貴様のおかげで俺は父上の期待に応えられなくなり、学園での成績も万年一位から十位まで落ちた……父上はそんな俺を跡継ぎとして見なくなり、医師としての俺のレインボーロードを黒く染め上げたのだ! 俺の憎悪で貴様の不敗伝説に終止符を打ってやるわ!」


「能書きはいい。きやがれ」


「二つの竜よ……奴を焼いて喰え! ダブルマグマドラグーン!」


 魔力より生み出されし二匹の獰猛な炎の竜がライトを襲う。

 瞬時にエピオンは次の魔法に出た。


「マグマボンバーイエ!」


「!?」


 二匹の炎の竜の身体は無数の火の矢として拡散し、カウンターでしとめようとしていたライトは細かい火の矢の群れになすすべも無い。だが、口元を笑わせる金髪の少年の身体が光り出しスキルゲージの三分の一が消費され――。


「ライトニングセレブレーション!」


 シュパー! と身体全体を光の弾丸とする特攻で火の矢を突っ切り、エピオンを倒した。

 唖然とするエピオンの身体は消えて行く。


「まだ勝てないのか……この次世代の王であるこの俺様が……」


 その苦悩の顔のままエピオンは消滅した。

 現実世界でいずれ優秀な医師になるであろうエピオンを思い言う。


「それだけの才能もあり努力をしているお前に、俺は逆恨みしてーよ。その死体を使いたいなら課金を忘れんなよ。またな」


 乱れる金髪を整え、学ランを正すライトは色々な思いを抱きながら魔宮の奥へ進む。





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