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サイバーグランゾーンオンライン  作者: 鬼京雅
南大陸・メディカルキャッスル編
29/51

変化するライト

 白いジャケットの破片を深海に落下させながら細かい泡を立て水中をライトは上昇していく。

 その真下の深海では青い鮫のフォルムをした残骸が浮遊していた。

 海面に揺れる月が見え、焦燥するライトの目が安心するように微笑む。

 ザバッ! と夜の闇が映り込む海面に浮かび上がり、ボロボロの身体を月明かりに晒しながらゆっくりとムラサキダンジョンの小川方面に進んで行く。

 水中の王とも呼べる阿吽兄弟に辛くも勝った事で海中での戦いをマスターしたライトは、何とかボスステージまで戻る事が出来た。水中から上がり、大きく息を吐いた。


「……はぁ……はぁ……。お前らも勝ったのか?」


 黒いTシャツを脱ぎ、びしょ濡れのライトは紫式部とレディサムライに勝利したアークとレイの二人を見据えた。地べたに座り込むアークは上半身裸で濡れた髪をかきあげるライトを見つめ、


「釣りしてたと思えば潜水か? いい気なもんだぜ」


「ちょっとヤボ用だ」


 頭をかくライトに純白のセーラー服が真っ黒になるレイは言う。


「やっぱりあの紫式部は海老名病院にいる紫式部よ。今度会ったら聞いてみよう」


「やめとけレイ。リアルとゲームを混同して間違えたらシャレにならんぞ?」


「でも、あの女の人が私達にサグオを……」


「でもやめとけ。ゲーム世界の事はリアルに持ち込むな。ネットがある限りそこから変な噂が広まる可能性がある」


 確かにそうね……と思うレイは頷く。

 ライトはもう二度とサクヤをネットユーザーの悪意に晒されたくは無いのであった。

 そして疲れきってるアークは地面に寝転び言う。


「……何とか撃退したけど、時間オーバーだったな。何かリンリン鳴ってボス二人は消えてったぜ」


「ま、引き分けでも十分だろ。初心者が人間タイプのボスと戦えるだけでもスゲーよ」


 疲労困憊、満身創痍のアークとレイにポーションを渡し肩を叩く。本気ではないとはいえ、確実に格上の敵を相手に勝ちに行こうとしたこの二人は評価に値する活躍をした。これならば、邪竜復活阻止作戦にも参加する権利はあるだろう。


「後はイベントが始まるまで、地道にダンジョンでレベル上げをしておく事だな。サグオで挑戦出来れば、現実の病だって良くなるはずだぜ。心の強さが生まれるからな」


『……』


 師匠から話される言葉に弟子の二人は頷き、そのまま寝てしまう。

 やれやれ……と思いつつライトはワープカプセルを取り出し、アークとレイを担いだ。

 そして、アークとレイの特訓は終わり、三人はエビナ・メディカルキャッスルに帰還する。






 エビナ・メディカルキャッスルに帰還したライトは空腹の為、寮に戻る前に食堂に寄る事にした。

 サプリメントが中心のメニューではあるが、普通の料理もある。

 時間帯のせいなのか人気が無い為、厨房の奥にいるCPUに声をかける。


「おーい、注文だ。ピザに親子丼、幕の内定食にみたらし団子。それとフカヒレスープとカレーよろしく!」


「どんだけ食うんだ! そして何だそのメニューのデタラメさは!」


 ぬっ……と厨房の奥から緑色の髪のエピオンが顔を出す。

 驚くライトはこいつは料理好きなのかと思いつつ、強引に作らせた。

 渋い顔をしつつもエピオンは器用に鍋や調理器具を扱い注文品を仕上げて行く。

 テーブルで待つライトは中々やるな……と匂いで察した。

 運ばれて来た料理はどれも一級品で、ライトはエピオンの才能に初めて感動する。


「……美味い。お前、中々の料理スキルだな。医者にはもったいねぇぜ」


「嫌な事を言うな。医者の息子に向かって」


「あぁ、悪い」


 本当に悪いと思うライトは頭を下げる。

 エピオンもこんな状況ではあまり毒を吐けないと感じ、美味そうに自分の食事を食べるライトを見据える。敵である二人の関係は、微妙に変化しつつあった。それを何となく感じるエピオンは言う。


「その食事を食った以上、この次世代の王の邪魔はするなよ。ドラゴンエッグはこの俺様が破壊する」


 ぐぐっ……と豪快にカレーをご飯ごとのみ干すライトは、


「? ドラゴンエッグはこのライトが手に入れるんだ。本番前に邪魔すんなよ。カレーも美味いなぁ」


「フン、当然だ。てか料理の話はやめだ。ドラゴンエッグはエビナメディカルが手に入れる。お前はのんびりしてればいい。目的は俺の親父だろう?」


「俺もこの白いジャケットを着てる以上、エビナメディカルのメンバーだぜ。仲間外れにすんなよ」


 エビナメディカルのギルドメンバーであるライトには邪竜復活阻止作戦に参加する義務がある。

 エピオンは返す言葉が見つからずギルドメンバーとして動く事を命じた。


「あまりフラフラするなよ。お前にも任務があるんだからな。親父の命令は絶対だ」


「まぁ、今はな。どうやらあの医院長はこの大陸以外にも進出しようとしてるらしいな。別にそれは構わないが、俺がそれを止めて最強であるからな」


「フン、最強はいずれ俺様がなるんだよ」


 そう言うと、エピオンは食堂から去る。

 その寂しげな背中にライトは言った。


「また、食事作ってくれ! お前の料理の腕は最強かもな!」


「……」


 一瞬、天井を見上げ立ち止まるエピオンはそのまま無言で歩き出す。

 そして残るピザを手に取り濃厚なチーズを伸ばしながら呟く。


「今日は疲れたぜ。人を育てんのはこんなにしんどいとはな……まぁ、楽しいからいいか」


 アークとレイの成長が自分の成長にも直結してると感じるライトは改めて自分の変化を思う。

 今まではただ強いだけのライトに、人間味が生まれ人として成長する。

 そんな事を思いながら、美味いピザを完食しエピオンにも感謝した。



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