国立大図書館
国立大図書館の入口侵入したライトとサクヤは姿を元のアバターとして現した。ライトは受付を閃速で倒し、サクヤが魔法で意識を乗っ取る。
相当な手練れの美女を受付として置いてはいるが、システムの最高速度すら超えるライトの閃速の一撃はかわせるものではなかった。突如の一撃と魔法のコンボは強烈に受付の意識に浸透する。
「うっし。これで時間は稼げる。一気に行くぜ」
「えぇ。そうね」
この魔法と打撃による効果はどう長く見積もっても一時間。しかし、どこかで誰かが気付くかこの受付自身が自分にかけられた魔法を解くだろう。だが、それでいい。ライトとサクヤはこの国立大図書館の裏側へ通じるゲートさえ知れればいいのである。
二人は東大陸中央都市の闇の確信へと近付いて行く。
そして書架の奥にある隠し扉を見つけ、そこから奥へと侵入した。図書館の奥に仕掛けられる扉は明らかに何かをしている場所でもある。
周囲を警戒するライトは言う。
「ここなら誰にも怪しまれずに研究が出来る。調べ物のフリをしてとんでもない事をしてやがるもんだぜ」
「ログアウトゾーン……」
「ん? ログアウトゾーン?何だそれは?」
サクヤが不意に口にしたログアウトゾーンという言葉にライトは関心を持つ。机の上にある資料の一つにログアウトゾーンという文字が書かれたものがあった。
ログアウトゾーンとは強制的にプレイヤーをログアウトさせる装置
サクヤはそこにライトを入れれば現実の仮死状態の身体ち戻ると考えた。しかし危険過ぎる賭けで本当にライトが死んだらという可能性を考えてやめた。
そして、鎧の兵隊の絵が描かれた資料にはメイルスレイブという文字が書かれていた。
「メイルスレイブ……奴隷の兵隊か? 来やがったな……」
ライトは背後に現れた騎士達を見た。
その人物達は全身を鋼の鎧に包まれており顔すら確認出来ない。殺気を感じるライトは戦わざるを得ないと思い構える。
サクヤは資料を読みたいのに邪魔をされ怒る。
「魔法の国なのに騎士? 傭兵か?」
「そうみたいだぜ。ちゃっちゃと行くぜ。どーせコンピューターだろ」
「そうだといいけど」
反応ない敵を相手するのは時間の無駄だと思い、一気に動いた。
高速の蹴りで一人のカブトを吹き飛ばしたーが、そこでライトの足が止まる。
「中身が無い?」
「え? 確かに……」
その鋼鉄の鎧をまとう騎士の中身は存在しなかった。
そして、剣を繰り出す騎士達を二人は倒す。
「こいつらもか。一体中身の無い鎧で何をやってやがる……」
しゃがみ込むライトは騎士の残骸を調べた。全ての騎士の鎧に強い魔力の残り香があり明らかにそれがこの鎧騎士達を動かしているのは明白だった。
「おそらくこの五芒星。これが原因だな」
「そうね。ここから魔力の反応がある。それもかなり強い反応が……」
五芒星の描かれたカブトが壊れた事により魔力供給が絶たれたのが停止の理由らしい。
この場所を脱出する前に一つの資料を見つけた。
そのページをめくっていくライトの瞳が細くなり、その内容に吐き気を覚えるように溜息をつく。
この鎧騎士はメイルスレイブと言い魔力供給がある限り永遠に動く疲労無き無敵の軍隊。
禁呪を成功させた運営の最高責任者である女の野望を成し遂げる為の駒であり、開発者鳴海修也のシステムを書き換え全大陸を一度支配しサイバーグランゾーンオンラインを支配下におく為の騎士であった。
それが東大陸の支配者であるユリカの切り札であった。
「成る程な。それが運営が最強になる為の策か。システムを大きくいじれないからって手の込んだ事をするもんだな」
そして、その全てのメイルスレイブを破壊し尽くした。
※
国立大図書館の奥へ進むライトとサクヤは群がる敵をなぎ倒す。
しかし、不死身の敵は復活ふるばかりで倒しても倒しても立ち上がって来る。
そしてメイルスレイブのマジシャンシリーズであるメイルマジシャンが現れた。このシリーズはメイルスレイブよりも力は無いが魔力は増強させてあり、かなり強力な魔法を放つ事が出来る。
爆破系のビックバンブレイクを三人のメイルマジシャンは唱えた。途方も無い爆発を回避する二人は左右に散り、構えた。
「極大系の呪文を数人で使ってくるから厄介だぜ。魔法には……何だったけか?」
「三竦みの法則ね。自分で思い出しなさい」
この世界の三竦みの法則。
力には技
技には魔法
魔法には力
敵の攻撃を避けながら考えたライトは石ころが一つ頭に当たり思い出す。
「……力には技。技には魔法。魔法には力。魔法には力で押し切るしかねぇ!
「ここは私に任せなさい。貴方はボスの元へ」
「いいのか? 病み上がりだろ?」
「貴方だって病み上がりでしょ?かつての相棒には背中を任してもらえないかしら?」
ニッ……と笑うライトはボスエリアに向けて駆け出した。
ボスステージの前には天才開発者シュウヤの妹である忍者ニャムが待ち構えていた。
久しぶりの再会にライトは微笑む。忍装束姿のニャムは言う。
「ニンニン。ここで会ったが何とやらだよ。死んでもらう」
「こんな所でもバイトか? 精が出るじゃん」
「雇い主は魔術だけじゃなく、人間でも城を監視しているの。知らなかった?」
「それがお前とは知らなかったさ!」
攻撃をしようとするが、床が少し沈みタイミングがズレる。
手裏剣を拳で弾きながらライトは、
「お前も雇われニンジャかと思いきや禁呪を生み出す欲に溺れた奴だったか」
「禁呪? 何の話?」
ニャムは困惑の表情を浮かべ動きが止まる。
そのライトの言葉にニャムは聞き入った。
「……チートになれる禁呪の使用は知らない。これは許せないわね。お兄ちゃんのサグオを引き継ぐ運営は一度正す必要がある」
「お兄ちゃん? ニャムの兄貴はまさか……」
それを聞こうとするがニャムはすでに姿を消していた。
ニャムはシュウヤの妹である。それ故にニャムは依頼を受けて動くニンジャながら個人の意思でライトを付け狙っていた。しかし、今の運営の真実を知ったニャムは自分の正義で動く。
そして、背後にはドジっ子のフリをしていた白髪の少女が姿を現す。
「お久しぶりねライトさん」
「ユリカ!」
この東大陸の王・ユリカが現れる。
驚きながらもライトはユリカにニャムの事を聞くが――、
「ニャムなんて駒はどうでもいいのよ。これで全ては初期化されるわ――アバターファースト!」
そんな言葉は無視されアバターファーストという結界が発動した。
全てを初期設定にされるその結界にてライトの能力は一気に落ちてしまう。
「……マジかよ。逃げるしかねーか」
「逃げても、逃げても逃げ切れないわよ。だってここは陸の孤島のマジックギャザリングなんだから」
笑うユリカは追撃をせず、どこかへ消えた。
そして脱兎のように逃げ回るライトは青いシーフの少年と遭遇する。
「よーうライト。すっげーピンチだなぁ」
「ジン! ……フン、ピンチは反撃への最大の近道だ」
「強がるな、強がるな。お前のおかげでここまで侵入出来た。助けてやるよ。また俺の異空間に入れよ。あそこなら安全だ」
「センキュー――うおおおっ!?」
ライトは強制的にジンのヘブンズゲートに吸い込まれた。
「残念ながら今回はこのままでいてもらうぜライト。俺の為に死んでくれ」
その言葉を、ニンジャのニャムが背後で聞いていた。
「ジン……貴方は一体何を企んでいるんです? お兄ちゃんも貴方には気をつけろと言っていた……」
「俺は生きる為ならこのサグオだって破壊するぜ。シーフというジョブは俺の破壊衝動を隠す為の隠れ蓑なんだよ」
そのニャムもアイテム化され異空間に閉じ込められる。
笑うジンは通路を歩き、どこかへ消える。
そして、その異空間内ではライトが新たなる侵入者に話しかけていた。
「ニャム? お前も捕まったのか?」
「わざとね。このシーフのジンも怪しいから内部から調べようと思ったの」
「そしたら出られなくなったか」
「そうだ。もう出られないぜ」
『ジン!』
ライトとニャムは現れるジンに驚く。
そしてニャムはスキル残像を使い、ジンに肉薄する。
だが、この空間ではジンに勝てずに胸元を刺されHPがゼロに向かう。
「やるわねジン……」
「邪魔すんなよ。俺はライトが死なないと生きられないんだ」
その言葉の意味がわからずライトは言う。
「俺が死なないと生きられない? どういう事だ!? お前は本当は何を盗もうとしてる!?」
「盗んでやるよ。この世界だろうがな」
「コソ泥はたいしたもんは盗めねーよ」
という言葉と同時に、ニャムがジンを刺していた。
変わり身の術でジンを騙していたが、ジンも分身であり倒してはいなかった。
分身のジンはニャムと共に消えて行く。
そして拳を叩くライトは、
「さて、ニャムから貰った命。無駄にするわけにはいかねーな」
ズズズ……と変化する目の前に広がる砂の異空間の敵を見つめた。