現実の身体との融合 シナリオ分岐4
アクティブモードのユリカは戦闘用の動きやすい魔法衣である白い髪をサイド編み上げにしたガールズロック姿にチェンジした。
東大陸マジックギャザリング城頂上での戦いは激化している。
ユリカの疾風魔法を回避し、ライトの拳が顔面をとらえる――が、瞳からレーザーを放たれ拳は届かずキスをされ後方に飛んだ。
「っと! バトルになると高飛車な運営女ってのがよくわかるぜユリカ。つかなんでキス?」
「そうね。じゃあ、お手」
は? と思うライトはユリカの言葉のまま吸い寄せられるように繰り出す拳が犬のしつけの一つであるお手になった。
「このぉ!」
ズバッ! とお手になる右手ではなく左手で攻撃した。
違和感が残る身体の反応は明らかに遅い。
すでに後方に退避したユリカは扇子で口を隠しながら笑う。
「てめぇ……この俺にかけた技は何だ?」
「テンプテーションの魔法よ。すでに条件が満たされている以上、貴方の身体は時間と共に私の犬になるの」
テンプテーション発動の条件であるキスという事を満たしてしまった為、ライトの身体は時間と共に
の下僕のように動かなくてはならない。
「ダメだ……身体の反応速度が遅い。奴の魔法の影響を受け過ぎでいやがるぜ……」
不安、困惑、焦燥――。
ライトは運営のトップであるこの東大陸の王ユリカの禁断とも言える魔法に辟易する。
こんな不条理な魔法が横行すれば、サグオは間違い無く人々の心の枷を外し、やがて何でも出来るという膨らんだ妄想が禁断魔法を新たに際限無く生み出す結果になるだろう。
「……いいわね。もっと、もっと、もーっと平伏せさせるわよ。私の快感中枢が満ちるまでねぇ!」
またもや魔法女王に命令を受けたライトは言われた通りにユリカの滑らかな手を舐める。
屈辱に歪むライトの顔を、真上から見下ろす神の如き女ユリカは光悦の表情でよだれさえじゅる……と口から垂れさせそうになりつつ呟く。
「いいわよ……もっと!もっとペロペロするの!サグオ最強のライトは犬のように私の清らかおててをペロペロしているのー!」
すると、ライトのライフゲージが微細ながら減り続けていた。
「ライフゲージが減っている? 一体何故?……!」
ライトはキキョウに渡すはずの髪飾りを自分の左腕に刺していた。
何をしているのか理解出来ないユリカは驚き固まる。
「テンプテーションにはかからねぇぜ。俺は痛みで感情を鈍くさせてるからな」
「痛み如きで私のテンプテーションが解けるはず……」
生身であるライトは魔法攻撃をくらいやすくはあるが、そのぶん魔法攻撃に対する耐性が早く芽生える傾向にあった。生命の危機感がこのサグオ内部とリンクし、ライトの身体能力を向上させていた。
「ゲームだからってな……やっていい事と悪い事があるんだぜ。それをこれから教えてやるよ」
「くっ! 我に平伏せ! 運営は楽しいだけじゃ働けないのよ!」
「そもそもここはゲーム世界だ。目的は楽しむ事。ビジネスしたきゃリアルでチマチマ営業なりなんなりしてろ。そんな根本的な事も知らねー奴がゲームを語るな……って、これエビナドクターにも似たような事を言ったな」
「貴方の考えがサグオに与える影響を知らないようね……」
遠距離の魔法を放ちつつ、ユリカはサグオの課金者が少しずつ減っている事を話す。
南大陸でアークとレイという仲間二人育てた時に、コンテニューをしないつもりで戦え。イベントではコンテニュー出来ないという覚悟を持った教えがゲーム内に浸透しゲームオーバーになったらコンテニューせずその日のサグオは終わりという者が増えた。
コンテニュー課金が減り出す事で、運営代表であるユリカはライトを始末しようと動いた。
天才開発者シュウヤに深く関わった者も始末する名目も兼ねて――。
「シュウヤはこのゲームを運営が介入出来ないようにプログラムをするわいつの間にかゲームの自由度を勝手に上げるわでてんやわんやなのよ。せめて課金させて収益が上がらなければやってられないわよ」
「そーかよ。まぁうまくやれや。でも遠距離魔法じゃもう当たらないぜ。心眼のスキルが覚醒したからな」
「心眼のスキル?」
ライトの瞳が赤く変化する心眼のスキル。
見切りと鷹の目の同時使用で生まれたスキルだった。
回避に徹する時に瞳を閉じた状態で相手の攻撃をひたすら避ける事が出来る。
遠距離の魔法に対抗し、相手の魔力消失を待つスタイルで使っていた。
「このゲームは自らがスキルを生み出せる遊びがある。それをテスター時代に私は貴方に敗北してから知った。だからこそ、無敵とも言える最強の魔法を生み出そうとしたのよ。このゲーム世界で貴方に勝ち女王になる為に。このマジックエターナルでね!」
永遠に魔力供給されるマジックエターナル。
それはマジックギャザリングに溜まる魔力を常にユリカが吸収できる無敵の設備だった。
「この城がある限り私は無敵。貴方の負けよライト!」
「そんなチンケな魔法を連発されても怖くないぜ」
「どこまでその戯言が持つかしら?」
「こっから攻めて終わらしてやる!」
「残念だったわねぇ! そのスペルガンが媒介になってるのよ。ログアウトゾーン!」
ライトのアイテム欄にあるスペルガンが媒介になり、ログアウトゾーンをくらう。
輝くライトの身体は現実に戻される――。
「!? 俺の身体が現実に戻るのか?」
そのままライトの身体は消滅する。
しかし、魂と肉体が長く離れ過ぎていた為に失敗し、ライトは現実世界の肉体を完全にサグオの内部に召喚した。
それを影ながら見つめていたサクヤはキキョウに言う。
「これで現実のライトとゲームのライトは一つになった。もう、余計な心配をせずに済みそうね」
「それはお互い様でしょう?」
サクヤとキキョウは冷たい視線の火花を散らした。
そして、ライトは更なるパワーを覚醒させる。
「おかげで一時的に発動したオーバーモードを完全に使えるようになったぜ!」
閃速の時間制限が無くなり、無限に閃速が使えるようになった。
これによりライトより早い存在は現実的に存在しなくなる。
それにユリカは驚愕した。
「オーバーモード? まさか噂のオーバーライトニング!? シュウヤの奴……せめて刺し違えてればこんな事には……」
「シュウヤはよくやったさ。シュウヤは世界に一人でも立ち向かう男だ。俺に立ち向かって来た時も最期は一騎打ちに応じたぜ。根本的にお前達は鳴海修也に負けてるんだよ」
「そうかしら? 風よ――」
自分の周囲に風の結界を張れば閃速でも無意味だろうと言わんばかりにユリカの周囲に竜巻が巻き起こる。
「キングストリームケイジ」
ユリカは嵐のような突風を生み出し、自分の周囲を取り囲むように展開した。
鋭い風の刃を纏う竜巻そのものになるユリカにライトは攻撃の手立てが無くなる。
「こいつ……攻防一体の技か!」
ただ防御の為に竜巻を展開しているわけでは無く、その風の勢いを利用し疾風魔法で攻撃をする。
その為、ライトは迂闊に近寄れず見えざる疾風魔法の刃で刻まれジリ貧になりだす。
(俺はライト……拳でサグオ最強を目指すライトだ!)
自分の戦闘スタイルを再度確認したライトは見えざる疾風の刃を無視し、一気に突っ込んだ。
そして無我夢中でその竜巻を殴る。
「うららららっ!」
「馬鹿ね。そんな勢いだけでこのキングストリームケイジが破れるはずないでしょう」
憐れむようにユリカは言う。
ライトの全身は風の勢いでボロボロになり、残りのHPゲージもレッドゾーンに突入する。
「ぐっ……?」
と呟いたのはユリカ。
その顔にはライトの黒いグローブの破片が顔に張り付いていた。
果てしない乱打を続けるライトの拳はキングストリームケイジを突破し出していた。
それに恐怖するユリカは、
「ま……まさか、風が濃縮され過ぎて固体に近くなってるの? きゃあああっ!」
濃縮され過ぎた風の結界は壁という固体に近い存在になり、ライトの拳を浴びせられる格好の的となった。果てしない乱打が叩き込まれる。
「うららららっ!」
竜巻の結界が弱まり出しユリカは新しい戦術に出なければならなくなった。
風のサーベルを生み出したユリカは、
(この風の結界の後ろから突き刺してやるわ……)
ライトが突っ込んで来た瞬間を狙った――。
「残念後ろ!」
フッとライトは口元を笑わせる。
「わかってるわよ!」
ユリカの刃は背後にも向いていた。
しかし、ライトは頭上で微笑んでいた。
「残念、本当は上でした。前後左右にしか目がいかなったのが敗因だぜ」
竜巻の死角である頭上にユリカは気付いていなかった。
着地したライトは乳をしっかり掴み、そのままバックドロップをかました。
「ふぅ、すっきりしたぜ」
その行為に、キキョウとサクヤは手助けに入るのをやめた。