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サイバーグランゾーンオンライン  作者: 鬼京雅
東大陸・マジックギャザリング編
44/51

フリーケイジ

 東大陸中央都市マジックギャザリングにたどり着くと、大海賊が来るイベントが発生した。

 海賊達は街に向かって襲撃して来るらしい。

 金目のものを奪う海賊で奪われたら本当に金品やアイテムも無くなるようだ。

 金塊を大量に抱える海賊全員を倒さないと報酬は得られない。

 微笑むライトはいきなり戦闘かと思い、ワクワクした。


「金塊を積んだ海賊船か。金はいくらあっても困らなねぇ」


「ハヒヒーーー!」


 白いロリータ服のユリカは海賊襲来によって逃げ出す人波に呑まれる。


「ユリカ! ったくあのドジっ子は! ん!?」


 ズババババ! と海賊船にて爆発が起こった。

 灰色の幼女であるボマーがこのイベントを終わらしてしまった。


「うわー……俺の活躍は無しかよ。つか、金塊が誰の手にも入らないぞ?」


「無用な金は人を歪ませる。サグオなどに心を支配されるな。所詮はゲームだ」


 そして周囲の人間に苦言を呈する灰色のおかっぱ頭のボマーは消えた。

 ズズズ……と報酬の金塊が乗る海賊船は海に沈む。

 すると、青いバンダナをしたシーフの少年がライトの横に現れた。


「あーあ。金塊が沈んだよ。ありゃ金塊王のいる西大陸の金塊なんだけどな……ボマーの野郎」


「ジン……つか、あのアバターは幼女だぜ? プレイヤー自身の性別はしらねーけど」


「まぁこうなっちまったらもうどうにもならん。で、お前はここの禁術使いに何の用なんだ?」


「禁術使い?」


「あぁ、この東地区には特殊な魔法を使う禁術使いがいるらしい。最近ここで頻発してる地震や周辺マップの地形変化はそれが影響してるらしいぜ」


 へぇ……とジンの情報はやはり早いなと思う。

 そしてライトは言った。


「運営ですらもうシュウヤの残したこのサグオに深くは干渉出来ない。ゲームの自由度の限界を越えて何か悪さをするなら俺が潰すしかねぇな」


「あの魔術城内部への侵入は厳しいぜ。部外者は確実に始末される」


 内部にいる人間はアバターチェンジやなりすましが出来ないように仕組まれた魔術法衣を着る義務があり、その監視は城内部に張り巡らせた魔力によって監視されている為に侵入者が入る事は不可能であった。それを知るライトはジンと別れた。人波に呑まれたユリカがフラフラで戻って来たのである。


「ハヒヒ……戻りました」


「だいぶ疲れてんな。飯にでもするか」


「ハ、ハヒヒ」


 ライトはユリカと合流し、飯を食う事にした。

 海鮮料理の店に入り二人はやっと気持ちが落ち着いた。

 元気が回復するユリカはライトが分ける蟹の甲羅をも食う。

 ライトは周りの人間の会話から死神女が海賊船に侵入し海を泳いで渡ってきたやらという話を聞いた。


「……あの海を泳いで渡った? 海賊船に紛れて侵入したとはいえスゲー奴がいるもんだぜ」


 そして二人はこれからここで何をするか話す。

 ユリカは新しい魔法、禁呪に興味があるらしくライトは王を倒すという事を言った。

 それに対しユリカは海老を持つ手を止め、


「王を倒しに行くというのは混乱をもたらし嫌われるわよ」


「それが、案外大丈夫だったぜ。南大陸ではな」


 ライトは難破船で見たユリカのスペルガンに興味を持ちたずねる。


「ユリカはソロプレイヤーだからそれなりの手練れのはずだ。スペルガンのような力を隠してるのは理由があるのか?」


「……サグオ最強のライトの強さをこの目で見たかっただけよ」


 白髪の髪をいじり、薄く瞳を閉じて言った。

 そのままユリカは聞く。


「魔法はお嫌いで?」


「嫌いじゃねぇよ。ただ俺はあまり遠距離やタメ技は好きじゃなくてな。スカッとした勝利は肉弾戦が一番って、考えただけさ」


「貴方らしいわね」


 そして二人は魔術城マジックギャザリングへ向かった。

 魔力の結界があり、常に魔術師達が城内の策敵を行っている難攻不落の城である。

 その地下には監獄があり、街の闇の象徴とも言える東地区運営管轄化のフリーケイジと呼ばれる巨大な刑務所があり、様々な犯罪者が囚われていた。サグオ内で悪さをした者はここで数日から、数ヶ月のアカウント停止としてアバターを封印させるのである。ライトの場合、ログアウトが出来ないので本当に監獄に入る事になるので、捕まるわけにはいかなかった。少し離れた場所から見あげるライトは言う。


「ここが魔術師の城か。うさんくせー香りが漂ってやがるぜ」


「そうだね。異様な魔力を感じるわ。そして、貴方は捕まる」


「ん?」

 

 すると、ライトのスキル〈鷹の目〉が複数の人間の接近を告げた。

 あっという間にライトは捕えられた。

 スペルガンで背中を撃たれたライトは抵抗が出来なかったのである。


「ユリカ……お前は?」


「私は東大陸マジックギャザリングの王。ユリカ。さよならライト」


「ハヒヒ! はどうしたよ?」


 そしてライトはそのまま監獄へ連行された。

 マジックギャザリングの地下にある独房の一室に通されるライトは、古いベッドに横になり安らいだ顔をしていた。


「勝った……」


 と、死神のように笑う。


「これで、少しの間痛みの無い世界にいられるぞ。ここで、俺はゲームしてマンガ読んで寝て過ごす。この刑務所には死刑は無いし、独房なら自由に出来るのが最高だぜ。海で酔った疲れが癒えてねーし調度いいぜこの場所はよ」


 ユリカからくすねたスペルガンをくるくる回し呟いた。





 マジックギャザリング最下層にある一つの牢獄の前に、死神の姿をした紫のツインテールの少女が立っていた。

 その牢の周辺には誰も収監されてなく、中にいる人物の危険性が伺える。牢の中にいる少年は魔道書のような本を顔にかぶせ、落ち着いた表情でベッドの上で眠っていた。肌寒い通路をコツコツと歩いて来た紫のワンピースの裾を揺らして止まったツインテールの少女は爽やかな笑顔で牢屋の鉄を蹴り、


「あら、何をしてるのかなライト?」


「!? サクヤ!?」


 監獄生活三日目になりたいした取調べも無く快適で休んでいたライトは死神アバターのサクヤのいきなりの登場に驚く。死神の鎌を突き出すサクヤは言う。


「随分快適そうねライト」


「……まぁな。刑務所の割に快適だし飯も上手くて読書もテレビも見れる……ここは一時的なアカウント凍結場所だから現実の刑務所とは違って快適だぜ。身体検査もロクにしないのが不思議なくらいだ」


「泳がされてるんじゃない?」


 ゆっくりとし過ぎているライトに苦言を呈すが、そのライトはアクビをしながら言い返した。


「中央都市じゃゆっくり出来ないから休んでもいいだろ」


「休めなくしたのは貴方よライト」


「鋭いツッコミだなサクヤ。まぁそれがいい」


 くるくると金色の銃を回しライトは言う。

 その珍しい銃にサクヤは疑問を感じた。


「へぇ。それは何よりね。その金色の銃は何?」


「これはスペルガン。俺をここにブチこんだ奴の持ち物だ」


「ここの王ね。東の王はどんな人物なのかしら?」


「ドジな女さ」


「ドジな女に捕まった貴方はもっとドジなんじゃない?」


 ライトはその言葉に返す言葉も無い。

 左右を見るサクヤは周囲を警戒しながら言う。


「今はこの看守章でごまかしてるけど、いずれバレるでしょう。ここは全てのエリアに結界があるからね」


「……もしかして、というか侵入したよな? ……あーそうだな。なるほど、なるほど」


 遠くから聞こえた足音の群れに、ライトは眉を細めつつサクヤを見た。

 サクヤはいつの間にか看守章を外し捨てている。


「俺は捕まってから一度も脱走も試みた事がない模範囚だったんだぜ? これじゃ、平穏な囚人生活がパァだ」


「三日休めば十分でしょ? 身体が鈍る前に働いてもらうよライト」


 突如、母親のように優しく言うなり牢屋の鍵にハリガネを差し込んでいた。

 牢から出たライトは囚人服から黄色い学ランに着替えた。

 そして、通路の出入り口にあたる奥の扉を見た。

 その扉が異様にゆっくりと開き、両手にダガ―を持ったマジックギャザリングのピンク色の制服を着た不気味な看守の男が舌を出しながら接近してきた。


「待ってたぜ、お前が脱獄する日をよ。サグオ最強の男が何もせずにいるからずっと怪しいと踏んでたんだ。お前に倒されたダチの復讐もここで果たす。覚悟しろクソ野郎……」


 瞳孔が開き、全身を震わせる看守の男はヒタヒタと水面を歩くような仕草で足を進める。その不気味な殺気に、二人は身構えた。


「ライト、あの看守はこの脱獄を理由にして私達を殺すみたいね。暴れてもいいんじゃない?」


「そうだな。俺も戦い過ぎて覚えてもいねーからな。ザコだろ」


「……そうだといいけど。来るわよ」


 裂けたような口と殺人を犯す快楽に歪んだ瞳にサクヤは不快感を覚える。

 同時に看守の男が前傾姿勢になり、一気に加速した。


「死ねぇライト!」


「それはお前だろ、ダスター看守。お前に名前を呼ばれたくない。お前もお前のダチも知らん」


 言いつつ、ライトは繰り出されるダガ―を回避する。


「流石だなライト。動きが並みの罪人じゃねぇ……だが遅ぇ!」


 だが、左足をズブリと刺された。すかさず右足を繰り出すがかわされる。


「食事に混ぜた薬が効いてんな。それに半年前の俺とは違うぜ! お前を殺せば、ちょうど百人目なんだ。足掻け、足掻け。足掻いた分だけ俺の快感は増していく!」


 ダスターはダガ―についた血を舐めながら、快感で震える。

 乾いた空気が流れる牢屋の通路の奥から、数人の足音が響いて来る。


「ダスター! 一度警備室で鳴った警報が消えたから見回りをしてるんだが……って、何をやってる!?」


「早いなヤマンダ……。脱獄者だ。俺が殺るから邪魔すんな」


「馬鹿者! それでも看守か! 殺すなどあり得ん!」


「こいつは殺すぜぇ! こいつがダークナイトだった時代にダチを殺したこいつは殺す!」


「昔の話をすんなよ……」


 ライトはサグオテスター時代の話をされ殺気立つ。

 そして黒髪ポニーテールのヤマンダ看守の奥からは更に数人の足音がドタドタと近づいて来る。

 明らかに変化するライトを不安視したサクヤは、


「新手だぞライト。あの先頭のポニーテールの女の看守。やけにデコッパチだわ」


「そうだな。先頭を走ってるデコッパチパチの女看守はヤマンダ。規律第一主義者で、堅物で一応責任者。彼女は強いぜ……」


 チャキ! とスペルガンを構えライトは言った。


「ライトーっ! やはり貴様脱走したな! まさか仲間が助けに来るとは思わなかったぞ! 故に、貴様の仮釈放は無しだ!」


「あの声がデカイデコッパチ、馬みたい。ライト、強行突破ね」


「あぁ。フリーケイジの看守長・黄昏のヤマンダ。いくらお前だってスペルガンの一撃には耐えられないだろ。その広いデコッパチで反射しないでくれよ――!」


「俺の存在を忘れるな!」


 シュン! とダスターは瞬時にライトに迫る。その動きを見切るように、ライトはカウンターでダスターの顎を蹴り上げ、十と書かれた弾を装填した。


「ここは水道管が流れてるからこの弾がうってつけだろ。多分な」


「それ、私達にも被害くるじゃない」


「ヤマンダは生ぬるい相手じゃないぜ。先手必勝じゃないとこっちが殺される。それにスペルガンのパワーも見てみたい」


 スペルガンの引き金を引くと同時にギュイン! と一気に弾丸内に詰まる魔力が収縮し、シュパアァァァァッ! と蒼白い稲妻を帯びた閃光が射出された。声もなく、ダスターは消滅した。その閃光に、ヤマンダの広いデコは反射した。


「ス、スペルガン? ラッ、ライトーーっ! ヒヒ――……」


 断末魔のようなヤマンダの叫びが消えると、最下層の通路はスペルガンの雷のような閃光の一撃でボロボロになり、天井もむき出しになっていた。破裂した水道管から水が吹き出し、水を伝わる電撃がライトの足を痺れさせた。


「これが十番のサンダーボルトらしい。凄まじい威力だな……行くぜ」


 上から落ちてくるコンクリートを避けつつ、サクヤはライトの後に続き駆けた。



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