幻の花・ミストフラワー
南大陸中央都市メディカルキャッスルにて医療王・エビナと戦う前に発生したイベント・邪竜復活阻止作戦に参加し、ドラゴンキラーを手に入れる為にギルド・エビナメディカルに入団したライトはサグオ初心者のアーク、レイを鍛え自身も成長していた。
ムラサキダンジョンでボスの役割を任せたサクヤは現実世界で寝たきりだった身体が元の体力に戻る治療をし、キキョウは受験勉強でイベント発生までは休みだという。
そして現在、アークとレイは違うダンジョンへ行くと言い早朝に旅立った。
その少し成長した後ろ姿を見送りライトは呟く。
「ま、無理すんなよ。そして俺も任務があるんだよな」
エビナ病院のマークが入る一枚の手紙を手に取った。
とうとうライトはエビナメディカルにおいて初の任務を任されたのである。
時期的において邪竜復活阻止作戦前の最後の任務となり、ライトの唯一の任務となるものでもあった。
今回の任務はメディカルキャッスルの北にあるプレーン山脈の頂上にあると言われるミストフラワーという幻の花を探しに行く事だった。
朝食を食べ、書面に書いてあるメディカルキャッスルの入口の待ち合わせ場所でライトは待つ。
「……」
少しすると、ライトは歩いて来る緑色の髪の少年を見て溜息をつく。
その少年も同じく嫌な顔をしていた。
「うげ!? 俺様がライトと!?」
「そりゃ、こっちのセリフだエピオン」
ライトとエピオンの二人は今日一日のパートナーがこいつか……と不安になりながらもとりあえず話す。
「親父の奴……まさかライトと俺を組ませるとはな。犬猿の仲という事を知らないようだな。まぁ仕方ないか」
「お前にしては諦めが早いな。親父の言う事は絶対か?」
「そうだ。俺の親父は暇じゃないんだ。無駄な事で連絡をするわけにはいかないんだよ」
素直なエピオンにライトは意外な顔をし、
「ま、よろしく頼むぜ。先輩」
多少ぎくしゃくしながらも、任務目的であるミストフラワーを探す為にプレーン山脈に登った。
※
急な斜面が多くかなり険しいプレーン山脈を金髪と緑の髪の少年が歩いて行く。
舗装されていない道は歩きずらく、普段は平地のフィールドやダンジョンを戦場とする二人は山の厳しさを否応無く体感する。
幸い、ゲーム内の為に重いリュックなどは背負う必要も無く、アイテム欄に頼れば多数の必需品が手に入る事がこの登山を多少楽にしていた。早々に手持ちのポーションを飲み、喉に清涼感を求めるライトは先を歩くエピオンに言う。
「で、その幻のミストフラワーとやらはどんな花なんだ?」
「そんな事も知らないのか? よく任務の書面を読んだのか?」
「ざっくりと読んだだけだ。とりあえず花の画像だけあれば何とかなるだろ」
「……頼りない相棒だぜ」
仕方なくエピオンはライトに説明する。
こいつは意外に面倒見がいいな……とライトは軽く笑った。
「ミストフラワーとは夜のみ咲く花で、全てのステータス異常に効く幻の花だ。それを俺達エビナメディカルは医療の最前線チームとして新しい回復アイテムなどを作成する為に日々努力しているんだ」
エビナメディカルは薬草など医療系のアイテムを集めて研究していて、このサグオ内で新種の回復アイテムなども作成し販売もしている。用は新しい金儲けの素材集めとしてライトとエピオンはこの任務を任されているのであった。
時折エピオンは道にしゃがみ込み草を採取している。
エピオンは個人的に調理系の薬草なども手に入れるようであった。
「何で調理系の薬草とかも必要なんだ? 調合用か?」
「俺は料理のスキルもあるのは知ってるよな。自慢じゃないが現実でもあるんだぜ」
「へぇ、意外だな。何で現実でも料理を? 趣味か?」
少しの間を置いた後、答えた。
「医者になれなかった時の保険だ」
「そっか」
あえてライトもこのエビナ家の内部の事には触れず、山を登る。
あまり深入りするとエピオンの精神が不安定になり、任務継続が不可能になる可能性も考えての事だった。どうもエピオンは父親との関係が上手くいってないようなのは明白であった。
そして、プレーン山脈おなじみのモンスターが出現する。
『ウキキ! ウキキ!』
モコモコとした天然パーマの奇怪な赤鼻の猿であるヤマザルゴッツの群れが出現した。
「ヤマザルゴッツか……久しぶりに会うモンスターだな。こいつって食えたっけ?」
「ヤマザルゴッツは煮ても焼いても不味いぞ。この山にでるモンスターは食用にはならん。キノコや薬草がフィールドにある分、食用のモンスターは出ない設定なんだろ」
「そうか。なら一気にブッ倒すか」
総勢三十あまりのヤマザルゴッツを相手にライトとエピオンは動いた。