崩壊し進化するシステム
サグオ開発者・シュウヤが変化させたシステムの弊害がここに来て現れた。
サイバーグランゾーンオンラインが開始してから三年間の間、無敗伝説を誇ったライトはここに来て楽しみより一瞬だけ不安が勝った。
だが、この緊張感こそがリアルにこの世界に自分が存在し、負ければ死ぬというデスゲームを生きる気持ちを確信へと導き電子の体内から生き抜く――という熱さがマグマのようにこみ上げて来る。
俺より強い奴をなぎ倒す――。
確実に進化するサイバーグランゾーンオンラインの世界において改めて最強を目指そうと思った。
力には技・技には魔法・魔法には力という三竦みの法則で攻める二人は自身の必殺技を解放する。
先に動くライトは〈瞬歩〉で魔人の胸の前に現れ、
「ライトニングドーン!」
相手の先の先を取るライトニングカウンターと対を為す速攻型のスタースキルで巨大な魔人の胸元に風穴が空き、全身のバランスを保てなくなり崩壊を始めた。ブロックが崩れるように崩壊する魔人を見つめるライトは金髪をかきあげ言う。
「俺にかかれば魔人などただのデカイ塊だ」
魔人の身体が崩壊するがすぐに再生して行く。
肉厚の青白い刀身が敵を求める虎徹を構えるキキョウはライトの鼻をチョンとつつき前に出た。
そして烈火のような気合い声を上げる。
「はああああっ!」
「グオオオオンッ!」
高速で繰り出される魔人の拳に対し、キキョウの剣舞が炸裂する。
「ガッ! グオオッ! グウウンッ……」
腕――腹――足――を刻まれ魔人は倒れる。
攻撃の手を緩めないキキョウは虎徹を空中で掲げ、急速に全身を回転し始める。
「キキョウ流二式・大車輪風車!」
身体を回転させた大きな大車輪が魔人の脳天から股間までを切り裂き、真っ二つにした――。
カッ! と厚い二重瞼の両目を輝かせ残りの残骸に意識を集中し、
「キキョウ流三式・阿修羅豪天砲!」
キキョウの虎鉄に宿る生命エネルギーが一閃し、魔人の残骸を消滅させるように吹き飛ばした。
しかし、先に再生した片腕がキキョウを襲う。
その指先は白い着物の胸元をかすり、一瞬豊かな白い乳がこぼれ出た。
「くっ!」
攻撃を受け、怒るキキョウはこの現状の全てをぶつけるように刀を振るう。すると、魔人のゲージが減った。
(まさか……事後硬直が弱点?)
そう確信したキキョウはもう一度確認するが、やはり魔人の攻撃後の一瞬の隙が攻撃のチャンスであった。
「ライト! この魔人は事後硬直中にダメージを受けますわよ!」
「何だって!?」
「え? 今の見てなかったですの?」
「すまん。お前の胸元からこぼれたデケー乳に見とれてて見て無かった」
「こ、この変態!」
「気にするな。どうせアバターだろ」
「リアルでも乳はEカップですわよ。私はリアルと同じアバター設定ですから!」
負けず嫌いが災いして突っ込むと色々ボロが出るな……と思うライトはキキョウという少女は存外面白い女だと感じた。その言葉通り、リアルの顔も拝んでみたいがそれはもう叶わぬ夢である。
そして、二人は魔人攻略作戦に出る。
「つまり、カウンターで倒せばいい。最強のスピードからの一撃必殺で終わらせる」
「アレでいきますのね。援護してあげますわ」
瞬時にライトの考えを察したキキョウは〈加速〉のスキルで魔人を翻弄する。
スキル〈加速〉は誰にでもあるスキルである。
その上が瞬間移動のような高速移動の瞬歩。
そしてこれがシステムアシストの最大限まで利用した閃速――。
「スキル発動。〈閃速〉だ――」
淡い光の粒子にライトの全身は包まれ、その場から消えた。
シュパー! と十秒間のみこのサグオ内部の誰もが反応すら出来ないスピードである〈閃速〉にて魔人を無双した。究極的な速さに、NPCである魔人などは無残に全身を破壊されていくだけであった。生では初めて見る閃速のスキルに、キキョウは絶句している。
グゴゴゴゴゴ……と全身を崩壊させる魔人は地面に倒れる。
スタッ! と床に降り立つライトは金髪をかきあげた――瞬間、
「グオオオオッ!」
まだ息のある魔人の拳がライトに直撃する。
「ライト!」
「騒ぐな……必殺技のゲージは溜まってるんだぜ?」
これはライトの誘いだった。
この攻撃を待っていたライトの拳は反撃のカウンターの点灯と共に光出す――。
「ライトニングカウンター!」
スバッ! とライトの放つカウンター技が事後硬直の魔人に直撃した。
「攻撃の後の事後硬直が弱点じゃ、俺とは相性最悪だったな。そっちの女も微妙にそうだったが」
ついに、バグにより強化された魔人を倒した。
安堵するキキョウは刀を鞘に納めた。
「それで魔法まで使えたら、完全なチートですわね」
「一応、ほぼチートなんだがな」
「?」
キキョウが不思議に思っていると、魔人が消えた場所に一つの星が舞い降りた。
その星に手をかけるライトは純白の剣を抜き取った。
「攻略ボーナスは退魔の剣だ。闇系のアバターやモンスターに絶大な効果がある剣だな。やるよ」
最後にキキョウはありがとうと小声で言う。
そして、魔人ダンジョンを抜け出し勉強の時間だというキキョウはログアウトする。
見送ったライトもいつものようにメニュー画面を開き、一番下にあるログアウトボタンを探す。
しかし、そのボタンはライトだけには存在しない。
「……そうだ。これでいい。これこそが俺の望むデスゲームだ」
すでにライトはこのサイバーグランゾーンオンライン内部で体力をアイテム以外で完全に回復させる為に、就寝する時も街でコンピューターと会話している時も、何をしていても気が休まる事は無い。
全てはライトの敵になる可能性があり、いつ誰がどこから襲ってくるかもわからない。
それがライトの望んだ人生。
それがライトの望んだデスゲーム。
それがサイバーグランゾーンオンラインという電子の大陸――。
その中で、一人の金髪の少年は命の限り敗北は死の世界を生きて行く事になる。