竜王・カオスドラゴン
竜王・カオスドラゴン。
別名カオスドラグナー。
凶悪な顔をした鋭利な黒い翼の生えた人型のモンスターである。
CPUならば表情の変化は多くは無いはずだが、ここカオスドラグナーは明らかにライトが来た事に喜びを感じていた。ガッ! とドリルスピアーで地面を円を描くように削り言う。
「今度は手応えのある獲物かな? この龍王カオスドラグナーのドラゴンエッグは誰にも渡さんぞ!」
「イベントモンスターだから喋るのか。無言のモンスターの方がやりやすいがな」
「モンスターが多弁で何が悪い? 小僧ではドラゴンエッグを破壊するパワーもあるまい。エビナというギルドの面々はほぼ倒してやったぞ! ぬははっ!」
確かにエビナメディカルのギルドメンバーの多くはこの竜王に倒されてしまったらしい。
運よくダンジョン突入時に最後尾にいたライトは早くボスエリアにたどり着けたが、早めにこのボスを倒さないと邪竜が時間制限などで復活してしまう可能性があった。それはこのボスフロアの頭上に禍々しい大時計がチクタクと秒針を刻んでいるからである。
「……無駄な時間は取れねーな。一気に倒してドラゴンエッグを頂くぜ」
「その台詞聞き飽きたな」
瞬間、カオスドラグナーは浮き上がると消えた。
「! 速い!」
目を閉じた瞬きの一瞬で消え、バックステップで回避するがライトは肩をドリルスピアーで突かれた。
その切っ先を拳で弾き飛ばし、竜王のアゴに蹴りを入れた。
同時に目から怪光線を放ちライトは腕でガードする。
ほぼ互角のスピードの相手に、金髪が逆立つ少年は微笑む。
「中々のスピードだな。流石竜王と言った所か」
「そうだな。次は空から攻めるぞ」
スーッとカオスドラグナーは空中へ翼をはためかせ飛翔する。
「自慢ではないが空中を高速で飛翔するこの竜王に死角は無いのだ」
絶対的な自信を持って言う竜王にライトは、
「自慢じゃねーが俺のスピードは最強だ。生半可なスピードじゃどう足掻いても俺には追いつけない」
「フン、小僧が」
「フン、竜王が」
「褒めてるのか?」
「けなしてんだよ!」
ズバッ! とライトは空中に向け特攻した。
両者は互いにスピードには自信がある。
そのプライドがぶつかり合い、単純にどちらが速いかを決める争いへと行動が加速する。
地表を飛翔するカオスドラグナーは追いすがる金髪の少年にスピードを上げ言った。
「ならスピード勝負と洒落込むか。はあああっ!」
「もう限界か? まだまだ行けるぜ」
「ふははっ! 俺の方が速いわ人間!」
ガガガガガッ! と両者は殴り合いながらステージ全体を円を描くように高速でぶつかり合う。
先ほどのエビナメディカルのメンバーとは違い、圧倒的な強さを見せるライトにカオスドラグナーは興奮する。
「邪竜は人間ごときが操れる代物ではない。人間の欲望と邪竜の力が重なり合えばこの土地は更地になるぞ。それでもこの俺のドラゴンエッグが欲しいか?」
「操る? ドラゴンエッグは邪竜を生み出す卵だろ?何言ってやがる」
「フン、貴様はここで死ぬから真実など無用!」
ブオオオッ! と闇の粒子砲であるカオスブラスターを口から放ち、急上昇した。
地面でステップを踏むライトは急降下する竜王にカウンターをかます為、右拳を引きつつランダムに動く。ズゴウンッ! と急降下の一撃をカウンターで相殺したライトはその場から退避した。
「俺のカウンターに耐えたか。やるなおっさん」
「おっさん言うな! 俺は竜王だぞ!
「うっせーな。俺に追いついてから文句は言」」
徐々にスピードを釣り上げるライトはカオスドラグナーに暴言を吐き続ける。
ギリギリで追いつけない邪竜は金髪の少年の底知れぬスピードに怒りが増す。
「小僧がああああああああああっ!」
「そろそろイクだろ」
パチン! とライトが指を鳴らすとグキッ! と足場の地面を踏みしめるカオスドラグナーの左足が折れた。
「うぁ、足がああああっ!」
ゴロゴロと竜王はみじめに地面を転がった。
鼻をほじるライトはフッと指に息を吐き言う。
「うっせーな。リアクションがデカイんだよモンスターのくせによ」
「卵は……卵は渡さんぞぉ!」
「もう空も飛べないだろ。お前の負けだ」
地面に着地し、方向を切り替えて負担がかかっていた足だけではなく、その身体を飛翔させていた翼そのものも限界に達していた。翼ももがれ飛べないカオスドラグナーは最期にカオスブラスターを放つ――が、
「はぐぁ!?」
「口の中に手を突っ込んだらお前も巻き添えじゃね?」
「や、やめろ!」
「おう! ライトニングドーン!」
ライトの左の閃光の拳がカオスドラグナーの腹部に炸裂した。
そして、竜王の口からドラゴエッグが吐き出された。
倒れるカオスドラグナーはフラフラと最後の力を振り絞るように立ち上がる。
「ドラゴンエッグは……渡さん」
「ん? もうもらったぜ?」
すでにライトの手にはドラゴンエッグがあった。
「何故それがお前の手に? 俺を倒さないとドラゴンエッグは誰の手にも渡らないはず……」
「だってお前、死んでるし」
「……!」
瞬間、パリン……とカオスドラグナーはまさか!? と驚いた顔をしながら儚く弾け消えた。
「さて……目的は達成した――!?」
そして、背後に異様な気配を感じる。
ライトの背後には、エビナメディカルの白いジャケットを着たオールバックの中年の男。
エビナメディカルの王であり、このサイバーグランゾーンオンライン南大陸の王でもあるエビナ王が現れたのであった。