難破船での戦い
「うらあああああああああっ!」
躍動するライトはガイコツ兵士を無双して倒す。
難破船のデッキの上に無数の骨が転がる。
ライトは完全に難破船が停止している為、早くボスであるブック船長を倒さないとこの広大な海に沈められるな……と思った。
元々海に囲まれた東大陸はシュウヤのプログラム変更により、中央都市は船でしか辿りつけない天然の要塞とも呼べる場所に成り果てている。
そこへ歩いて行ける唯一の通行手段、ラブブリッジは鬼瓦ファミリーが運営に金を与えた見返りとして建造された。侵入者が勝手に渡ればラブブリッジ内部の警備兵が侵入者を始末し、最悪の場合は爆破解体されるのであった。
「ようやく中ボスか? どうなんだオッサン」
「ワシはオッサンではない。中ボスの一人、ドクロクラックだ」
四本腕で頭にはボロいバンダナをする大柄のガイコツ兵隊・ドクロクラックは話し出した。
「喋れるのか? しかも女のような声だな……」
声を加工しきれてないのか、やけに女のような声に違和感を感じる。
シュウヤのプログラムにしては甘いなと思が、まぁいいかと思うライトは構える。
「変なモンスターの設定だぜ」
「死ねや!」
ズバババッ! と四本腕の曲刀がライトを襲う。
それを見切るライトは全て回避し、アゴに一撃をかました。
アゴの骨を砕かれつつ、ドクロクラックは言う。
「ライトよ。お前は東大陸で何をする?」
「宣言した通り王を倒す。後は色々と海に囲まれた大陸の隠しダンジョン巡りが出来たらいいと思うぜ」
「そうか……ぬごぉ!」
会話の最中、左手の二本腕が破壊される。
そしてドクロクラックはブツブツと魔法詠唱をしながら言った。
「一撃で死なせてやろう」
「……一撃で終わるのはオメーだよ」
「死せる我狼。三途の川にて赤き悪魔を見る。その眼は地獄の炎であり憤怒の閻魔。ならば我はその狂気を持って地獄の国取りを開始する。汝に甘き死よ……来たれ。――デスバウンド」
ドクロクラックから死霊の怨念が放たれた。
それは触れた瞬間、運命の輪が回りだし、止まった針がデスだと死亡する魔法である。
それを知らないライトはクロスボーンの強化版ぐらいの魔法ならライトニングドーンで砕いてやるという気持ちで突っ込んでいる。
「かかったな! デスバウンドは即死魔法。長い魔法詠唱はこの為にあるのだ!」
「チィ! 何で中ボスごときがそんな高位魔法使えんだよ!?」
すでに技を発動させているライトに回避のすべは無い。
目の前に広がる死のドクロにライトの全身は固くなり、思考が白く弾けた――。
そしてドクロクラックは女の声で言った。
「勝った……。これでライトの最強伝説は終わり。モンスターを操り油断させたのが勝因か」
死にゆく運命のルーレットを眺め言う。
すると、そのルーレットはライトから離れ始めた。
「ルーレットが動く? ……肉食獣ポークラビットがいる? まさか――!」
そう、デスバウンドが直撃したのはライトではなく、ライトの身体の肉を欲して飛び出して来た難破船の食堂に生息しているポークラビットだった。ポークラビットがデスバウンドに直撃してしまい、ライトは助かったのである。カチカチと歯を鳴らすドクロクラックは言う。
「まぁ、いいわ。これで全てが終わりじゃないから」
「へっ、もう今ある全ての即死魔法は調べるし、くらわないようにするぜ」
「それでもお前は魔法に敗北し、そして運営にも敗北するのだ」
「運営はシュウヤに敗北してんだろ」
「死せる我狼。三途の川にて赤き悪魔を見る……」
ドクロクラックはもう一撃デスバウンドを詠唱し出していた。
タメを許さずライトは閃速で動いた。
「……俺の前でタメは許さねぇ! ライトニングドーン!」
その閃光の一撃でドクロクラックはシュワアァ……と消滅した。
そしてライトは船内へと進む。
※
船内を無双して進むと、広い食堂にたどり着きそこにはドクロワンワンがいた。
頭でっかちの額に骨がクロスしている外見のガイコツ犬である。
このモンスターはとても五月蝿くとても頑丈だというのが特徴のアンデッド系にしては可愛らしいデザインだが、鎖で繋がれている為に上手くスリ抜ければ戦闘の必要も無いある意味不遇な犬でもある。
ワンワン! と五月蝿いドクロワンワンとライトは対峙する。
「こいつ五月蝿いな。骨の頭でっかちの癖に」
ライトはガスッ! と一撃くわえるが、ドクロワンワンはこれといったダメージも無くまた吠え出す。
その五月蝿ささが影響したのか、ライトは急に腹が痛くなった。
「……ん? 何か調子悪いな」
風塵のユリカからコーヒーをもらったのがよくなかったのかもしれないと思った。
普段はポーションなどの清涼飲料しか飲まないライトの身体にカフェインなどは毒であったのである。
「やっぱさっきもらったコーヒーが良くなかったのか? 腹が痛くて動く気しねぇ……こいつらやけにしぶといし……?」
ふと、ライトはドクロワンワンの姿を見て思いついた。
「うっし、このドクロワンワンを武器として使ってやるぜ」
閃速で動くライトはドクロワンワンの鎖の根元を外し、暴れるドクロワンワンを無視して叫んだ。
「うらーうらーうらーららららぁ!」
ぐるん! ぐるん! とハンマーは回り船内の敵をなぎ倒す。
ドクロワンワンをぶつけるカンガムハンマー作戦で奥へ、奥へと進んで行く。
「あ、壊れた」
ドクロワンワンが壊れたと同時にボスエリアらしき場所に到達する。
しかし、そこは魔法のカギで開くシステムらしく鍵穴から見てユリカが隠れている小屋にある短剣がカギらしい。
「あれか……でも戻ってたらこの難破船は本当に難破しちまう……」
「戻る必要は無いわ」
「! ユリカ!」
何故か白ロリータ服のユリカが現れ、欲していた短剣をカギ穴に挿した。
そのカギでブック船長エリアへ進む。
そしてライトはこの難破船の敵キャラのパターンを把握し出していた。
「さっきのドクロクラックが高位魔法を使えるのが怪しいと思ったが、あの女みてーな声からすると操られていただけだろーな。おそらくブック船長も魔法で操られてたんだろ。となれば近くに王がいた可能性がある。まぁ、もう東魔法王国だから近いもクソもねぇがな」
「ハヒ! 流石はライトさん。凄い洞察力」
「こけるなよユリカ。ボスを前にパンツさらしてる場合じゃねーぞ」
「ハヒ! 了解です」
ユリカは金色の銃を構えたまま隠れる。
そして、蒸気機関車のように葉巻の煙を吐き出すブック船長にライトは言う。
「ブック船長。お前、ドクロクラックを操ってた人間と同じだな?」
「余計な事は知らない方がいい。死ね」
左手は葉巻、右手に曲刀を持つブック船長は船長帽のツバの下の片目を光らせながら言う。
「この難破船をクリアすればお前は東の中央都市に到着する。しかし、そこは地獄だぞ? サグオ運営の鑑賞する中央都市にお前の居場所は無いのだ」
「何だ? お前は操られてないのか?」
「ワシはこの難破船の船長だからな。操られている設定ではないんだよ小僧」
「へぇ。ならお前とは前の敵とは違うんだな。運営は隔離された中央都市で何をしてる? 最近まではこんな海に囲まれた場所でもなかったよな」
「そうだ。少し前の東の中央都市は船を使わなくても無理に泳いで渡れるレベルだった。しかし今は船を使わなければたどり着けても相当な体力消耗をしてゲームオーバーになるだろう。運営という組織が定期便がある港を一つしかつくらず、鬼瓦ファミリーの関係者のみが使えるラブブリッジを作った。もうわかるだろう? お前が向かおうとしてる場所はこのゲームの闇だ」
何故がライトを諭すように言うブック船長に答えた。
「お前は東の中央都市にいい思いを抱いていないな。海賊の船長だけあって反骨心やらも設定されてんのか。嫌いじゃねぇぜ。ブック船長」
「敵に言われたくは無い」
スウゥ……と葉巻の煙がブック船長を分身させる。
「去れライト。ここは攻略するにしても最後でいいだろう。ゲームシステムを無視した事をする運営に対処するのは無理があるぞ。今は他の大陸を行け」
「システム無視の敵はもう戦って勝ってる。俺もこのゲームのシステムをそれなりに無視してる存在だから何とかなるだろ」
「……ならばワシを倒して先に進むがいい。倒せるのならばな」
すろと、柱の影から顔を出すユリカは言う。
「ライトさん! この船おかしいですよ。ハヒヒ!?」
あれれ? という顔でユリカは倒れた。
やれやれと思うライトは分身しているブック船長が動き出すのを見た。
それよりも早くライトは動く。
「攻撃が当たらない? すり抜ける?」
「何度攻撃しても無駄だ。この難破船がワシそのものである以上、勝てる見込みは無い」
あっそ、と思うライトは言う。
「勝つ必要は無いんだよ。俺の目的は東の中央都市に到着する事だからな」
ふと、煙の奥に微かに見える都市を見据えた。
ライトは難破船から飛び出た。
ライトニングドーンの推進力で一気に空を飛びながら無理矢理たどり着くらしい。
「小僧っ!」
ブック船長は実体化しライトを捕まえようと動く。
しかし、ライトはまた難破船に戻るように動いた。
「センキュー! 割と単純だなブック船長!」
ライトはライトニングドーンの軌道を難破船方向に戻した。
完全にフェイクに引っかかるブック船長は怒りで我を失う。
「流石にライトニングドーンの推進力じゃこれだけの距離は飛んでいけねぇよ。だから実体化したお前を待って倒す事にしたのさ。挑発してな」
「こっ、小僧!」
「俺が敵を倒さないわけがねぇだろ! ライトニングセレブレーション!」
全身を光の弾丸にしてライトは特攻した。
葉巻を捨てるブック船長は叫ぶ。
「それを待っていたぁ!」
笑うブック船長は自らの命と引き換えにデスバウンドを使おうとしていた。
すでに死のカウントを始める死霊の怨念は向かってくるライトを受け入れるように微笑む。
流石にギリギリか――? と思うライトの耳に、ドジな少女の声が響く。
「このスペルガンなら――」
ユリカは懐から金の銃を取り出した。
このスペルガンは魔法を圧縮した弾丸にして撃ち出すもの。
このサイバーグランゾーンオンラインには試作品のこの一つしか存在しない兵器だった。
「行け――ウインドストリーム!」
「ぐっ! センキューユリカ! ここではドジじゃなかったな」
「私はドジじゃありません!」
スペルガンの疾風魔法で背中押されたライトの身体はブック船長に直撃した。
光の弾丸でブック船長を倒し、難破船は元の定期便へ変貌する。
「運営の魔手がはびこる都市で地獄を……味わうがいい」
「上等、上等」
超兵器ともいえるスペルガンを持つユリカと共に、東大陸魔法都市・マジックギャザリングにたどり着いた。