フリーケイジからの脱出
看守長のヤマンダを退けたライトとサクヤは、フリーケイジの出入口まで来ていた。
フリーケイジ内は警報と看守の怒声が響き渡っている。
圧倒的なスペルガンの破壊力にライトは脱帽していた。
「こりゃ、俺は使わない方がいいな。弾のエネルギーを制御出来ねーわ」
「おそらくユリカだけが制御出来る弾丸ね。アイテム欄にしまっておいたら?」
「そうだな。そうする」
「そんなこんなで、敵みたいよ」
そこには、入口を門番しているミイライオンというミイラのライオンがライト達を見つめていた。倒れる看守達を見たミイライオンは、ライトを敵と認識した。死神の鎌を構えるサクヤは言う。
「さーて、外へ出る為の最終試練のようだわライト。さぁ、頑張って!」
「頑張りたくはないけど――っと、ととと!」
シュン! と迫るミイライオンの爪を、ライトは回避した。
「ここからは出さんぞ!」
スススッと少し離れるサクヤは、
「そいつはライトと戦いたいようだわ。隙が有れば、私も参戦する」
「助けに来たなら動いてくれよ……」
言いつつバババッと地面の石を投げた。
サクヤは背後から襲い掛かるノラドッグを始末する。
そして飛び上がるライトは蹴りを入れた。
「ぬうっ! そんなものでは倒れんぞ!」
ぐらっと姿勢を崩したミイライオンだが、すぐさま怒りの雄叫びを上げる。
「大したダメージは無いか。あの包帯は守備力が高い。なら素肌に叩き込むか」
「させるか!」
ミイライオンの爪を回避したが、その身体に巻いてある包帯に拘束された。ミシミシッ! とライトの身体は悲鳴を上げる。
「のおっ!」
「凄い力だ。流石はサグオ最強の男」
「ならもっとパワーを上げるぜ」
「ぐうっ? 温い、温い! 死ね!」
グアアッ! と勢いよく、ミイライオンはライトに噛み付こうとした。
「ぐああっ!」
その牙は、ライトの左腕に突き刺さった。
しかし、何故かミイライオンの動きが止まった。
「! ……」
「肉を切らせて骨を絶つ作戦になっちまったな。あ、……気が付いた? そりゃデリケートエリアに拳を突っ込まれれば、焦るよな。だけど、これは脅しじゃないぜ。俺は善人じゃないから」
歯の隙間から口に突っ込まれた拳に恐怖を覚えるミイライオンだが、死を覚悟してそのまま左腕を噛み千切ろうとした。
「流石は門番」
言うなり、ライトニングドーンを叩き込む。
「ギャアア! ギャウ……」
目を回しミイライオンは倒れ、ライトはミイライオンの包帯を奪い、血が流れる左腕に巻きつけた。二人は外に繋がる階段を駆け下りる。この騒ぎに気がつかない入口の広場では色々な商売人達が営業に来ていた。突如、ライトが足を止める。
「逃がさないわよ! 観念なさい!」
ヒヒー! と広い額を輝かせ、黒髪のポミーテールを揺らすヤマンダがサクヤを捕らえた。ボロボロのピンク色の制服の下は血だらけだが、それを気にしないような平然とした態度のヤマンダにライトは焦りを覚える。
「サクヤ! チィ!」
背後から現れた看守達のプラスチック弾による発砲が始まり、ライトはそれを回避する。必死の抵抗も虚しく、サクヤはヤマンダに一撃を入れられた。すると、サクヤの瞳が妖しく輝き――。
「デスカウンター」
「うわっ!」
死霊の群れが周囲に展開した。
弱きものをデスに導くカウンタースキルでサクヤは窮地を脱した。
そしてそのままフリーケイジからも脱出する。
※
別人になりすまし街で潜伏しているライトとサクヤは次の行動に出る為の情報収集にあたっていた。
閉め切られたとある宿屋の室内で、誰かの侵入を許さないように入口に意識をやりつつサクヤが集めた情報を整理する。
この閉鎖された研究都市であるマジックギャザリングには予想以上に監視の目が多く、ここも長くはとどまれないであろう。熱いコーヒーの香りがライトの鼻を刺激し、ポーションを飲むライト苦手な匂いを打ち払うように言う。
「……にしても息が詰まる街だ。街も人も活気も無けりゃ覇気もねぇ。まだ牢屋の方が楽しいぜ」
「あんなグータラ生活で楽しい事なんてあったの?」
「そりゃあるさ。投獄されてても金さえ出せば外の物資は色々と手に入るし、何もよりもサグオ内部でゆっくりとするにゃ牢屋でもないとまともに休めねぇからな」
ライトはこのサグオに生身で生きるようになってからはほとんど事件や王の攻略続きで休息するという事が無かった為に、もやもやした疲れが出ているのを感じていた。それ故、堂々と休息してから東大陸中央都市の王を攻略しようと思ったのである。
「この都市は閉鎖された都市のくせに更に閉鎖された研究をしててやってられねぇな。そんなに禁術魔法の研究が楽しいかねぇ?」
「楽しい……でしょうね。何かに熱中しているのは楽しいのよ。周りが何と思おうとね。貴方も戦いが楽しいのでしょう?」
「そう……だな。そこに理由は無い」
自分と敵にも大きな差は無いと感じるライトの耳にピロリンッ! という音がした。
「ん? メールが来たな」
メニュー画面を開くと、女侍・キキョウからメール来た。
「国立大図書館……そこにユリカが管理する禁術魔法があるそうだぞ。ただの知識が詰め込まれた書架の図書館の奥にはとんでもない闇が蠢いているようだぜ」
キキョウの話によると、国立大図書館の奥にこそ現在のサグオ運営が進めるシュウヤを超える為のプロジェクトがあるらしい。財閥の娘であるキキョウが運営と最近関係の深い鬼瓦ファミリーとの縁談の話などで聞いた事であるから事実という可能性は高いだろう。
多数の魔術師が出入りする国立大図書館こそ東大陸中央都市最大の闇というのは、サクヤの集めた街の情報と照合すると必然的な事実でしかなかった。
運営からすれば、それに気付いてもどうにか出来るシステムをすでに生み出しているのだろう。侵入禁止というメッセージで警告して、無理矢理侵入者をログアウトさせるシステムを――。
「それがログアウトゾーンか……本当にそんなもんがあったら恐ろしいな。アカウントをバンされるのと気分がほとんど変わらねぇぜ」
「それが進化する先はおそらくシュウヤがブラックマトリクスでやろうとしていたログインしている人間を抜け出せなくする計画。今の運営は『ブラックサレナ』と呼んでるとキキョウがメールで言ってたのね?」
「あぁ、ブラックサレナだ。花言葉で呪い……闇の子宮のブラックマトリクスに対抗して今の運営代表がつけた計画のネーミングだろ。シュウヤの意思を継ぐ感じがして吐き気がするぜ」
サグオ運営がブラックサレナと呼ぶこのサイバーグランゾーンオンライン内にいる全てのプレイヤーを無理矢理デスゲームに巻き込む装置を調べに行く。
もし、ブラックサレナが実行されればインターネットが発明されてからの人類史上初の大事件……いや、大災害に発展するであろう。
ガッ! と拳を叩くライトは堂々と宣言した。
「シュウヤに対抗して歪んだ方向に行ってやがる。運営もしばく必要があるな。やってやるぜ」
「当然ね。行きましょう」
「それと、このスペルガンも禁忌の兵器だ。これを量産されちゃ、ゲームバランスも狂うぜ」
牢屋を脱出する時に得た黄金の重厚な銃・スペルガンをライトはサクヤに渡す。この魔法銃は弾丸に込められた魔力を打ち出す事が出来るが、残念ながら威力のコントロールが出来ない為に暴発の恐れがあるのでそうそう使えない。
「スペルガンは使えないけど持っておきなさい。ユリカに渡るよりはマシでしょう」
「そうだな。一応持っておくか。取り引きがあれば、その時に使えるかもしれない」
そして、国立大図書館への侵入を二人は実行する事になった。
マジックギャザリング後方にある国立大図書館は今日も多数の魔術師が現在使われている魔法と新しい魔法を研究する為にマジシャン達は今日も図書館へ向かう。
その一団に混じり、メガネと髪型。それに髪の色を変化させ顔のアバターを変えて黒いマントを着る二人の魔術師風の男女が国立大図書館へ向かう。
しかし、この変装だけでは脱走犯として手配されて警戒網が高まる状態のこの公的な空間では身分証明が出来そうに無い。
そびえる智の城である国立大図書館の前で立つ二人は考えた。
すると、青いバンダナのシーフがススス……と現れた。
「お困りのようだな。俺もあの大図書館へ用がある。俺のアイテム欄に納まれば侵入させられるぜ?」
ジンの提案だとヘブンズゲートのスキルで異空間に収納され小さくなり、アイテムとして大図書館のシステムに認識させて内部へ入る作戦だった。何の見返りを要求されるかわからないが、ライトとサクヤはジンの作戦に乗る。
「じゃあお願いするぜジン」
ライトとサクヤは無人の鎧に魔力を込めて動かす死なない軍隊であるメイルスレイブについて調べる事にした。禁呪を調べる事で、天才開発者シュウヤ無き後のサグオ運営の闇を解明しようというのである。
その頃、この街に定期便で現れた南大陸のエビナ王の息子である緑の髪のエピオンはフリーケイジの入口付近でライトについて尋問され、キレて戦闘をしていた。ゾロゾロと現れる死なない軍隊であるメイルスレイブにエピオンは嫌気が差す。
「まさか死んだ人間からアカウントを一時的に乗っ取りゾンビとして使うとはな。俺様の猿真似はやめーい!」
そんな騒動も知らずライト達は国立大図書館へと足を踏み入れた。