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サイバーグランゾーンオンライン  作者: 鬼京雅
東大陸・マジックギャザリング編
42/51

ライト風邪を引く。そしてドジっ子少女ユリカの出現

 サイバーグランゾーンオンライン東大陸は大陸全体が寒冷地であり、雪が舞う日もありその大地は白銀に包まれている。

 この地に長くとどまる者は基本的に魔法使いの連中が多く、魔法の国という狭く限定された世界では多くのプレイヤーがダンジョン以外に長居するような場所ではなかった。この地には国立図書館もあり、研究や実験といったものをするのが中心で戦闘という争いはフィールドにおいてそう多くはなかった。

 東の禁術使い達が、デスゲーム世界を生み出そうと画策している噂を南の王・エビナから聞いた情報でライト動く。東はシステム運営連中が支配する大陸で、天才開発者シュウヤが死亡して以降、暴走の傾向があるらしい。

 そんな寒冷地にやって来たライトは早々に風邪を引いていた。


「へくしょい!」


 38.5分の風邪を引くライトは東大陸の初めに訪れるフローズン街の宿屋にて額に冷えピッたんを貼りながら鼻水をすする。


「うー、しんど。サグオ最強の男も風邪には勝てないか。しんどい……しんどい……」


「一人言が五月蝿いわよ?」


「ひっ!?」


 サクヤの死神の大鎌がベッドに横になるライトの首元を捉えていた。言葉が詰まるライトは寝たフリをして誤魔化す。その間、その部屋で紫のエプロンをしながら一人調理を続けるサクヤはお粥を鍋で煮ていた。紫のツインテールを揺らすサクヤに介抱されるライトは天井を見つめぼやいていた。


「このゲーム内で風邪を引くなんて面倒な事ね。一人で無駄にデスゲームなんてしてるからよ」


「うっせー。早くお粥食わせろ」


 グツグツと鍋の中で煮える玉子お粥の匂いにライトは上半身を起こす。

 顔面の前には、死神の大鎌の上に乗ったお粥の皿が熱い湯気を上げてライトに食されるのを待っている。やれやれ……と頭をかくライトは、


「いちお病人。食べさてくれ」


「……」


 じっ……と何のリアクションも無くサクヤはその美しい顔をライトに向け続ける。相変わらずよくわからん奴だと思うライトは目の前の皿に手を伸ばしー。


「何だ。嫌なら――」


「嫌とは言ってないわよ」


 スッ……とサクヤはデスサイズを消し、自分の手にお粥の皿を持った。そして、女王の如き上から目線で言う。


「モジモジする貴方のリアクションを観察してたのよ」


 その佇まいと言葉に少し興奮してしまうライトは俺はMじゃないと心の中で念じ、


「お前……性格悪いぞ」


「はいはい」


 そして、ライトはサクヤにお粥を食べさせてもらった。

 ライトは食事が終わり、サクヤはこの東大陸についての話をした。


「この国は知っての通り閉ざされた魔法の国。秘密主義が多く、魔法使い達は研究にかこつけて怪しい魔法を生み出しているのは承知のはずよ。シュウヤの亡き後の運営は危険な状態にあるはず」


「そりゃ知ってるさ。その怪しい活動をする運営をどうにか闇から引きずり出して、いっちょ派手にぶつかるのがこの国での俺の目的さ」


「ただ最強を目指して戦いたいだけなのね。運営の始末はそのついでって事ね」


「それもあるが、運営が今の所どうやって活動をしてるのが気にもなる。シュウヤが消えてこのサグオのシステムは勝手に進化するように動いているけど、自分達が手に負えないシステムを管理するのは気分は良くないだろうからな」


「そうね。んじゃ、行ってらっしゃい」


「今日は休むぞ?」


「じゃあおやすみなさい」


「まだ昼じゃねーか……ん眠いな? 何でだ?」


「眠り薬を入れておいたわ。明日の支度はしとくからゆっくり寝てなさい」


「お前……zzz」


 そして翌日に体調が回復し、海に囲まれる東大陸中央都市に向かう為にその交通手段である定期便が出る都市ジュライに向かう。







 東大陸中央都市・マジックギャザリングは海に囲まれた城である。

 この地続きではない隔絶された都市は東大陸の東にあるジュライから定期便で行かないとならない。ジュライの街に着いたライトは夕日を背にしながら海辺でたそがれていた。


「……来る時間が遅かったな。明日にならないと定期便が出ないなんて聞いてねぇぜ。あーやってられん」


 今日はどこかの宿屋に泊まり、明日の朝に定期便に乗ろうと思い立ち上がろうとする。

 すると、スキップをしてきた白髪のロリータ服の少女が起き上がるライトにつまづいた。


「うおっ?」


「ハヒ!」


「ふが?」


 突如何かに目の前は白い布で塞がれ、甘い香りがライトの鼻腔をくすぐる。

 目を明けると、ぼんやりと熊のプリントが見えた。


「パ、パンツ?」


「ハ、ハヒヒ!」


 ライトは熊ちゃんパンツをはいた少女に顔面を押しつぶされていた。

 妙な温もりを顔に感じるライトは、これがキキョウだったら生だな……と変な想像をした。

 白いロリータ服を着る白髪の少女は疾風魔法を使おうとしている。


「待て、俺につまずいたのはお前の責任だろう!」


「ハヒ。そうでした」


 自分の過ちを認識した少女は、扇子を口に当てモジモジしていた。

 熊ちゃんパンツをはくこの白髪の少女はドジっ子という認識をした。


「私はユリカ。マジシャンアバターの風塵のユリカです」


「ドジっ子少女ユリカ。でいいな」


「ド、ドジじゃありません!」


「何言ってらがる。図星だから焦ってんだろ? 面白い奴だ」


 クルクル腕を回しながらライトを殴ろうとするが、それは一切あたらず額を抑えられる。

 すると、遠くから船の船員らしき声がした。


「臨時だよー! 臨時便が出る時間だよー!」


 今の船が東の中央都市へ臨時で出る最後の定期便だという。

 それを聞いたライトは目の前のドジッ子に対して言った。


「どうだ? これから一緒に海の向こうにある東の魔法大陸中央都市に行かないか?」


「……うん」


 扇子を口に当て微笑む少女は頷いた。

 ライトは風塵のユリカと小型の定期便に乗った。





 小型の定期便は帆を風に圧されてマジックギャザリングへ進む。

 夜間の海は深淵の闇のように静かで船に当たる海水だけが騒がしい。

 しばらく進むと、暗き海にさんさんと輝く大橋がある。

 現実世界の大企業である鬼瓦ファミリーが生み出した愛の架け橋・ラブブリッジ。

 この大橋はサグオに多額の寄付をした鬼瓦ファミリーとの有効の証として運営がある東大陸に作られた。

 定期便の上で潮風を浴びるライトは赤い大橋を眺めつつ言う。


「あの大橋を使えば海を渡らずに行けるのか……けど、絶対通れない仕掛けがあるんだろうな。このバカ長いマジックギャザリングまでの距離をラブブリッジに侵入してまで行くのは割りに合わないしな」


 このサグオ内部にも色々な企業の思惑が出始めていて多少うんざりするが、新しい敵が現れたと思う事で納得した。


「にしてもサグオも色々な企業が参入しやがるな。盛り上がるのもいいが、その裏で必ず悪事を働く奴がいるのもあるからな。運営の様子は確認する必要がある」


 ふと、軽い船酔いをするユリカにライトは言った。


「おい、風でパンツ見えてるぞ」


「ハヒ?」


 言わないでおこうかと思ったが、回りの船員の姿がある為に忠告した。

 そして、このユリカが一人旅をしている事を知る。


「一人旅か。ソロプレイは見知らぬ人間との係わり合いが大事だぜ」


「現実ではお金がかかる旅でも、サグオならタダで色んな景色を見れていいです。VRMMOは最高よね」


「そうだな。VRMMOは最高だ。そして俺が最強だ」


「流石はライトさん。その自意識の高さが最強たる所以ですか?」


「まーな。自分が強いと思わないとやってられねーぜ……?」


 ――瞬間、二人は驚愕した。


『!?』


 ズアアアッ……と船全体が揺れ出し景色が一変する。先ほどまで東魔法大国に運ぶ船員のNPCは生者の姿から死者のガイコツ姿になり、その装いもボロボロのモンスターらしい姿になった。

 ケケケケ……とそのモンスター達は腰にある曲刀を持ち、歯をカチカチさせていた。まるで別の空間にある臨時定期便にライトは笑う。


「ハッハッハ! ナンパしたら難破船とは気がきくな。臨時定期便と聞いてヒャッハー! だったがまんまとハメられたぜ。そうだよなー、交通手段が一つしかないならまずここに罠を張るよな。わざわざ各大陸の王にブッ倒す宣言したのがアダになったかねーちゃん?」


 ユリカは扇子を口に当て笑った。

 そしてライトは後ろの小屋を指差し、


「とりあえず後ろの小屋にエーテルまいて隠れとけ。アンデッドだからエーテルで多少は侵入を阻止出来るはずだ。すぐにここのボスを倒して来るからじっとしててくれ」


 エーテル渡してユリカを小屋に隠した。

 すると、この難破船のボス・ブック船長がブオオオオッ……と蒸気機関車のように葉巻を吸いながら現れた。全てのガイコツ兵士に敬礼されるブック船長は葉巻で船長帽子を上げて言う。


「ここが貴様の死に場所だ。閃速のライトよ! 貴様は魔法王国中央都市にたどりつくまえに海の藻屑になるのだ。ブハハハハッ!」



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